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第九章 胡蝶の夢
第一話 飛べない二人の鳥
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あるバーの奥のテーブル。
一人で腰掛けて、テーブルの上にあるグラスの中身を時折口に運んで、誰かを待っている風でもなく、煙草を吹かす。
亜麻色の長い髪に、碧の瞳。
整った男らしい顔立ちには眼鏡。
いかにもアウトローな黒を基調とした衣服に、立ち上がらずともわかる長い足。
肩幅も広く、優男という風でもない。
バーにいた女性達は時折、彼に視線をよこす。
最初、彼が現れた時こそ、誰か待ち合わせの相手でもいるのではないかと皆、遠慮していたが、彼が店にやってきて二時間が経過し、彼が一人だと判断した積極的な女性客の二人が、テーブルの傍にやってきた。
「あのー、もしよかったら一緒に飲みませんか?」
そこそこ肌の露出した衣服の、充分綺麗な顔立ちの女性二人。
二十歳前半くらいに見える女性二人を見上げて、彼は一言、声を発したが女性達には届かなかった。
女性達が「え?」と聞き返す。
男は視線を向けたまま、もう一度はっきり声にする。
「うっさい。
鏡見て出直せ」
女性達は耳を疑った。
どう聞いても暴言だが、そこまで男を怒らせるほど会話をしていない。
くわえて、どう見ても理知的で穏やかそうに見えた男の口から、そんな汚い言葉が出てくるなんてまさか予想もしていなかった。
一瞬、言葉を失って固まった女性達だが、すぐに我に返って男の失礼な物言いを責めようとした。
だが、声を失う。
言葉が見つからなかったのではない。
男がよこした殺気のこもった視線に、身体が竦んで声を発せなくなってしまった。
男が右手に持っていた煙草の先端を女性達に向ける。
瞬間、煙の上るフィルターから飛び出した閃光に、思わず目を瞑った。
「こーら」
穏やかで間延びした、男よりも高めの声は、背後でした。
「女の子にそんなことしたら駄目だから」
独特の訛のある声は、男を軽くたしなめた。
女性達が目を開けると、傍にはとんでもなく長身の男が立っていて、そのでかさにびっくりした。
癖の強い黒髪に黒い瞳の、自分たちに暴言を吐いた男よりも遙かに大きな身体をした、精悍な顔立ちの美形。
肌は浅黒い。
黒ずくめの格好をした大男は、女性達を見て申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんな。
こいつが失礼なこと言って。
今、こいつ機嫌悪いんだよ」
優しい声音と笑顔に、女性達は安堵した。
こちらの男は友好的だ。
「お詫びにこれあげるから、本当すまんね」
大男は両手に持っていたカクテルの入ったグラス二つを女性達に手渡し、また笑うと座っていた男の腕を掴んで立つよう促す。
「悪目立ちしてるから、出よ」
大男に言われて、彼は不機嫌そうに大男を睨んだが、素直に従った。
「探してたんだよ。
そしたらバーなんかにいるし、やけに機嫌は悪いし、あんたはなにしてるの?」
「うっさい、死ね」
暗い街の道を歩きながら、吾妻は速攻返ってきた暴言に「相当キレとう」と思った。
普段は自分より冷静で計算高い岩永は、今夜に限ってやけに荒れている。
「ていうかね、あんたまだ十七歳でしょ。
なにを平気な顔して酒飲んで煙草吸ってるの」
「うっさいな。黙れ大木」
「………あんたはタチの悪い酔っぱらいか…」
さすがに呆れて吾妻が呟くと、岩永はそのときだけきょとんとした顔をして、
「酔っぱらいやろ?」
と自分を指した。
「あんたはザルだろ…。
ふらつきもせん奴が言う台詞じゃないよ」
岩永の足取りは非常にしっかりしていて、真っ直ぐ歩いている。
酔っぱらいには違いないのだが、彼が他人に見境なく八つ当たりするほど正体をなくした時を見たことがない。
どうせグラス一杯くらいしか飲んでないのだろうし、そんなの彼にとって「酔っぱらった」うちに入らない。
