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第六章 DEAR
第五話 誰がために鐘は鳴る
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「あ」
観覧車から降りたあと、昼食を食べて、いろいろアトラクションを巡っていた吾妻と白倉。
正直、ここは広すぎて、一つのエリアのアトラクションを全て楽しむだけで丸一日、夜まで使うようだ。
だから、午前消費した力も大分回復したし、また北か東のエリアに行ってみよう、と今度は東のエリアにやってきた。
東のエリアの入り口付近で、吾妻が足を止める。
白倉はなんだろう、と吾妻の顔を見上げて、少し驚いた。
きらきら、と輝いた瞳をしている。
唇から「可愛い…」と漏れた。気づいてない。
白倉は吾妻の視線を追う。
そこには、土産や自分用の雑貨など、このテーマパークにしかないキャラクターの商品を置いたお店。
店の西と東に大きな入り口があり、外からでも商品がよく見えるように並べられている。
吾妻が釘付けになっているのは、ウサギや猫、犬などのとても可愛らしいストラップや時計、バックなど。
「吾妻、中入って見たい?」
「へ? あっ…」
白倉は普通に伺っただけだったが、吾妻はあからさまにハッとして、焦った顔をした。
「い、いやなんとなく見ただけ」
慌てて興味のないふりをしようとしている。
ムッとするより、吾妻を可愛く思った。
だって、そんなファンシー趣味があるなんて、恋人に知られたくない。
カッコイイ彼氏でいたいんだ、という吾妻の男心を察すれば、かわいい。
「吾妻」
自然と頭に浮かんだ言葉を言おうとして、白倉は考えた。
浮かんだのは「隠さんでもいい。笑ったりしないし」だったが、それはなんか違う。
嫌味な言葉ではないが、それはどっちかっていったら、男友達の意外な秘密を知った親友が言う台詞っぽい。
吾妻がカッコイイ彼氏でいたいというなら、自分は吾妻のプライドを損ねてはいけないし、かつ恋人として喜ばせなければならない。
頭をフル回転させて、思いついた言葉を、上目遣いに小首を傾げて言った。
「吾妻、俺、吾妻とお揃いみたいなストラップとか欲しい。
俺の選んでほしいんだけど、ああいうん、吾妻嫌い?」
精一杯可愛く意識して言ったが、吾妻は固まった。
外したかな。
と思ったが、吾妻は見る見る頬を紅潮させて、白倉の肩を掴むと、輝いた瞳で大きく頷く。
「大っ好きだよ!
白倉と一緒のストラップとかいいね。ほしい!
見よう?」
ものすごく弾んだ声。外したのではなく、ストライクだったようだ。
白倉は安心して、にこにこ笑って頷いた。
「じゃあ、吾妻が俺につけて欲しいもん、選んで?
俺、吾妻の選ぶ」
「うん! 行こう!」
おおはしゃぎで白倉の手を握って歩きだした吾妻を見上げ、白倉は心底「かわええヤツ」と思った。
「なんか土産買ってかへん?」
岩永が不意に足を止めて、そう言った。
村崎は傍にいくつかある雑貨店を見遣って、そういえばそうだな、と思う。
「ああ。せやな。見てくか」
「うん」
岩永には友だちが多いし、土産を選びたい相手は沢山いるだろう。
面白くないという気持ちより、それだけの人望を持つ岩永を素直に誇らしく思えた。
記憶を失っても、損なわれない信頼や、憧れ。
それは岩永が以前と同じ、裏のない、優しい人格を持っていたからだ。
だから、それをみんなが理解ってくれているというのが素直に嬉しいし、岩永を本当に偉いと思う。一方、ずっと気づけずにいた自分が情けなくもなる。
だが、岩永が笑っていられるなら、それが全てだ。
これからは、自分も傍で支えたいと願う。
「…?」
岩永の後を追おうとして、村崎は視界の端に入った姿に、一瞬動きを止めた。
すごく見知った姿だった。
視線を動かして見ると、数百メートル向こうのアトラクションの近く、向かい合っている数人の男。
「…村崎?」
岩永が来ない村崎を訝って、戻ってきた。
「いや、あれ」
村崎がそちらを指さすと、岩永は素直に見た。
そして、「あれ?」と驚きの声を挙げる。
「流河に、優衣。…はええとして」
「時波に、あれは誰や?」
流河と優衣は目立つからすぐ見つかったが、それはまだいい。
しかし、何故か時波がいる。
そして、時波と一緒にいる見慣れない茶髪の男。
「…知りあい、にしては変な空気…」
遠目にも、仲良し、とかいう和やかな雰囲気じゃない。
「…どないする?」
行ってみるか?と岩永が尋ねた。
「……いや、やめとこ」
「ええん?」
「多分、あの二人は儂らの様子見に来たんやろ?
儂らが行ったら気まずいんとちゃうか?」
「あ、そっか」
岩永も、優衣と流河の目的が自分たちだとわかっていたようで、納得した。
「ほな、見つからんうちに、中入ろう」
「ああ」
岩永に促されるまま、村崎は目的としていた雑貨店に向かう。
だが、内心は違う。
表向き、ああいった理由で声をかけなかったが、勝手にデートを覗きに来た二人だ。
気遣う気はあまり起きない。
しかし、会話してしまったら、岩永はこれ幸い、と一緒に行動しようとするだろう。
夕たちや白倉達が、この広い敷地内で見つからないから、村崎との二人きり状態に納得しているのだ。
正直、二人きりを邪魔されたくなかった。
真剣にストラップを選ぶ吾妻の姿を、白倉は微笑ましい気持ちで見ている。
こんなに穏やかな時間を過ごせて、とても嬉しい。
なんだか、自分が見ているのがもったいなく思えてきた。
吾妻になにを買うかは決まった。
なら、吾妻が自分になにを選ぶかは、開けてからのお楽しみにしたい。
吾妻が手にとって、これ、と決めるのを見ているのは、なんだかもったいない。
「吾妻。俺、外出てるな?」
「え」
びっくり顔で振り返った吾妻に、柔らかく微笑みかけた。
「吾妻がなに選んでくれるか、あとのお楽しみにしたいんだよ。
俺がなに買うかも、お楽しみ。
な?」
幸福に緩んだ声で言うと、吾妻は嬉しそうに笑って頷いた。
レジに行って、精算を済ませ、店外の木陰に向かった。
途中、前から来た男とぶつかって、紙の小袋に入ったストラップが落ちる。
男が気づいて、拾ってくれた。
「すまない。前を見ていなかった」
袋に付いた埃を手で払ってから渡して、丁寧に謝罪する。
礼儀正しい人間という印象を受けたので、白倉は「こちらこそすみません」と軽く頭を下げて謝った。
「いや、俺の方が見てなかったんだ。気にしないでくれ」
「…有り難うございます」
どこまでも優しい男の態度に、好感を覚える。
笑えば柔らかく朗らかな印象の男だが、体格が良いため知らぬ人間が見れば怯えるかもしれない。
身長もある。容貌も整っている。
モデルにも見える、が、不良にも見える。
そのまま別れるかと思ったが、どうも男も木陰で休む気だったらしく、なんとなく二人で大きな木の下に入ることになってしまった。
黙っているのも変な気分だ。
「一人、ですか?」
こんなに美形で、かつ、あれだけの好人物なら彼女くらいいそうだと思った。
外面だとは思わない。
身近に夕や岩永みたいな「心底優しい」人間がいると、それが外面だけか内面からかわかる。
男は後者だ。
「一応連れがいるよ。彼女じゃないが」
「今、一緒じゃないんですね」
「あー、事情があってな。連れは地元の友だちに囲まれてる」
白倉は相づちを打ちながら、引っかかりを覚えた。
「ここの人じゃない?」
「ここより少し離れた街に住んでる。
ほんの数駅先だが」
「ああ」
なら、連れはNOAの生徒なのだろうか。
この街には学校はNOAしかない。
街の敷地の大半を、NOAの施設が占めている。
「あと、敬語はいらないだろ?
お互いいくつだ?」
「…えー、十八です」
「…同い年だな」
男が微かに驚きながら言う。
白倉は内心驚いた。
「…年上に見えるなあ」
「お前もな」
お互い様だ、と男は笑った。
やはり、嫌味がない。
「NOAの学生か?」
「うん」
「俺も超能力は使うよ」
「なのにNOAに入ってないの?」
びっくりした。
男は苦笑する。
「どうしようかと思ってる」
「はあ…」
「その連れは、ある人物に会えとか言うしな…。
だからここを待ち合わせ場所にしたらしい」
「…ある人物?」
男はいかにも憂鬱そうなため息を吐いて頷いた。
「NOAの高等部生徒会長らしいんだが…」
「…は?」
間抜けな声が出た。
だって驚きだ。
それ、自分じゃないか。
「待って?
