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第六章 DEAR
第四話 カンパネラ Episode2:誰がために
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「吾妻」
吾妻と白倉は、南のエリアに来ていた。
白倉はひたすら上機嫌で、吾妻の視線を促した。
向こうには、売店。
「冷たいもん、食べない?」
「ああ、いいね」
さっきもアイスを食べたが、今日は本当に暑い。
多く食べなければ大丈夫だろう。
「あのな、かき氷」
「…かき氷」
白倉の楽しげな様子に水を差したくはないが、かき氷はどこでも量が結構多い気がする。
「一人分を、二人で半分こすんの」
しかし、にっこり微笑んだ白倉の言葉に、吾妻の頭から理性は吹っ飛んだ。
なにそれ。恋人みたい。いや、恋人だ。
「……吾妻、お前そんな興奮しないでもいいじゃんか」
「あ、…ごめん」
自然鼻息を荒くして白倉を見つめた吾妻に、白倉は笑う。
「別にいいもん。俺に対して、欲望に素直な吾妻、めっちゃいいよ?」
「……」
可愛いはにかんだ顔。吾妻は言葉を失う。
「それは、どういう意味?」
「?」
「…それは…」
欲望に忠実になってもよろしいということですか?
白倉は無邪気な顔をしていたが、首を傾げて、気づいたように「あ」と呟く。
頬を染めて、軽く視線を落とす。
「…それは…恥ずかしい」
その上目遣いや、言葉が非常にかわいい。
恥ずかしいということは、嫌じゃないってことだ。
「恥ずかしいけど、…時波たちに、吾妻はそんな性急じゃないて言ったけど」
「…うん」
「…でも、俺、吾妻になら…求められても、いい、な…」
赤く染まった頬。自分をそろりと見上げた視線。
愛らしくて堪らなくて、思い切り抱きしめた。
「可愛いっ…。
僕、我慢きかないよ…っ」
「吾妻だからだもん。
吾妻だから、俺、いいの」
ぎゅうぎゅう抱きしめた腕の中から、白倉の声が聞こえる。
感激する。
「だから、な、待っててな?」
白倉は恥じらいながら吾妻を見上げる。
「もうすぐ、だから。
もうすぐで、覚悟決めるから」
「…覚悟?」
あまりに白倉がかわいいものだから、一瞬理解が及ばなくて、吾妻は間抜けに聞き返した。
「言わせないで…」
白倉は視線を逸らして、口元を押さえる。
覚悟。なんの?
そこまで考えて、唐突に理解した。
「…もうすぐ、な。
俺の全部、あげるから、な…」
ゆっくり吾妻を見上げて、白倉は真っ赤になって、掠れた声で告げた。
吾妻の心にクリティカルヒットだ。
「しらくらっ!」
叫んで、今以上にきつく抱きしめた。
「くるしい…」
「ごめん。ちょっと、我慢して!」
止まらない。
もっともっと、二人の間がないくらいに、抱きしめたい。
服が邪魔だ。
自分と白倉の間に、空気なんていらない。
一つになりたい。
「…愛してるよ」
とてもとても愛おしくて、耳元で囁いた。
白倉は潤んだ瞳で吾妻を見つめて、こくり、と頷く。
「俺も」と言おうとした唇を、指で撫でて、視線で願う。
いいか?と。
白倉なら、「こんなところで」と嫌がるはずなのに、彼は恥ずかしそうに口を開いて、それから「うん」と一言。
頬に手を添えると、気持ちよさそうに瞳を閉じる。
そっと、唇を重ねると、白倉のシャンプーの香りがした。
重ねるだけで、離す。
「…なんか、乗ろう。二人きりになれるやつ」
「…うん」
優しく髪を撫でると、白倉は嬉しそうに笑った。
「吾妻」
「ん?」
身体を離すと、白倉は白い手で吾妻のシャツに触れる。
「手、繋いで…?」
あまりに小さな声のお願い。
吾妻は幸せに緩む頬で、微笑んだ。
白い手を自分から掴むと、白倉の指先が、吾妻の指先に絡んだ。
「白倉は、すごくかわいいね…」
心から思った。
「…吾妻しか言わないよ、そんなん」
「僕は心配だよ」
白倉の絡んだ指先。少し力がこもる。
「じゃあ、俺のこと、ぎゅって束縛して。
吾妻だけに、言われてたい…」
吾妻が唾を飲み込む。手に、力が入る。
「なんて…?」
鼓動が耳の傍で聞こえる。
うるさい。頭がくらくらする。
「…かわいい、とか、すき、とか…甘いの、全部。
吾妻だけが、言ってもいいの…」
繋いだ手に、更に力がこもる。白倉の指が痛いだろうと気づいて、緩めたが、まだ痛いかもしれない。
本当は、また正面からきつく抱きしめたい。