「殺すぞおまえ」
「…はいはい、あんたはなんでそんな荒れてるかね…」
いや、あるいみ酔っぱらっているけど。
ここまで暴言しか吐かない岩永もなかなか見ない。
「ちゅうか、俺を探しとったってなんやねん。
おまえがここ数日音信不通やったんやろ」
「まあそうだから、僕の方にも都合があったんだよ」
「なんやそれ。
吐け。今すぐ洗いざらい吐け」
「……ごめん。あんたやっぱり酔ってるだろ」
なんでそんなに会話を急ぐのかわからない。
理性というものが今の彼にはないようだ。
そういう意味で酔っている。
「やから酔っとるっちゅうねん」
「はいはい。
なんであんたはそんな機嫌悪い?」
「俺の質問が先やハゲ」
「…誰がハゲかな……」
吾妻は段々諦めてきた。
今夜はどうも岩永はこんな調子らしいし、黙って酔いが醒めるのを待つしかないな、と思った。
吾妻と岩永の足が、不意に止まる。
背後で響いた靴音に、そろって振り返る。
「どうもこんばんは」
そこに佇んでいたのは、若い男四人だった。
それぞれ流行の服装で、いかにも軽い男と言った雰囲気。
「さっき、店に俺らいたんだけどさ、そっちの眼鏡のお兄さんが使ったの超能力だろ?」
吾妻は内心「見られていたか」と岩永を恨みたくなる。
岩永が女性達に超能力を使ったのは、自分の身体で隠されて他の客には見えなかったはずだし、超能力は自分が消してしまったから問題はなかったはずだった。
「俺達もそうなんだよ。
で、お兄さんたち強そうだからさー、相手してくんないかなーって」
なるほど、あちらの四人も今の岩永みたいに酔って荒れているらしい。
手っ取り早く発散したいだけだ。
「悪いから…」
遠慮したい。
男達を恐れてはいない。全く。
ただ、今の岩永だと、男達を本気で殺しかねないから――――。
「ええよ」
吾妻の心配通り、岩永は軽い口調でそう言って、男達の方に一歩踏み出した。
「岩永っ!」
止めようと伸ばした手は、空を切った。
岩永は一瞬で男達の眼前に移動している。
瞬間、三人がその場に倒れた。
腕や足が、胴体から切断されて地面に転がり、血が噴水のように流れ出している。
唯一、状況を把握できず立っていた男の右手の指も、全てなくなっていた。
一瞬で現れて消えたかまいたち。
男達のレベルでは目で追うことすら出来なかっただろう。
「うわあっ!」
ようやく状況を把握した男が青ざめて叫ぶ。
左手に握っていたナイフを振るうが、岩永の手が素早く捕らえた。
抜き身のナイフの刃を掴んで奪い捨て、岩永は男の顔面に手を伸ばした。
その腕を、追いついた吾妻が掴んで止める。
「こら、やめなさい」
いとも簡単に岩永を止めてしまった吾妻を、男は腰を抜かした姿勢で必死に見上げる。
「岩永。
無関係の人間殺したら面倒だろ。
やめなさい」
岩永は腕を強く掴む吾妻を肩越しに睨み付けるが、吾妻は意に介さない。
怯みもしないし、腕の力も弱まらない。
「…離せ」
少しトーンの落ち着いた岩永の声に、吾妻は安堵して腕を解放した。
歩き出した岩永に、男達は怯えたが、彼はそのまま通り過ぎていってしまう。
彼の周囲を光が踊ったように見えた。
ふと自分たちの身体を見て、目を疑う。
切断されたはずの腕や足が、傷跡もなく身体にくっついている。
なのに、地面にはおびただしい血の痕。
呟く。
「なんだ…あれ」
一方、岩永の後を追っていった吾妻は、前を競歩かというくらいのスピードで歩く彼の手を後ろから掴んで止めた。
「岩永。
あんた今日はほんとにどうしたの?」
「…」
岩永がその言葉に眉を寄せる。
吾妻は掴んだ岩永の右手を見る。
赤い血が流れて伝う手のひらの出血はまだ止まっていない。
ぽたぽたとアスファルトに落ちる。
真新しい傷跡も消えていない。
「あんたの治癒能力は超能力で負った怪我にしか効かないの、忘れてる?」
「………あ」
どうやら本気で忘れていたらしい。
岩永のあげた間抜けな声に、吾妻は脱力した。
「なにしてるの…?