その連れって、なんてヤツ?」
「…? 時波っていう名前の」
「時波ぁ!?」
白倉があげた大声に男はびっくりする。
だって、時波?
時波がなんで、自分に会え、なんて彼に言うんだ?
「知りあい、か?」
「…ていうか、俺がその生徒会長…」
「え!?」
先ほどの白倉と同じリアクションで男は叫ぶ。
恐ろしい偶然にひたすらびっくりだ。
同じテーマパーク内だと侮るな。ここの広さは尋常じゃないのだ。
かつ、この人混み。普通顔も知らないのに会えない。
「……引き寄せられたみたいな」
白倉が思わず呟くと、男は「ああ」と頷く。
「俺も今そう思った」
「……」
白倉は唾を飲み込んで、意を決した。
何故自分に会う必要があったのか、訊こう。
「白倉」
しかし、傍で唐突に険しい声が響いた。
男が白倉以上に驚いて、振り向く。
吾妻が恐ろしく不機嫌な顔で立っていた。
「…吾妻」
吾妻の名前を呼んだのは、自分ではない。
金髪の男が、半ば茫然と口にした。
白倉は混乱する。
どういうことだ?
なのに、吾妻は白倉の腕を乱暴に掴むと、男に見向きもせず歩きだした。
「吾妻っ…」
男の声がする。
さっきまでと全然違う、痛みすら伴ったような、切ない声だった。
吾妻に連れていかれるまま、足早に歩くしかない白倉の胸すら、痛くなる。
吾妻は適当なアトラクションを選んで、中に入った。
涼しい冷気が肌を撫でる。
「吾妻?」
不安になって、振り向かない背中を呼んだ。
「なに、話してたの?」
抑揚のない硬い声が、白倉を責めた。
「え」
「笑ったり驚いたり、なんで白倉があいつと会ってるの!?」
振り向いた吾妻は、冷静の欠片もないひどい顔だった。
混乱して、焦燥していた。
白倉も元々混乱気味だった。怒鳴られて、胸が痛む。
「なんで、僕より先に話してる!?」
「…」
唯一、わかったとすれば、あの男は吾妻とただならぬ関係だ。
男の先ほどの声が、今の吾妻の態度が、それを物語る。
自分の知らない吾妻。
胸元を押さえると、吾妻はやっと我に返って口元を押さえた。
自分を責めるように、青ざめる。
白倉には見えない。
自分以上に真っ青で、生気のない、あまりにひどい顔色をしている白倉を見て、吾妻は我に返った。
そして、自分の言った言葉の酷さに青ざめた。
白倉は知らないのだ。
あの男が、藍澤涼太だと。自分が語った親友だと。
混乱していた。
会いたいとは思っていたけど、心の準備がなくて、混乱して。
それを白倉にぶつけた。
「白倉…」
途方もない後悔が押し寄せる。
手を伸ばすと、振り払われた。
吾妻の横をすり抜けて、駆け出してしまう。
「白倉っ!?」
吾妻の声にも振り向かず、そのままアトラクション内へのゲートをくぐってしまった。
吾妻は慌てて、受付にあった看板を見る。
脱出ゲームとある。
一人から四人までで遊べるシステムらしいと理解して、受付にいた男に言う。
「あの子とペアで!」
別々に入ったら、アトラクション内ではまず会えないだろう。
男は入って早々ケンカを始めた吾妻たちにうろたえていたが、頷いた。
ゲートに向かおうとして、床に落ちた小さな紙袋に気づく。
白倉が落としたもの。
自分に贈ろうとしてくれたストラップだろう。
中を見ている暇はない。鞄に突っ込んで、走り出した。
そういえば、アトラクションの説明を全く見ずに入ってしまった。
白倉の眼前に広がるのは、洋風の街並み。
ただし、空は夜で暗く、人気のない街にはおどろおどろしさがある。
いかにも洋画のホラーなどで舞台になっている街といった雰囲気だ。
とりあえず、どうしたらいいんだろう。
じっとしていたら吾妻に追いつかれる。
ひとまず歩きだした。
廃墟と言っていい建物ばかりが並ぶ。
点滅する外灯。壁にぶつかったまま、あちこちひしゃげて止まっている車。
店のショーウィンドウはガラスが割れていて、マネキンが倒れている。
もしかして、また超能力でなにかを倒す遊びだろうか。
ふと、街の至るところに同じ張り紙がはってあることに気づいた。
指名手配というよりは、警告。
文字は英語ではなく、日本語で簡単に書かれていることから、これはアトラクションで遊ぶ人間に向けた張り紙だ。
ならば、それをよく見ればわかるかもしれない。
「…切り裂きジャック」
張り紙には、“切り裂きジャック”という殺人鬼が出没する、危険だから出歩くな、という街人への警告が書いてあった。
「…てことは、倒すゲームっていうよりは」
背後で靴音が鳴って、びっくりして振り返る。
そこには、吾妻ではなく、長身の男が立っている。
瞳は血走っているのに、虚ろ。
白倉より長身の身体は真っ黒なコートに覆われて、口元もマスクで隠されて、手には黒い手袋、頭には帽子。
片手に、血塗れの刃渡りの長いナイフ。
切り裂きジャック、で間違いない。
先刻浮かんだ考えを確認するため、念動力を発動する。
衝撃波を放った。
しかし、切り裂きジャックと思しき男は、まるでダメージなく、服すら揺れずにそこに立つ。
確信した。
これは倒すゲームではなく、
「…っ、武器とかないの!?」
白倉は背中を向けて駆け出した。
靴音が追ってきた。
これは倒すゲームではなく、逃げるゲームだ。
専用の武器があるかもしれないが、超能力で遊ぶゲームに武器はまずないと思う。
武器を使うくらいなら超能力を使う。東のアトラクションはそういったゲームだ。
なら、ひたすら逃げるゲーム。逃げるために、超能力を必要とするゲームだ。
だとしたら、どこまで逃げればいい?
眼前に門の閉まった高い塀が見えた。
門に手をかけるが、全く動かない。
背後に迫る足音に、命に危険はないとわかっていても心臓が跳ね上がる。
念動力を操って、地面を蹴った。
身体にまとわせた念動力で数秒空を飛び、塀を飛び越える。
反対側に着地すると、背後の門を叩く音が聞こえたが、こちらには来れない様子だ。
とりあえず成功らしい。ホッとした。
視線を巡らせると、外灯が並ぶ広場がある。
奥に、いかにも古めかしく、荘厳な建物。
あそこに行けばいいのだろうか。
逃げなければならない。でも、吾妻から、逃げていいのだろうか。
あれは、誰なのだろうか。
吾妻が、あそこまで取り乱す相手。
「……藍澤」
不意に浮かんだ名前は、吾妻に怪我を負わせたという親友の名前。
決めつけるには、情報が足りない。
外見も訊けばよかった。
思考を断ち切るような嫌な音に、白倉はびっくりする。
背後で壁を叩く音が、がりがりとなにかを引っ掻く音に変わっていた。
振り返ると、門の閂を向こう側からナイフで切り裂こうとしている。
こちらに先端が飛び出たナイフが見える。
恐ろしいのは、閂ががたがた動くことだ。
「逃げ切ったことに、ならんわけだな…?」
まだまだ急いで逃げなければならないらしい。
ひとまず考えるのは後にして、逃げよう。
建物に向かって駆け出した。
「こういうんは平気なんか?」
岩永が入ろうというから入ったアトラクション。
脱出ゲームらしい。
複数人で、切り裂きジャックの出没する閉鎖された街から、別の街への隠された道を見つけだし、逃げるゲーム。
村崎と岩永が歩くのは、寂れた街の大きな通りだ。
「ぶっちゃけ、長い黒髪の女が変な歩き方で寄ってくるとかやないなら平気?」
「ああ」
やはり、苦手なのは和製ホラー限定らしい。
「ほな、」
「…なん?」
手を差し出すと、怪訝な顔をされた。
だが、うっすらと赤くなったので、意味はわかっているはずだ。
「手、繋ごう」
「いや、逃げにくいやん…」
「来たらすぐ離したらええ」
繋がない言い訳を口にするが、村崎の言葉に、困ったように黙り込む。
手を伸ばして、岩永の手を握ると、微かに不安そうな顔をした。
違和感を感じたが、岩永の方が握りかえしてきたので、思考の端に追いやられてしまう。
「…まだ出てくる感じやないな」
「うん」
頷いて、村崎の隣を歩く岩永の横顔を見た。
ふいに思い出すのは、先ほど吾妻と出会った時の会話。
雑貨店の店内でたまたま出くわした時、お互い一人だった。
訊くと白倉は外で待っていると言う。
岩永は、店の奥の方でなにか選んでいる。
