【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第八章 さよならの森の中で

第一話 軋む歯車、堕ちる空

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 七月十六日。
 チーム対抗トーナメント予選、二日目。
 第二ブロックの総当たり戦が始まっている。
 その様子を常時、トリプルツリーに設置されたカメラが撮影し、離れた場所にあるNOA施設内のモニタールームに映し出す。
 基本、モニタールームはNOAの最深部にあり、最深部は一般生徒は立入禁止だ。
 だが、例外も存在する。
 最深部の廊下を歩いていた真鍋は、前からこちらに向かってくる男に目を瞠った。
 足を止めて、男が近寄ってくるのを待つ。
「どないした?
 さすがにチーム戦の最中に出入りするんはやめて欲しいんやけどな」
 眉尻を下げ、困ったような表情で男に注意するが、男は怖いくらい真剣な顔だ。
「俺のチームは勝ちましたから」
「尚更あかんやろ」
 まとった白衣の裾をはためかせて、瀬生は足を止める。
 瀬生はれっきとしたNOAの生徒であり、高校生だ。
 しかし一方で、暴走キャリアの対策プロジェクト「方舟」の現役メンバーでもある。
 瀬生は特にコンピューターを操る希な超能力から、現在既にNOAの開発部のスタッフとしても活動していて、授業にはほとんど参加しない。
 本人いわく「授業より専門的なことを学べるから不満はない」だそうだ。
 だから、瀬生は普段から最深部など立入禁止区域への立ち入り許可があるし、よく足を運んでいる。
 確か、瀬生のチーム、Sランクの秋山のチームは第一ブロックで昨日試合は終わっていて、予選突破を果たしている。
 それでも、チーム戦の真っ最中、他のブロックの生徒達の試合が見られるこの最深部に立ち入るのは、他の生徒に比べて有利になってしまうから、通常禁止なのだ。
 真鍋が言葉の注意に留めたのは、瀬生の表情からなにかあると察したからだ。
「他の試合の映像見る気はありません。
 そんなのしなくても、俺にはデータがあるってわかってるでしょう」
「まあな…」
 それも簡単な注意だけにした理由だ。
 瀬生はコンピューターのハッキングなど容易い。
 ハッキングとも最早呼ばない。コンピューターと自分の意識を繋げられるからだ。
 彼にとってはNOAのデータバンクにアクセスして、そこに保存されている全生徒のデータを読みとることなど朝飯前。だから、彼が端から映像目的で訪れるはずはない。
「俺が訊きたいのは、先日の襲撃の話です」
「…場所選んで欲しいなあ。
 スタッフでも、全員が知っとる話やないんやぞ?」
「先生の能力は“壁”でしょう?
 見えない壁を生みだして周囲から隔絶する。
 ここだけそうしたらいいでしょ」
「…密談に協力せぇってか」
 淡々と要求する瀬生に、真鍋は空笑いを浮かべた。
 方舟メンバーとしてNOAの大人たちと接する機会も多い瀬生とはいえ、肝が据わりすぎている。
「で?
 なにが言いたい」
「…なんだ。もう隔離してましたか」
 唐突に本題に入った真鍋の声は低い。
 瀬生はそれだけで軽く周囲を見遣って、感心した風に言った。
 既にこの場は他から隔絶済みか。
 瀬生は真鍋に向き直り、どこか睨み付けるような視線を寄越した。
「先日の襲撃。
 なんで、“開かずの間”の発明品ってことにしたんです?」
 真鍋はなるほど、と思った。
 瀬生の態度がやけに刺々しく攻撃的なのは、そういう理由か。
「真鍋先生が言ったんですよね。
 あれは開かずの間の発明品だって。
 なんで狭山先輩に罪をなすりつけるマネしたんです?