今頃こっちのあんたが『ぎゃー!』ってなってるよ…」
いきなり手が裂けたら、と吾妻は覇気なく言う。
「知るか」
吐き捨てた岩永の顔は、再び不愉快そうに歪んでいた。
その表情に、今夜の岩永が荒れている理由を察する。
「あんまりふざけたこと抜かすと殺すぞほんま。
…殺せばよかった」
前半の暴言は自分宛だったが、後半は独白だった。
こちらの自分自身への。
彼の並ではない、自分自身への憎悪を知っている吾妻は笑うしかない。
自分だって同じだ。
「殺したら駄目でしょ。
さすがに跳ね返る」
優しくたしなめて、岩永の右手を強引に引く。
岩永が眉を寄せた。
ポケットからハンカチを取り出した吾妻に、
「自分で巻く」
ときつい口調で言う。
「片手では巻けないよ」
もっともなことを返せば、岩永は黙り込んだ。
傷ついた右手にきつくハンカチを巻き付けて、手を離す。
「僕だから、こんくらいで済ましてるよ。
わかってる?」
「…?」
「村崎や流河なら、あんたをことぴどく叱るとこ」
柔らかく微笑んで言い、岩永の額を軽くこづく。
それには毒を吐くことも出来ないのか、額に軽く手を伸ばして、彼は黙る。
「自分は大事にしなよ」
「………おまえもな」
不承不承というように返ってきた言葉は、いつもの彼らしいトーンだった。
「…さて、どうしてあんな荒れてたか聞かせて欲しいね?」
「…やって」
岩永は自分のつま先を見つめながら、忌々しそうに言う。
「記憶、消えると思ったんに…」
「……消えてないの?」
誰のことかすぐにわかった。
ということは、意識は戻ったらしい。
こちらの彼自身。
先日、超能力の違法使用の反動から、昏睡状態だった。
「…消えてへん。
全然。
…なんで。三度目って思ったんに…」
心底悔しそうな岩永の顔を見つめて、奇妙なものだと思った。
そこまで己の不幸を望む男は、自分の鏡だ。
自分だって彼のことは言えない。
「…なんで、あいつばっかり…」
「岩永」
軽く岩永の頬に触れて、意識をこちらに引っ張った。
つられて顔を上げた岩永に微笑みかける。
「僕にいい作戦があるよ」
「…作戦?
まさか、それでここ数日おらんかったんか?」
「うん」
吾妻は岩永の睫毛が上下するのを見ながら、楽しそうに笑う。
「こっちの僕と白倉、一線越えてないらしいよ。
こっちのあんたと村崎も、復縁してからはまだ」
「……」
吾妻の台詞を聞いて、岩永は呆れたように半眼になる。
「なにかと思えば…。
いややで俺は。
自分で自分を犯すとかそういうのは」
「誰があんたにやれと言ったかな…」
「違うん?」
吾妻は「方向はあってる」と返す。
「だけど、ただそれだけで崩れる連中でもないだろ?
ただ、少なくとも先日の一件でこっちのあんたはぐらついとるんじゃない?」
記憶があっても、先日の違法使用のことを気にしない男ではない。
むしろ、人一倍気に病む男だ。
「だから、内側から壊してやるって」
吾妻は自分を指さして言う。
「僕の能力、忘れた?」
「……ああ、そういうこと。
なるほど」
岩永は納得、と頷いて、やっと笑う。
「ほな、俺はなにしたらええの?」
「さすが。話が早くて助かる」
そっちの方があんたらしいよ、と言って軽く頭を撫でると、嫌な顔をして逃げられた。
「優衣」
背後から猫なで声で呼ばれて、優衣は引きつった。
寮の廊下。
自販機に小銭を入れたところだった優衣は、背後を振り返って、身構える。
「なん?」
綺麗な笑顔の白倉がいる。
「お互い予選勝ち抜きおめでとうって。
なに? そんな構えて」
「いや、なんとなく」
「そう。
本戦で当たったらよろしくな」
「…ああ」
差し出された手を握らないわけにはいかなくて、しかたなく白倉の手に自分の手を重ねた。
瞬間、きつく握られて、「やっぱり!」と悲鳴を上げたい。
「ここ数日シカトしおって、さあ詳しい事情を説明してもらおうか?」
「…いや、シカトはしてない」
ぎりぎり手に力を込められ、間近で睨まれて、正直怖い。
「嵐になにがあった?」
やっぱり、本題はそれだ。
夕にも同じことを聞かれて、逃げ続けている。
「地下都市に訓練に行ってたっていうのは、嘘だろう?」
「いや、あいつ、制御装置外す許可出たから、…不安らしいねん。
制御装置外して戦うん。やから…」
「嘘だろ」
ばっさり切り捨てられた。
まあ、白倉や夕はだませないと思っていたが。
「確かに、嵐とはチーム戦では敵だ。
だけど、その前に大事な親友なんだ。
なあ、なにがあった?
