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第二十二話 あなたなしでは
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真っ暗な闇の中にファウストの姿が見えた。
「フォス」
「触るな」
「フォス…?」
「俺を騙していたくせに」
彼は出会った頃のような、それより怖い顔をして自分を拒絶する。
「男だって知っていたなら、大事になんかしなかった」
待ってください。フォス。違うんです。違う。
「おい、クリス」
「あ」
心配そうに響いた声に、意識が一気に浮上する。
瞼を開いた先に、不安そうな表情のファウストが見えた。
「またうなされてたぞ」
「…そう、ですか。すみません」
全身が嫌な汗にまみれている。夢の内容を、まだ覚えている。
「どうする?
飯食ったらすぐ発つか?」
「あ、お風呂、入ってきます。
汗掻いちゃったので」
「わかった。待ってる」
「はい、すみません」
心臓の音がうるさい。あれはただの夢なのに。
「あら、また会ったわねえ」
風呂の湯船に浸かったところで話しかけて来たのは、別の街で出会った婦人だ。
彼女も王都を目指しているのだろう。
「彼氏とはどう?」
「いえ、ですから彼氏では…」
「大事にしなさいね。彼、あなたのことが大切で仕方ないみたい」
「でも、」
不意に、弱さが口から飛び出した。こんなこと、今までなかったのに。
「でも?」
「…私、彼に秘密があるんです。
その秘密を知っても、私を大切に思っていてくれるか」
こんなことはきっと、行きずりの相手じゃなければ言えなかった。
そうしたら婦人はにこやかに微笑んで、
「あらやだ、あなた甘く見過ぎよ」
と言うのだ。
「人間の情なんて、そんなに安いものじゃないわ。
一度結んだ縁はね、ちょっとやそっとじゃ切れないの」
そう、背中を押すように。
「あなたと彼の縁は、そんなに簡単に切れるもの?」
宿屋を出て、王都までの道を歩く。途中の道でファウストが人の多い道とは別の道を指さす。
「クリス、こっち通ったほうが近いぞ」
「あ、そうなんですね」
「通ったことねえのか」
「それがないんですよねえ」
なにせ、女性になった時は反転魔法と一緒に転移魔法で遠くに飛ばされましたから、とは言えないが。
ファウストの言うままに、しばらくその道を歩いていると山道になってきた。
「喉渇きましたね」
「なら、すぐそこに川があるはずだ」
「詳しいですね」
「よく王都の外に出て遊んでたからな」
「ああ、そういえば伯爵家の出でしたね」
そんなことを話しながら歩いていたせいか、考え事で注意力が散漫だったせいか、大きな石を踏みつけて転んでしまった。
ファウストが駆け寄ってきて「大丈夫か」と聞く。
立ち上がろうとして足が痛んだ。くじいたらしい。
「ここ、痛むか?」
ファウストが靴を脱がせ、素足に触れる。びく、と指先が跳ねた。
「くじいたな」
「すみません」
「一旦戻るか、いや進んだほうが早いな」
そう言ってファウストが自分の前にしゃがむ。
負ぶされ、と言うことだ。
素直にファウストの首に腕を回すと、ファウストがクリスの身体を背負って立ち上がった。
そのまま山道を歩き出す。
「フォスの背中は大きいですね」
「なんだ今更」
「いえ、なんとなく思っただけです。
大きくて、温かい…」
ゆらゆらと、心地よい振動が響く。
ファウストの低い声が優しくて、朝よく眠れていなかったこともあり気づいたらうたた寝していた。
「クリス」
「はい…っ、あれ」
不意に身体を降ろされ、意識がハッとした。
それから違和感に気づく。
「ここ、まだ王都じゃないですよね…。
こんな森の中…」
「ご苦労だったね」
響いたのは、聞きたくないと願った声。
深い森の中、少し離れた場所に亜麻色の青年が立っていた。
「兄上…?」
「よく連れてきてくれた」
「なに、言ってるんですか。
まるでフォスが、………フォス…?」
この道を選んだのもファウストだ。自分は彼を信頼しきって、疑いもせずに。
「お前が彼を信頼してくれたおかげで、実に楽だったよ。
まさかお前が、誰かを大事に思うとは考えなかったからね。
そう思えば、彼にお前の暗殺を依頼したのは正解だったのかな?」
「フォス…?」
縋るように名を呼ぶのに、ファウストはこちらに背を向けて黙ったままだ。
「どうして、黙ってるんですか。
嘘、ですよね?」
そう震える声で尋ねたのに、こちらを振り返ったその顔が夢の中のような冷たい表情で。
「………うそ」
