【完結保証】超能力者学園の転入生は生徒会長を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)

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第八章 さよならの森の中で

第四話 引き金を引け

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 周囲を取り囲んだ四人の男の姿に、白倉たちは身構える。
「よう。ここで会うとは奇遇やの」
 漆黒の軍服を身にまとった九生、山居、久遠、赤目だ。
「…どういうことだ?」
 白倉は眼前に佇む九生を睨んで、口を開く。
「お前ら、第三ブロックだったはず…」
「ああ、恒例の調整があっての。
 俺ら以外にも第二ブロックに変更になったチームおるぜ」
 知らなかったか?と九生は笑う。
 知らなかった。
「いろいろあったからチェックしそこねた…」
 痛恨のミスだ、と白倉は思う。
「出会ってしまった以上、戦うしかないんだろうな」
「当たり前じゃ。
 見逃してくださいではいって頷くほど優しくないぜよ」
 お前もじゃろ、と言われ、時波はあまり表情を変化させないまま、軽く頷く。
「しかし、似合っとるのう。
 白倉、どうせなら巫女やったらよかったじゃろ」
「冗談っ!」
 白倉が思わず叫んだ瞬間、九生の頬を飛んできた閃光の刃がかすめた。
 時波だ。
「九生。そういった冗談はやめてもらおう。
 喜ぶのは吾妻だけだ」
「…ああ、そうじゃの。
 妄想したんか顔が気持ち悪いわ」
 九生は軽くひいていたが、その表情は時波ではなく吾妻に向けられていた。
 白倉と時波はそろりと吾妻を振り返って、白倉は見なかったことにして視線を九生に戻し、時波は吾妻の頭を思い切り叩いた。
「さて、前置きはさておき、きちんと戦おうぜ」
 九生は軽く腰を落として、構える。
 強気に微笑んだ。
「白倉や時波と戦ったことはあんまりないしの。
 白倉ともバトル鬼ごっこが最後じゃし、邪魔入ったしの」
「……やめて。
 そういう言い方するとまた邪魔入るぞ?」
 白倉は軽く青ざめてとがめた。
 九生もそう思ったのか口をつぐむ。
「…邪魔?」
 しかし、その一件を知らない赤目と久遠が話を終わらせなかった。
「邪魔ってなんだよ。九生」
「……」
 久遠に問われて、九生と山居、白倉は複雑な表情で黙り込む。
「邪魔ごと倒してしまえばいいじゃないか?」
 そもそも“彼”の恐ろしさを知らない藍澤が屈託なくつっこんだ。
 同じく知らない吾妻が「あっさり不穏なこと言うねえ」と呟く。
「……マジ邪魔入るからやめねぇ?
 この話題」
 九生は青い顔で真剣に言う。
 言い出したのは悪かったから、と。
「その邪魔は、具体的に言うと“噂をすれば影”の典型と言いますか、流河くんいわくのジョーカーと言いますか、…赤目くん、君をバトル鬼ごっこでリタイアさせた人ですよ?」
 同じく必死な顔をした山居に視線を向けられ、赤目は数秒凍り付いたあと、ざあっと青ざめた。
「やめましょ! この話題!