嵐はどうした?」
真剣な瞳は、不安そうでもある。
だから、逃げていたのだ。
この瞳に捕まれば、はぐらかすのも難しい。
岩永のことを真剣に思う彼らから、逃げるのは辛い。
「白倉はん」
横で響いた声に、優衣はホッとした。
村崎がこちらに駆け寄ってきた。
「すまんが、その辺にしといてくれんか?」
「…静流まで。
なに?
あいつ、なんかおかしいだろ。なんかいつものあいつじゃ…」
「白倉はん」
村崎の低い声に呼ばれて、白倉は息を飲む。
村崎が唐突に深く頭を下げたので、びっくりした。
「頼むから、今はなにも聞かんでくれんか?
お願いやから」
「……卑怯」
村崎を見てから、優衣も頭を下げる。
白倉がうろたえた。
卑怯だろうがそうするしかない。
岩永の様子が、おかしい。
目が覚めた時は、いつも通りに見えた。
なにも変わっていないように。
記憶もなくしていない。安心したのに。
やはり、彼はどこか前と違っている。
もう一人の岩永に似てるわけじゃない。
でも、いつもの岩永じゃない。
岩永はずっと昏睡状態だったと聞いた。
でも、それしか自分たちは知らないのだ。
不安が、胸を騒がすから、迂闊に言えない。
「……ずるい」
白倉の悔しそうな声が聞こえた。
そんな風に頭を下げられてなお、無理には聞けない、と。
心の中で謝った。
「どうだった?」
201号室に戻ると、時波が開口一番尋ねてきた。
白倉は首を横に振る。
「駄目か…」
藍澤も心配らしく、ため息を吐く。
「なにを隠しているんだろうな」
「…うん」
怖い。
無性に怖くて不安だ。
一体なにが岩永に起ことたのか。
白倉は不意に、ハッとする。
「吾妻は?」
「あいつは今、着替えてる」
「ああ…」
じゃあ寝室だな、と白倉は思った。
リビングで白倉の声がした。
室内は薄暗い。
寝台の上に倒れている吾妻の身体に、意識はない。
寝台の側に立つのは、うり二つの顔の男。
「ごめんな。ちょっと、借りるよ」
笑って囁き、その額に手を伸ばす。
「吾妻ー?」
寝室の扉がノックされて、すぐに扉が開けられた。
「着替え終わった?」
白倉だ。
室内にいた吾妻は振り返って微笑み、歩み寄る。
「うん。
…聞けた?」
「…」
白倉は沈んだ表情で、首を横に振る。
「そっか…。
…なにがあったんだろ」
「うん…」
落ち込む白倉の肩を優しく抱き、吾妻は言う。
「大丈夫だよ。
きっと」
「…うん」
白倉は自分自身に言い聞かせるように頷き、吾妻の顔を見上げて目を瞠る。
「どうした?」
「…? ううん……?」
白倉は自分自身で戸惑った様子だった。
一瞬、吾妻の雰囲気がいつもと違う気がしたけど、ほんの一瞬だった。
すぐ消えてしまった感覚に、気のせいかと首を傾げる。
「大丈夫?」
「うん。ごめん…」
吾妻は屈託なく笑って、その髪を撫でた。
「『他者の身体を乗っ取る』能力な」
月だけが照らす夜道を歩きながら、岩永が呟くように言った。
「まあ確かに、そのままやと『違う』って見抜かれるもんな」
「うん。
あんたもだろ?
もう『もう一人の』って見抜かれるから」
岩永は「俺はもう見抜かれた」と言う。
「だけど、身体を乗っ取った場合、身体はあくまでこちらの僕本人だからね。
しばらくだませるよ」
「えぐいなあ」
「なんとでも。
…それに、白倉たちのほうは記憶隠蔽解けてないだろ?
