【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第七章 星間の黒麒麟

第四話 神は気まぐれに賽を振る

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 空は月と星が瞬いていて、綺麗だ。
 星は時折、落ちてくる。
 吾妻の傍に座った白倉は、言葉を発するでもなく夜空を見上げる。
「…で?」
「うん?」
 唐突に訊かれて、吾妻は首を傾げた。
「なにもしないの?」
「え」
「一緒にいたいって言うから来たのに」
 真横で膝を抱え込むように座って、自分を澄んだ瞳で見上げてくる白倉を見つめて、吾妻は見惚れた。
 なんて、綺麗な人なんだろう。
 何度も見てる。あの日からずっと思い返してきた。
 でも、飽きない。
 日に日に美しくなっていくように、どんどん輝いて見える。
「…吾妻?」
「あ」
 返事のない吾妻を訝った白倉が、小首を傾げた。
「いや、まあ一緒にいたいから、呼んだよ」
「うん」
「だけど、なにかする気はないよ?」
 優しく微笑みかけると、白倉は吾妻を見つめていた視線を空に向けて、呟く。
「残念」
 笑みを口に浮かべて、楽しそうに。
 その言葉に、吾妻は全身が熱くなった気がした。
「…白倉?」
「手くらい、繋いでくれるかと期待してたのにな」
 口に刻んだ笑みはそのまま、吾妻を試すように歌う。
 吾妻は顔が赤くなる。
 左手を伸ばして、地面についている白倉の手を握った。
 白倉が顔をこちらに向けた。吾妻は空を見上げて、横顔に感じる白倉の視線を気づかないふりをする。
「白倉が煽ったんだから」
「…あおったつもりないもん」
 照れ隠しに乱暴な口調で言うと、白倉は気分を害した様子もなく、ただありのままを告げる。
「俺がほんとに、手繋いで欲しいって期待してただけだから、言ったんだし」
 邪気のない声で、そんなことを言う。
 吾妻が耳まで染めて、横を振り向くと、「綺麗なー」と夜空を見ていた。
「…天然魔性」
「なんかゆったー?」
「心配。本当に」
 どこまでも綺麗な眼差しで星を見る白倉に、小声でぶつぶつ呟いた。
「僕以外にも絶対好きになってるヤツがいる…」
「そこは否定しない」
 吾妻の本気の危惧を、白倉は明日の天気を話す口調で認めて、吾妻の方を向く。
「なんせ俺、美しいから」
 な?と、ふんわりとした笑顔を浮かべて吾妻に尋ねる。
「…綺麗だよ?」
「だろ?」
「だから心配だよ」
 にこにこ嬉しそうな白倉の笑みに、吾妻は自分の危機感は全く伝わってないんだなとがっかりしながらも頷く。
 だって、白倉が綺麗なのは事実だし。
「それ、吾妻の所為だから」
 白倉は微笑んだ。
「吾妻を好きになったから、俺、綺麗なの」
 吾妻は言葉を失った。白倉の笑顔を注視したまま、指先一つ動かせない。
「吾妻だけ。こんな風に無防備な顔見れるのも、こんなこと言うのも」
 唾を飲み込む。瞬きして、もう一度見つめたけれど、月明かりにすら劣らず、美しい人。
「やから、吾妻の見てる俺と、みんなが見てる俺は大分違うよ。
 今目の前にいる俺は、吾妻だけの、俺」
 白倉の方から、握った手を絡めてきた。
 そのまま、どちらからともなく顔を近づけて、口付けた。
 また、星が流れる。
 唇を離して、見つめ合って。吾妻は目の前の身体をそっと抱きしめた。