 サタン呼んじゃだめ!」
 首を左右に振って泣きそうに訴える赤目に、吾妻と藍澤以外の全員がそれが誰かを理解した。
「…そうか。そういうことならやめとこうぜ。
 試合始めようぜ」
「そうだな…」
「な」
 久遠の言葉に、時波も白倉も賛同する。
 吾妻と藍澤だけ、意味がわからないが、藍澤は空気を読んで追求を諦めた。
 吾妻は不満げだ。
「じゃ、いっちょ派手にやるぜ!」
 久遠は頭を切り換えたように不敵に笑って、持っていた鞄からヴァイオリンを取り出した。
 赤目、山居が同時に手を一閃させる。
 白倉たちがしまったと思った時には遅い。
 久遠の奏でるヴァイオリンの音色は、そのまま攻撃だ。
 四人全員の三半規管を揺さぶる。
 そこに赤目の操る幻覚と、山居の超能力が襲いかかった。
 身体の感覚を一瞬見失う。
 瞬きの後には、立っていたのはジャングルではなく、西洋の城の一室だった。
 大きな広間には高そうな絵画、シャンデリアに様々な装飾品。
 その室内にいたのは、白倉と九生だけだった。
「やるな。
 久遠くんの能力で三半規管を狂わせ、赤目くんと山居くんの能力で視覚を狂わせ、お前の能力でトリプルツリーのシステムに介入。
 分散するようなフィールドに変更する、か」
「さすが、白倉。
 その通りじゃ」
「チーム戦、じゃなかったん?」
「それはそうじゃが、たまには一対一でやってみたくての」
 九生が手を軽く振った。
 彼の周囲を、閃光の粒子が踊る。
「安心しんしゃい。
 操ったりはせんぜよ」
「…全く、仕方ない奴だ」
 白倉は息を吸って、九生を見据える。
「せっかく、山居くんが側におるんにな!」
 一瞬で九生の頭上にいる白倉にも、慌てずに閃光を放つ。
「山居は関係ないぜよ」
「またお前は、そんなことを!」
 白倉が繰り出した蹴りを腕で防いで、着地した白倉が放った拳を躱す。
 白倉の顔を狙って撃ったレーザーは避けられた。
 白倉は接近したまま、次々に拳や蹴りをたたき込んでくる。
「超能力で戦うべきじゃないんかの」
「お前相手に下手な鉄砲数撃ちゃで通用するか!」
「それもそうじゃ」
 白倉は大きく踏み込んで、鳩尾目掛けて足を振り上げる。
 九生は後退して避けた。それを読んだかのように、一閃した白倉の足から放たれた圧縮された念動力を、九生は更に背後に大きく飛んで躱す。
 九生が立っていた場所が大きく陥没した。
「だいたい、お前は山居くんのことどう思ってんだよ」
「それこそチーム戦に関係ないじゃろ!」
 遠く離れた位置に立つ白倉を睨んで、九生は思わずムキに叫んでしまう。
 だが、瞬きの間に眼前に飛び込んできた白倉に目を瞠った。
「その割に、顔が赤い」
 白倉は悠然と微笑んで言い、九生の顔面に圧縮した念動力をぶつける。
 九生は不意打ちで数メートル吹っ飛ばされ、壁にぶつかるところだったが、うまく宙で回転して壁に足を着き、蹴って前に飛ぶ。
「ほっとけ。
 山居のことは、それこそ俺の問題じゃき」
 九生の周囲を舞う粒子全てが輝き、一気に大きくなって白倉に向かいレーザーを撃った。
 一度に膨大なレーザーを撃たれ、白倉は咄嗟に足を止めて自分の周囲に念動力のバリアを張る。
 念動力のバリアにぶつかった閃光のせいで、完全に視界がふさがれる。
 一面白い光だ。
 一瞬馴染んだ気配を背後で感じた気がして、白倉は思わず振り返る。
 バリアを解いて真空波を放ったが、真空波がかき消される。
 拳を振りかぶった九生の姿が見えた。
「お前は首つっこむな!」
 若干怒った表情で、九生はひときわ大きなレーザーを放つ。
 白倉は背後に飛んでかろうじて躱した。
「ははっ。
 そんな怒るならな、俺と吾妻のことかて首つっこむな」
「吾妻は山居とちごて、信頼がないからのぉ。
 お前を幸せに出来るかもわからん男に妹が引っかかったら、そら口出しするぜよ」
「あのな、吾妻は信頼できるぞ?
 強いし優しいし、かっこええぞ?」
「お前はだまされとるんじゃ。
 あのぼさぼさ頭の、女とっかえひっかえで来たようなタラシに惚れるような人間に育てた覚えはない!」
 九生と白倉は向き合ったまま、一定の間合いを取って、にらみ合っている。
 もちろん、室内には二人だけで、邪魔はない。
「九生に吾妻のなにがわかる!
 それ以上言ったらほんと怒るぞ!」
「わかるわ!
 同棲したその日にぱくって喰いよって! マジで好きなら三ヶ月は我慢してみせろっちゅうんじゃ!
 ふがいない!」
「俺は魚の餌か。
 別にいいだろ!」
 白倉は怒鳴ってから、不意に頬を赤らめて、
「…吾妻、テクニシャンだったし」
 とぽつりと言う。
 九生の顔が鬼のように険しくなった。
「あいつ、やっぱり倒す!
 今日中にぶったおす!」
「させるか!
 第一、俺はお前に育てられた記憶はない!」
「今そのツッコミ!?
 とにかく認めん!
 吾妻とつき合いたいなら、俺と時波の屍を越えて行け!」
「それこそ今更!」
 一度は旗を巻いておきながら、と白倉は叫ぶ。
 誰も他にいないので、「戦いは?」とつっこむ人がいない。
「九生こそ、山居くんとすることしないでいいんかなあ。
 どっちが下?」
「そんな卑猥な言い方どこで学んだんじゃ!