ぎゅっと堪えて、手だけ握った。
「…言うよ。何度でも。
…白倉は、僕のもの。ずっと」
甘くて切ない気持ちで囁く。白倉は小さく頷いた。
「…じゃあ、エスコートしてな?」
この賑やかな中でも、不思議と白倉の声は聞こえる。
どんなに小さくても。
「俺、吾妻、初恋。
遊園地のデート、はじめて、だから」
「……うん」
心から微笑んで、返事をした。
うれしくて。
愛しいと想う。
彼が、愛しい。
観覧車に乗った。
ZIONの観覧車は、窓がない。
箱の上部分にはなにもなく、風が吹き抜ける。
しかし、落ちる心配はいらない。
戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉の防護壁の改良版が、周囲を覆っている。
触れると、なにか見えない壁のある感触。
そして、風や匂いだけを通す仕組みだ。
外から中は見えないが、中から外はとてもよく見える。
吾妻の隣に自然に座った白倉は、吾妻の肩に頭を乗せている。
「…そういえば、な」
「うん」
白倉は少し眠いのか、ほわほわした雰囲気で話す。
朝、早かったのかもしれない。
「吾妻に謝ることがある」
「謝る…?」
そんなこと、覚えがない。
吾妻は白倉の腰を抱く手に力を込めて、顔を覗き込む。
「初めて出会った日のこと。
俺は、思い出したわけじゃないんだ…」
白倉はやはり眠そうに、瞳を瞬く。
「…俺の二つ目の力は、時間を操るらしい。
バトル鬼ごっこで、意識を失ってた間、精神だけ、時間を超えて、去年のお前の元に行った…」
吾妻は知らなかった。
ただ、驚く。
「やから、俺は体育館で出会ったのが、はじめてなんだ…。
ごめん…」
白倉は瞳を悲しげに閉じる。
眠いのではなく、吾妻の顔を見にくいのだろう。
ずっと、気にしていたのだろう。
吾妻は白倉の髪の毛を撫でた。
「いいよ」
「…吾妻」
安心して、と微笑む。
「あの時、白倉は僕を心から呼んでくれた。
会いに来てほしいって。
それが真実なら、僕は…」
腰を抱く手を、肩に回して、そっと抱きしめた。
「…きっと、全てわかってても、…白倉に会いに来た」
額をあわせて、瞳を閉じる。
目を閉じて笑う吾妻の顔が間近にあって、白倉は熱く息を吐く。
「俺が、最初は嫌うってわかってても…?」
「それでも。
…僕は、白倉に会いたい。
あの日から、僕の全て」
片手を動かして、白倉の手を握る。
「…僕を救ってくれた白倉。
…あの日から、僕を動かす、運命」
「……吾妻」
「好きだよ。
…心の底から。
一生、全身全霊で愛し続ける」
間近で、重なった視線。翡翠の瞳が潤む。
どちらからともなく瞳を閉じた。
唇が、そっと重なる。
一度は軽く、二度目は深く。
きつく、白倉を抱きしめた。
きっと、もう怖いものなどなにもない。
彼を失うこと以外、なにもない。
彼が、この世界の全てだ。
柔らかい匂い、優しい声。腕の中の身体。
出会うために、生まれた。
そう、心から思った。
同時刻。
ZIONの西エリアのカフェテリア。
窓際のテーブルには、コーヒーの入ったカップが置かれている。
席に座っているのは、流河たちからの誘いを断った時波だ。
一人らしい。
スマートフォンを見遣って、それから画面を閉じる。
足音に気づいて、立ち上がった。
カフェテリアの入り口で、軽く時波に向かって手を振った姿を見つける。
彼は足早に時波に近寄った。
傍に立ったその男を見つめて、時波は目を細めた。
懐かしそうに。
「息災そうで、なによりだ。
藍澤」
短い茶髪の、快活な雰囲気の男。
彼は微笑んだ。
「ああ、時波もな」
「ようしませんでした?」
夕と明里も、同じく西エリアに来ていた。
明里の言葉に、夕は首を傾げる。
二人が座った飲食店の屋外テーブルには、軽食とかき氷。
「なにを?」
疑問符を浮かべる夕の視界で指を立てて、明里は動かす。
指が動くまま右に右に視線をずらすと、飲食店の入り口が見える。
暑い日には、わざわざ店内に入らずに冷たいものだけ食べたい、とかき氷やアイスだけ買っていく客も多い。
入り口では食事の精算レジと別に、外の方にかき氷やアイスの販売レジが設置されている。
その前に立っているのは、親子だ。
子供が、かき氷にシロップをかけている。
好きなシロップを自由にいくつでもかけられるからか、子供はいくつもシロップを氷にかけて、氷は素敵なマーブル模様。
「……ああいうん、しませんでした?
