幼馴染とマッチポンプ

西 天

文字の大きさ
10 / 20
第3章

gravity

しおりを挟む
 一般的に家族というのはさも重力のようにそこに存在する。 

 
 幼馴染の柚葉は井口家の一人っ子である。
 そして井口家は俗にいうお金持ちの家庭。    
 ―父親が医者,母親は看護師。
 
 両親が共働きであり,父親の帰りは決まっていつも夜の十時を越えていた。母親の方も夜勤があり夜は家にいないことも多かった。その関係で柚葉は僕の家で夕飯を共にすることも多く,、また柚葉はそれを楽しみにしていた。
 さらに回想すると井口家が引っ越ししてきたのは,父親が病院を立ち上げそこの医院長になったためである。以前から町医者というのをするのが夢だったらしい。僕の家の家族も柚葉の父親の病院がかかりつけだ。
 柚葉は家で夕飯を食べること以上に両親が休みの日に家族そろって過ごすことを楽しみにしていた。 

 しかし僕が中学三年生。つまり柚葉が二年生の夏休み。
 重力のようにいつも当たり前にそこにあった日常は形を変えてしまう。
 
 僕は夏休みということもあり僕は電車とバスを乗り継ぎ市外にある国内最大規模のショッピングモールへ友人と出かけていた。
 市外のショッピングモールへは一時間以上も鈍行に揺られなければならない。さらにそこからバスに乗り十分程で到着する。本当に出かけるのにも一苦労だ。交通費はまだ学生の僕らには大きな痛手だ。
 僕が住んでいた県は快速はあるがその快速に乗るために乗車券のほかに乗車券の二倍はする特急券を買わなければならなかった。さらにさらにその快速に乗車しても市外の駅までに掛かる時間が鈍行と数分しか変わらない,という理不尽極まりない時間設定となっていた。
 
 クラスメイトとショッピングモールで服やスポーツ品を散策しそれなりに夏休みを謳歌した。
 僕らはまだ中学生だったこともあり校則を守り十七時には帰りの循環バスに乗り込んでいた。
 
 辺りはまだ明るいが,街は夜の街並へと顔色を変えようとしていた。
 循環バスを降りると駅までは居酒屋やバーが建ち並ぶ商店街を通ると五分程で着く。自分達にはまだ縁遠い場所であったためか一軒一軒に目移りしてしまう。
 しばらく歩くと商店街を抜け,目の前には大手デパートが併設されている駅舎が見えてくる。
 横断歩道を渡ればもう駅である。
 
 その日は平日ではあったが金曜日のためか仕事終わりの中高年の姿が多く見受けられた。横断歩道の向い側にもスーツを着た仕事終わりであろう人々の姿があり僕と友人はその姿を横目に二十メートル強程の横断歩道を渡る。
 
 そして横断歩道の中程だった。
 対面からスーツの男性。横にはワンピースを着飾った若く見える女性が腕を組み歩いて来る。
 僕はその顔に見覚えがあった。

 僕はその光景に寒気がした。なぜならその人は僕にいつもしている顔ではなかったためだ。
 ―この二人はイケナイ関係である。中学生の僕は二人をそんな風に捉えた。

 それでも何か間違えであってほしいと思い。友人に買い物を頼まれてたので先に帰っておいて,とだけ言い二人のあとをばれないようについていった。
 
 通った道を逆走し商店街へ歩いていく。
 しばらくつけて行くと人気の少ない裏通りのバーへ男女は入った。
 入った場所を確認すると,僕は公衆電話を探していた。公衆電話は幸い商店街の中のコンビニ横に設置されていた。
 公衆電話に硬貨を投入しダイヤルを押そうとする。しかし,指がダイヤルを押そうとするのを拒む。
 尾行という行為に後ろめたさを感じていた。それを抑え込む。
 しかしまた違う感情が僕をすぐに支配していく。
 それは,もし間違えでなければどうなってしまうのだろうか,もし間違えでなければそれを伝えることは正しさなのだろうか。というものだった。
 
 考えを巡らせているうちに投入した硬貨が時間切れのため返却される。
 出てきた硬貨を手に取り僕は一度深呼吸し頭を整理する。
 
 コンビニに屯する二十代くらいの人の話し声,カラオケ店の客寄せ。
 
 一度遮断し決心する。

 ―本当だったら尚更,向き合わなければならない時は必ず来る。その時は僕も力になる。思い過ごしならその方がいいけど。

 もう一度硬貨を投入し押し慣れた番号を今度はなんとか入力する。
 発信するまでの時間がやたら長く感じた。

 十コールは鳴らしただろうが,出かけているのだろうか。ふと安心してしまいそうになる。そんな自分が情けなく思えてきた時だった。

「もしもし?」
 いつも聞きなれていた声。だけど電話越しのためか他人のように聞こえた。
「あ…」
 言おうとしていた台詞が出てこなかった。緊張からなのか相手が出て,後悔してしまったのかわからないがいつも通りとはいかなかった。そのためか相手が警戒しているのが感じ取れた。
「もしもしどなたですか?」
 この調子では切られてしまう。もう一度深呼吸し声を発する。いつも呼んでいるように名前を。

「柚葉か? 僕だ陽葵だ」
 名前を呼ぶのはこれほど緊張するのか。初めて名前を呼び以来の感情だ。
「なんだ陽葵か。不審な電話かと思って切ろうとしてた。それにしても,あ…って」
 僕も同じ立場なら不審な電話だと思い,切ろうとしただろう。
 電話越しのため多少聞こえてくる声に違和感を感じながらも聞きなれた口調に落ち着きを覚え,僕は柚葉に不信感を抱かせないように用件を聞く。
「悪かったな僕で。柚葉今一人か?」
「いいよ別に。一人だよ。今から陽葵の家に行こうとしてたとこ」
 また不安感が襲ってくる。考えていたことが現実味を帯びる。受話器を握る手にはビッショリ手汗を掻いている。しかしここまで来てしまえば確認しなければならない。
「父さんと母さんは仕事か?」
 声が上ずってしまっていた。
「そうだよ。パパは仕事終わりに市の先生達と飲み会があるんだって。ママは今日から研修でいないけど明日帰ってくるよ」
「そうか」
 先程の男女が入っていったバーに顔を向けながら答える。
「というか何でそんなこと聞くの? さては変なこと考えてるでしょう。陽葵ってそういうとこあるよね。一花ちゃんに言いつけとこっ」
「それはよしてくれ。今友達と出かけてるんだ。先に僕の家でご飯食べておいて。ごめんもうお金切れるから,一花や二葉にもよろしく言っといて」
 掛け合いもどこか僕自身空虚に感じてそのまま受話器を置いた。

 僕は電話を切り,先程のバーへ踵を返す。

 

 
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど

くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。 貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...