か細い声がこぼれ落ちた。
「だって、だって、フォスは、フォスだけは、私を裏切らないって、絶対、裏切らないって、…ねえ、うそだ」
みっともないくらいに、泣き声が漏れる。
だって、離れたくない。
もう、あなたのいない世界は思い描けないくらいに。
「ずっと、一緒だって言ったじゃないですか。
…ねえ、フォス」
あなたが、全てで。
涙が頬を伝って落ちた。
「やっぱやめた」
瞬間、顔をしかめたファウストが銃口を迷わず兄に向けて撃つ。
銃声がその場に響き、鮮血が散った。
「てめえに乗っかった振りして、出し抜いててめえを殺す気だったが、やめだやめ。らしくねえ。
振りでも、こいつを裏切った演技なんざしたくねえ」
脇腹を撃たれた兄が、傷口を押さえてその場に膝を突く。
「き、君、いいのかい? クリスは」
「クリスが男だとか女だとか、どうだっていいんだよ」
信じられない顔でファウストを見上げる兄に、ファウストははっきりと、迷いなく言い切った。
「惚れた奴を守って生きるのは、男の花道ってやつだ」
その手が、銃口を兄の額に押し当てる。
「クリスを苦しめた罪を悔いて、死ね」
引き金が軽く引かれる。頭を撃ち抜かれた身体は背後に倒れるが、一瞬でその姿が別人に変貌した。
「んだ、こりゃ。別人…!?」
「兄の能力は変化ですので、おそらくは別人の身体を使ったのだと…………」
「チッ、とんだ無駄足だ」
「フォス」
盛大に舌打ちしたファウストに、まだ現実感がないまま名を呼ぶ。
「あ? あ、あー、その、だな、」
「本当、ですか」
ふと自分がしたことを思い出し、気まずそうにしたファウストに構わず震える声で尋ねた。
「私が、男でも女でもいいって」
「…ああ」
その言葉に、ファウストは目を瞠って、それから真っ直ぐクリスを見下ろして静かに頷いた。
「聞いた時はそりゃ驚いたさ。でも、俺が惚れたのは見た目じゃねえ。
お前の中見とか、言葉とか、そういうもんを見て、惹かれた」
そっと、その大きな手が伸びてきてクリスの小さな手を取る。
「好きだ。クリス。
たとえこの先、男に戻ったとしても、あの兄を殺して公爵家の当主になって結婚したとしても」
真摯なまなざしが、嘘のない唇が、紡いだのは愛だった。
「俺を、そばから離すな」
その言葉に思い切り、その身体にしがみついた。
ただ幸せで幸せで、初めての気持ちで涙を流しながら縋り付く。
「フォス、わたしも、あなたが──…」
その先の言葉を読んだように、優しいキスがそっと落ちた。
「フォス」
「触るな」
「フォス…?」
「俺を騙していたくせに」
彼は出会った頃のような、それより怖い顔をして自分を拒絶する。
「男だって知っていたなら、大事になんかしなかった」
待ってください。フォス。違うんです。違う。
「おい、クリス」
「あ」
心配そうに響いた声に、意識が一気に浮上する。
瞼を開いた先に、不安そうな表情のファウストが見えた。
「またうなされてたぞ」
「…そう、ですか。すみません」
全身が嫌な汗にまみれている。夢の内容を、まだ覚えている。
「どうする?
飯食ったらすぐ発つか?」
「あ、お風呂、入ってきます。
汗掻いちゃったので」
「わかった。待ってる」
「はい、すみません」
心臓の音がうるさい。あれはただの夢なのに。
「あら、また会ったわねえ」
風呂の湯船に浸かったところで話しかけて来たのは、別の街で出会った婦人だ。
彼女も王都を目指しているのだろう。
「彼氏とはどう?」
「いえ、ですから彼氏では…」
「大事にしなさいね。彼、あなたのことが大切で仕方ないみたい」
「でも、」
不意に、弱さが口から飛び出した。こんなこと、今までなかったのに。
「でも?」
「…私、彼に秘密があるんです。
その秘密を知っても、私を大切に思っていてくれるか」
こんなことはきっと、行きずりの相手じゃなければ言えなかった。
そうしたら婦人はにこやかに微笑んで、
「あらやだ、あなた甘く見過ぎよ」
と言うのだ。
「人間の情なんて、そんなに安いものじゃないわ。
一度結んだ縁はね、ちょっとやそっとじゃ切れないの」
そう、背中を押すように。
「あなたと彼の縁は、そんなに簡単に切れるもの?」
宿屋を出て、王都までの道を歩く。途中の道でファウストが人の多い道とは別の道を指さす。
「クリス、こっち通ったほうが近いぞ」
「あ、そうなんですね」
「通ったことねえのか」
「それがないんですよねえ」
なにせ、女性になった時は反転魔法と一緒に転移魔法で遠くに飛ばされましたから、とは言えないが。
ファウストの言うままに、しばらくその道を歩いていると山道になってきた。