 おのれやっぱ吾妻か!」
「それは違うけど、山居くん、もしかして、昔彼女いたりして…」
 レディファーストなんて当たり前だもんな、と白倉が意味深に呟いた言葉に九生が固まった。
「いいの?
 しないで」
 白倉は不敵に笑い、床を蹴った。
 九生は咄嗟に構えるが、頭が半分留守だ。
 白倉が大きくジャンプして足を振り上げる。
 九生は腕で弾いて、そのまま足を掴んだ。
 白倉の身体に直接たたき込んだ超能力に、白倉は小さく悲鳴を漏らして宙づりになった身体を震わせる。
 そこに蹴りをたたき込むはずが、白倉の姿は一瞬で消えた。
「え……」
 消えた?
 いや、白倉に転移の力はないはず。
 背後に感じた感覚に振り返る暇なく、頭に蹴りをたたき込まれた。



「はじめから一対一か」
 一方、長い廊下で向き合うのは時波と山居だ。
「ええ。チーム戦ですが、九生くんの意向で」
 間合いを取って佇む山居は微笑む。
「それはいいが、九生の相手は吾妻か?」
 時波は真顔でそう尋ねてきた。
 山居は若干困惑しながら、
「いいえ、赤目くんで…」
 言いかけて、絶句した。
 時波の表情が、ものすごく残念なものに変わったからだ。
「せっかく、吾妻を合法的に葬る機会だったのに…」
 はああ、と長いため息と一緒に呟く時波。
「…味方では?」
「ルール上は」
「………」
 はっきり言い切る時波に、山居は一瞬黙って、複雑そうな顔をする。
「本当に仲がいい」
 さりげなく言ったつもりだったが、時波は鋭く、
「九生のことなら、好きにしてくれていいぞ。
 お前なら文句はない」
 と言ってきた。
 山居の顔が微かに染まる。
「でも、子どもですから」
 九生くんは、と言って、山居は構えを取る。
「ほんとうに子どもかは、お前にはわからないと思うがな…」
「どういう意味です?」
「男が好きな相手に用意するものはなんだと思う?」
 時波は大真面目に言って、手で山居を招く仕草をする。
 攻撃を誘う。
 山居は息を吐いた。
「わからないので、あとで教えてもらえますか?」
「しかたない。
 九生に怒られない程度になら」
 二人同時に踏み込んで、床を蹴った。



 ヴァイオリンの音色で発生した衝撃から避けて、藍澤は広場の地面に着地する。
 西洋の城の前の大広場だ。
「俺は本当に初めてだから、こんなすごい場所ってだけで驚きなんだ。
 見る暇をくれ」
「そんな暇やるかよ」
 久遠はヴァイオリンを肩に乗せたまま、噴水の縁に立つ。
「お前はSS候補。
 隙を見せたらやられちまう」
「あくまで、候補でなるかもわかってないんだがな…」
 藍澤は呟いたあと、微笑む。
「しかし、そういった攻撃はおもしろい。
 媒体というのは様々だな」
「…ああ。
 俺は歌いっぱなしだと疲れるんでな……それがなんだい?」
「…やってみたら、楽しそうだ」
 藍澤は意味深に笑い、蒼い業火を発生させる。
 久遠が身構え、ヴァイオリンを奏でる。
 久遠の腕はかなりのもので、聞き惚れそうな演奏だが、聞き惚れていられる状況ではない。
 音色が衝撃波となって、藍澤に襲いかかる。
 藍澤の周囲を踊る蒼い炎が集まり、藍澤の手で形になる。
 それに、久遠は息を飲んだ。
  藍澤の手には、自分の持つものと全く同じ形のヴァイオリン。
 藍澤は見よう見まねのようにつたなく音を奏でる。
「おい、まさか…」
 久遠は咄嗟にヴァイオリンを弾き、衝撃波を生み出す。
 その衝撃破にぶつかり、吹き飛ばして噴水を破壊したのは、同じ音色で生み出された衝撃波。
 久遠は離れた位置に着地したが、表情はおだやかではない。
「うそだろ……」
 自分の能力、そのままそっくりまねするなんて。
「やってやれないことはないんだよ。
 こういうことはな」
「………馬鹿にしてんじゃねえよ。
 普通にやった方が強いだろぃ?」
「馬鹿にしたつもりはない。
 楽しそうだ、と思っただけだ」
「…いいぜ」
 久遠は一呼吸して、ヴァイオリンの弓を強く握る。
「その余裕、後悔させてやる」




「正直、君とは戦いたくないなあ…」
 そのころ、城の異なる中庭で、吾妻は赤目と向き合っていた。
「安心してくださいよ。
 少なくとも蜘蛛見せたりはしませんから。
 俺の方が大変だし」
 赤目は一定の距離を取って佇み、構えている。
「それは助かる」
「あんたのためじゃないし」
 赤目は素っ気なく言って、ふと吾妻の顔をじっと見つめた。
「あーあ、惜しいなあ。
 女ならほんと、美人なのに」
「僕は元々美形だよ」
「男の美形見たって男はおもしろくないでしょうよ」
 赤目の発言に、吾妻はくわっと瞳を見開いた。
 赤目が思わず引く。
「僕は白倉見てたらなんでもできる」
「…ああ、白倉さん?