子供のころ」
明里は真面目に訊いてきた。
「…や、まあ、全くしなかったか言ったら、嘘だな」
からかわれている気もしたが、元々嘘を吐くのが得意ではないし、明里に限っては嘘を吐きたくない。
正直に答えると、明里は夕が素直に答えたことに驚いた。
「ほんまですか?」
「まあ。
あとから考えるとアホだったわ。味がとんでもないからな…」
「そりゃあマーブルになっとったら食えた代物やないでしょうね…」
夕は思いだして、自分で笑った。
「あと飲食店のドリンクバーのジュースとかな。
混ぜるんだ」
「うわあ」
「俺一人ならまだやらなかったかもしれないけど、ガキの頃は優衣と張り合う癖があったし…あいつがなんか変なもん作ってくるからつい…」
親戚の中でも、夕と優衣の両親は仲がよい。
それもあって、幼い頃から二人は一緒によく出かけた。
「今考えるとお互いアホや。
今の優衣に言うたら、あいつ絶対心閉ざす」
笑い話として語った夕は、ふと明里を見て、不機嫌になっていることにびっくりした。
「光? どないしたん?」
「……別に」
「別にじゃないじゃん」
さっきから一分も経っていない。そもそもこの話題を持ち出したのは明里なのに。
「光?
なに怒ってんの?」
「怒ってません」
「いや怒ってるがな…」
むくれて視線を逸らした明里に、夕はため息が漏れる。
すると、明里の肩が跳ねた。
気づいた夕は、内心「あーあ」と思う。
愛おしくなる。
立ち上がって、明里の傍に立つと、また少し跳ねる肩。
ぽんと、優しく髪を撫でたら、おそるおそる視線を持ち上げて、夕を見た。
「優衣はあれ、従兄弟だし」
「…知ってます」
「光が好き」
はっきり告げたら、明里は見る間に真っ赤になった。
「光が好きやから」
「……」
明里は手を持ち上げて、頭を撫でる夕の手を払った。
「も…うるさい」
その声は震えている。
耳まで赤い。
かわいいなあ、と思う。
「優衣なんかかわいくないからな?
あいつうるさいし面倒だし」
「俺かてめんどいでしょ」
つっぱねるような明里の言葉に、夕はにっこり微笑んだ。
「ううん。光のは、むっちゃかわええ」
嬉しそうに断言した夕に、明里は顔を押さえて「もう黙れ…」と呟いた。
首も赤い。
本当にかわいいなあ。
ぽんぽん、と黒髪を撫でて、視線を何となく動かす。
「………?」
そこで、異変に気づいた。
そろりと明里が伺うと、首を傾げる夕が見える。
「どないしはったんです?」
自分のことではない様子だし、深刻なことでもなさそうだ。
「…なあ、あの木」
「木」
夕の指す通りの方向を見ると、炎天下の広場にいくつか木が生えている。
緑の青々茂った木の一本を夕は指すが、どこもおかしいところはない。
「いや、太陽が、今真上よりちょお西よりやん?
他の木の影見てみ?」
夕の言うとおり、傍に立つ他の木の影と見比べる。
「あ」
理解った。
他の木は、陽が当たる西側には影がない。反対側に木陰が伸びる。
しかし、夕が示す木だけは、真上から陽が落ちているように両側に木陰が広く出来ている。
「たしかにおかしいですね…」
「…もしかして」
夕は視線を動かす。
その木から百メートル以内を探すと、向こうの雑貨店の傍に、帽子を被った二人連れの男。
「…やっぱり」
夕は予想が違わなかったことに納得した。
「…あれ、御園さんと流河さん?」
「嵐と静流さんを見に来たんだろ。心配してたから」
「え」
なんでいるんだ、と思った明里は、夕がまたさっきの木を指したので、視線を戻す。
正確には、その木の近くのアトラクションの前。
村崎と岩永がいた。
村崎に手を握られて、真っ赤になって手を引っ込め、村崎が悲しい顔をすれば俯きながら自分から手を出す岩永。
非常に初々しい。
なるほど、出歯亀か。
優衣たちの位置からは見えない場所だが、優衣の力は影だ。
木の傍に作った人工の影を瞳にして、様子を窺っているのだ。
夕が明里を促す。
明里も頷いた。
遠回りに、岩永たちや優衣たちに気づかれないよう移動して、目を閉じて影を操る優衣の肩を叩いた。
「うぉっ!」
流石にびっくりして、優衣は大声を上げ、慌てて口を塞いだ。
そして振り返って、そこにいる夕と明里に驚く。
流河も気づかなかったらしく、目をまん丸にしていた。
「なにしてんだよ。いやわかるけど」
「…夕か。なんや」
優衣は胸を押さえて安堵した風な台詞を吐く。
「それで一緒に来なかったわけな」
「…まあ、なあ」
「気になるんだよ」
言葉を濁した優衣に続いて、流河も苦笑する。
「共犯者っていうのもあるし」
「…そういや、お前ら共犯者だったな」
流河の言葉に、夕は思いだして手を打つ。
「確か、吾妻さんへの挑戦状、でしたっけ?」
「そうそう。
頭に張り付けたのが優衣クン。実際に戦ったのは俺。
で、噴水を誤作動させたりと、状況をバックアップしたのが岩永クンね。
彼も吾妻クンと戦いたがってるし」
「…まだ内緒なんですね」
吾妻には、と尋ねると、流河は頷いた。
「だって、岩永クンや優衣クンは、現在進行形で戦いたいわけだし」
「とすると、チーム戦はビッグチャンスなんや」
「練習でも相手してもらえるし。
なんせ当時は、吾妻クンとここまで仲良くなれるなんて、誰も思ってなかったでしょう」
流河の言葉に、夕と明里は顔を見合わせた。
明里は吾妻とまだあまり話したことがないが、夕は確かにここまでとは、思っていなかった。
明里にしても、夕からの話題に、よく吾妻が顔を出すようになると思わなかった。
最初訊いた時は、とんでもないの一言に尽きたのだ。
「……たださ、吾妻クンって右目見えないんだよね」
「えっ!?」
流河の声を潜めた言葉に、夕がびっくりする。
明里は無言で目を見張った。
「知らなかった?