「それ、白倉はんにか?」
そう尋ねると、吾妻は幸せそうに微笑んだ。
「村崎こそ、それ、岩永に?」
村崎の手にあったものを見て訊かれ、村崎は慌てて隠した。
吾妻が笑う。
村崎にも土産を買う友人はいるが、一番に買いたいと思ったのは岩永にだった。
なにか、贈り物をしたかった。
「仲がいいね」
「…ちょお、純情すぎて困るが」
「それは仕方ないよ。記憶ないもん」
村崎もそれは理解しているので、頷いた。
「それに、夕に聴いたから…」
言いかけて、吾妻は「あ」と口を押さえた。
「なんや?」
「いや…」
「言いかけて止めるな」
吾妻は露骨にしまった、という顔をして、村崎に顔を寄せると、小声で、
「岩永な、セックスがなにすることか、知らないって」
「………」
村崎は無表情で固まった。
数秒後、理解して、「え」と漏らす。
「だから、あまり急に進めんほうがいいね」
吾妻は顔を離すと、そう言った。
それは知らなかったので、びっくりだ。
初々しいとは思っていたが、まさかその知識もないとは。
「…やらしいこと考えた?」
吾妻に突っ込まれ、思わず口元を手で覆った。
「いや、顔には出てない。勘」
「…さよか」
内心を見透かされた。
村崎は気まずい思いで、一言返す。
「…だけど、ちょっとうらやましい」
「…?」
「岩永のこと、すぐに名前で呼べていいね」
吾妻の穏やかな声音に、村崎はかえって本気だと感じた。
白倉を名前で呼びたいからこそ、愛しいからこそ、そんな緩い声音で話す。
静かに柔らかく笑っている瞳の奥が、熱い。本気の深度。
「…儂は、以前からこうやったしな」
「だけど、記憶なくしてから」
「ああ。そら…」
岩永が記憶を失ってからは極力呼ばないようにした。
しかたなく呼ぶときは「岩永」だった。
「それは、儂がアホやっただけや」
「あほ」
吾妻はきょとんとした顔で、ただ繰り返した。
「救いようのないアホや。
…嵐に救われとるが」
「…ふうん」
吾妻は柔らかく笑った。惚気られたばい、と優しく言う。
「ただ、わがままを言うなら、“村崎”はさみしい気もする」
「昔は名前だった?」
「そうやな。付き合う前から名前やった。付き合う前から名前やったから、愛称が欲しいと思ったこともあったが」
今思えば、わがままだった。
呼んで欲しいと思う。
もう一度、あの声が呼ぶ、その響きを聴きたい。
「嵐。……嵐?」
するり、と自分の手の中から抜けた指先。
訝って、振り返ると、少し離れた場所で岩永は軽く俯いていた。
泣きそうに見える表情で。
「…ごめん」
「嵐?」
謝られる意味がわからない。
「気にせぇへんようにって思ったんやけど、他意ないって思おうとしたんやけど。
…俺、あかん。どんどん、欲張りになっとる」
「…嵐?」
離れていることが不安で、一歩近づくと、数歩下がって逃げられた。
「言うべきやないのに、胸にどんどん文句がつっかえて、くるしい」
「…」
胸が苦しくなったのは、村崎もだ。
わけがわからない。だからこそ、余計怖い。
「…わがままなんか言いたない。
嫌われたないから。
やのに、…もっと、って。ほんまは村崎かて、って」
「…嵐」
「…呼べるわけあらへんやん」
硬い声は、泣いているように聞こえた。
詰るような言葉。
「“静流”なんて、呼べるわけない。
…なんで平気で呼んで欲しいなんて思うん!?」
岩永の瞳が揺らいだ。彼は自分の手で拭うように、目元を擦った。
「…ごめん。
言いたなかった。
鬱陶しい、やんな。…嫌わんで」
詰ってすぐ、岩永は俯いて、胸が塞がれるような声で謝った。
村崎は首を左右に振る。嫌うわけがないと。
でも、俯く岩永には見えない。
岩永が復学して、一週間くらい経ったある日のことだ。
自分は、岩永を見るのが辛くて、彼の教室には近寄らないようにしていた。
だが、完全に諦めてもいなかったから、様子を窺いに顔を出すことはあった。
机の傍にいた岩永が自分に気づいた瞬間、背中を向けてしまっていた。
そのまま廊下を歩きだす。
岩永が追ってくる足音を聴いて、微かに胸が喜んだ。
「…」
自分をなんと呼んだらいいのか、躊躇う間。
それから岩永は、震えた声で、
「静流…?」
と口にした。
勢いよく振り返った自分の顔を見て、岩永は狼狽する。
その表情に、思い出したわけではないと察した。
「…今の、なんや」
「……」
「なんで、その呼び名」
いい知れない怒りが、声から抑揚を消した。
岩永は怯えた顔で、口を開いては閉じる。
「……そう、呼んでたって、聞いて」
か細い声が答えるのを、最後まで聞かずに、傍の窓を叩いた。
頑丈なガラスは割れなかったが、ヒビが入る。
岩永が顕著に身を竦ませた。
「思い出せへんなら、呼ぶな」
窓から手を離し、背中を向ける。
手には、赤く血が滲んでいたが、痛みはなかった。
もう、振り返る気はなかった。
「二度と呼ぶな」
怒りに震えた声で、彼の気持ちなど全く思いやらずに投げ捨てた言葉。
怒りにまかせていて、あとから思えば全く無茶苦茶だった。
呼んで欲しいのに、そんなことを言った。
思い出したくなくて、思い出さなくなった。
忘れていた。
自分が、そんな酷い言葉を吐いたことすら。
「思い出せないなら、二度と呼ぶな」と言われたことを、岩永は鮮明に覚えていたことを、察しもしなかった。
呼べないように、したのは自分だ。
なのに、それを言っただけで、「嫌わないで」なんて願う。
充分、救えてない。支えられていない。
自分の傍にいても、彼が常に怯えて、なにかを堪えているというならば。
傍の外灯が消える。
暗闇が襲う。
手を伸ばして、岩永の手を掴んだ。
抱きしめた瞬間、視界が完全に塞がった。
荘厳な洋館の中は、広いホールのようだった。
コンサートなどが開かれる大きなホール。
舞台と客席。舞台には大きなグランドピアノ。
ピアノにスポットライトが当たっているが、椅子には誰も座っていない。
当然、なんの音も響いていない。
客席の間を歩いて、白倉は考えた。
このゲームのルール。大まかには理解したが、どこまで逃げたらいいのかがわからない。
吾妻のことを思い出す。
会いたいと、思う。
ほんの少し離れているだけなのに。自分から逃げたのに。
やっぱり、隣に彼がいないと、寂しいのだ。
ああ、この気持ちは、この恋を自覚した始め、吾妻が傍にいると心地よくて、いないと違和感だと思っていた時より強い。
思えば、そう感じた時に、彼を好きになっていたのだ。
吾妻はそれこそ、一年以上昔から、あの丘で出会った得体の知れない自分を信じて、NOAまで会いに来てくれた。
吾妻の愛情はいつも真っ直ぐで曇りない。
吾妻から逃げたのは、自分の知らない吾妻が怖かったのだ。
混乱している吾妻を、更に問いつめてしまいそうで、ケンカになってしまいそうで、それが怖くて逃げた。
吾妻の全てを知りたいあまりに、彼が落ち着くのを待てなかっただろう自分が。
自己嫌悪に落ち込む。不意にハッとして、鞄をあさったがない。
吾妻のために買ったストラップがない。
どこかで落としたのだ。
「…どうしよ」
不覚にも泣きそうになった。
「…吾妻」
口元を押さえて、その場にしゃがみ込む。
膝を抱えた。
さっさとリタイアしてしまおうか。その方が早いかもしれない。
でも万一、吾妻が追ってきてくれていたら、逆に会えなくなる。
いや、あいつなら絶対追ってきてくれてる。
ゲートをくぐる寸前、耳に馴染んだ低い声がした。
『あの子とペアで!』
自分とペアで、と吾妻が、おそらく受付スタッフに言った声。
なら、出会える可能性は高い。
ペアなら。
吾妻を見つけるまで、このアトラクションで生き残らなければ。
涙を拭って、立ち上がる。
「…使えたら、いいのにな」
呟いた。
「知っとる?
片方だけがテレパスなんに、テレパシーが使える例があるんやって」
チームでの練習の合間、岩永が言っていた話だ。
「片方だけ?」
「ほら、テレパスは心を読む力やん?
で、テレパシーは心の会話。
普通、二人ともテレパスの力があってはじめてテレパシーできるもんなんやけど」
「片方だけでも出来んの!?