 先生ならわかったでしょう。あれは奴らだって」
 瀬生はかつて、NOAの中等部に通っていた狭山という生徒と親しかった。
 彼もまた現役生徒ながら、NOAの開発部に身を置いた天才だ。
 今はドイツ支部の高校に通っている彼を、瀬生や時波はひどく慕っている。
 だから、瀬生はずっと不満だったに違いない。
「やけど、あの場はああ言うしかなかったやろ。
 どのみち、生徒全員記憶隠蔽措置とるんは決まっとったし」
「でも、記憶隠蔽は永遠じゃないです。
 特に岩永や吾妻。奴らと密接に繋がっている生徒はすぐに解けてしまうはずです。
 なのに、狭山先輩の所為にするなんて」
「瀬生」
 早口で言い募る瀬生に、真鍋はため息を一つ吐き、静かに口を開いた。
「やったら、他になんて言うたらよかったんや?
 あの場で余計な混乱を招かずに説明する方法があったか?
 まさか馬鹿正直に真実を言えるわけあらへん。
 そんなん、同士討ちを自ら招くようなもんや」
「…それは」
 真鍋の言葉に、瀬生の口調がよどむ。
「開かずの間にはなにがあってもおかしない。
 そんな暗黙の了解を利用するしかなかったんや。
 あの場の混乱を収めるためにはな。
 第一、わかってて言っとるんか?」
 急に問いを向けられて、瀬生は当惑する。
 意味がわからなかった。
「あんな人型。
 現代の技術やととても作れん。
 今の技術では不可能なことを可能にしてまうんがお前の超能力や。
 わかるな?
 ああ言わんかったら、お前が容疑者第一候補やぞ?」
「……」
 瀬生は悔しそうに唇を噛み、自分の足下を見遣る。
「でも、それでも」
「…狭山の方が優先か。
 ほんま、いい後輩持ったなあいつ。
 時波がこのこと知らんでよかったわ」
 あいつ運良く出かけとったから、と真鍋はその場の重い空気を入れ換えるように明るく言う。
「…確かに。
 いたら、なにしでかしたかわかりませんよ。あいつは」
 緩んだ空気に瀬生は思わずホッと息を吐き、笑みを浮かべる。
「やろな。
 まあ、あいつも人望厚かったから、いざとなったら説明したらええ。
 みんな信じてくれるだけのもんがあるやろう」
「…はい」
「それより、お前はしばらくこちらにおれるか?」
 瀬生は真鍋の言葉に軽く目を瞬き、意外そうな顔をした。
「さっき、チーム戦の最中だからいけないって言いませんでした?」
「社交辞令。あと誰かに聴かれたときの可能性配慮や。
 …ちょお厳戒態勢強いときたいんでな」
「…奴らにとっても格好のチャンスですからね。チーム戦は」
 瀬生はやるせなさそうな顔をして呟き、頷く。
「俺は大丈夫ですよ。
 あいつも多分平気です」
「さよか。ほな、九生も都合ついたら二人で連携とって頼むわ」
「……他に誰か?」
 瀬生が不思議そうに尋ねると、真鍋は背後を見遣って笑った。
 既に空間隔絶は解けていたらしい。
 足音が響いてきて、姿を見せたのは随分懐かしい顔だった。
狭山さやま先輩…!?」
 そこに立っているのは、長身の男だ。
 長い癖のある明るい色の髪を軽く束ねている。
 笑みをたたえた優しい面持ち。
 左目の下に、傷痕がある。
「ちょお呼び戻しといたんでな」
「え、いつから…」
 瀬生は目を見開き、真鍋と狭山を交互に見遣って忙しない様子だ。
「つい先日です。
 お久しぶりです瀬生くん」
「あ、お久しぶりです」
 狭山の落ち着いた声音を久しぶりに聴いて、瀬生は思わず会釈をした。
「でも、狭山先輩が呼ばれるなんて、まあよっぽどの事態なのはわかってましたけど…………時波喜びそう」
 瀬生は若干混乱したように呟き、最後に思わず本音を零した。
「時波くんには本戦が始まってから会おうかと思ってます。
 彼はまだ暴走キャリアですしね」