 それは恋愛感情があるからでしょ。俺は別に」
 まあ、美人だとは思うけど、と付け足したら吾妻に睨まれた。
「…めんどくさい人っすねえ」
「は?」
「言われません?
 恋人を見るなとか惚れるなとか自分のものとか主張して独占欲発揮しといて、全く興味示さないとそれはそれで文句を言う。
 まるで妹溺愛したシスコン兄貴みたい」
 半眼になった赤目の台詞に、吾妻は言葉を失ったあと、思わず考え込んでしまう。
「……赤目」
「……はい?」
 長い沈黙の後、なんとなく待ってしまう赤目に声をかけ、真顔で、
「九生と時波って、そんなタイプか?」
 と尋ねた。
「…知りませんよ!
 本人に聞いたら? っていうかあんた知ってんじゃないんですか?」
 まさに妹溺愛した兄貴から妹奪った人間なんだから、と言えるあたり、赤目も「白倉と時波と九生」の関係は知っているらしい。
 まあ、九生チームの人間なんだから当然か。
「だけど、あいつらとはいつも『白倉は僕の!』て感じでしか争ってないから、僕が興味ないとか言ったらどうするのか、って」
「…じゃあ、そう言ってみたらいいじゃないですか」
「白倉にそんなこと言えない!
 今でも白倉んこと考えない時間はないよ!」
「……チーム戦本番くらい、試合に集中したらどっすか…」
 赤目は呆れてしまい、内心「藍澤さんのほうがよかったなあ」と思った。
「てことで、さっさとお前倒して白倉のとこ行くよ!」
 さっきまでのアホなテンションはどこへやら、一瞬で業火を周囲にまとわせた吾妻に、赤目は軽く構えを取ったまま、
「じゃ、今会わせてあげますよ」
 と囁いた。
 吾妻が間髪入れずに放った業火から素早く逃げ、赤目は地面を蹴る。
 自分からつっこんできた赤目目掛け、吾妻は巨大な炎の弾を生み出す。
 赤目に向かった炎の弾は、足を止めた赤目の手前で無数の小さな弾に分裂して、赤目を包囲する。
 赤目は口笛を吹いて、軽く右手を振るう。
 瞬間、迫ってきた無数の弾は、赤目から少し離れた位置で全て弾けた。
 空気を揺さぶる衝撃が吾妻の方まで響いてきた。
 赤目は悠然と佇んでいる。
「……お前の力、幻覚だけじゃないね?」
「そりゃそうっすよ。
 そうじゃなきゃ、前線で戦えないじゃないっすか。
 チームメイトに守られっぱなしなんて、ガラじゃあるまいし、ごめんっす」
 赤目は笑って言い、不意に真面目な顔をして、
「まあ、なかには裏ボス級の強さで、裏ボスみたく最後まで出てこないで味方任せ、な人もいますけど?」
 と呟く。
「…裏ボス?」
「最近のゲームって、ラスボスよか裏ボスが半端ないし」
 吾妻はあまりゲームをやらないから頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
 右目を悪くしてからは特にだから、さっぱりわからない。
「誰?」
 とりあえず、NOAの誰かだろう、強い奴だろう、と判断して尋ねる。
「さっき話題に出たでしょ。…あ、名前は出てなかったか…」
「……?」
 さっき?
 あのみんなが異常に怖がっていたあれか?
 しかし、誰のことだかさっぱりわからない。ヒントが少なすぎる。
 赤目をバトル鬼ごっこで負かした? 知らない。
 噂をすれば影? そんなの時波と九生じゃないのか?