俺、吾妻としたい!」
食いついて、岩永の背中にしがみついたら、襟が閉まったらしく岩永が呻いた。
「いや、俺もそういう例があるらしいって聞いただけで、詳細と方法しらん…」
「あ、そうなのか…ごめん」
苦しがりながらも律儀に説明する岩永から離れて、残念に思った。
流河に組み手に誘われた吾妻が戻ってきて、なんの話?と聞いた。
笑ってごまかした。
吾妻ともし、テレパシーが使えたなら。
どんなにいいだろう。
また、目頭が熱くなる。
堪えようとした瞬間、背後の扉が大きな音を立てて開いた。
ものすごくびっくりする。
振り返ると、数百メートル向こうの扉の前に立っている切り裂きジャック。
やばい。もう追いつかれた。
白倉は駆け出して、反対側の扉を開ける。
廊下に飛び出て、向こう側まで駆け抜ける。
逃げ足は誰しも速いというのは本当だ。近年希なくらいのいいダッシュが出来た。
そんなこと感心してる場合じゃないが。
突き当たりの扉のノブを握るが、開かない。
廊下にはいくつか扉が並んでいるが、全部開かない。
もしかして、他の場所で鍵を入手しろ、とかそういうのか。
しかし、背後の扉は多分もうすぐ開く。あれが来る。
じゃあ無理だ。
「一か八かだ!」
扉から離れて、構えを取る。
扉目掛けて衝撃波を放った。
衝撃波が当たる寸前に扉が向こう側から開く。
まさかそっちから!?とびっくりした瞬間、扉を開けた主が、
「うぉっ!!?」
と、ひっくり返った声を挙げた。
開け放った扉を盾に隠れて、衝撃波をやり過ごすと、男が顔を出した。
「白倉!」
安堵に緩んだ顔で自分を見つめる。
吾妻だ。
堪らなくホッとしたのに、あまのじゃくな自分は扉のノブを掴んで閉めた。
「白倉!? なにするの!?」
薄い扉の向こうから、吾妻の大声が聞こえる。
「だって、だって…!」
こんなことしてどうするんだろう。
吾妻に会いたかったのに。
このままじゃ、自分はリタイアなのに。
「俺を責めたじゃないか!」
「…」
吾妻が向こうで息を呑んだ。
沈黙が落ちる。
違う。こんなことが、言いたいんじゃない。
でも、扉を押さえる手を、離せない。
吾妻の力ならば、開けられるのに、開けないのは、吾妻が優しいからだ。
「…ごめんな」
少しして、吾妻の静かで、沈んだ声が響いた。
「白倉のこと、考えないで、八つ当たりした…」
「…あの人」
「藍澤、涼太。僕の右目に怪我させたヤツ。
…会いたかったけど、急でびっくりして、混乱した…」
扉の向こうから、吾妻の低い声が響く。
悲しそうな声だ。
自分のことを責めている。
白倉の胸が、締めつけられるくらい。
「…情けない」
「…ううん」
扉を開けないまま、白倉は首を横に振った。
「情けなくない。俺こそごめん」
「どうして白倉が」
「…俺、吾妻が混乱しとんのわかってたのに、待てなかった」
吾妻の驚く気配を感じた。
「吾妻のこと知りたくて、…ちがう。
俺のしらん吾妻がいるんが気に食わんから、はやく知りたくて…」
不意に、扉に付いた手に、温もりを感じた気がした。
手が触れるのは、木製の扉の手触りだけ。冷たい。
なのに、暖かい。
「…うれしいよ」
吾妻の、優しい声が響く。
確信する。
この扉の向こう。同じ場所に、吾妻の手がある。
これは、吾妻の手の温もりだ。
どうして感じられるのかわからないけど、これは吾妻の手の温かさだ。
「…白倉の全部を、僕は知りたい。同じこと、白倉が想ってくれてる。
うれしい。
傷付けてごめん。…白倉、好きだよ」
愛情に満ちた声が、自分の耳をくすぐる。
堪えられずに、涙が零れた。
「…俺も好き」
「うん」
吾妻はきっと向こうで微笑んでいる。
「ごめんな。僕、うっかりした」
「…?」
「白倉に言えばよかったね。
涼太に会いたいけど、怖いって、言ったら白倉、僕の背中けっ飛ばしてくれたのに」
白倉は呼吸が止まった。
それは、吾妻にとっては一年以上前に、自分が約束したこと。
吾妻は、間違えずに覚えていてくれてる。
嬉しくて、泣きながら頷いた。
「うん。ひきずってってやるから…」
「白倉? 泣いてる?」
声が嗚咽に変わって、吾妻が不安そうに呼びかけてきた。
「…ありがと吾妻。だいすき…」
泣きながら、嗚咽に邪魔されながら、震える声で必死に告げる。
「……うん。ありがとう。白倉」
吾妻は微笑んだ気配を滲ませて、頷いてくれた。
瞬間、照明が落ちた。
「…え」
真っ暗だ。
なんだこれ。
アトラクションのシステムだろうか。
白倉は、吾妻の声が聞こえないことに気づく。
違う。ゲームの用意した展開じゃない。故障かなにかだ。
木のはずの扉が冷たい。鉄の感触だ。
重くて、吾妻の声が全く聞こえない。
「吾妻!」
迫ってくる暗闇。恐ろしくて、目を閉じた。
吾妻に会いたい。
扉を叩いた。
不意に足になにかが触れる。
びくっと震えたが、動くものではない。
おそるおそる手を伸ばすと、小さな紙の感触。
あの雑貨店の袋だ。
でも、自分が吾妻に買ったものは、落としてしまった。
なら、さっき、吾妻が落としたものだろうか。
見えない視界でも、暗闇に馴れてくれば多少は効く。
紙袋を開けると、小さなウサギのストラップ。
吾妻から、自分へのプレゼントに間違いない。
「ウサギ…。どんなイメージだよ」
思わず笑いが零れた。
胸の奥がじんわりと暖かくなる。
ああ、本当に使えたらいいのにな。
吾妻。吾妻。
こうして念じた声が、吾妻に届いたら。
閉じてしまった扉は、ノブもない。
鉄の感触。
さっきまで聞こえていた白倉の声も聞こえない。
「白倉!」
何度も呼んで、扉を叩いた。
応答はない。
ポケットに入っていた、白倉が落としたストラップを握りしめる。
小さな可愛くデフォルメされた狼。
白倉がどんな風に考えて選んでくれたか、なぜだかわかった。
きっと、渡す時、少し小悪魔みたいに微笑んで、「はやく食べてな?」とかって言う気だったんだ。それに喜ばされてるんだから、狼は狼でも、人狼じゃないだろうか。
人狼はヴァンパイアの話では、よく下男として扱われるし。
ポケットから取りだして、握りしめる。
声が、聞きたい。
白倉。
“吾妻”
自分の呼ぶ声に、答えるように、暗い闇の中で凛と響いた声があった。
「…白倉?」
声に出して呼ぶ。が、返事はない。
気のせいじゃない。今、確かに。
“吾妻。…吾妻”
聞こえる。白倉の声。
耳に響く声じゃない。
脳に直接流れ込んでくる。
まるで心を読んだみたいに。
まるで?
なんで思いつかなかったんだ。白倉はこの扉の向こうにいる。
心を読めば、白倉の思考を読みとれる。
自分を馬鹿だと思ったが、なんだか違う気もした。
心を読んでいるという感じじゃない。
まるで、自分を呼ぶ白倉の心を、聞いているみたい。
吾妻はおそるおそる目を閉じて、心の中で名前を呼んだ。
白倉。白倉?
答えるように、心の中に響く言葉。
“吾妻?”
勘違いじゃない。幻聴じゃない。
聞こえる。
白倉?
僕の声わかる? 聞こえる?
嬉しくなって、瞳を開く。
気づいてぎょっとした。
自分の身体が、淡い閃光に包まれている。
“吾妻? うん、聞こえる。
よくわからんけど、吾妻の声聞こえる!”