怪我したらしいんだ。
で、その原因が、」
説明しようとする流河の肩を、優衣が不意に叩いた。
「なに?」
流河が優衣の方を見ると、優衣は片目を閉じた状態で、影を通して見ていた方向を指す。
岩永と村崎はもういない。
その向こうにはカフェテリア。
「なんか、あそこに時波がおる」
「…は?」
優衣の言葉に、驚いたのは、その場の全員。
カフェテリアの端のテーブル。
時波は、向かいに座った男の頼んだコーヒーが運ばれてきたのを待って、口を開いた。
「藍澤。
吾妻だが、普通に生活できている。
支障がないというより、傍目には片目が不自由とはわからないほどだ」
「…そうか。よかった」
藍澤という男は、表情を緩ませ、心から安心した様子だ。
「以前言っていた、その、好きな相手だという人とは…」
藍澤の問いに、時波は若干眉を寄せたが、それだけだ。
「…無事、交際を始めた」
「そうか」
「なんでも話せているようだし、受け入れているから、平気なんじゃないか?
…ただキス以上に進むのは本当しばらくお預けにされて欲しいものだな」
カップの持ち手を掴んで苛々続けた時波に、藍澤が引きつる。
「時波?
その子、お前の好きな子だったりしたのか?」
「…妹だ」
「…そうか」
藍澤は内心、「妹なんていたか?」と思うが、つっこまない。
「……藍澤」
時波は気持ちを切り替えるために、深く息を吸って吐いた。
藍澤を真正面から見つめる。
「NOAに来る気はないのか?」
自然、背筋を伸ばした藍澤は、時波の言葉に目を瞑り、苦笑した。
「お前なら実力は申し分ない。
数少ないSランクで、能力も希有だ。
充分な待遇を得られる」
「…再三誘ってもらって悪いが、その気はないよ」
時波から視線を外し、手元のカップを見下ろして、藍澤は言う。
切ない響きの声だ。
「…吾妻に会いたくないからか?」
「会いたいさ。
ただ、きっと俺を恨んでる。怖いんだな」
「…藍澤」
藍澤は日に焼けた自分の手首を軽く撫でて、小さく息を吐く。
「まして、惚れた子とつき合えて、幸せなら、俺がいなくてもいいだろう」
「…そう簡単じゃない。
吾妻は多分、今も、お前に会いたがっている」
「そう言ったのか?」
吾妻がそう言ったのか。言っていないだろう。
そういう藍澤の問いかけに、時波は素直に首を横に振る。
「ただ、白倉には言っているんだと思う」
時波は静かに言った。
藍澤は瞬きも忘れて、声を失った。
「…吾妻の好きな、恋人、か?」
「…今、ここにいる。
女じゃなくて男だが、吾妻を救った存在らしい。
…吾妻にすぐ会えないなら、白倉に会ってみたらいい」
「…」
「訊いてみたらいいんだ」
吾妻にその意志があるのかどうか、白倉に。
藍澤は驚いていたが、口元を押さえて、参った風に零した。
「時波の方が、吾妻に優しい気がするな…」
「誤解だな。
俺が心配なのは、吾妻ではなくお前だ」
はっきりと告げた言葉には、友愛の情がこもっていて、藍澤は胸が痛くなる。
「お前はNOAに来るべきだ。
一年前の事件は、NOAですら壊滅的な被害を防げなかった。
ちゃんとした設備もない場所で、これからどうするつもりだ」
「…………」
藍澤は視線を俯かせ、腕を組む。
「今のNOAになら、暴走キャリアを未然に覚醒させる術がある。
…お前になにかあって、吾妻が悲しんだら、それこそどうする?」
抑揚のない時波の声に、藍澤は長い息を吐いて、両肘をテーブルに付いた。
頭を抱える。
「どっち転んでも命題だな」
「それなら、今日のチャンスを逃すな」
「…痛み入る言葉だ」
藍澤がもう一度、ため息を吐く。
心底、困り果てた様子で。
吾妻と白倉は、南のエリアに来ていた。
白倉はひたすら上機嫌で、吾妻の視線を促した。
向こうには、売店。
「冷たいもん、食べない?」
「ああ、いいね」
さっきもアイスを食べたが、今日は本当に暑い。
多く食べなければ大丈夫だろう。
「あのな、かき氷」
「…かき氷」
白倉の楽しげな様子に水を差したくはないが、かき氷はどこでも量が結構多い気がする。
「一人分を、二人で半分こすんの」
しかし、にっこり微笑んだ白倉の言葉に、吾妻の頭から理性は吹っ飛んだ。
なにそれ。恋人みたい。いや、恋人だ。
「……吾妻、お前そんな興奮しないでもいいじゃんか」
「あ、…ごめん」
自然鼻息を荒くして白倉を見つめた吾妻に、白倉は笑う。
「別にいいもん。俺に対して、欲望に素直な吾妻、めっちゃいいよ?」
「……」
可愛いはにかんだ顔。吾妻は言葉を失う。
「それは、どういう意味?」
「?」
「…それは…」
欲望に忠実になってもよろしいということですか?
