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第三章
第32話
しおりを挟むジョシュアが捕まったという知らせは、すぐにソラリスにも届いた。
「え? おと……コアルク公爵が捕まった?」
動揺して、うっかり『お父様』と言いそうになったのを、辛うじて飲み込む。
「はい。どうやら、エリザヴェータ姫とサファルティア殿下の逢引き中に入って来たのだとか……」
「逢引き……」
真夜中に来た使節団の下級官吏の報告を聞き、ジョシュアが捕まった思いもよらない理由に、ソラリスは絶句する。
(そもそも、殿下はエリザヴェータ姫との婚姻は考えていない。当然、意図したものではないはず……)
ソラリスはサファルティアがシャーロットを大事に思っていることを知っている。
夕食前に顔を合わせた時は少し具合が悪そうだったが、あの頭の痛い姫のことを考えれば、さもありなんという様子だった。
結論からすると、ジョシュアもサファルティアも嵌められたのだろう。
ジョシュアはガリア公国の公爵だ。彼を刑に処してしまえば、国際問題になりかねない。すぐにどうこうなることはないはずだ。
心配なのはサファルティアの方だ。
昼のエリザヴェータの様子からして、サファルティアがシャーロットに洗脳されていると思い込んでいる。
そう考えると、親切心を装って薬を渡したり、あるいは強引に既成事実を作る手段もあり得る。
もっとも、後者は姫として育っていればあまり発想はないはずだが、女は自分の存在や肩書が武器になることを知っている。
既成事実が無いにしても、何らかの手段には出ると想定される。
ジョシュアもサファルティアも、それを懸念していたはずだ。
「サファルティア殿下は?」
「それが、こちらについては状況がわかっておらず……」
「状況が、わからない?」
一体どういうことだ。嫌な予感がした。
「はい。なんでも、ジョシュア様と何らかの理由で揉めて、気を失ったらしいです。現在は帝国側の王宮医が治療に当たっているとのことです」
ますます信憑性が薄い。
ジョシュアとサファルティアは叔父と甥という関係だ。交流は少ないながらも、親族として良好な関係だったし、サファルティアもジョシュアを慕っているように見えた。
何より、サファルティアがシャーロットを裏切るような真似をするとは考えにくい。
「面会はできますか?」
「それが、エリザヴェータ姫が終始そばを離れないのだそうです」
ソラリスは頭を抱えた。
敵の手中に堕ちてしまったサファルティア。サファルティアに代わって使節団の指揮を執るのは、この場合、立場や役職から“ティルスディア”になるのだろうが、女性である“ティルスディア”が表立って指揮を執ることが出来ない。代理人として後見人であるジョシュアがその役目を負うはずだったが、肝心のジョシュアが虜囚の身だ。
これからどうするのがいいのか、何をするべきか。サファルティアは無事なのか。
考えるだけでも頭が痛い。
エリザヴェータの性格から、サファルティアを傷つけるようなことは無いだろうが、可能であればサファルティアに一目会いたい。
サファルティアが元気なら、ジョシュアも使節団も迷うことは無い。
「……わかりました。ひとまず様子を見ましょう。夜が明けたら、エリザヴェータ姫に謝罪し、サファルティア殿下の面会を改めてお願いしましょう」
ソラリスは官吏に指示を出すと、小さくため息を吐いた。
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