 翌日、NOAの地下一階は大にぎわいだった。
 一週間後の予選は、吾妻が訊いた通り仮装しての戦いだ。
 地下一階に用意された貸衣装を並べたホールは、生徒でごった返している。
「わからん。どうして仮装して戦うかがぜんっぜんわからんよ」
 吾妻はそこが疑問だ、と先ほどからぶつぶつ言っていて、全く衣装を見ていない。
「それなあ、敵味方がごっちゃにならないようになんだよ」
「え?」
 並べられた衣装を見ていた白倉が、吾妻を振り返って言う。
「トリプルツリーの凄さはお前もわかったやろう?」
「えーっと、ZIONみたいなシステム?」
「そう。予選は“校舎”なんて視界の利きまくるフィールド設定じゃないからな。
 森林、迷路、ビルの中、街中、駅、城とかランダムに、そのエリアで変わってくわけ。
 移動するごとに変化してくフィールドで、同じ格好やと味方の同士討ちが多くて、それを防ぐために考案されたんが仮装。
 実際、同士討ちはかなり減った」
「…なるほど」
 そういう事情を聞けば、ある程度納得はいく。
「…だけど、城?」
「あるよー。洋風の城とか日本の城とかそーゆーフィールド」
「……」
 そこにはなんてつっこんだらいいかわからない。
 そんなフィールドで戦う機会はまず一生巡ってこないと思うが。
「…まあ、チーム戦は結局お祭りでもあるから、楽しめるようにって趣向だろ」
「…なるほどな」
 そこには少し同意できる。
 実際、ZIONに行ったからわかるが、フィールドの外観や形状というのも、戦闘の楽しさに関わってくるし。
「なあ、今の説明訊くと、チームごとに統一した衣装ってことか?」
 通路の向こうから藍澤がやってきて、白倉に尋ねた。
「うん。
 全く同じでなくてもいいけど、同じチームってことが一目瞭然な衣装を選ぶんが原則」
「そうか…」
「大体、ここにある衣装で俺達がまかなえたとしても、吾妻は特注することになるんじゃないのか?」
 奥から時波が顔を見せて、淡々と指摘する。
「まあたしかに」
「見ない間にまたでかくなったからなあ…」
 白倉、藍澤の順番に同意する。
 三人の視線を背中に受けた吾妻は、なにやら真剣に衣装を見ている。
 そして、いくつかある衣装を手にとって、振り返った。
「これは?」
「え? シンプルすぎない?
 もっとおもしろい…」
「だから、これを僕たちが着て、これつけて、白倉のこと」
 吾妻が見せる二つの衣装に興味を惹かれたのか、時波が「どんな?」と訊いた。
 吾妻は顔を寄せて、ごにょごにょ囁く。
「あ、それはおもしろいかも」
「確かにな」
 白倉と時波が顔を見合わせて、頷く。
「…そもそも、吾妻単体がなにもしなくても人外っぽいしな」
「涼太、ひどい」
 吾妻の軽い非難を気にせず、藍澤は「髪もじゃもじゃだし、でかいし」とポイントをあげていく。
「なるほど」
 藍澤が言う吾妻の「人外ポイント」を聴いていた時波が、ふと手を叩いた。
 そして、吾妻の肩を叩く。
「一蓮托生でそれも取り入れよう」
「…? なにが?」




「……なあ」
 衣装が早々に決まり、地下の受付に登録に向かう道中、白倉がふと重たい口調で切り出した。
「なんだ?」
「化野クンなんだけど」
 藍澤は前で吾妻と話していて、二人とも聞こえていない。
 時波は小声で聞き返す。
「…六月にな?
 まだ吾妻が藍澤クンと再会する前に、こう言ってたんだよ」

