要らねえチート物語

汐乃タツヤ

文字の大きさ
31 / 50
第三章

第29話 逃げる気にはなれないから

しおりを挟む
「セレスー!! セレスー!!」
 
 俺は家に帰ると、セレスに助けを求めて和室のドアをノックする。
 ……まるで某ネコ型ロボットに頼み事をするダメな少年になった気分だ。

「ああ、お帰りなさい、マサヤ。そんなに慌ててどうしたんですか?」
「セレス、いきなりで悪いけど相談があるんだ!!」
「相談ですか……分かりました。では部屋へどうぞ」

 そう言うと、セレスはドアを開いて俺を招き入れた。

「それでどのような相談でしょうか」
「実は……」

 俺は学校でのあらましを手短に話すと、セレスの顔がサッと青ざめる。

「えっ!? サワムラという方とドッジボールの練習ですか!?」
「今日は理由をつけて逃げて来たけど、月曜日までにボールを普通に投げられるようにならなきゃ沢村の命が危ない……。だから何かいい方法があったら教えて欲しいんだ」

 必死になる余り、冷や汗がダラダラと流れているのが自分でも分かる。

「いい方法……ですか……今までマサヤから聞いた話を考えますと……」

 悩んだままセレスは黙ってしまい、俺の不安が増す。
 それでも答えを待っていると、セレスがためらいながら口を開いた。

「確実な方法があるにはあるのですが……」
「教えてくれ!! 何をすればいいんだ!?」
「病気になってしまったと言って、球技大会が終わるまで学校を休みましょう。本来、嘘は良くありませんが、この場合は仕方ありません……」
「ちょっと待った!! それ、どうにかするのを完全に諦めてないか!?」
「確かにそうなのですが、人の命には代えられませんし……」
「うっ……」

 セレスにもっともな意見を言われて口ごもる。
 今までの出来事を振り返れば、力を入れても能力を発動させずに済んだ試しは一度も無い。能力込みのボールをぶつけようものなら、相手が無事に済まないのは明白だ。
 
 このままセレスに同調して逃げたくなるが、沢村の顔が頭をよぎる。
 俺が練習に付き合うって言ったら、沢村のやつ、涙まで浮かべて喜んでたからなぁ……。
 沢村の期待を裏切ると思うと、メチャクチャ後ろめたい気持ちになってくる。
 
「どうにかならないなら、せめて普通にボールを投げる練習だけでもしたいんだ。力を尽くしてダメだったならまだしも、最初から諦めるのはどうにも後味が悪くて……」
「練習を……ですか。それでしたら私は何をすれば良いのでしょうか?」
「今のままじゃ練習をしようにも、投げたボールが全てをなぎ倒す兵器になるから練習すらできないんだ。それだけでも何とかなれば……」

 俺がそう言うと、セレスが少し間を置いてから口を開いた。

「……私が全力を出せば、強力なシールドを展開させることができます。シールドの中で練習すれば、マサヤの能力が発動しても周辺の被害を抑えられるでしょう……」
「じゃあ、周りに迷惑かけずに練習ができる!?」
「はい……。ですが、私ができるのはそこまでなので、普通にボールを投げられるかは、マサヤの努力次第です。それでも……良いですか?」
「分かった。それで良いから頼むよ」
 
 俺はセレスの問いかけに迷わず頷いた。

× × ×

 夕食の後、俺とセレスは電車で能力の練習をした時の森林へと向かっていた。
 あそこなら人目につかないし、広さもあるから練習場所にちょうど良いと思ったからなのだが……。

「見ろよ。あの外国人、超美人じゃね?」
「あの人、すっごい奇麗! もしかしてモデルじゃない?」
「クソッ、何であれだけの美人があんな男と一緒にいるんだよ、納得いかねえ」
 
 電車での移動中、セレスは持ち前の整った顔立ちとスタイルで、周りの注目を集めまくっていた。
 ある男はセレスに見惚れ、ある女性は羨望せんぼうの眼差しを向ける。それだけではなく、セレスと話している俺に「何だ、隣にいるあの冴えない奴は」と敵意を向けてくる奴までいた。

