【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第八章 さよならの森の中で

第二話 それぞれの戦い

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「まんまと逃げられたな…」
 時波がお面を外しながら、誰もいない空間を見やって呟いた。
「逃げるのも反則じゃないから、いいんだけど…」
 それにしても素早い、と白倉は思う。
「まあ、あいつら相手では俺達もただでは済まなかっただろうし、いいんじゃないか?」
「それもそうだな」
 藍澤の言葉に、時波も同感なのか頷いた。
「ところで、予選のルールは訊いたが、一度戦い始めたからといって、勝負が決するまでやらなくてもいいんだな。
 俺はてっきり、会ったチーム全部倒して進まなきゃいけないのかと…」
「あ、確かに」
 いまいちルールを把握できていないらしいのは藍澤も吾妻も同じらしい。
 時波と白倉は顔を見合わせてから、二人を見る。
「そうだったな。二人は初参加だから…」
「俺らも習うより慣れろなとこあったもんな」
 時波と白倉は頷き合う。
「まずルールの基礎はわかってる?」
「…戦闘試験と同じで、HPとエネルギーが底をついたら敗戦(リタイア)だろ?
 チーム対抗だから、全員がリタイアしたら負け」
「そう。
 で、一度戦いだしたからって、最後まで決着つけなくてもいいんだよ。
 考えてみ?
 そんな勝ち抜きみたいなシステムやったら、二、三チーム相手にした時点でエネルギーつきるだろ」
「…あ、そっか」
 藍澤と吾妻は納得したように手を打つ。
 確かに、決着が付くまで戦っていたら、実力が拮抗したチームと二回戦ったくらいでHPもエネルギーも尽きてしまう。それはもう総当たりというか勝ち抜き戦だ。
「やから、逃げるのも手の内」
「なるほど」
 それもそうだよな、と呟く藍澤の隣。
 吾妻の顔を見て、時波は呆れた顔をして、
「しかし、しょっぱなっからいきなり吾妻の面を盗られたのは痛いな。
 統一感がなくなった」
 と、いかにも残念そうに呟いた。
 吾妻は責められている気がして、どきりとする。
 吾妻の鬼の面はさっき、岩永が奪ってそのままだ。
「…たしかに、これやと今回のテーマが台無しやな」
 しみじみといった風の白倉の言葉にはショックを受ける。
 白倉に言われたのがきつかった。
 今回の仮装のテーマは、「妖怪や神様」といった人外イメージだ。
 吾妻一人お面がないのはおかしい。
「なんだ、そんなことなら、ほら」
 藍澤一人が暢気に言って、手のひらを上に向ける。
 藍澤の手のひらに浮かんだ蒼い炎が一瞬で、さっき持っていたものと寸分違わない鬼の面になった。
 思わず三人とも感動の声を上げる。
「さすが藍澤!
 そんなことも出来るのか。すごいわ」
「そうか。無から有を生み出す力だものな…」
「いや、これくらいなんでもない」
 口々に藍澤をほめる白倉と時波に、藍澤は照れくさそうだ。
 吾妻はちょっとおもしろくない。
「ほら、吾妻」
 笑顔で藍澤に渡され、複雑な顔をしてしまいながら受け取った。
 おもしろくない。尻拭いされたみたいでおもしろくない。
「…それにしても、ああいった媒体も可なんだな」
 藍澤は全く気づいていないのか、気づいていてスルーなのか、話題をさらっと変えてしまう。
「ああ、エアガンか。
 あれは驚いたな」
「基本『誰が使っても武器になるもの』以外許可やから、許可だろうな…」
「…ああ、エアガンの弾は普通軽いものな…」
 得心したように藍澤は呟いたが、すぐに顔を引き締めた。
 白倉や時波、吾妻も注意深く周囲を見回す。
 気配がある。自分たち以外の気配が、いつの間にか。
 ジャングルの深い茂みが、音を立てた。



「無事逃げられてよかった~。
 優衣くんグッジョブ!」
 一方、既にフィールドの変化した地点まで逃げた岩永チーム。
 周囲を覆うのはなぜか砂浜。
 遠くに海だ。
 空は晴れ渡り、気温もそこはかとなく暑い。
 そこにマフィアをイメージした黒服が四人。
 場違いだなあ、と岩永は思う。
「グッジョブはええけど、あの状況で運良く『グッジョブ』なアシストできたんは奇跡やで」
「ほんまにな…」
 優衣と村崎は呆れているらしい。
「なんで?」
「お前がエアガンなんて媒体用意しとるとか聞いてないっちゅうねん。
 扇子と傘だけやなかったんかい」
 流河は不思議そうだが、優衣の隣で村崎はうんうん頷いている。
「最初はそう思ったんだけど、数多く持っとくに越したことはないかなあって」
「せめて俺らにはあらかじめ言おうや?」
「岩永くんたちならぶっつけ本番でもうまく合わせてくれるって信じたんだよ!」
 その通り!と流河は楽しそうだ。
 岩永と優衣は唖然とする。
「さっきの、媒体がなにかすら見てへんうちにやったから、合わせたんやなく、たまたま合った、やで?」
「なあ…」
 岩永の言葉に優衣はしみじみ頷く。
「だいたい、そない便利な媒体、一度も使っとるとこ見たとこないで?」
「もっとはよから使っとったらよかったやないか」
 優衣と村崎の言い分に、岩永は内心ホッとする。
 自分が忘れているわけではなかったらしい。あんな媒体に見覚えはない。
「これねー、使いどころが微妙なの」
「微妙?」
 流河はエアガンを持って、優衣に尋ねる。
「これ、普通に撃った場合、敵が超能力で攻撃してきたらどうなる?」
「………吹っ飛ばされる?