『Sランク四人のチームだろうし、吾妻はともかく、みんな手強いでしょ?』

 白倉の再現した台詞を聴いて、時波は目を瞑った。
「時波、誰かに藍澤クンのこと言ったりした?」
「まさか」
 時波は真剣な面持ちで首を左右に振る。
「俺は九生やお前にすら言ってなかったんだ。
 他の誰かに言うはずがない」
「…まして、教師からってのもないし」
「…村崎の弟たちは、藍澤と知りあいだったが、彼らからというのもないな」
 化野と面識がないはずだ、と時波。
 白倉は頷く。
「ただ、化野だからな。
 勘づいてもおかしくはないかもしれない」
「全くヒントもなしに?」
「だから、化野なら、だ。
 他のヤツなら笑っている」
 時波はひたすら真剣に言う。
 白倉も反論が見つからない。
「…化野クン、言ってた」
 白倉は自分の肩を抱いて、身体の底から沸いた震えをかみ殺す。
「“俺を楽しませて”って」
「…」
 時波は重く息を吐いた。
「ここまで恐ろしい期待ははじめてだ」
「同感」
 時波と白倉は、前を歩く吾妻と藍澤を見遣る。
「多分知らないな」
「だろな」
 化野の恐ろしさを。その真骨頂を。
 前の二人は知らない。
 自分たちだって負ける気はない。
 闘争心が沸く。倒したいと、思う。
 化野の言葉が、頭を巡った。
「あ、白倉っ!
 時波!」
 前方から声がして、二人は我に返る。
 吾妻と藍澤の向こうから駆け寄ってきたのは、見知ったクラスメイト。
「久世。勇賀ゆうがクン」
「やほ」
 同じクラスの久世と勇賀だ。
「あ、久世…」
 吾妻が久世を見て、微かに苦手そうな雰囲気を出した。
 白倉と時波は目を丸くする。
「吾妻、久世のこと知ってた?」
「てっきり、まだ同じクラスかすら認識していないものだとばっかり…」
「白倉はともかく、時波は失礼だね…」
 後方二人の意見のうち、吾妻は時波にだけつっこんだ。
「吾妻のそれは事実だろ?
 久遠のことだって知らなかったんだし」
「ちょ、横から余計な…」
 久世が自然に横から口を挟んできたので、吾妻は嫌そうだ。
「じゃあ、ユウさんは何組かわかる?」
 自分の横にいる、久世より高い身長の男前を指さし、久世は尋ねた。
 吾妻があからさまに顔を引きつらせた。
「ほら、わかんないじゃないか」
「い、いや、…たまたま」
「そう?
 だって、俺のこと覚えてたの、“俺が美形だから”って言ったじゃん?」
 久世はしれっと真顔で言い切る。
「俺は美形じゃねーって?」
「ユウさんは俺と違うタイプの美形なんだよ。
 吾妻が好きなのは、あれだ、白倉的な王子様系美人」
 横で勇賀があまり不満でもなさそうに訊いたので、久世はそう答える。
 白倉がその言葉を聞いて、複雑そうな表情を吾妻に向けた。
「違うよ?
 俺は白倉一ッ筋だよ!
 ただ、印象に残ってただけで」
「わかってるから、いいよ」
 吾妻の弁解を、白倉は素直に聞き入れる。
「俺に似てたからなら、いいよ」
「…うん。だけど、白倉が一番だよ」
「うん…」
 見つめ合って、手を取り合って囁きあう二人を見て、勇賀と久世は感心した風だ。
「あー、白倉がほんとバカップルになってる」
「あのままキスとかしねぇよな?」
「保証はしない」
 俺、そこまで吾妻に詳しくないし、と久世。
 彼は左手を持ち上げると、指を立てて、吾妻と向き合う白倉とは反対側の左にすっと動かした。
 吾妻が思わずそちらを向いてしまい、自分で疑問なのか首をひねった。
「そこまで。
 無視しないで欲しいな。
 傷付くよ?」
「…すまん」
 吾妻は不思議そうにしながら謝る。
「あんまり白倉しか見えないようなら、誘惑するからね。
 人の話は最後まで聴くように」
 久世の発言に、吾妻はぎょっとした。
 久世は全く他意のない顔だ。
 勇賀も、時波も、白倉すらうんうんと頷く。
「白倉? その反応おかしくない?」
「え? なんで?」
「どうしてって…」
 もっとこう、嫉妬するとか、「吾妻は俺のもん!」とか言って自分を庇ってもいい台詞じゃなかったか?
 なのに、白倉は嫉妬の欠片も抱いていない顔だ。