「喉渇きましたね」
「なら、すぐそこに川があるはずだ」
「詳しいですね」
「よく王都の外に出て遊んでたからな」
「ああ、そういえば伯爵家の出でしたね」
そんなことを話しながら歩いていたせいか、考え事で注意力が散漫だったせいか、大きな石を踏みつけて転んでしまった。
ファウストが駆け寄ってきて「大丈夫か」と聞く。
立ち上がろうとして足が痛んだ。くじいたらしい。
「ここ、痛むか?」
ファウストが靴を脱がせ、素足に触れる。びく、と指先が跳ねた。
「くじいたな」
「すみません」
「一旦戻るか、いや進んだほうが早いな」
そう言ってファウストが自分の前にしゃがむ。
負ぶされ、と言うことだ。
素直にファウストの首に腕を回すと、ファウストがクリスの身体を背負って立ち上がった。
そのまま山道を歩き出す。
「フォスの背中は大きいですね」
「なんだ今更」
「いえ、なんとなく思っただけです。
大きくて、温かい…」
ゆらゆらと、心地よい振動が響く。
ファウストの低い声が優しくて、朝よく眠れていなかったこともあり気づいたらうたた寝していた。
「クリス」
「はい…っ、あれ」
不意に身体を降ろされ、意識がハッとした。
それから違和感に気づく。
「ここ、まだ王都じゃないですよね…。
こんな森の中…」
「ご苦労だったね」
響いたのは、聞きたくないと願った声。
深い森の中、少し離れた場所に亜麻色の青年が立っていた。
「兄上…?」
「よく連れてきてくれた」
「なに、言ってるんですか。
まるでフォスが、………フォス…?」
この道を選んだのもファウストだ。自分は彼を信頼しきって、疑いもせずに。
「お前が彼を信頼してくれたおかげで、実に楽だったよ。
まさかお前が、誰かを大事に思うとは考えなかったからね。
そう思えば、彼にお前の暗殺を依頼したのは正解だったのかな?」
「フォス…?」
縋るように名を呼ぶのに、ファウストはこちらに背を向けて黙ったままだ。
「どうして、黙ってるんですか。
嘘、ですよね?」
そう震える声で尋ねたのに、こちらを振り返ったその顔が夢の中のような冷たい表情で。
「………うそ」
か細い声がこぼれ落ちた。
「だって、だって、フォスは、フォスだけは、私を裏切らないって、絶対、裏切らないって、…ねえ、うそだ」
みっともないくらいに、泣き声が漏れる。
だって、離れたくない。
もう、あなたのいない世界は思い描けないくらいに。
「ずっと、一緒だって言ったじゃないですか。
…ねえ、フォス」
あなたが、全てで。
涙が頬を伝って落ちた。
「やっぱやめた」
瞬間、顔をしかめたファウストが銃口を迷わず兄に向けて撃つ。
銃声がその場に響き、鮮血が散った。
「てめえに乗っかった振りして、出し抜いててめえを殺す気だったが、やめだやめ。らしくねえ。
振りでも、こいつを裏切った演技なんざしたくねえ」
脇腹を撃たれた兄が、傷口を押さえてその場に膝を突く。
「き、君、いいのかい? クリスは」
「クリスが男だとか女だとか、どうだっていいんだよ」
信じられない顔でファウストを見上げる兄に、ファウストははっきりと、迷いなく言い切った。
「惚れた奴を守って生きるのは、男の花道ってやつだ」
その手が、銃口を兄の額に押し当てる。
「クリスを苦しめた罪を悔いて、死ね」
引き金が軽く引かれる。頭を撃ち抜かれた身体は背後に倒れるが、一瞬でその姿が別人に変貌した。
「んだ、こりゃ。別人…!?」
「兄の能力は変化ですので、おそらくは別人の身体を使ったのだと…………」
「チッ、とんだ無駄足だ」
「フォス」
盛大に舌打ちしたファウストに、まだ現実感がないまま名を呼ぶ。
「あ? あ、あー、その、だな、」
「本当、ですか」
ふと自分がしたことを思い出し、気まずそうにしたファウストに構わず震える声で尋ねた。
「私が、男でも女でもいいって」
「…ああ」
その言葉に、ファウストは目を瞠って、それから真っ直ぐクリスを見下ろして静かに頷いた。
「聞いた時はそりゃ驚いたさ。でも、俺が惚れたのは見た目じゃねえ。
お前の中見とか、言葉とか、そういうもんを見て、惹かれた」
そっと、その大きな手が伸びてきてクリスの小さな手を取る。
「好きだ。クリス。
たとえこの先、男に戻ったとしても、あの兄を殺して公爵家の当主になって結婚したとしても」
真摯なまなざしが、嘘のない唇が、紡いだのは愛だった。
「俺を、そばから離すな」
その言葉に思い切り、その身体にしがみついた。
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