 硬いもんに変換しても、そない小さいとなあ…」
「じゃ、俺が普段傘でやる炎や吹雪に変換して放ったら?」
 岩永くん、と指名されて、岩永は戸惑いながら、
「……? ええんやない?」
 と答えた。
「そうだね。
 それなりに使えます。
 ただ、エアガンだから、弾が切れたら詰め替えなくちゃいけないの。
 そうしたら、普通に傘と扇子のほうが楽」
「…ああ」
 岩永は手を打つ。納得した。
「こういった他の誰かのアシストが期待できる状況じゃないと使えないんだ」
「なるほどな」
「俺が転移の力で一気にとばすにしても、二つの超能力を一呼吸なしに使うのは無茶だし」
 ね?使いどころが難しい。と流河。
 確かに、そうだ。
 流河は転移の力を持ってはいるが、転移の力でとばした直後に弾を物質変換するのは難しい。
 二つの超能力は同時に使えない。使うには一呼吸の間がいる。
 それは一つの超能力を一呼吸なく連続して使用するのが不可能なのと一緒だ。
 まあ、なかにはそれが可能な人間もいるのだが。
「でも、俺的には岩永くんにびっくり」
 流河は不意に屈託なく笑った。
「あんな風に力使えるんだ」
「あ、そういえば…」
 流河の言葉に、優衣も思い出したのか岩永を見る。
 村崎も気になってはいたようで、視線を向けてくる。
「いつも前だけの防御だったのに、あんなすごい防御できるんじゃん」
「…あー…」
「すごいなあ」
 流河と優衣に褒められても、岩永はなにか複雑だった。
「嵐?
 なんかあるんか?」
 村崎に鋭くつっこまれて、慌てて笑う。
「いや、ぶっつけ本番やったから、うまくいったんは奇跡かなあって」
「…ああ」
「なんだ、俺と一緒じゃん」
 流河の台詞に、優衣はなにか言いたげだったが黙っている。
 村崎も納得したようでよかった。
 だって、あの使い方、今朝の夢にヒントを得たのだ。
 あの変な夢。もう一人の自分がいる悪夢。
 もう一人の吾妻と戦った。
 そのときに、前だけの防御では駄目だと思った。
 夢なのに、なぜか鮮明に。
「…あれ?」
 岩永は今頃気づいて小さな声を漏らす。
 さっきの吾妻。
 巨大な炎をいくつも小さく分裂させて四方から攻撃するなんて、いつもの吾妻じゃ絶対しない。
 あいつは力業ばっかりだ。
 それにあの攻撃の仕方は、まさに自分が夢で見たのと同じ。
「嵐?」
 考え込んでいると、村崎に心配そうに肩を叩かれた。
「あ、なんでもないねん」
「…ほんまにそうか?
 顔色が悪い気がしたわ…」
 意外に鋭い村崎にぎくりとしながらも、なんでぎくりとするんだ?と岩永は思った。
 あれは、自分だけの夢なのに?
 現実じゃないのに?