白倉の声がする。耳じゃなく、頭の中に。
繋がってる。
嬉しくて、手を伸ばした。
扉に触れた手に感じる温もり。白倉の手の温かさだと、確信する。
瞬間、扉が消滅した。
消えたのではない。自分の手と、白倉の手の間に発生したなにかによって、消滅してしまった。
「吾妻!」
消えた扉の向こうには、同じように淡く輝く白倉の姿。
手を伸ばして、抱きしめる。
柔らかい感触がする。
「…白倉の声、聞こえたよ」
「俺も」
「…テレパシー?」
「だったら、うれしい」
額をあわせて、互いに目を閉じた。
暗闇の中でも、そこに互いの姿が見える。
瞼の裏。瞳の奥で。
心の中で白倉を呼ぶと、心に響く声が、自分を呼んだ。
自分たちは繋がってる。
間違いない。
瞳を開くと、お互いの身体はもう光っていなかった。
でも、しっかり手を握り合って、笑いあった。
「とりあえず、現状把握」
「なにが起こってるか、確かめないとね」
堪らなく安心した。
たまらなく、嬉しくて、はしゃいだ子供のように弾んだ声で頷いた。
観覧車から降りたあと、昼食を食べて、いろいろアトラクションを巡っていた吾妻と白倉。
正直、ここは広すぎて、一つのエリアのアトラクションを全て楽しむだけで丸一日、夜まで使うようだ。
だから、午前消費した力も大分回復したし、また北か東のエリアに行ってみよう、と今度は東のエリアにやってきた。
東のエリアの入り口付近で、吾妻が足を止める。
白倉はなんだろう、と吾妻の顔を見上げて、少し驚いた。
きらきら、と輝いた瞳をしている。
唇から「可愛い…」と漏れた。気づいてない。
白倉は吾妻の視線を追う。
そこには、土産や自分用の雑貨など、このテーマパークにしかないキャラクターの商品を置いたお店。
店の西と東に大きな入り口があり、外からでも商品がよく見えるように並べられている。
吾妻が釘付けになっているのは、ウサギや猫、犬などのとても可愛らしいストラップや時計、バックなど。
「吾妻、中入って見たい?」
「へ? あっ…」
白倉は普通に伺っただけだったが、吾妻はあからさまにハッとして、焦った顔をした。
「い、いやなんとなく見ただけ」
慌てて興味のないふりをしようとしている。
ムッとするより、吾妻を可愛く思った。
だって、そんなファンシー趣味があるなんて、恋人に知られたくない。
カッコイイ彼氏でいたいんだ、という吾妻の男心を察すれば、かわいい。
「吾妻」
自然と頭に浮かんだ言葉を言おうとして、白倉は考えた。
浮かんだのは「隠さんでもいい。笑ったりしないし」だったが、それはなんか違う。
嫌味な言葉ではないが、それはどっちかっていったら、男友達の意外な秘密を知った親友が言う台詞っぽい。
吾妻がカッコイイ彼氏でいたいというなら、自分は吾妻のプライドを損ねてはいけないし、かつ恋人として喜ばせなければならない。
頭をフル回転させて、思いついた言葉を、上目遣いに小首を傾げて言った。
「吾妻、俺、吾妻とお揃いみたいなストラップとか欲しい。
俺の選んでほしいんだけど、ああいうん、吾妻嫌い?」
精一杯可愛く意識して言ったが、吾妻は固まった。
外したかな。
と思ったが、吾妻は見る見る頬を紅潮させて、白倉の肩を掴むと、輝いた瞳で大きく頷く。
「大っ好きだよ!
白倉と一緒のストラップとかいいね。ほしい!
見よう?」
ものすごく弾んだ声。外したのではなく、ストライクだったようだ。
白倉は安心して、にこにこ笑って頷いた。
「じゃあ、吾妻が俺につけて欲しいもん、選んで?
俺、吾妻の選ぶ」
「うん! 行こう!」
おおはしゃぎで白倉の手を握って歩きだした吾妻を見上げ、白倉は心底「かわええヤツ」と思った。
「なんか土産買ってかへん?」
岩永が不意に足を止めて、そう言った。
村崎は傍にいくつかある雑貨店を見遣って、そういえばそうだな、と思う。
「ああ。せやな。見てくか」
「うん」
岩永には友だちが多いし、土産を選びたい相手は沢山いるだろう。
面白くないという気持ちより、それだけの人望を持つ岩永を素直に誇らしく思えた。
記憶を失っても、損なわれない信頼や、憧れ。
それは岩永が以前と同じ、裏のない、優しい人格を持っていたからだ。
だから、それをみんなが理解ってくれているというのが素直に嬉しいし、岩永を本当に偉いと思う。一方、ずっと気づけずにいた自分が情けなくもなる。
だが、岩永が笑っていられるなら、それが全てだ。
これからは、自分も傍で支えたいと願う。
「…?」
岩永の後を追おうとして、村崎は視界の端に入った姿に、一瞬動きを止めた。
すごく見知った姿だった。
視線を動かして見ると、数百メートル向こうのアトラクションの近く、向かい合っている数人の男。
「…村崎?」
岩永が来ない村崎を訝って、戻ってきた。
「いや、あれ」
村崎がそちらを指さすと、岩永は素直に見た。
そして、「あれ?」と驚きの声を挙げる。
「流河に、優衣。…はええとして」
「時波に、あれは誰や?」
流河と優衣は目立つからすぐ見つかったが、それはまだいい。
しかし、何故か時波がいる。
そして、時波と一緒にいる見慣れない茶髪の男。
「…知りあい、にしては変な空気…」
遠目にも、仲良し、とかいう和やかな雰囲気じゃない。
「…どないする?」
行ってみるか?と岩永が尋ねた。
「……いや、やめとこ」
「ええん?」
「多分、あの二人は儂らの様子見に来たんやろ?
儂らが行ったら気まずいんとちゃうか?」
「あ、そっか」
岩永も、優衣と流河の目的が自分たちだとわかっていたようで、納得した。
「ほな、見つからんうちに、中入ろう」
「ああ」
岩永に促されるまま、村崎は目的としていた雑貨店に向かう。
だが、内心は違う。
表向き、ああいった理由で声をかけなかったが、勝手にデートを覗きに来た二人だ。
気遣う気はあまり起きない。
しかし、会話してしまったら、岩永はこれ幸い、と一緒に行動しようとするだろう。
夕たちや白倉達が、この広い敷地内で見つからないから、村崎との二人きり状態に納得しているのだ。
正直、二人きりを邪魔されたくなかった。
真剣にストラップを選ぶ吾妻の姿を、白倉は微笑ましい気持ちで見ている。
こんなに穏やかな時間を過ごせて、とても嬉しい。
なんだか、自分が見ているのがもったいなく思えてきた。
吾妻になにを買うかは決まった。
なら、吾妻が自分になにを選ぶかは、開けてからのお楽しみにしたい。
吾妻が手にとって、これ、と決めるのを見ているのは、なんだかもったいない。
「吾妻。俺、外出てるな?」
「え」
びっくり顔で振り返った吾妻に、柔らかく微笑みかけた。
「吾妻がなに選んでくれるか、あとのお楽しみにしたいんだよ。
俺がなに買うかも、お楽しみ。
な?」
幸福に緩んだ声で言うと、吾妻は嬉しそうに笑って頷いた。
レジに行って、精算を済ませ、店外の木陰に向かった。
途中、前から来た男とぶつかって、紙の小袋に入ったストラップが落ちる。
男が気づいて、拾ってくれた。
「すまない。前を見ていなかった」
袋に付いた埃を手で払ってから渡して、丁寧に謝罪する。
礼儀正しい人間という印象を受けたので、白倉は「こちらこそすみません」と軽く頭を下げて謝った。
「いや、俺の方が見てなかったんだ。気にしないでくれ」
「…有り難うございます」
どこまでも優しい男の態度に、好感を覚える。
笑えば柔らかく朗らかな印象の男だが、体格が良いため知らぬ人間が見れば怯えるかもしれない。
身長もある。容貌も整っている。
モデルにも見える、が、不良にも見える。
そのまま別れるかと思ったが、どうも男も木陰で休む気だったらしく、なんとなく二人で大きな木の下に入ることになってしまった。
黙っているのも変な気分だ。
「一人、ですか?」
こんなに美形で、かつ、あれだけの好人物なら彼女くらいいそうだと思った。
外面だとは思わない。
身近に夕や岩永みたいな「心底優しい」人間がいると、それが外面だけか内面からかわかる。
男は後者だ。
「一応連れがいるよ。彼女じゃないが」
「今、一緒じゃないんですね」
「あー、事情があってな。連れは地元の友だちに囲まれてる」
白倉は相づちを打ちながら、引っかかりを覚えた。
「ここの人じゃない?」
「ここより少し離れた街に住んでる。
ほんの数駅先だが」
「ああ」
なら、連れはNOAの生徒なのだろうか。
この街には学校はNOAしかない。
街の敷地の大半を、NOAの施設が占めている。
「あと、敬語はいらないだろ?
お互いいくつだ?」
「…えー、十八です」
「…同い年だな」
男が微かに驚きながら言う。
白倉は内心驚いた。
「…年上に見えるなあ」
「お前もな」
お互い様だ、と男は笑った。
やはり、嫌味がない。
「NOAの学生か?」
「うん」
「俺も超能力は使うよ」
「なのにNOAに入ってないの?」
びっくりした。
男は苦笑する。
「どうしようかと思ってる」
「はあ…」
「その連れは、ある人物に会えとか言うしな…。
だからここを待ち合わせ場所にしたらしい」
「…ある人物?」
男はいかにも憂鬱そうなため息を吐いて頷いた。
「NOAの高等部生徒会長らしいんだが…」
「…は?」
間抜けな声が出た。
だって驚きだ。
それ、自分じゃないか。
「待って?