白倉は無邪気な顔をしていたが、首を傾げて、気づいたように「あ」と呟く。
頬を染めて、軽く視線を落とす。
「…それは…恥ずかしい」
その上目遣いや、言葉が非常にかわいい。
恥ずかしいということは、嫌じゃないってことだ。
「恥ずかしいけど、…時波たちに、吾妻はそんな性急じゃないて言ったけど」
「…うん」
「…でも、俺、吾妻になら…求められても、いい、な…」
赤く染まった頬。自分をそろりと見上げた視線。
愛らしくて堪らなくて、思い切り抱きしめた。
「可愛いっ…。
僕、我慢きかないよ…っ」
「吾妻だからだもん。
吾妻だから、俺、いいの」
ぎゅうぎゅう抱きしめた腕の中から、白倉の声が聞こえる。
感激する。
「だから、な、待っててな?」
白倉は恥じらいながら吾妻を見上げる。
「もうすぐ、だから。
もうすぐで、覚悟決めるから」
「…覚悟?」
あまりに白倉がかわいいものだから、一瞬理解が及ばなくて、吾妻は間抜けに聞き返した。
「言わせないで…」
白倉は視線を逸らして、口元を押さえる。
覚悟。なんの?
そこまで考えて、唐突に理解した。
「…もうすぐ、な。
俺の全部、あげるから、な…」
ゆっくり吾妻を見上げて、白倉は真っ赤になって、掠れた声で告げた。
吾妻の心にクリティカルヒットだ。
「しらくらっ!」
叫んで、今以上にきつく抱きしめた。
「くるしい…」
「ごめん。ちょっと、我慢して!」
止まらない。
もっともっと、二人の間がないくらいに、抱きしめたい。
服が邪魔だ。
自分と白倉の間に、空気なんていらない。
一つになりたい。
「…愛してるよ」
とてもとても愛おしくて、耳元で囁いた。
白倉は潤んだ瞳で吾妻を見つめて、こくり、と頷く。
「俺も」と言おうとした唇を、指で撫でて、視線で願う。
いいか?と。
白倉なら、「こんなところで」と嫌がるはずなのに、彼は恥ずかしそうに口を開いて、それから「うん」と一言。
頬に手を添えると、気持ちよさそうに瞳を閉じる。
そっと、唇を重ねると、白倉のシャンプーの香りがした。
重ねるだけで、離す。
「…なんか、乗ろう。二人きりになれるやつ」
「…うん」
優しく髪を撫でると、白倉は嬉しそうに笑った。
「吾妻」
「ん?」
身体を離すと、白倉は白い手で吾妻のシャツに触れる。
「手、繋いで…?」
あまりに小さな声のお願い。
吾妻は幸せに緩む頬で、微笑んだ。
白い手を自分から掴むと、白倉の指先が、吾妻の指先に絡んだ。
「白倉は、すごくかわいいね…」
心から思った。
「…吾妻しか言わないよ、そんなん」
「僕は心配だよ」
白倉の絡んだ指先。少し力がこもる。
「じゃあ、俺のこと、ぎゅって束縛して。
吾妻だけに、言われてたい…」
吾妻が唾を飲み込む。手に、力が入る。
「なんて…?」
鼓動が耳の傍で聞こえる。
うるさい。頭がくらくらする。
「…かわいい、とか、すき、とか…甘いの、全部。
吾妻だけが、言ってもいいの…」
繋いだ手に、更に力がこもる。白倉の指が痛いだろうと気づいて、緩めたが、まだ痛いかもしれない。
本当は、また正面からきつく抱きしめたい。
ぎゅっと堪えて、手だけ握った。
「…言うよ。何度でも。
…白倉は、僕のもの。ずっと」
甘くて切ない気持ちで囁く。白倉は小さく頷いた。
「…じゃあ、エスコートしてな?」
この賑やかな中でも、不思議と白倉の声は聞こえる。
どんなに小さくても。
「俺、吾妻、初恋。
遊園地のデート、はじめて、だから」
「……うん」
心から微笑んで、返事をした。
うれしくて。
愛しいと想う。
彼が、愛しい。
観覧車に乗った。
ZIONの観覧車は、窓がない。
箱の上部分にはなにもなく、風が吹き抜ける。
しかし、落ちる心配はいらない。
戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉の防護壁の改良版が、周囲を覆っている。
触れると、なにか見えない壁のある感触。
そして、風や匂いだけを通す仕組みだ。
外から中は見えないが、中から外はとてもよく見える。
吾妻の隣に自然に座った白倉は、吾妻の肩に頭を乗せている。
「…そういえば、な」
「うん」
白倉は少し眠いのか、ほわほわした雰囲気で話す。
朝、早かったのかもしれない。
「吾妻に謝ることがある」
「謝る…?」
そんなこと、覚えがない。
吾妻は白倉の腰を抱く手に力を込めて、顔を覗き込む。
「初めて出会った日のこと。
俺は、思い出したわけじゃないんだ…」
白倉はやはり眠そうに、瞳を瞬く。
「…俺の二つ目の力は、時間を操るらしい。
バトル鬼ごっこで、意識を失ってた間、精神だけ、時間を超えて、去年のお前の元に行った…」
吾妻は知らなかった。
ただ、驚く。
「やから、俺は体育館で出会ったのが、はじめてなんだ…。
ごめん…」
白倉は瞳を悲しげに閉じる。
眠いのではなく、吾妻の顔を見にくいのだろう。
ずっと、気にしていたのだろう。
吾妻は白倉の髪の毛を撫でた。
「いいよ」
「…吾妻」
安心して、と微笑む。
「あの時、白倉は僕を心から呼んでくれた。
会いに来てほしいって。
それが真実なら、僕は…」
腰を抱く手を、肩に回して、そっと抱きしめた。
「…きっと、全てわかってても、…白倉に会いに来た」
額をあわせて、瞳を閉じる。
目を閉じて笑う吾妻の顔が間近にあって、白倉は熱く息を吐く。
「俺が、最初は嫌うってわかってても…?」
「それでも。
…僕は、白倉に会いたい。
あの日から、僕の全て」
片手を動かして、白倉の手を握る。
「…僕を救ってくれた白倉。
…あの日から、僕を動かす、運命」
「……吾妻」
「好きだよ。
…心の底から。
一生、全身全霊で愛し続ける」
間近で、重なった視線。翡翠の瞳が潤む。
どちらからともなく瞳を閉じた。
唇が、そっと重なる。
一度は軽く、二度目は深く。
きつく、白倉を抱きしめた。
きっと、もう怖いものなどなにもない。
彼を失うこと以外、なにもない。
彼が、この世界の全てだ。
柔らかい匂い、優しい声。腕の中の身体。
出会うために、生まれた。
そう、心から思った。
同時刻。
ZIONの西エリアのカフェテリア。
窓際のテーブルには、コーヒーの入ったカップが置かれている。
席に座っているのは、流河たちからの誘いを断った時波だ。
一人らしい。
スマートフォンを見遣って、それから画面を閉じる。
足音に気づいて、立ち上がった。
カフェテリアの入り口で、軽く時波に向かって手を振った姿を見つける。
彼は足早に時波に近寄った。
傍に立ったその男を見つめて、時波は目を細めた。
懐かしそうに。
「息災そうで、なによりだ。
藍澤」
短い茶髪の、快活な雰囲気の男。
彼は微笑んだ。
「ああ、時波もな」
「ようしませんでした?」
夕と明里も、同じく西エリアに来ていた。
明里の言葉に、夕は首を傾げる。
二人が座った飲食店の屋外テーブルには、軽食とかき氷。
「なにを?」
疑問符を浮かべる夕の視界で指を立てて、明里は動かす。
指が動くまま右に右に視線をずらすと、飲食店の入り口が見える。
暑い日には、わざわざ店内に入らずに冷たいものだけ食べたい、とかき氷やアイスだけ買っていく客も多い。
入り口では食事の精算レジと別に、外の方にかき氷やアイスの販売レジが設置されている。
その前に立っているのは、親子だ。
子供が、かき氷にシロップをかけている。
好きなシロップを自由にいくつでもかけられるからか、子供はいくつもシロップを氷にかけて、氷は素敵なマーブル模様。
「……ああいうん、しませんでした?