「ともかく、平気。
 あと暑いから」
「ああ、ここリアルだよね。俺たちすっごい場違い」
 流河も同じことを考えていたらしく、笑って頷く。
「砂浜で遊ぶマフィアってないなあ。
 特に村崎くん」
「ああ」
 優衣も同意なのか、軽く笑みを浮かべた。
 意識がそれてくれて、岩永はホッとする。
「砂浜で遊んでるより、薄暗い部屋で銃いじってるのが似合うよね。
 ああ、そうだ」
 流河は村崎に近寄って、その手に持っていたエアガンを握らせる。
 その似合いっぷりに流河と優衣はげらげら笑った。
「あ、村崎」
 岩永がふと手に持ったままだった吾妻の鬼の面を、村崎の顔にかぶせてみる。
 また爆笑が起ことた。
「似合うけど、服装が和服やないとおかしいな」
「やんな。若干違和感が」
 マフィアなら鬼より悪魔だろう、と優衣は言う。
 村崎は鬼の面を外して、やはり複雑そうだ。
「まあ、そんな遊びはさておき、海辺はたいていみんな似合わないよ。
 水着の仮装なんて絶対ないもの」
「まあなあ」
 複雑そうな村崎から銃を受け取り、流河は砂浜の向こうの堤防を見やる。
 その向こうに木々の並んだ道路。
「その点で、君たちも似合わないよ。
 こ・こ」
 シニカルな笑みを浮かべて流河が放ったエアガンの弾は、道路のほうに向かう。
 優衣が影を操り、流河の撃った弾を飲み込んで、道路に生えている並木の側に出現させた。
 瞬間、弾が弾けて大きな吹雪が吹き荒れるが、それは一瞬でその場を覆った風に吹き飛ばされる。
 これだけ巨大な風を操れる生徒は、知り合いには一人しかいない。
 風が去った場所には、四人の男の姿。
 四人は地面を蹴って、砂浜に着地する。
 その格好に、岩永達は絶句した。
「……わーあ、マニアック」
 流河がかろうじてコメントする。
 相手は夕のチームだ。それはわかっていたが、この仮装は予想外。
 夕は眼鏡まで装着した医師の衣装で、白衣の裾がはためいている。
 明里も医師の格好だ。白衣のポケットに両手を突っ込み、やる気が一見なさそう。
 その側にいる目つきの悪い男は三年一組のクラスメイトで、間久部まくべ哲也てつや
 男性看護士の衣装だ。
 そこまではいい。
 問題は、そのとなりに立つピンク色の髪の眼鏡の男、白野はくの月花げっかの格好。
「白野……………なんでナース?」
 岩永が嫌そうな顔をして、どうにかつっこんだ。
 白野の格好は、ストッキングから靴まで完璧なナースだった。
「もちろん、やりたかったからよぉ。
 嵐くんにお注射したげるー!」
「いらんわあほ」
 身体をくねくねさせながら、白野はハイテンションだ。
 いつものことだ。
「あ、静流さんもすてき!
 やけど、今日のアタシの気分は理人くん!
 抱いてっ!」
「……………名前で呼ぶの、やめてね?」
 流河もものすごく嫌そうだ。
「白野!
 俺がおるやないか!」
 不意に間久部が進み出て、白野の肩を掴むが、振り払われた。
「触らないでくれる? ただの見習い看護士が」
「そんなあ! この設定にしたん白野やんか!」
「医師って柄かお前!」
 間久部には打って変わって冷たい白野の態度は見慣れたもので、本気か演技かもわからない。
 ただ一つわかるのは、
「そろそろ、その前ふりはいらないんじゃない?」
 流河は笑って言う。
 笑顔は上辺だけで、警戒している様子がすぐにわかる。
「短いつきあいじゃないんだから、そんな小芝居で油断するひとはいないよ?」
 流河だけではなく、岩永も優衣も村崎も、暢気に構えている風でいて、実際は気を張り巡らせ、いつ攻撃が来てもいいよう備えている。
 白野は笑ったが、さっきまでの明るい笑みではなく、妖しい微笑みだった。
「…まあ、そもそも油断してもらおうなんて思ってないわ。
 そんな簡単な子たちやないもの。あなたたち」
 夕と間久部が、白野と明里の前に立つ。
 明里は二人の背後で構えた。
「なるほど、前衛は夕と哲也か。
 ま、妥当やな」
「そっちは流河くんと嵐くん?
 そっちこそ妥当ね」
 白野の姿は夕と間久部に隠れているが、きっとさっきみたいな笑みを浮かべている。
 妖しく、恐ろしい。
 それが、白野という男。
「ほな、行くわよ。
 恨まないでね」
 夕や明里より、やっかいなのは彼だ。

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