 おかしいというより、寂しい。
「ちょっと? 言ってる傍から無視かい?」
「あ、すまん」
 吾妻は慌てて久世達を見遣る。
 久世の声は別に怒っていなかったが、引力のある声だった。
「なんか用事?」
「うん。
 俺たち、あと二人を混ぜた四人チームなんだ。
 よかったら、練習試合しない?
 戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉を借りられるの、日曜までだろう?」
「そうなんだ?」
 微笑んだ久世の言葉に、吾妻は聞き返してしまった。
 久世と勇賀がなんとも言えずに時波と白倉を見る。
「もう少し世間に目を向けさせないといけないよ?
 いくらなんでもさ、もうちょっと勉強させな?」
「なんで俺に言うかはいいけど、ごめん」
 久世の呆れたような言葉に、白倉は思わず謝る。
「白倉が謝る必要はない。全ては白倉以外に目を向けようとしない吾妻の責だ」
「あれ? 僕なんか責められてる?」
「お前が悪いからだよ」
 時波がすかさず白倉のフォローをし、首を傾げた吾妻の頭を藍澤が叩いた。
「だけど、仕方ないよ?
 僕、去年を知らないから…」
「俺は今月入ったばっかりだが、日曜までで戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉での自主対戦が一旦禁止になることは知っていた」
「えっ」
 藍澤は腕を組んで言う。呆れている。
 吾妻はびっくりした。
「だからお前が暢気すぎるんだよ」
「……ごめん」
 藍澤に軽く叱られて、吾妻は頭を垂らした。
「で、練習試合は受けてもらえる?」
「そうだな…。
 俺はかまわないけど」
「俺もかまわない」
 白倉と時波はあっさりと頷く。
 藍澤も「かまわない」と了承する。
「じゃあ決まりだね。
 藍澤。
 俺は久世小虎。ことちが勇賀春風。
 同じクラスだよ。よろしく」
「ああ、よろしく」
 久世が朗らかに差し出した手を、藍澤が握る。
 その時だ。
「ねえねえ、ちょっと」
 横手から聞こえた声に振り返って、時波と白倉は軽く警戒した。
 化野がいつの間にかそこにいる。
「試合をするのはいいんだけど、その前にチームメイトで試合をしたら?」
 吾妻たちも驚いたが、それらをよそ事に化野は話を進める。
「チームメイトで試合?」
「そう。
 時波は藍澤の能力に詳しいだろうけど、白倉と吾妻はそうじゃないだろ?
 一回、吾妻と藍澤で一騎打ちの試合したら?
 能力を把握しとかないと、コンビネーションうまく決まらない」
 化野の提案は確かに一理ある。
 白倉も時波から訊いてはいたが、実際見たことはほとんどない。
 吾妻にいたってはほぼ全く知識なしだ。
 このまま戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉が使用できなくなって、予選ではまずい。
 ただ、化野がそう提案してきたのはなぜなのか、警戒してしまう。
「…俺と涼太が?」
「そう。
 適役だろ?
 親友なんだし」
 化野の言葉を聞いて、やっと白倉と時波は腑に落ちた。
 化野なら普通、自分が戦いたい、と言い出す。
 なのに、今、「吾妻が戦ったらいい」と言う。
 それがおかしいのだ。
「勝てる見込みがあるうちに、戦っておいたら?」
 その台詞に、吾妻の片眉があがる。
「どういうこと?」
「藍澤はSSランク候補だろ?
 完全覚醒したら、吾妻の勝ち目がないから、勝てるかもしれないうちに戦ってみたらって」
「…完全にないって決まってないよ」
 吾妻の声から抑揚が消えている。低い。
 吾妻の後ろにいる白倉には見えないが、表情もきっと硬い。
「じゃあ証明してよ。
 今勝てなきゃ、絶対勝てないよね」
 化野は完全に煽っている。
 吾妻は拳を握りしめて、大きく呼吸した。
 肩が上下する。
「…涼太はいいの?」
 低く響く声で尋ねられ、藍澤は苦笑する。
「はい、って言わないと怒る顔してるからな」
 その、完全に“譲ってやった”という言い方に、吾妻の拳が更に固く握られた。




 戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉-13号室。
 地下の廊下での話を聴いていた生徒も多いし、転校してきたばかりということもあり、藍澤は生徒の視線を惹く。
 報せてもいないのに、見物席はほとんど埋まっていた。
「どっちが勝つと思う?」
 先ほど、一緒にいた久世や勇賀もいる。
 最前列の座席で、手すりに腕を乗せて、まだ試合の始まっていないフィールド内を見下ろす。
「どっちもわかんねーな」
「吾妻は流河には勝ったけど、時波には負けてるしね」
 勇賀が悩んだように頬杖をつき、久世の言葉に耳を傾ける。
「それに、藍澤さんって、SS候補だろ?」
 久世や勇賀と同じチームの二年生がそう尋ねた。
 身長が高く、ハーフのような風貌の少年。
 二年一組の五十嵐だ。
「ああ。ただし」
「確実になるとは限らない。見てみないとね」
 勇賀は言葉の途中で久世を見た。察して、久世は勇賀の望んだ通り、説明する。
「一つ目の力が半覚醒ってこと自体、普通ありえないし、能力もレアすぎる」
「そっか…」
「じゃあ藍澤さん優勢?」
 チーム内最年少の一年生が、久世に訊く。
 久世は笑って首を横に振る。
「そうとも言えない。
 吾妻も吾妻で、今までの二試合で手の内を完全に明かしたとは言い難いだろうし」
「ああ、なるほど」
 彼は納得して、フィールド内に視線を移す。
 離れた位置の見物席で、同じようにフィールドを見ていた化野に、声がかかる。
「ああ、白倉、時波」
 顔を上げると白倉と時波が、なにやら険しい顔をして立っていた。
「訊きたいんだけど」
「訊きたいって言われても、吾妻に言った以上の意味はないけどな」
 化野は明るく笑う。
「そのことじゃない。
 六月に、白倉に“俺達のチームがSランク四人”のチームだと言ったと訊いた。
 どこから、藍澤のことをかぎつけた?」
 時波の硬い口調にも、化野は「ああ、それ」と暢気に手を打つ。
「大した意味はないよ?
 だって、まさか三人でシメってことないと思って」
「なら、どうして最後のメンバーを“Sランク”だと言い切った?」
 納得がいかない、という時波の顔を見上げて、化野は軽く息を吐く。
「“SSランク”って言い切ってないだろ?
 その言質をとってなきゃ、チェックはかけられないよ」
「言質などお前には無意味だ。
 俺達SSランクの頂点が、言質なんてものでチェックがかけられるとは思わない」
「…買いかぶるなあ」
 化野は前を向き、足を組んで、組んだ足の上に肘をついて、手を組む。
「じゃあ、なにが妥当だと思うんだい?
 俺が“いかにして”知ったか。
 “どういう”答えなら、君たちは納得する?」
 そう尋ねられて、白倉も時波も言葉に窮した。
 そうだ。
 自分たちは、化野がどうやって知ったか。察したか。
 その推測が全く立っていない。
 ただ、疑わしいと尋ねに来ただけだ。
「ただ、誰が訊いても理解できる経緯?
 それとも、“怪物”と言われてる俺らしい、言葉では説明の付かない方法?」
 化野が視線だけで、二人を見据えた。
 時波と白倉は息を呑む。
「キミたちが“俺”をどう見てるかわからないけれど、俺も人の子だし、高校三年生だ。
 叶えられる不可思議にも限度はある」
「……」
 化野はそこで、ふふ、と声に出して笑った。
 白倉と時波を振り返る。
「しかし、俺の言う“不可思議”は君たちにとっては“不可能”かもしれない」
 悠然と、化野は微笑む。
「さあ、どっちだろう?」
 ただ、向かい合っているだけ。見つめ合っているだけなのに。
 白倉と時波は、膝をその場に突きそうなプレッシャーに苛まれる。
 拳を握って堪える。
 汗が、頬を流れる。
「ねえ、時波、白倉。
 その“買いかぶり”」
 化野はふと、二人から視線を外して呟く。
 そして、再び視線を戻し、時波と白倉を見た。
 小さく笑みを刻んで。
「万一、…正解だったとしたら、…どうするんだい?」
 低く、周囲の騒ぎ声に掻き消されてしまいそうな囁く小さな声。
 なのに、鼓膜にはっきり届き、心臓を恐怖で震わせた。
 震え上がった時波と白倉を見上げて、化野はにっこりと微笑む。
「だから、知らぬが仏っていうじゃない?
 そうしときな」
 化野を覆う空気が一気に緩んだ。
 時波と白倉は、どっと冷や汗が流れてきたのを感じる。
「ほら、もう始まるみたいだし」
 化野は何事もなかったという風に、フィールド内を指さす。
 化野の傍にいた若松と雪代が、無言でこちらを見た。
 触らぬ神に祟りなし、と言いたげに。



