幼馴染とマッチポンプ

西 天

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第4章

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 どうしてこうなった…

 あの後,僕はアパートで一晩中考えていた。おかげで今日は寝不足。
 輾転反側。
 なにが流儀だ,僕はとんだ素人じゃないかっ。
 
 寝不足も重なり悔恨の嘆息を漏らしながら学園へと徒歩で向かう。
 僕のアパートから学園までは,市民病院の沿道を十分程歩き,市民体育館と市民運動場が併設されている運動公園のウォーキングコースを五分程歩いて抜けると到着する。途中の運動公園には桜の木が敷地を覆うようにして立ち並んでいる。そのためこの季節は花見客でよく賑わっている。
 また市民病院は毎年,雪が丘学園の看護科生徒を研修生として受け入れている。その理由は看護科の生徒が准看護師の資格を取得するためだ。
 
 通学の道中は同学園の生徒と朝のウォーキングをしている人が多くいる。
 幾分人が多いため他の通学路も探してもみたが,ここ以外を使うとなるとかなりの遠回りは避けられず学園まで一時間程のウォーキングを強いられるので,仕方なくこの通学路を通っている。

 いつもはここを通るのが朝の楽しみだが,今日は運動公園の桜並木を見る余裕なんてない。
 恋人のフリ? 恋人のフリなんて漫画の世界だけだと思っていたのに…しかも相手は幼馴染のあの柚葉である。この先不安しかない。
 こうなった理由なんて振り返っても無駄なだけ。しかし無意識のうちに昨日の事を振り返ってしまう。
 
 頼み事を聞く…そういった時点でもう時遅し,だったのだろう。またマッチポンプか。
 振り返っているうちにまた嘆息が漏れる。
 柚葉がなぜあんなことを言い出したのかはよくわからない。多分だけど一年間何も連絡しなかった僕への当てつけだろう。よっぽど鬱憤が溜まってるらしいな。
 
 いつもの通学路を歩き終え学園の校門に辿り着く。
 
「あれ? 陽葵君。顔色悪いね」
 僕を下の名前で呼ぶ数少ない友人。しかも女性の友人。僕の数少ない女性の友人である高柳さんだ。
 彼女の背はスラリと伸び,その姿はとても凛々しい,女性らしくない表現ではあるがこの表現が一番,正義感が強い彼女にフィットする。顔のパーツがきれいに配置されていて,少し短めのセミロングの黒髪が似合っているのが特徴的である。
 彼女は相沢と同じで一年生のときから同じクラスである。彼女は一年の時に学級委員を務め,二年生の現在は生徒会の副会長を務めている。
 今日は生徒会で持ち物検査を行っているらしい。
 
 そんな彼女が僕の顔を心配そうに伺う。
「いや,いつも顔色悪いけど今日は一段と悪いよ」
 この発言には僕の事を本当に心配してくれているのか疑いの念を向けざるを得ない。
「低血圧なんだよ。いつも顔色が悪く見えてるんなら毎日心配してくれてもいいんだけどね。副会長」
「だから言ってるじゃない,一段と。って」
「それはどうも心配お掛け致しました」
 副会長は生徒全員の事をよく気にかけてくれるのだが,僕に対しては気にかけるのではなくちょっかいをかけてくる。正義感とは一体何なのだろうか。

「陽葵君は素直じゃないなあ。だから彼女も出来ないんだよ」
 ビクッ,と思わず顔が引きつってしまった。今日の僕に『彼女』と『恋人』は禁止ワードだ。
「うるさい。余計なおせっかいだ。みんな彼女とか彼氏とか,そんなにいいものなのか?」
 高柳さんは少々語気を強めた僕に対し吃驚の表情を向けている。
 高柳さんからするといつものようにからかっただけのつもりだったのだろうけど,再三ではあるが今日の僕に『彼女』は禁止ワードなのだ。
「ごめん。怒るとは思わなかった」
 彼女は理性を失いかけた僕に謝ってくれる。
「僕こそごめん。怒るつもりはなかったんだけど」  
 いつもの事と割り切れなかった僕が悪いので素直に謝る。

 すると後ろから,

「陽葵。女性を怒鳴りつけるなんて最低。私の彼氏がこんなに怒る人なんて知らなかったなぁ」
 
 毎回毎回なんてタイミングだ。しかも私の彼氏が―ってなんて事を口走ってんだよ。
「柚葉。お前なあ」
 後ろを振り向き睨んでやるが,彼女はすでにそこにはおらず,僕の隣で高柳さんにおはようございますと挨拶をしていた。
「待て。僕は怒鳴ってなんかいないし,お前の彼女で―」
 全然聞いていない。というかもう下駄箱まで行っていて靴を履き替えていた。
 高柳さんがまた僕の事を吃驚の表情で見ていた。

 爆弾だけ置いて行きやがった。
 処理班を呼んでいる時間はなさそうだ。早急に何とか説明をしなくては…

「なんだ…いるんじゃん彼女。しかも滅茶苦茶可愛いかったんだけど,一体いくら貢いだのよ」
 
 もう暴発したみたいだった。 




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