その連れって、なんてヤツ?」
「…? 時波っていう名前の」
「時波ぁ!?」
白倉があげた大声に男はびっくりする。
だって、時波?
時波がなんで、自分に会え、なんて彼に言うんだ?
「知りあい、か?」
「…ていうか、俺がその生徒会長…」
「え!?」
先ほどの白倉と同じリアクションで男は叫ぶ。
恐ろしい偶然にひたすらびっくりだ。
同じテーマパーク内だと侮るな。ここの広さは尋常じゃないのだ。
かつ、この人混み。普通顔も知らないのに会えない。
「……引き寄せられたみたいな」
白倉が思わず呟くと、男は「ああ」と頷く。
「俺も今そう思った」
「……」
白倉は唾を飲み込んで、意を決した。
何故自分に会う必要があったのか、訊こう。
「白倉」
しかし、傍で唐突に険しい声が響いた。
男が白倉以上に驚いて、振り向く。
吾妻が恐ろしく不機嫌な顔で立っていた。
「…吾妻」
吾妻の名前を呼んだのは、自分ではない。
金髪の男が、半ば茫然と口にした。
白倉は混乱する。
どういうことだ?
なのに、吾妻は白倉の腕を乱暴に掴むと、男に見向きもせず歩きだした。
「吾妻っ…」
男の声がする。
さっきまでと全然違う、痛みすら伴ったような、切ない声だった。
吾妻に連れていかれるまま、足早に歩くしかない白倉の胸すら、痛くなる。
吾妻は適当なアトラクションを選んで、中に入った。
涼しい冷気が肌を撫でる。
「吾妻?」
不安になって、振り向かない背中を呼んだ。
「なに、話してたの?」
抑揚のない硬い声が、白倉を責めた。
「え」
「笑ったり驚いたり、なんで白倉があいつと会ってるの!?」
振り向いた吾妻は、冷静の欠片もないひどい顔だった。
混乱して、焦燥していた。
白倉も元々混乱気味だった。怒鳴られて、胸が痛む。
「なんで、僕より先に話してる!?」
「…」
唯一、わかったとすれば、あの男は吾妻とただならぬ関係だ。
男の先ほどの声が、今の吾妻の態度が、それを物語る。
自分の知らない吾妻。
胸元を押さえると、吾妻はやっと我に返って口元を押さえた。
自分を責めるように、青ざめる。
白倉には見えない。
自分以上に真っ青で、生気のない、あまりにひどい顔色をしている白倉を見て、吾妻は我に返った。
そして、自分の言った言葉の酷さに青ざめた。
白倉は知らないのだ。
あの男が、藍澤涼太だと。自分が語った親友だと。
混乱していた。
会いたいとは思っていたけど、心の準備がなくて、混乱して。
それを白倉にぶつけた。
「白倉…」
途方もない後悔が押し寄せる。
手を伸ばすと、振り払われた。
吾妻の横をすり抜けて、駆け出してしまう。
「白倉っ!?」
吾妻の声にも振り向かず、そのままアトラクション内へのゲートをくぐってしまった。
吾妻は慌てて、受付にあった看板を見る。
脱出ゲームとある。
一人から四人までで遊べるシステムらしいと理解して、受付にいた男に言う。
「あの子とペアで!」
別々に入ったら、アトラクション内ではまず会えないだろう。
男は入って早々ケンカを始めた吾妻たちにうろたえていたが、頷いた。
ゲートに向かおうとして、床に落ちた小さな紙袋に気づく。
白倉が落としたもの。
自分に贈ろうとしてくれたストラップだろう。
中を見ている暇はない。鞄に突っ込んで、走り出した。
そういえば、アトラクションの説明を全く見ずに入ってしまった。
白倉の眼前に広がるのは、洋風の街並み。
ただし、空は夜で暗く、人気のない街にはおどろおどろしさがある。
いかにも洋画のホラーなどで舞台になっている街といった雰囲気だ。
とりあえず、どうしたらいいんだろう。
じっとしていたら吾妻に追いつかれる。
ひとまず歩きだした。
廃墟と言っていい建物ばかりが並ぶ。
点滅する外灯。壁にぶつかったまま、あちこちひしゃげて止まっている車。
店のショーウィンドウはガラスが割れていて、マネキンが倒れている。
もしかして、また超能力でなにかを倒す遊びだろうか。
ふと、街の至るところに同じ張り紙がはってあることに気づいた。
指名手配というよりは、警告。
文字は英語ではなく、日本語で簡単に書かれていることから、これはアトラクションで遊ぶ人間に向けた張り紙だ。
ならば、それをよく見ればわかるかもしれない。
「…切り裂きジャック」
張り紙には、“切り裂きジャック”という殺人鬼が出没する、危険だから出歩くな、という街人への警告が書いてあった。
「…てことは、倒すゲームっていうよりは」
背後で靴音が鳴って、びっくりして振り返る。
そこには、吾妻ではなく、長身の男が立っている。
瞳は血走っているのに、虚ろ。
白倉より長身の身体は真っ黒なコートに覆われて、口元もマスクで隠されて、手には黒い手袋、頭には帽子。
片手に、血塗れの刃渡りの長いナイフ。
切り裂きジャック、で間違いない。
先刻浮かんだ考えを確認するため、念動力を発動する。
衝撃波を放った。
しかし、切り裂きジャックと思しき男は、まるでダメージなく、服すら揺れずにそこに立つ。
確信した。
これは倒すゲームではなく、
「…っ、武器とかないの!?」
白倉は背中を向けて駆け出した。
靴音が追ってきた。
これは倒すゲームではなく、逃げるゲームだ。
専用の武器があるかもしれないが、超能力で遊ぶゲームに武器はまずないと思う。
武器を使うくらいなら超能力を使う。東のアトラクションはそういったゲームだ。
なら、ひたすら逃げるゲーム。逃げるために、超能力を必要とするゲームだ。
だとしたら、どこまで逃げればいい?
眼前に門の閉まった高い塀が見えた。
門に手をかけるが、全く動かない。
背後に迫る足音に、命に危険はないとわかっていても心臓が跳ね上がる。
念動力を操って、地面を蹴った。
身体にまとわせた念動力で数秒空を飛び、塀を飛び越える。
反対側に着地すると、背後の門を叩く音が聞こえたが、こちらには来れない様子だ。
とりあえず成功らしい。ホッとした。
視線を巡らせると、外灯が並ぶ広場がある。
奥に、いかにも古めかしく、荘厳な建物。
あそこに行けばいいのだろうか。
逃げなければならない。でも、吾妻から、逃げていいのだろうか。
あれは、誰なのだろうか。
吾妻が、あそこまで取り乱す相手。
「……藍澤」
不意に浮かんだ名前は、吾妻に怪我を負わせたという親友の名前。
決めつけるには、情報が足りない。
外見も訊けばよかった。
思考を断ち切るような嫌な音に、白倉はびっくりする。
背後で壁を叩く音が、がりがりとなにかを引っ掻く音に変わっていた。
振り返ると、門の閂を向こう側からナイフで切り裂こうとしている。
こちらに先端が飛び出たナイフが見える。
恐ろしいのは、閂ががたがた動くことだ。
「逃げ切ったことに、ならんわけだな…?」
まだまだ急いで逃げなければならないらしい。
ひとまず考えるのは後にして、逃げよう。
建物に向かって駆け出した。
「こういうんは平気なんか?」
岩永が入ろうというから入ったアトラクション。
脱出ゲームらしい。
複数人で、切り裂きジャックの出没する閉鎖された街から、別の街への隠された道を見つけだし、逃げるゲーム。
村崎と岩永が歩くのは、寂れた街の大きな通りだ。
「ぶっちゃけ、長い黒髪の女が変な歩き方で寄ってくるとかやないなら平気?」
「ああ」
やはり、苦手なのは和製ホラー限定らしい。
「ほな、」
「…なん?」
手を差し出すと、怪訝な顔をされた。
だが、うっすらと赤くなったので、意味はわかっているはずだ。
「手、繋ごう」
「いや、逃げにくいやん…」
「来たらすぐ離したらええ」
繋がない言い訳を口にするが、村崎の言葉に、困ったように黙り込む。
手を伸ばして、岩永の手を握ると、微かに不安そうな顔をした。
違和感を感じたが、岩永の方が握りかえしてきたので、思考の端に追いやられてしまう。
「…まだ出てくる感じやないな」
「うん」
頷いて、村崎の隣を歩く岩永の横顔を見た。
ふいに思い出すのは、先ほど吾妻と出会った時の会話。
雑貨店の店内でたまたま出くわした時、お互い一人だった。
訊くと白倉は外で待っていると言う。
岩永は、店の奥の方でなにか選んでいる。