 フィールド内に出てきた吾妻と藍澤に、見物席がざわつく。
 一定距離を保って立つ二人の空気は対照的だ。
 吾妻は攻撃的だが、藍澤は出来れば今からでも回避したい雰囲気を出している。
 それが吾妻は気に入らないらしく、表情が険しい。
「吾妻。やっぱりよさないか?」
 藍澤は控えめにそう尋ねた。
 吾妻の片眉が上がる。
「なに? 怖い?」
「そうじゃないけどな…」
「ならいいでしょ」
 吾妻の有無を言わさない言葉に、藍澤は大きくため息を吐く。
 それが吾妻の苛立ちを増幅する。
「だって、まともに戦えるのか?」
「…なにそれ」
 吾妻の硬い声にも藍澤は怯まない。
「今のお前、どう見たって冷静じゃないだろ?
 冷静さを欠いた人間は、そうそう勝てないって相場が決まってる。
 相手と圧倒的な力の差がないかぎりな」
「…みすみす負けるって言いたい?」
「そう聞こえるならそういう意味だ」
 吾妻は歯を噛みしめる。
 苛々する。
 見物席のどこかに白倉がいる。
 なのに、探そうともしなかった。
「退くなら今のうちだ。
 またの機会でもいいじゃないか」
「なに? さっきから、その上から目線…」
 完全にカリカリした吾妻の声音に、藍澤は諦めた。
 冷静に戻すのも、試合を未然に終わらせるのもこれは無理だ。
 開き直って、はっきり口にする。
「しかたないだろ?
 俺の方が強いんだから」
 吾妻を見据えての断言に、吾妻の中の激情が膨れあがった。
 防護壁が出現する。
 それを確認して、吾妻は炎を発生させた。
 藍澤の周囲を蒼い業火が覆う。
 初めて見る藍澤の力に、見物席の生徒達は沸いた。
 お互い充分に発動力を高めて、同時に放った。
 フィールドの中央でぶつかりあった力は、今までの例に漏れず、互いをうち消し合って消える、はずだった。
 蒼い炎が、微かに残って、吾妻の周囲に漂う。
 ただの残り火。吾妻はそう思った。
 だが、微かに宙を漂うだけだった炎が、速度を増して肥大する。
「!」
 一瞬で吹雪に変化した炎は、吾妻の全身を襲った。
「っ―――――!」
 どうにか炎を発生させたのが間に合ったが、かなり負荷を受けた。
 勢いで、背後に数メートルさがってしまう。
 吾妻のHPが20%減っている。
「俺は戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉に不慣れなんだ。
 手加減してくれよ」
 膝を突くのをどうにか堪えた吾妻を見下ろし、藍澤が言う。
 吾妻は顔を上げて、歪に笑った。
「誰が!」
 足をしっかり踏ん張って、手を振るう。
 炎が再び手に宿り、藍澤に向かった。
 藍澤は静かな表情で、蒼炎を周囲に出現させる。
 赤い炎が衝突する寸前、蒼い炎は蒼い閃光へと変貌する。
「あれは…!」
 見物席で、時波が乗り出し、大声を上げる。
 蒼い閃光は赤い業火をはじき返した。
 さながら時波の使う光の乱反射そのままに、吾妻の元にそっくり業火を返す。
 吾妻は驚愕しながらも、どうにか交わした。
 藍澤は手を休めず、左手に炎を生み出す。
 吾妻に向けて、銃に見立てた指を引き上げる。
 矢のような軌跡で吾妻に向かった蒼炎に、見に来ていた岩永が隣の村崎の肩を掴んだ。
「あれ…!」
「ああ。多分同じや」
 炎の壁で防ごうとした吾妻の前で、分散し、吾妻の周囲を取り囲む。
 そのまま蒼い炎は閃光の檻に変化した。
「…な」
「そのままそこにいろ。すぐ終わる」
 吾妻が息を呑んだ。
 藍澤は声の抑揚もなく、告げる。
 その手から炎が膨れあがり、フィールド内を走る。
 吾妻は思わず格子に手を伸ばそうとして引っ込めた。
 閃光の格子だ。触れればHPが減る。
「こんなものでおとなしくなるようなヤツじゃないよ!」
 吾妻の足下から一気に火柱が燃え上がった。
 せめぎ合っていた蒼い閃光も、悲鳴のような音を挙げて消え去る。
 その瞬間、眼前に現れた藍澤の姿に、吾妻は反応が遅れた。
 檻を消すために発生させた自分の炎で、視界が利かなくなっていた。
「端からこれが狙いだ」
 落ち着いた口調が吾妻の耳に届く。
 鳩尾にたたき込まれた拳が、ゼロ距離で炎を放つ。
 吾妻は壁の端まで吹っ飛ばされた。
「吾妻っ!」
 壁に叩き付けられて、吾妻はそのまま床に倒れ込んだ。
「…動かないぞ」
 時波が呟く。白倉は青ざめて、吾妻の名前を叫んだ。
「吾妻!?」
「…気絶させるのも一つの手段だからな…。
 しかし」
 時波は吾妻と藍澤、両方のパラメーターを見る。
 藍澤は全く減っていないのに対し、吾妻はもう50%を切っている。
「ここまで力の差があるとは…」
 もう少し拮抗すると思っていた、と時波は言う。
 白倉は目を閉じて、必死に念じた。