 ……悪かったな。どうせ俺は冴えない男だよ。

 当のセレスはというと、周りの視線を受けて、ずっと落ち着かなさそうにしている。

「こういう風に注目されるのは慣れているんじゃないの? 女神なんだから大勢の前に姿を現したりもするだろうし」

 俺が小声で尋ねると、セレスが首を小さく横に振る。

「いえ……、私は初めてマサヤと会った時のように、基本1人の人間と話をするのが役目で、大勢の前に立った経験は無いんです。それに余り注目されますと、緊張して何か失敗をしてしまいそうで……」
「女神が注目されるのが苦手ってまずいんじゃ……。神って信仰を集めるだろうから、それに支障をきたすと思うんだけど」
「……まずは女神としての力を高めるべきと考えていますので、人々の信仰を集めるのはそれからです」
 
 明らかに自信なさげな表情をしながら発言するのは止めて欲しい。信仰を集めるどころか、本当にセレスが力を高められるのかさえ不安になってくる。
 
 そうこうしている内に、電車が目的の駅に到着した。
 
 そうだ、セレスの問題もあるけれど、今は俺自身の方を何とかしなくちゃいけない。
 セレスを見ようとやたらと集まっている人達の間を抜けて、電車を下りて行った。

× × ×

「魔法を使うのに、これくらいの広さがあれば大丈夫かな?」
「ええ、この広さなら十分です。ところで、ここにいくつかある人型の穴は何なのでしょう?」

 森林に到着して、土壁に空いている穴を見つけたセレスが首をかしげている。

「……俺が普通に走ろうとしたら、急加速して壁にめり込んだ時にできた穴だよ。それはいいから、ボールに防御魔法を掛けてほしいんだ。今はドッジボールが優先なんだからさ」

 そう言うと、俺は持ってきた鞄を地面に下ろし、ボールを取り出す。

「ええ、問題なく練習できるよう効果時間を長くして魔法を掛けます」

 セレスがボールに手の平を向けると、白い光の膜が現れてボールを包み込んだ。
 
「これでマサヤが力を入れて能力が発動してもボールは割れないですよ」

 試しに両手で押しつぶすようにボールへ思いっきり力を加えてみるが、セレスの言う通り割れるきざしは全くない。俺は思わず感嘆かんたんの声をあげていた。
 
「これから周りに展開させるシールドは、内部の音声も遮断しゃだんできますので、騒音を気にしないで練習ができます」
「そこまでできるんだ! 凄いなあ!!」

 それなら周りを破壊する心配も、音を聞きつけて人がやって来る心配もない。これで練習が心置きなくできると実感してテンションが上がってくる。

「ただ私はシールドを維持するのに集中しなければいけませんので、その間は他の行動を取れなくなってしまいます」

 1度呪文を唱えたらそれで終わりってわけにはいかないのか。
 そうなると、練習中にボールがぶつかると危ないから、セレスはシールドの外にいた方が安全だよな。

「それじゃあ、俺だけシールドに入って、セレスはシールドの外側に位置する感じで。そうすればボールを気にしないでシールドの維持に専念できるだろうから。そういえば、シールドってどれくらいの時間まで維持できる?」
「そうですね……そこまで広い範囲でもないですから、今の私でも数時間は問題なく維持できると思います」

 それだけ保つなら十分だ。
 とはいえ最初だし、時間は短くして様子を見てみよう。
 
「じゃあ、取り合えず30分で。時間が来たらアラームが鳴るようにスマホを設定して渡しておくから」

 アラームをセットしてセレスに渡した後、ボールを持ってセレスから距離を取る。これで準備はOKだ。

「では……行きます」
 
 そう言うと、セレスの表情が真剣なものへと変わった。
 すると、俺の数メートル先周辺がオレンジ色の光で囲まれる。上を見れば、同様に光で覆われていた。
 少しぼうっとして光を眺めていたら、周りの光が急激に強くなり、まぶしさに目を開けていられなくなる。
 
「これは……」

 少ししてから目を開けると、辺りを囲んでいた光は、ほんのりと輝くオレンジ色の壁へと変化していた。

「結構明るいな……」

 壁や天井自体が発光しているおかげで、明るさには何の問題もない。 
 これで音が外に漏れないんだから、至れり尽せりだな。

 これだけの練習環境が整ったんだ。やれるだけやってみよう。
 まずはパス練習から始めることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...