子供のころ」
明里は真面目に訊いてきた。
「…や、まあ、全くしなかったか言ったら、嘘だな」
からかわれている気もしたが、元々嘘を吐くのが得意ではないし、明里に限っては嘘を吐きたくない。
正直に答えると、明里は夕が素直に答えたことに驚いた。
「ほんまですか?」
「まあ。
あとから考えるとアホだったわ。味がとんでもないからな…」
「そりゃあマーブルになっとったら食えた代物やないでしょうね…」
夕は思いだして、自分で笑った。
「あと飲食店のドリンクバーのジュースとかな。
混ぜるんだ」
「うわあ」
「俺一人ならまだやらなかったかもしれないけど、ガキの頃は優衣と張り合う癖があったし…あいつがなんか変なもん作ってくるからつい…」
親戚の中でも、夕と優衣の両親は仲がよい。
それもあって、幼い頃から二人は一緒によく出かけた。
「今考えるとお互いアホや。
今の優衣に言うたら、あいつ絶対心閉ざす」
笑い話として語った夕は、ふと明里を見て、不機嫌になっていることにびっくりした。
「光? どないしたん?」
「……別に」
「別にじゃないじゃん」
さっきから一分も経っていない。そもそもこの話題を持ち出したのは明里なのに。
「光?
なに怒ってんの?」
「怒ってません」
「いや怒ってるがな…」
むくれて視線を逸らした明里に、夕はため息が漏れる。
すると、明里の肩が跳ねた。
気づいた夕は、内心「あーあ」と思う。
愛おしくなる。
立ち上がって、明里の傍に立つと、また少し跳ねる肩。
ぽんと、優しく髪を撫でたら、おそるおそる視線を持ち上げて、夕を見た。
「優衣はあれ、従兄弟だし」
「…知ってます」
「光が好き」
はっきり告げたら、明里は見る間に真っ赤になった。
「光が好きやから」
「……」
明里は手を持ち上げて、頭を撫でる夕の手を払った。
「も…うるさい」
その声は震えている。
耳まで赤い。
かわいいなあ、と思う。
「優衣なんかかわいくないからな?
あいつうるさいし面倒だし」
「俺かてめんどいでしょ」
つっぱねるような明里の言葉に、夕はにっこり微笑んだ。
「ううん。光のは、むっちゃかわええ」
嬉しそうに断言した夕に、明里は顔を押さえて「もう黙れ…」と呟いた。
首も赤い。
本当にかわいいなあ。
ぽんぽん、と黒髪を撫でて、視線を何となく動かす。
「………?」
そこで、異変に気づいた。
そろりと明里が伺うと、首を傾げる夕が見える。
「どないしはったんです?」
自分のことではない様子だし、深刻なことでもなさそうだ。
「…なあ、あの木」
「木」
夕の指す通りの方向を見ると、炎天下の広場にいくつか木が生えている。
緑の青々茂った木の一本を夕は指すが、どこもおかしいところはない。
「いや、太陽が、今真上よりちょお西よりやん?
他の木の影見てみ?」
夕の言うとおり、傍に立つ他の木の影と見比べる。
「あ」
理解った。
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しかし、夕が示す木だけは、真上から陽が落ちているように両側に木陰が広く出来ている。
「たしかにおかしいですね…」
「…もしかして」
夕は視線を動かす。
その木から百メートル以内を探すと、向こうの雑貨店の傍に、帽子を被った二人連れの男。
「…やっぱり」
夕は予想が違わなかったことに納得した。
「…あれ、御園さんと流河さん?」
「嵐と静流さんを見に来たんだろ。心配してたから」
「え」
なんでいるんだ、と思った明里は、夕がまたさっきの木を指したので、視線を戻す。
正確には、その木の近くのアトラクションの前。
村崎と岩永がいた。
村崎に手を握られて、真っ赤になって手を引っ込め、村崎が悲しい顔をすれば俯きながら自分から手を出す岩永。
非常に初々しい。
なるほど、出歯亀か。
優衣たちの位置からは見えない場所だが、優衣の力は影だ。
木の傍に作った人工の影を瞳にして、様子を窺っているのだ。
夕が明里を促す。
明里も頷いた。
遠回りに、岩永たちや優衣たちに気づかれないよう移動して、目を閉じて影を操る優衣の肩を叩いた。
「うぉっ!」
流石にびっくりして、優衣は大声を上げ、慌てて口を塞いだ。
そして振り返って、そこにいる夕と明里に驚く。
流河も気づかなかったらしく、目をまん丸にしていた。
「なにしてんだよ。いやわかるけど」
「…夕か。なんや」
優衣は胸を押さえて安堵した風な台詞を吐く。
「それで一緒に来なかったわけな」
「…まあ、なあ」
「気になるんだよ」
言葉を濁した優衣に続いて、流河も苦笑する。
「共犯者っていうのもあるし」
「…そういや、お前ら共犯者だったな」
流河の言葉に、夕は思いだして手を打つ。
「確か、吾妻さんへの挑戦状、でしたっけ?」
「そうそう。
頭に張り付けたのが優衣クン。実際に戦ったのは俺。
で、噴水を誤作動させたりと、状況をバックアップしたのが岩永クンね。
彼も吾妻クンと戦いたがってるし」
「…まだ内緒なんですね」
吾妻には、と尋ねると、流河は頷いた。
「だって、岩永クンや優衣クンは、現在進行形で戦いたいわけだし」
「とすると、チーム戦はビッグチャンスなんや」
「練習でも相手してもらえるし。
なんせ当時は、吾妻クンとここまで仲良くなれるなんて、誰も思ってなかったでしょう」
流河の言葉に、夕と明里は顔を見合わせた。
明里は吾妻とまだあまり話したことがないが、夕は確かにここまでとは、思っていなかった。
明里にしても、夕からの話題に、よく吾妻が顔を出すようになると思わなかった。
最初訊いた時は、とんでもないの一言に尽きたのだ。
「……たださ、吾妻クンって右目見えないんだよね」
「えっ!?」
流河の声を潜めた言葉に、夕がびっくりする。
明里は無言で目を見張った。
「知らなかった?
