偽りだらけの花は、王様の執着に気付かない。

葛葉

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第三章

第31話

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 エリザヴェータに乗り上げられたその時だった。
「そこまでです、エリザヴェータ姫」
 突如部屋の奥の扉が開き、ジョシュアが姿を現した。
「まあ、なんて無粋な」
 エリザヴェータは冷ややかな目をジョシュアに向ける。
「殿下から身体がおかしいと相談受けた時に、万が一を考えて隣室で待機させて頂きました。さすがに貴人が相手では下位の者では対応が難しいですから」
 ジョシュアの声もどこか硬さを帯びている。
「いくら姫とはいえ、さすがにこの状況はシャルスリアから抗議されても文句は言えませんよ」
 第二王子であるサファルティアに薬を盛り、勝手に護衛の騎士を下がらせ部屋に入り込む。
 強引に既成事実を作ろうとしたのは明らかだ。
「ふふふ、確かにそうね。でも、誰も証人がいなければ問題ないわ」
 そう言うと、エリザヴェータは脱ぎ捨てた夜着の裾から小瓶を取り出す。
「わたくしが何の対策もせず、ティア様の部屋に来るとお思いかしら?」
 仮にも第二王子だ。使節団の中では警備は一番強固になる。隣室に誰かが控えているだろうことも想定済みだ。
 エリザヴェータは小瓶の中身を口に含むと、おもむろにサファルティアに口付ける。
「んぅ!?」
 薬の影響で動けないサファルティアは抵抗できない。そして、口の中に入って来た液体を飲まないようにするのが精いっぱいだ。
「殿下!」
「動かないで!」
 エリザヴェータがサファルティアの口を放すと、鼻と口を手で覆いながら、ジョシュアに鋭く言い放つ。
「わたくしとてこのような強引な手段に出るのは不本意です。ですが、ティア様を魔の手から守るためなのです」
 エリザヴェータはにこりとサファルティアに向かって言う。
「飲まなくてもいいですが、この薬は皮膚からも吸収されるようになっています。今含まれている口の粘膜からも……」
 呼吸を制限されているせいか、サファルティアの頭が霞がかったように意識が遠のく。
 無意識のうちに薬を飲みこんでしまう。
「ふふ、いい子ですね。ティア様は少し休んでいてください」
 エリザヴェータの声が、耳元で囁く。同時に、サファルティアの意識が落ちた。
 さすがにまずいと、ジョシュアが踏み込む。
「エリザヴェータ姫、いくら何でも王子相手にこれは、刑罰は免れませんよ」
 姫の身体に不用意に触れるのはどうかと思ったが、今は意識を失っているサファルティアを保護する方が先だと、ジョシュアは数秒の逡巡ののち、エリザヴェータの肩に触れる。
 すると、エリザヴェータはニィっと口元を歪める。
 そして、小さく息を吸った。
「きゃあああああああああ!!」
 エリザヴェータから突如悲鳴をあげる。
 ジョシュアはハッとして、すぐにエリザヴェータから離れる。
「やってくれましたね、エリザヴェータ姫……」
 外からは騎士たちの足音が聞こえる。
「どうしましたか、皇女様!!」
 入ってきた騎士たちに、エリザヴェータが言い放つ。
「その男が突然入ってきて……、ティア様はわたくしを守ろうと……」
 エリザヴェータはサファルティアを抱き締め、さめざめと泣くふりをする。
「っ、すぐに救護班を!」
「王宮医に連絡を……!」
「おい、貴様何者だ!?」
 ジョシュアはあっという間に取り囲まれてしまう。
「やれやれ、すぐに無実は晴れるだろうけど、ここは大人しくしていた方が賢明だな」
 ジョシュアは肩を竦めると、おとなしく騎士たちについていく。
 騎士や侍従、侍女たちが慌ただしく動く中、エリザヴェータはひとりほくそ笑んだ。
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