 あとは、流河がジョーカーとか、
「あ」
 そこでやっと思い当たった。
 五月頃に、流河が言っていた。
「化野?」
 赤目は、「知ってんじゃないですか」と目を瞠った。
「いま思い出して……あれが?」
 確かに一度とんでもないプレッシャーを感じたし、九生にも戦うなと忠告されたが、どう見ても儚げな美貌の優男だ。
「…女になったらまさに清楚可憐って感じの奴じゃない?」
「うわあ! なんて恐ろしいこと言う人っすか!?
 NOAが滅亡しかねないこと言わないでください!」
 赤目はなぜか一瞬で青ざめて悲鳴のような声を上げた。
「……あの人のことだから女の武器は最大限活用するし、見た目だけはほんとに清楚可憐だろうし、中身そのままだし…。
 メリーさんの着信より恐ろしい…」
 本気で怯えているらしい赤目に、吾妻はまたクエスチョンマークを浮かべる。
 なぜそこまで怯えるんだ。
 赤目は困惑する自分に気づいて、ため息を吐き、真剣な眼差しをした。
「あのですね、吾妻さんと藍澤さんはいまいち、あの人の恐ろしさってもんをわかってないっすけど、あの人を敵に回すなんてことは、世界で一番無謀なんです」
「……だけど、ただの高校三年生一人だよ?」
 赤目はまたため息。
「……怖い者知らずも過ぎると破滅するっすよ。
 くれぐれもあの人の逆鱗に触れないでください。巻き添え喰うのは勘弁ですから」
「……」
 わけがわからない。
 しかし、赤目が本気で怖がっているのはわかる。
「まあ話を戻すと、吾妻さんが見たいのはこういう白倉さんでしょ?」
 赤目が唐突に明るく言った途端、目の前に現れたのはとんでもない美少女だった。
 白金の髪に、翡翠の瞳、きめ細かい白磁の肌。
 それなりに豊かな美しい胸と、綺麗な足をしたNOAの女子制服をまとった少女は、いつもより少し高い声で、上目遣いで吾妻を見上げて、
「吾妻、…キスして?」
 と言った。
 吾妻の思考は急ブレーキで固まる。
 どっからどうみても女版白倉。
 かわいい。かわいすぎる。
 幻覚だというのはわかるが、目をそらせないくらい反則だ。
「……可愛いっ」
 いや、きっともっと、本物の女になった白倉はかわいい。
 美しい。
 そして、同じようにかわいらしく愛らしく、自分に同じ台詞を――――。
「白倉っ! 愛してる――――っ!!!」
「うわっ!!」
 隙だらけだと思って、間近まで接近して攻撃しようとしていた赤目は急に伸びた吾妻の腕に抱きしめられ、悲鳴を上げた。
「白倉!!」
「え、うそ、ちょっ、」
 吾妻の顔を掴んでひっぺがそうとしても、体格差は歴然。
 吾妻は幻の女白倉にキスしようとしているらしいが、実際されそうなのは赤目で、赤目は青ざめて叫ぶ。
「俺は白倉さんじゃねー!」
 どうにか身をよじって腕から逃げ、吾妻の顎を渾身の力で蹴り上げる。
 その衝撃で幻から覚めた吾妻は、「あれ? 白倉?」と間抜けな声を上げる。
 遠くまで逃げてから、赤目は心底誓った。
「もう二度と、この人には幻覚使わねぇ…!」
 結局、えらい目にあった。



 九生は目を疑った。
 白倉に転移の力はないのに、一瞬で消えたのだ。
 どういうことだ?
 白倉は間合いを計って、不意に微笑む。
「そういえば、システムとはいえ、物質だもんな…」
 そう呟いて、衝撃波を放った。
 九生は手に閃光を生み出し、衝撃波を弾く。
 だが、白倉は衝撃波を連発した。
 次々に飛来する衝撃波はまともに喰らえば地面に押しつぶされる代物だ。
 どうにか躱す九生の頭上のシャンデリアが不意に傾いだ。
 九生がハッとしてそちらを見上げた瞬間、天井そのものが壊れて床に落下してきた。
「…っ!」
 その場に踏ん張って、自分の全身を電磁波で覆う。
 降ってきた破片を粉々に吹き飛ばした。
 だが、それで終わらない。
 九生が向いた先、間近に接近していた白倉が振り上げた足から、間一髪顎をのけぞらせて逃げる。
 レーザーを放つと、白倉はまた消える。
 遠くに現れて、にっこり微笑む。
「…どういうことか説明が欲しいの?