「それ、白倉はんにか?」
そう尋ねると、吾妻は幸せそうに微笑んだ。
「村崎こそ、それ、岩永に?」
村崎の手にあったものを見て訊かれ、村崎は慌てて隠した。
吾妻が笑う。
村崎にも土産を買う友人はいるが、一番に買いたいと思ったのは岩永にだった。
なにか、贈り物をしたかった。
「仲がいいね」
「…ちょお、純情すぎて困るが」
「それは仕方ないよ。記憶ないもん」
村崎もそれは理解しているので、頷いた。
「それに、夕に聴いたから…」
言いかけて、吾妻は「あ」と口を押さえた。
「なんや?」
「いや…」
「言いかけて止めるな」
吾妻は露骨にしまった、という顔をして、村崎に顔を寄せると、小声で、
「岩永な、セックスがなにすることか、知らないって」
「………」
村崎は無表情で固まった。
数秒後、理解して、「え」と漏らす。
「だから、あまり急に進めんほうがいいね」
吾妻は顔を離すと、そう言った。
それは知らなかったので、びっくりだ。
初々しいとは思っていたが、まさかその知識もないとは。
「…やらしいこと考えた?」
吾妻に突っ込まれ、思わず口元を手で覆った。
「いや、顔には出てない。勘」
「…さよか」
内心を見透かされた。
村崎は気まずい思いで、一言返す。
「…だけど、ちょっとうらやましい」
「…?」
「岩永のこと、すぐに名前で呼べていいね」
吾妻の穏やかな声音に、村崎はかえって本気だと感じた。
白倉を名前で呼びたいからこそ、愛しいからこそ、そんな緩い声音で話す。
静かに柔らかく笑っている瞳の奥が、熱い。本気の深度。
「…儂は、以前からこうやったしな」
「だけど、記憶なくしてから」
「ああ。そら…」
岩永が記憶を失ってからは極力呼ばないようにした。
しかたなく呼ぶときは「岩永」だった。
「それは、儂がアホやっただけや」
「あほ」
吾妻はきょとんとした顔で、ただ繰り返した。
「救いようのないアホや。
…嵐に救われとるが」
「…ふうん」
吾妻は柔らかく笑った。惚気られたばい、と優しく言う。
「ただ、わがままを言うなら、“村崎”はさみしい気もする」
「昔は名前だった?」
「そうやな。付き合う前から名前やった。付き合う前から名前やったから、愛称が欲しいと思ったこともあったが」
今思えば、わがままだった。
呼んで欲しいと思う。
もう一度、あの声が呼ぶ、その響きを聴きたい。
「嵐。……嵐?」
するり、と自分の手の中から抜けた指先。
訝って、振り返ると、少し離れた場所で岩永は軽く俯いていた。
泣きそうに見える表情で。
「…ごめん」
「嵐?」
謝られる意味がわからない。
「気にせぇへんようにって思ったんやけど、他意ないって思おうとしたんやけど。
…俺、あかん。どんどん、欲張りになっとる」
「…嵐?」
離れていることが不安で、一歩近づくと、数歩下がって逃げられた。
「言うべきやないのに、胸にどんどん文句がつっかえて、くるしい」
「…」
胸が苦しくなったのは、村崎もだ。
わけがわからない。だからこそ、余計怖い。
「…わがままなんか言いたない。
嫌われたないから。
やのに、…もっと、って。ほんまは村崎かて、って」
「…嵐」
「…呼べるわけあらへんやん」
硬い声は、泣いているように聞こえた。
詰るような言葉。
「“静流”なんて、呼べるわけない。
…なんで平気で呼んで欲しいなんて思うん!?」
岩永の瞳が揺らいだ。彼は自分の手で拭うように、目元を擦った。
「…ごめん。
言いたなかった。
鬱陶しい、やんな。…嫌わんで」
詰ってすぐ、岩永は俯いて、胸が塞がれるような声で謝った。
村崎は首を左右に振る。嫌うわけがないと。
でも、俯く岩永には見えない。
岩永が復学して、一週間くらい経ったある日のことだ。
自分は、岩永を見るのが辛くて、彼の教室には近寄らないようにしていた。
だが、完全に諦めてもいなかったから、様子を窺いに顔を出すことはあった。
机の傍にいた岩永が自分に気づいた瞬間、背中を向けてしまっていた。
そのまま廊下を歩きだす。
岩永が追ってくる足音を聴いて、微かに胸が喜んだ。
「…」
自分をなんと呼んだらいいのか、躊躇う間。
それから岩永は、震えた声で、
「静流…?」
と口にした。
勢いよく振り返った自分の顔を見て、岩永は狼狽する。
その表情に、思い出したわけではないと察した。
「…今の、なんや」
「……」
「なんで、その呼び名」
いい知れない怒りが、声から抑揚を消した。
岩永は怯えた顔で、口を開いては閉じる。
「……そう、呼んでたって、聞いて」
か細い声が答えるのを、最後まで聞かずに、傍の窓を叩いた。
頑丈なガラスは割れなかったが、ヒビが入る。
岩永が顕著に身を竦ませた。
「思い出せへんなら、呼ぶな」
窓から手を離し、背中を向ける。
手には、赤く血が滲んでいたが、痛みはなかった。
もう、振り返る気はなかった。
「二度と呼ぶな」
怒りに震えた声で、彼の気持ちなど全く思いやらずに投げ捨てた言葉。
怒りにまかせていて、あとから思えば全く無茶苦茶だった。
呼んで欲しいのに、そんなことを言った。
思い出したくなくて、思い出さなくなった。
忘れていた。
自分が、そんな酷い言葉を吐いたことすら。
「思い出せないなら、二度と呼ぶな」と言われたことを、岩永は鮮明に覚えていたことを、察しもしなかった。
呼べないように、したのは自分だ。
なのに、それを言っただけで、「嫌わないで」なんて願う。
充分、救えてない。支えられていない。
自分の傍にいても、彼が常に怯えて、なにかを堪えているというならば。
傍の外灯が消える。
暗闇が襲う。
手を伸ばして、岩永の手を掴んだ。
抱きしめた瞬間、視界が完全に塞がった。
荘厳な洋館の中は、広いホールのようだった。
コンサートなどが開かれる大きなホール。
舞台と客席。舞台には大きなグランドピアノ。
ピアノにスポットライトが当たっているが、椅子には誰も座っていない。
当然、なんの音も響いていない。
客席の間を歩いて、白倉は考えた。
このゲームのルール。大まかには理解したが、どこまで逃げたらいいのかがわからない。
吾妻のことを思い出す。
会いたいと、思う。
ほんの少し離れているだけなのに。自分から逃げたのに。
やっぱり、隣に彼がいないと、寂しいのだ。
ああ、この気持ちは、この恋を自覚した始め、吾妻が傍にいると心地よくて、いないと違和感だと思っていた時より強い。
思えば、そう感じた時に、彼を好きになっていたのだ。
吾妻はそれこそ、一年以上昔から、あの丘で出会った得体の知れない自分を信じて、NOAまで会いに来てくれた。
吾妻の愛情はいつも真っ直ぐで曇りない。
吾妻から逃げたのは、自分の知らない吾妻が怖かったのだ。
混乱している吾妻を、更に問いつめてしまいそうで、ケンカになってしまいそうで、それが怖くて逃げた。
吾妻の全てを知りたいあまりに、彼が落ち着くのを待てなかっただろう自分が。
自己嫌悪に落ち込む。不意にハッとして、鞄をあさったがない。
吾妻のために買ったストラップがない。
どこかで落としたのだ。
「…どうしよ」
不覚にも泣きそうになった。
「…吾妻」
口元を押さえて、その場にしゃがみ込む。
膝を抱えた。
さっさとリタイアしてしまおうか。その方が早いかもしれない。
でも万一、吾妻が追ってきてくれていたら、逆に会えなくなる。
いや、あいつなら絶対追ってきてくれてる。
ゲートをくぐる寸前、耳に馴染んだ低い声がした。
『あの子とペアで!』
自分とペアで、と吾妻が、おそらく受付スタッフに言った声。
なら、出会える可能性は高い。
ペアなら。
吾妻を見つけるまで、このアトラクションで生き残らなければ。
涙を拭って、立ち上がる。
「…使えたら、いいのにな」
呟いた。
「知っとる?
片方だけがテレパスなんに、テレパシーが使える例があるんやって」
チームでの練習の合間、岩永が言っていた話だ。
「片方だけ?」
「ほら、テレパスは心を読む力やん?
で、テレパシーは心の会話。
普通、二人ともテレパスの力があってはじめてテレパシーできるもんなんやけど」
「片方だけでも出来んの!?
