幼馴染とマッチポンプ

西 天

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第3章

1

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 ところ変わって,喫茶ニュートン。

「柚葉。僕が彼氏って言ってたよな?」
 
 そう告げてしまったところである。

 今も変わらず,頭を悩ませる輾転反側な事態になりそうな種は早めに摘んでおくのが僕の流儀だ。
 だからこのような質問をした。

 平然を装うが,内心ではまたやってしまったと学習力のない自分を責め立てる。そして一方で慰める。
 今のなしなんて言っても意味がないことは重々承知。
 できるだけ早く返答して,僕を楽にしてください。昔から僕はせっかちだ。
 
 窓の外を眺めていた彼女はこちらに不気味な笑みを浮かべてきた。
 
 この感じ,耐えられない。
 慌てて次の言葉を口にする。
「まあ断るためにあーやって言ったんだよな? それなら仕方ないな。明日学校でちゃんと誤解解いておいてよ」
 
 待てよ。順を追って思い返してみよう。
 柚葉が告白される。初対面の人は―で断る。男子生徒が彼氏はいるか聞く。いるよと答える。それがなぜか僕で追い回される。
 なんか矛盾してないか。断ったうえで僕が彼氏だったと答えている。
 うん。今のなし。
 柚葉は待ってました。と言わんばかりに口を開く。 
「フフフッ。陽葵ってホント沈黙に弱いよね。お節介でせっかちで,すぐボロが出る。僕が彼氏って言ったよな…だって。ププ。陽葵の自意識どうなってんのぉ」
 ほんっと恥ずかしい。勘弁してください。
 こうなったらやけくそである。
 
「いや,そう言ってたはずじゃないか」
 言ってたはず…
「うん。確かにそんな感じの事は言ったよぉ」
 語尾がからかいに来ているのは気のせいではないはずだ。ここで挑発に乗ってしまっては玩具にされるだけだ。状態異常『やけくそ』を何かしらの薬を使い治そうとする。

「だから何でそんなこと言ったかと僕は聞いてるんだ」
 女子への免疫がない僕は十年も隣にいた幼馴染の安いトラップに掛かったのか。そういうことにしておこう。でもだとしたらあほ過ぎる。
 これじゃあ柚葉が僕に好意を持っていると期待していた。と柚葉に勘違いされてしまう。
 実際そういう関係になりたいと思ったことはないし,今回あんなことを聞いたのも期待を込めたからでは決してない。
 
 でも見逃してくれないのが幼馴染だ。
「もしかして私が陽葵のこと好きなんじゃあ? って期待してたぁ?」
「ぜ,全然してないけど」
 大事なとこで噛む。いやほんと期待とかないですからね。
「赤くなってるんですけどぉ? ほんとかなぁ?」 
 こいつ。まあいい本当の気持ちを伝えてやるか。
 
「正直お前のことは可愛い妹みたいな感じで…何と言いますか。敢えていうなら家族みたいな感じかな?」
 恥ずかしくて途中敬語になってしまったじゃないか。でもこの言い方では柚葉を傷つけてしまったかもと思う,直ぐにフォローをしなければ。
「ごめん家族なんて…でも柚葉には何でも言えるし気を遣うことも少ないし,一緒にいると落ち着くし。あ…」
 フォローのつもりが余計なことも言ってしまった。柚葉の方を横目で見ると彼女目は少し潤んでいた。改めて認識する。
 柚葉の睫毛は長いし,目も大きくて…黙っていればそりゃモテるよな。と。
「そんな焦んなくても,気にしてないよ。というかうれしい…けど…」
 けど…の後の声が小さくて最後まで聞こえなかった。気になるけど今は気にしないことにしよう。これ以上の質問はよそう。もうhpが残り少ない。
「それならよかった。まあそういうことだから僕に何かできることがあったら実現可能なものを厳選してこの僕に頼んだらいいさ」
 僕は先輩面ではなく家族面で言ったつもりだった。しかし彼女の受け取り方は違ったみたいだ。

「ありがと。早速いいかな? 陽葵の事を彼氏って言ったの理由があるの…実はね入学してから今日まで,十人以上の人に告白とかデートに誘われてて…ね」
 嫌な予感がする。これはあれだ,当たるやつだな。しかもこの娘厳選してないよね。
「柚葉。話聞いてた? 厳選してって言ったんだけど」
「聞いてたよ。だから頼んでるの。鈍感な陽葵でもわかるよね。私と…その…カップルのフリしてってこと」
 
 ???? いや分かってたけど…いややっぱり分からないんだけど。
 
「ちょっと待て。実現可能かどうかをだな―」
 僕が言い出すと柚葉は店中に聞こえるように
「ひどい。何でもいうこと聞いてくれるって言ったのにぃー」
 と柚葉はウソ泣きをしテーブルに顔を伏せた。
 何でもなんて言っていない。
 しかし白い目で店員と客に見られていることがすぐにわかった。この空気はすこぶるまずい。
 柚葉の方を見ると笑っているのがすぐにわかった。
「おい。卑怯だ」
「えーん」
 黙れ小娘。誰かオオカミを連れてきてこのセリフを小娘に対して吐かせてやってくれ。

「わかったから。泣き止んでくれ」
 そういうと彼女は勢いよく顔を上げる。
「わかったって言った?」
「まっ―」
「じゃあ。明日からヨロシクね。陽葵っ!」
 待てとは言わせてくれなかった。 
 だけど柚葉は満面の笑顔だった。
 してやられた。でもあんな顔をされては断ることなんてできかったし,どうにかなるかと思わされた。

 さよなら僕の平穏な学園生活。
 
 心の中でそう告げ。ようやく喫茶ニュートンを柚葉と一緒に後にした。
 重力とはこんなにも体にのしかかるものだったのかと改めて実感させられた。
 

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