“吾妻!”

 こんな風に力を貸すのは卑怯かもしれない。
 でも、このままこんな形で負けてしまったら、吾妻にも藍澤にも良いとは思えない。

“吾妻! 起きろ!
 このまま負ける気か!”

 時波は必死に祈る白倉の姿を横目に見て、彼の名前を呟いた。
 なぜだか、白倉が遠く感じられて。

“吾妻!”

 何度目かの呼びかけにも、吾妻は動かない。
 藍澤が安堵か気疲れかわからないため息を吐いて、背を向けようとした。
 傍で風を感じた。
 密室の戦闘鳥籠〈バトルケイジ〉に風が吹くはずはない。
 戦う人間が発生させない限りは。
 藍澤はハッとして視線を動かした。一瞬だけ視線を逸らした場所に、吾妻の身体はない。
 背後で、殺気を感じた。
「遅い!」
 振り向いた時には、眼前で吾妻が足を振り上げたのが見えた。
 炎をまとった足に、顔面を思い切り殴り飛ばされ、今度は藍澤が吹っ飛ばされる。
 見物していた生徒達が呆気にとられた。
「…今、どうやって一瞬で移動したんや?」
 村崎が首を傾げた。
 吾妻は壁際から、何百メートルも離れた藍澤の背後まで一気に移動した。
「俺みたいな瞬間移動能力はないし、あれは夕クンみたいな力の使い方だね」
「多分な」
 岩永の逆隣で流河が推測した案に、岩永が頷く。
「夕は風を使うて速く移動するやろ?
 あいつの場合は風を操れるから、それ以外の要素も関わってくるけど、大体は近くの壁や床に強く風をぶちあてて、その反動で一気に移動するわけ。
 俺もやる。
 今の吾妻は、倒れとった自分の真下に発生させた炎で、一気に上昇して、同じことを壁でもやって高速移動したってこと?」
 一人わからない村崎に、多分、と付け足して説明する。
「なるほど」
「にしても」
 流河は腕を組んで、楽しそうに笑った。
「吾妻クンらしくなったみたいよ?」
 起きあがった藍澤を見据えて、吾妻は左手を頭上で軽く動かす。
 床からわき上がるように発生した赤い炎。
「もう容赦しないよ。
 そっちもリミッター外して来い!」
 その表情は、いつも白倉や岩永が見る、不敵な笑顔だ。
 さっきまでの焦燥した表情ではない。
 岩永も、流河も安心した。
 藍澤が片手を手首に添えた手で、指を銃に見立てて引き上げる。
 蒼い炎が走った。
 吾妻の手前で分散する炎だ。
 だが、吾妻は余裕の笑みを浮かべて、分散するよりもっと早い位置で自分の炎をぶつけた。
 お互いの炎がうち消し合って消える。
「今度は、完全に相殺した!」
 久世が口笛を吹いた横で、葵が楽しそうに叫ぶ。
「その手はもう効かないよ涼太。
 ほら他の手出しな!」
 吾妻は手でちょいちょいと手招きしてみせてから、左手を頭上に持ち上げて、巨大な炎を生み出す。
 身体の底から沸いた笑いに、藍澤は思わず声を漏らした。
「落ち着いたのはお互い様。
 暴れん坊じゃなくなったと思ったら、…根っこは変わらずか」
 心の底から、闘争心が騒ぐ。
 楽しいと思った。
 あの日以来、初めての感情。
 藍澤の周囲を蒼い炎が走る。
 中央でぶつかりあった炎は、今度は藍澤の炎が微かに残った。
 雹に変わって吾妻に向かうが、吾妻は飛び退いてうまく避け、追ってきたものを炎を帯びた手でたたき落とす。
「…もしかして、これが狙いか?」
 時波はフィールド内から視線を逸らさないまま、言葉を発する。
 傍に座る化野に向けて。
「…そこまで買いかぶらないでよ。本当」
 化野は苦笑した。
「そうだろう?」
 時波は化野を見ないまま、断定する。
 白倉は無言で、必死にフィールド内を見ていた。
「…まあ、ね」
 化野は歯切れ悪く認めた。
「どういう意味っすか?」