俺、吾妻としたい!」
食いついて、岩永の背中にしがみついたら、襟が閉まったらしく岩永が呻いた。
「いや、俺もそういう例があるらしいって聞いただけで、詳細と方法しらん…」
「あ、そうなのか…ごめん」
苦しがりながらも律儀に説明する岩永から離れて、残念に思った。
流河に組み手に誘われた吾妻が戻ってきて、なんの話?と聞いた。
笑ってごまかした。
吾妻ともし、テレパシーが使えたなら。
どんなにいいだろう。
また、目頭が熱くなる。
堪えようとした瞬間、背後の扉が大きな音を立てて開いた。
ものすごくびっくりする。
振り返ると、数百メートル向こうの扉の前に立っている切り裂きジャック。
やばい。もう追いつかれた。
白倉は駆け出して、反対側の扉を開ける。
廊下に飛び出て、向こう側まで駆け抜ける。
逃げ足は誰しも速いというのは本当だ。近年希なくらいのいいダッシュが出来た。
そんなこと感心してる場合じゃないが。
突き当たりの扉のノブを握るが、開かない。
廊下にはいくつか扉が並んでいるが、全部開かない。
もしかして、他の場所で鍵を入手しろ、とかそういうのか。
しかし、背後の扉は多分もうすぐ開く。あれが来る。
じゃあ無理だ。
「一か八かだ!」
扉から離れて、構えを取る。
扉目掛けて衝撃波を放った。
衝撃波が当たる寸前に扉が向こう側から開く。
まさかそっちから!?とびっくりした瞬間、扉を開けた主が、
「うぉっ!!?」
と、ひっくり返った声を挙げた。
開け放った扉を盾に隠れて、衝撃波をやり過ごすと、男が顔を出した。
「白倉!」
安堵に緩んだ顔で自分を見つめる。
吾妻だ。
堪らなくホッとしたのに、あまのじゃくな自分は扉のノブを掴んで閉めた。
「白倉!? なにするの!?」
薄い扉の向こうから、吾妻の大声が聞こえる。
「だって、だって…!」
こんなことしてどうするんだろう。
吾妻に会いたかったのに。
このままじゃ、自分はリタイアなのに。
「俺を責めたじゃないか!」
「…」
吾妻が向こうで息を呑んだ。
沈黙が落ちる。
違う。こんなことが、言いたいんじゃない。
でも、扉を押さえる手を、離せない。
吾妻の力ならば、開けられるのに、開けないのは、吾妻が優しいからだ。
「…ごめんな」
少しして、吾妻の静かで、沈んだ声が響いた。
「白倉のこと、考えないで、八つ当たりした…」
「…あの人」
「藍澤、涼太。僕の右目に怪我させたヤツ。
…会いたかったけど、急でびっくりして、混乱した…」
扉の向こうから、吾妻の低い声が響く。
悲しそうな声だ。
自分のことを責めている。
白倉の胸が、締めつけられるくらい。
「…情けない」
「…ううん」
扉を開けないまま、白倉は首を横に振った。
「情けなくない。俺こそごめん」
「どうして白倉が」
「…俺、吾妻が混乱しとんのわかってたのに、待てなかった」
吾妻の驚く気配を感じた。
「吾妻のこと知りたくて、…ちがう。
俺のしらん吾妻がいるんが気に食わんから、はやく知りたくて…」
不意に、扉に付いた手に、温もりを感じた気がした。
手が触れるのは、木製の扉の手触りだけ。冷たい。
なのに、暖かい。
「…うれしいよ」
吾妻の、優しい声が響く。
確信する。
この扉の向こう。同じ場所に、吾妻の手がある。
これは、吾妻の手の温もりだ。
どうして感じられるのかわからないけど、これは吾妻の手の温かさだ。
「…白倉の全部を、僕は知りたい。同じこと、白倉が想ってくれてる。
うれしい。
傷付けてごめん。…白倉、好きだよ」
愛情に満ちた声が、自分の耳をくすぐる。
堪えられずに、涙が零れた。
「…俺も好き」
「うん」
吾妻はきっと向こうで微笑んでいる。
「ごめんな。僕、うっかりした」
「…?」
「白倉に言えばよかったね。
涼太に会いたいけど、怖いって、言ったら白倉、僕の背中けっ飛ばしてくれたのに」
白倉は呼吸が止まった。
それは、吾妻にとっては一年以上前に、自分が約束したこと。
吾妻は、間違えずに覚えていてくれてる。
嬉しくて、泣きながら頷いた。
「うん。ひきずってってやるから…」
「白倉? 泣いてる?」
声が嗚咽に変わって、吾妻が不安そうに呼びかけてきた。
「…ありがと吾妻。だいすき…」
泣きながら、嗚咽に邪魔されながら、震える声で必死に告げる。
「……うん。ありがとう。白倉」
吾妻は微笑んだ気配を滲ませて、頷いてくれた。
瞬間、照明が落ちた。
「…え」
真っ暗だ。
なんだこれ。
アトラクションのシステムだろうか。
白倉は、吾妻の声が聞こえないことに気づく。
違う。ゲームの用意した展開じゃない。故障かなにかだ。
木のはずの扉が冷たい。鉄の感触だ。
重くて、吾妻の声が全く聞こえない。
「吾妻!」
迫ってくる暗闇。恐ろしくて、目を閉じた。
吾妻に会いたい。
扉を叩いた。
不意に足になにかが触れる。
びくっと震えたが、動くものではない。
おそるおそる手を伸ばすと、小さな紙の感触。
あの雑貨店の袋だ。
でも、自分が吾妻に買ったものは、落としてしまった。
なら、さっき、吾妻が落としたものだろうか。
見えない視界でも、暗闇に馴れてくれば多少は効く。
紙袋を開けると、小さなウサギのストラップ。
吾妻から、自分へのプレゼントに間違いない。
「ウサギ…。どんなイメージだよ」
思わず笑いが零れた。
胸の奥がじんわりと暖かくなる。
ああ、本当に使えたらいいのにな。
吾妻。吾妻。
こうして念じた声が、吾妻に届いたら。
閉じてしまった扉は、ノブもない。
鉄の感触。
さっきまで聞こえていた白倉の声も聞こえない。
「白倉!」
何度も呼んで、扉を叩いた。
応答はない。
ポケットに入っていた、白倉が落としたストラップを握りしめる。
小さな可愛くデフォルメされた狼。
白倉がどんな風に考えて選んでくれたか、なぜだかわかった。
きっと、渡す時、少し小悪魔みたいに微笑んで、「はやく食べてな?」とかって言う気だったんだ。それに喜ばされてるんだから、狼は狼でも、人狼じゃないだろうか。
人狼はヴァンパイアの話では、よく下男として扱われるし。
ポケットから取りだして、握りしめる。
声が、聞きたい。
白倉。
“吾妻”
自分の呼ぶ声に、答えるように、暗い闇の中で凛と響いた声があった。
「…白倉?」
声に出して呼ぶ。が、返事はない。
気のせいじゃない。今、確かに。
“吾妻。…吾妻”
聞こえる。白倉の声。
耳に響く声じゃない。
脳に直接流れ込んでくる。
まるで心を読んだみたいに。
まるで?
なんで思いつかなかったんだ。白倉はこの扉の向こうにいる。
心を読めば、白倉の思考を読みとれる。
自分を馬鹿だと思ったが、なんだか違う気もした。
心を読んでいるという感じじゃない。
まるで、自分を呼ぶ白倉の心を、聞いているみたい。
吾妻はおそるおそる目を閉じて、心の中で名前を呼んだ。
白倉。白倉?
答えるように、心の中に響く言葉。
“吾妻?”
勘違いじゃない。幻聴じゃない。
聞こえる。
白倉?
僕の声わかる? 聞こえる?
嬉しくなって、瞳を開く。
気づいてぎょっとした。
自分の身体が、淡い閃光に包まれている。
“吾妻? うん、聞こえる。
よくわからんけど、吾妻の声聞こえる!”
白倉の声がする。耳じゃなく、頭の中に。
繋がってる。
嬉しくて、手を伸ばした。
扉に触れた手に感じる温もり。白倉の手の温かさだと、確信する。
瞬間、扉が消滅した。
消えたのではない。自分の手と、白倉の手の間に発生したなにかによって、消滅してしまった。
「吾妻!」
消えた扉の向こうには、同じように淡く輝く白倉の姿。
手を伸ばして、抱きしめる。
柔らかい感触がする。
「…白倉の声、聞こえたよ」
「俺も」
「…テレパシー?」
「だったら、うれしい」
額をあわせて、互いに目を閉じた。
暗闇の中でも、そこに互いの姿が見える。
瞼の裏。瞳の奥で。
心の中で白倉を呼ぶと、心に響く声が、自分を呼んだ。
自分たちは繋がってる。
間違いない。
瞳を開くと、お互いの身体はもう光っていなかった。
でも、しっかり手を握り合って、笑いあった。
「とりあえず、現状把握」
「なにが起こってるか、確かめないとね」
堪らなく安心した。
たまらなく、嬉しくて、はしゃいだ子供のように弾んだ声で頷いた。
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