「はい」
「あと、あっちには瀬生くんと同種の能力者がいると思いますから、頼みます」
 狭山の言葉に瀬生は大きく頷く。
 そういうことだ。
 ああいった人型を作れるなら、自分と同種の能力者がいる。
「あとは…」
 狭山は不意に視線を彷徨わせ、廊下の隅に設置されていたモニターを見上げる。
 映っているのはジャングルのようなフィールドにいる生徒の姿。
 岩永や流河、優衣に村崎のチームだ。
「その岩永くんと吾妻くんが、力の使い方を誤らなければいいんですがね…」
 狭山は困ったような笑みを浮かべて、独り言のように意味深に呟いた。



「…でもよう考えたら、俺らの仮装って割と地味やんな」
 予選第二ブロックが行われているトリプルツリー内。
 本物のようなリアルなジャングルを進むのは、岩永たちのチームだ。
 現在、近くに他のチームはいない。
 岩永が自分たちの格好を見て呟いたので、流河は苦笑した。
「みんなごっつ気合い入っとったし」
 先ほどまでに戦ったチームたちの仮装を見て、自分たちの格好がシンプルすぎるんじゃないかと思ったらしい。
「でも、あんまりゴテゴテした格好すると戦いにくいから、このくらいでいいんじゃない?」
「それに、俺ら本物っぽいしな」
 優衣は他の三人を見遣ってしみじみ言った。
 岩永たちの服装は、シンプルな黒のスーツだ。
 テーマは「マフィア」。
 サングラスも用意してあるが邪魔なので今はポケットの中だ。
「まあ本物っぽいから、これにしたんやけど」
 岩永は改めて見ておかしくなったのか笑い出した。
 優衣といい流河といい岩永といい、体格がよく身長もあり、かつ美形だからかなり様になっている。
「特にほら、村崎くんなんか一番マジっぽい!
 銃持ったらどっかのドン!」
「確かに」
 流河が両手で村崎を示してはやすので、岩永と優衣は遠慮なく笑う。
 村崎が微妙な顔をした。
「と、冗談はおいといて、同じブロックに白倉チームと化野チーム、夕たちのチームもおるわけやし、そろそろ会うかな」
「やんな」
 岩永と優衣は真顔に戻って視線を合わせる。
「俺、嫌な話聴いたんだよ」
 流河が真剣な面持ちで手を挙げたので、岩永と優衣、村崎はそちらを向いて言葉を待った。
「ほら、第一~第六までのブロックに振り分けられたチームって、基本変動なしだけど、たまに調整目的で当日急に違うブロックに分けられたチームが参入することあるじゃん」
「ああ、あるな」
 主に全チームの強さの平均をならすための調整だ。
 あらかじめ平均が全ブロックで同じになるように決められて発表されるのだが、それまでに行ったブロックの結果次第で、途中調整が行われることもたまにある。
「でさ、第一ブロックでなんか番狂わせがあったから、調整することになったんだって。
 第三と第四のブロックで試合するはずの何チームかが第二ブロックに振り分けられたらしいんだけど、その中にいるんだよ。
 九生くんたちのチームが!」
「…げ」
 戦々恐々の顔つきで流河が言った情報に、岩永は簡潔な感想を漏らした。
 優衣や村崎もさっきまでの笑顔はどこへやら厳しい表情だ。
「嘘やろ。
 白倉たちだけでも大変なんにあいつらが…」
「儂は知っとる。
 九生単体だけより、山居がおった方があいつのトリッキーさが増すん」
「…うん。いつも以上に九生くんらしいんだよね、戦闘パターンが」
 山居の補助がある場合、九生の九生たる所以が本領発揮されるので、彼らが同じチームになった時点で警戒はしていたが。
 流河は怖いんだ、と呟いてしゃがみこんでいたが、唐突に立ち上がった。
 岩永も優衣も、村崎も無言になって、鬱蒼と木が生い茂る場所を睨んでいる。
「さすがにバレるわな」
 その場に響いたのは耳に馴染んだテノール。