 雪代の近くにいた赤目が首を傾げる。
「じゃあ、土岐也は最初と今の違いがわかるか?」
「…?
 吾妻さんの苛々が収まった」
「そうじゃない」
 赤目の回答に、雪代は呆れる様子もなく淡々と突っ込む。
「最初は藍澤の方が発動力が勝っていた。
 そして、土岐也言うところの“苛々が収まった”あたりで互角になって、今はまた藍澤が若干優勢だ」
「ああ、確かに」
「最初は、吾妻も藍澤も、全力で戦っていなかったんだ。
 お互い、躊躇いがあった。
 吾妻が先にそれを吹っ切った。そこで互角になった」
「…?」
 赤目はやはり首を傾げた。
「楽しそうな吾妻を見て、藍澤も吹っ切れたんだろう。
 それで、また藍澤が若干リード。
 微かだが、発動力は藍澤の方が上だな」
 時波はそう分析して、化野の方を見遣った。
「吾妻が藍澤の能力を知らなければ、というのも本当だろうが、お互いに本気で戦えないままチーム戦や戦闘試験を行っても得るものは少ない。
 と、思って、この試合にし向けたんだろう?」
「…」
 時波の問いかけに、化野は曖昧な笑みを浮かべる。
「そして、朔螺は真っ向から褒められると照れるから」
「うるさいよ鷹明」
 赤目の頭を撫でながら、雪代がしれっと言うと、化野が早口でつっこんだ。
 時波は「照れたのは図星か」と心の中で納得する。
 化野が藍澤のことを察した経緯はわからないが、今はこの結果で充分だと思う。
 フィールドの中央で、炎がぶつかりあった。
 防護壁が稲妻のように音をあげて軋み、弾け飛んだ。
「うわ、吾妻、藍澤ストーップ!」
「防護壁が壊れた! 中止だ!」
 白倉と時波が青ざめて、大声で叫ぶ。
 吾妻と藍澤はこちらを見上げて、間の抜けた顔をして、その場に座り込んだ。
「なんだよ。いいところだったのに!」
「本当に」
 二人とも、足りないと言いたげに文句を飛ばした。
 見物席の生徒達は、安堵に長い息を吐く。
 吾妻と藍澤がふと互いの顔を見て、それから、照れくさそうに笑ったのが見えた。
 途中から、二人とも子供みたいな顔してた。
 それが、複雑に思えて、白倉は時波の背中にへばりつく。
「なんだ?」
「…俺が、理解して、お膳立てしないといかんかったのに…」
 吾妻を一番理解していたはずなのに。
 吾妻と藍澤の躊躇いに、すぐ気づけなかった。
 お膳立てしたのは化野だ。
 時波は軽く微笑み、白倉の頭を撫でた。
「しかたない。
 俺たちと違って、化野のアンテナは全世界ネットなんだ。
 敵う代物じゃない」
「ちょっと時波ぁ。
 あんまり言うと、神隠すよ?」
 化野が視線を寄越さないまま、低い声でさらっと言ったので、時波は震え上がる。
「…フォローの言葉のアヤだ。理解しろ」
「まあ理解しとく」
 化野の声のトーンが、今度は普通だったので、時波はホッとした。
 今の言葉、あまり洒落に聞こえなかったし、化野が言うと恐ろしい一言だった。
「まあ、でも、吾妻が吹っ切れたのは、お前のおかげじゃないのか?」
 時波は白倉を見つめて言う。
 白倉は時波の瞳を見て、それから思い出した。
 呼び続ける自分の声に、吾妻は応えてくれた。

“誠二”

 あの一瞬、頭の中に響いた声を忘れない。
 優しい、いつもの吾妻らしい声。
「うん…」
 嬉しくなって、微笑んだ。
 時波が頭をまた撫でてくれる。
 フィールド内で、
「あっ、あ―――――っ!
 俺以外が白倉の頭撫でたら駄目! 駄目ー!!!」
 という吾妻の絶叫が響いたが、時波は無視を決め込んだ。

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