 自分、転移系の能力はなかったじゃろ?」
「わざわざ教える敵がいると思うか?」
「思わんが」
 白倉はにこにこ笑っていたが、ふと真顔になる。
「お前こそ、なにを手加減してんの?」
 白倉の言葉に、九生は沈黙した。
「操らんでも、脳への干渉はできるだろ?
 手ぇ抜いてくれてんのかなあお兄ちゃん?」
 挑発するように笑う白倉を見据えて、九生は薄く笑む。
「そのつもりはなかったが、…そうじゃの。
 そこまで言うなら遠慮はせんぜよ」
 白倉が笑みを引っ込めた瞬間、身体が金縛りにあったように動かなくなる。
 脳に対する干渉だ。
「お前のリクエストじゃ。
 たまには喰らっときんしゃい」
 九生は白倉を真っ直ぐに指さして、その指先に力を集める。
 眩しく輝く指先を白倉に向けたまま、九生ははっきりと声にする。
「穿て!」
 瞬間、指先から放たれたレーザービームは、今までのレーザーとは比べものにならない威力。
 直撃すれば確実にHPは半分は削られる。
 当たるかに見えた白倉の姿は、寸前で消える。
 九生は予期していたのか、ポケットから一つのコンパクトミラーを取り出した。



 一瞬で二人に分身した山居の二つの蹴りを、時波は躱して、閃光を放つ。
 山居が自身の前に生み出した巨大な鏡が、それを反射した。
 そのまま時波に返ってきた閃光を、時波は手づかみで捕らえ、吸収する。
「…やはり、分が悪いですね」
「引くのか?」
「先ほどの答えは気になりますが、まあしかたありません」
 山居はポケットに手を入れ、微笑む。
「それに、呼び出しがかかりましたしね」
「…っ」
 時波が察して目を瞠った時には、山居の手に握られていたコンパクトミラー。
 その場からあっという間に山居の姿は消える。



 九生の頭上に現れ、手を振り上げた白倉は思わず自分の周囲に念動力の壁を作った。
 その壁にぶつかったのは、レーザーだ。
 九生ではない。が、真下の九生はこちらを見上げて笑った。
 白倉は一瞬でその場から消え、九生から離れた床に出現する。
「脳を操れるっちゅうことは、思考をある程度操れるっちゅうことじゃ」
 九生の言葉にハッとした。
 自分の正面に九生。背後にはおそらく山居。
 山居の能力は「鏡」。
 優衣のように、鏡の中から鏡へと、空間を飛び移動できる能力がある。
 そして、九生ならば脳に干渉し、自分が現れる場所を指定できた。
 九生と山居は声をそろえ、叫ぶ。
「穿て! 魔弾よ!」
 二つのレーザー。逃げる隙はない。
 だが、白倉は不敵に笑った。
 二つのレーザーがぶつかる瞬間、白倉を覆ったのは紫の業火。
 九生と山居は目を瞠る。
 炎の向こうに立つのは、白倉と時波、そして二人を守るように炎を操る、吾妻と藍澤。
「…そうか」
 九生はようやく、白倉の「消える」能力の正体を知る。
「そ。俺のは、『時間操作』。
 自分らの時間だけを止めて、移動しとるだけや」
 白倉は得意げに言う。
 その白倉を抱きしめて、吾妻は恍惚とした顔で、
「…白倉、今度開かずの間行こうな」
 と言った。
 白倉はきょとんとする。
「それで、白倉を女の子に…」
 白倉の左手を取り、甲に口づけしようとした吾妻の顎を下から時波が殴った。
 同時に顔面を撃ったのは九生のレーザーだ。
「…せっかくかっこよく決まったのにお前は」
 白倉が呆れて軽く叩けば、吾妻はまだ幸せそうな顔のまま頷いた。
 わかってるか怪しい。
「…まあ、ええわ。
 そん馬鹿はあとでお仕置きじゃ」
 九生はため息を吐いてそう言う。
「どういう意味だ」
「今ここで決着つける気はねぇって意味じゃ」
 時波に睨まれ、九生はおっかなそうに首をすくめながら言う。
 瞬間、その場の城の風景は消え去り、白倉達はさっきまでいたジャングルの中に立っていた。
 九生達はどこにもいない。
「……本気じゃない、ってか」
「あいつらしいな」
 本戦で決着を、ってことか、と時波は呟く。
 そして、まだ白倉を抱きしめている吾妻の顔面をお面ごと殴った。

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