 岩永たち四人を包囲する形で空から降ってきた男達の様相に、岩永たちは息を呑んだ。
 岩永の正面に立つ男は髪が白金なことから間違いなく白倉だが、断言を躊躇うのは衣装だ。
 白と水色の神社の宮司のような和服に足に草履、顔には白い狐のお面。
 他の三人は足下は下駄。黒い着物姿に、顔には鬼のお面。
 ちょっと、人外に見える。
「…妖怪に見えるよ、君たち。
 誰が誰か大体わかるけどさー……」
「うん。一瞬、ジ○リのあの映画思いだした」
 驚きから冷めた流河がつっこめば、優衣も力無くコメントした。
 吾妻はその飛び抜けた長身でわかるし、時波と藍澤も、藍澤の方が茶髪だから見わけはつく。
「お前等はなんか、…それはそれで本物っぽいぞ。
 村崎が特に」
「すっごいでしょ。
 うちのドン!」
「…流河」
 藍澤がお返しのように言った言葉に、流河は乗り気で村崎を示す。
 村崎はやっぱり微妙な顔だ。
「でも、チームリーダーは岩永くんなので――――」
 流河は笑って言い、持っていた傘を開く。
 その場に走ったのは風だ。
 一瞬で戦闘モードに切り替わった空気に、白倉達も構える。
「岩永くん中心にいきますっ!」
 流河が傘を大きく振るうのと同時に、村崎が宙に浮かせた石の粒が風で舞って石飛礫のように白倉達に降り注ぐ。
 目くらましだ。
「吾妻!」
 白倉に鋭く名前を呼ばれて、吾妻はハッとして周囲を見回した。
 間近までいつの間にか接近していたのは岩永だ。おそらくは流河の転移の力。
 岩永が両手で構えて、吹雪の塊を至近距離で放つ。
「遅い!」
 吾妻はそれを避けると、岩永の手を掴んで動きを拘束する。
 そのまま腹を蹴ろうと足を持ち上げた瞬間、足下が急に不安定になり身体が傾ぐ。
 見ると、足下の床が割れて盛り上がっていた。
 村崎の力だ。
 その隙に風を放って、岩永は逃れる。
「あ!」
 吾妻がしまった、と声を上げた。
 岩永の手には、吾妻の付けていた鬼のお面。
「やっぱ、お前らのチーム足引っ張っとんの吾妻や!」
「ひどい!」
 吾妻から離れた位置に着地して、岩永が笑う。
 吾妻は床を蹴って、岩永に突進した。
 岩永を補助しようとした流河や優衣、村崎をそれぞれの前にいる白倉、時波、藍澤が封じる。
 吾妻が放った赤い業火は、岩永が宙に円を書いて発動させた吸収の力に吸い込まれる。
 一旦距離を取って、吾妻は指先を天上に向ける。
 指先に集まる炎は一気に巨大化し、吾妻が指先を岩永に向けて振るった瞬間、燃え広がりながら彼に向かう。
 岩永は同じように自分の身体の前に円を描こうと指を動かしかけ、途中で留まる。
 すぐに片手を真上にあげ、自分の周囲を円形に、軌道を描く。
 岩永だけではなく、流河や優衣、村崎の全身を覆うように丸く発動した吸収の力が、弾けて四方から襲いかかった吾妻の業火を全て封じた。
 吾妻は驚く。
 今までの岩永は自分の前に吸収の壁を作るだけで、横や後ろからの攻撃に一切配慮していなかったのに。
「優衣くん。フォローお願い!」
 流河はその隙を見逃さず、鋭く叫ぶ。
 優衣が訳も分からないまま、影の力を発動させた瞬間、懐から取りだしたのは今の格好にとても似合いのエアガン。
 優衣の影に向けて放たれた銃弾は、影を通って白倉、吾妻、藍澤、時波の眼前に出現する。
 思っても見ない媒体の出現に、四人とも反応が遅れた。
 刹那、そのプラスチック製の銃弾が爆発して、閃光と突風が溢れた。
 咄嗟に目を瞑ったものの、攻撃が出来ず身動きをまんまと封じられた白倉たちが、やっと視界を取り戻した時には、そこには岩永達の姿はなかった。

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