怪我したらしいんだ。
で、その原因が、」
説明しようとする流河の肩を、優衣が不意に叩いた。
「なに?」
流河が優衣の方を見ると、優衣は片目を閉じた状態で、影を通して見ていた方向を指す。
岩永と村崎はもういない。
その向こうにはカフェテリア。
「なんか、あそこに時波がおる」
「…は?」
優衣の言葉に、驚いたのは、その場の全員。
カフェテリアの端のテーブル。
時波は、向かいに座った男の頼んだコーヒーが運ばれてきたのを待って、口を開いた。
「藍澤。
吾妻だが、普通に生活できている。
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「…そうか。よかった」
藍澤という男は、表情を緩ませ、心から安心した様子だ。
「以前言っていた、その、好きな相手だという人とは…」
藍澤の問いに、時波は若干眉を寄せたが、それだけだ。
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「そうか」
「なんでも話せているようだし、受け入れているから、平気なんじゃないか?
…ただキス以上に進むのは本当しばらくお預けにされて欲しいものだな」
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「時波?
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「…妹だ」
「…そうか」
藍澤は内心、「妹なんていたか?」と思うが、つっこまない。
「……藍澤」
時波は気持ちを切り替えるために、深く息を吸って吐いた。
藍澤を真正面から見つめる。
「NOAに来る気はないのか?」
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「お前なら実力は申し分ない。
数少ないSランクで、能力も希有だ。
充分な待遇を得られる」
「…再三誘ってもらって悪いが、その気はないよ」
時波から視線を外し、手元のカップを見下ろして、藍澤は言う。
切ない響きの声だ。
「…吾妻に会いたくないからか?」
「会いたいさ。
ただ、きっと俺を恨んでる。怖いんだな」
「…藍澤」
藍澤は日に焼けた自分の手首を軽く撫でて、小さく息を吐く。
「まして、惚れた子とつき合えて、幸せなら、俺がいなくてもいいだろう」
「…そう簡単じゃない。
吾妻は多分、今も、お前に会いたがっている」
「そう言ったのか?」
吾妻がそう言ったのか。言っていないだろう。
そういう藍澤の問いかけに、時波は素直に首を横に振る。
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時波は静かに言った。
藍澤は瞬きも忘れて、声を失った。
「…吾妻の好きな、恋人、か?」
「…今、ここにいる。
女じゃなくて男だが、吾妻を救った存在らしい。
…吾妻にすぐ会えないなら、白倉に会ってみたらいい」
「…」
「訊いてみたらいいんだ」
吾妻にその意志があるのかどうか、白倉に。
藍澤は驚いていたが、口元を押さえて、参った風に零した。
「時波の方が、吾妻に優しい気がするな…」
「誤解だな。
俺が心配なのは、吾妻ではなくお前だ」
はっきりと告げた言葉には、友愛の情がこもっていて、藍澤は胸が痛くなる。
「お前はNOAに来るべきだ。
一年前の事件は、NOAですら壊滅的な被害を防げなかった。
ちゃんとした設備もない場所で、これからどうするつもりだ」
「…………」
藍澤は視線を俯かせ、腕を組む。
「今のNOAになら、暴走キャリアを未然に覚醒させる術がある。
…お前になにかあって、吾妻が悲しんだら、それこそどうする?」
抑揚のない時波の声に、藍澤は長い息を吐いて、両肘をテーブルに付いた。
頭を抱える。
「どっち転んでも命題だな」
「それなら、今日のチャンスを逃すな」
「…痛み入る言葉だ」
藍澤がもう一度、ため息を吐く。
心底、困り果てた様子で。
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