…一番、壊しやすい」
吾妻はそう言って、薄く笑った。
一人で腰掛けて、テーブルの上にあるグラスの中身を時折口に運んで、誰かを待っている風でもなく、煙草を吹かす。
亜麻色の長い髪に、碧の瞳。
整った男らしい顔立ちには眼鏡。
いかにもアウトローな黒を基調とした衣服に、立ち上がらずともわかる長い足。
肩幅も広く、優男という風でもない。
バーにいた女性達は時折、彼に視線をよこす。
最初、彼が現れた時こそ、誰か待ち合わせの相手でもいるのではないかと皆、遠慮していたが、彼が店にやってきて二時間が経過し、彼が一人だと判断した積極的な女性客の二人が、テーブルの傍にやってきた。
「あのー、もしよかったら一緒に飲みませんか?」
そこそこ肌の露出した衣服の、充分綺麗な顔立ちの女性二人。
二十歳前半くらいに見える女性二人を見上げて、彼は一言、声を発したが女性達には届かなかった。
女性達が「え?」と聞き返す。
男は視線を向けたまま、もう一度はっきり声にする。
「うっさい。
鏡見て出直せ」
女性達は耳を疑った。
どう聞いても暴言だが、そこまで男を怒らせるほど会話をしていない。
くわえて、どう見ても理知的で穏やかそうに見えた男の口から、そんな汚い言葉が出てくるなんてまさか予想もしていなかった。
一瞬、言葉を失って固まった女性達だが、すぐに我に返って男の失礼な物言いを責めようとした。
だが、声を失う。
言葉が見つからなかったのではない。
男がよこした殺気のこもった視線に、身体が竦んで声を発せなくなってしまった。
男が右手に持っていた煙草の先端を女性達に向ける。
瞬間、煙の上るフィルターから飛び出した閃光に、思わず目を瞑った。
「こーら」
穏やかで間延びした、男よりも高めの声は、背後でした。
「女の子にそんなことしたら駄目だから」
独特の訛のある声は、男を軽くたしなめた。
女性達が目を開けると、傍にはとんでもなく長身の男が立っていて、そのでかさにびっくりした。
癖の強い黒髪に黒い瞳の、自分たちに暴言を吐いた男よりも遙かに大きな身体をした、精悍な顔立ちの美形。
肌は浅黒い。
黒ずくめの格好をした大男は、女性達を見て申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんな。
こいつが失礼なこと言って。
今、こいつ機嫌悪いんだよ」
優しい声音と笑顔に、女性達は安堵した。
こちらの男は友好的だ。
「お詫びにこれあげるから、本当すまんね」
大男は両手に持っていたカクテルの入ったグラス二つを女性達に手渡し、また笑うと座っていた男の腕を掴んで立つよう促す。
「悪目立ちしてるから、出よ」
大男に言われて、彼は不機嫌そうに大男を睨んだが、素直に従った。
「探してたんだよ。
そしたらバーなんかにいるし、やけに機嫌は悪いし、あんたはなにしてるの?」
「うっさい、死ね」
暗い街の道を歩きながら、吾妻は速攻返ってきた暴言に「相当キレとう」と思った。
普段は自分より冷静で計算高い岩永は、今夜に限ってやけに荒れている。
「ていうかね、あんたまだ十七歳でしょ。
なにを平気な顔して酒飲んで煙草吸ってるの」
「うっさいな。黙れ大木」
「………あんたはタチの悪い酔っぱらいか…」
さすがに呆れて吾妻が呟くと、岩永はそのときだけきょとんとした顔をして、
「酔っぱらいやろ?」
と自分を指した。
「あんたはザルだろ…。
ふらつきもせん奴が言う台詞じゃないよ」
岩永の足取りは非常にしっかりしていて、真っ直ぐ歩いている。
酔っぱらいには違いないのだが、彼が他人に見境なく八つ当たりするほど正体をなくした時を見たことがない。
どうせグラス一杯くらいしか飲んでないのだろうし、そんなの彼にとって「酔っぱらった」うちに入らない。
「殺すぞおまえ」
「…はいはい、あんたはなんでそんな荒れてるかね…」
いや、あるいみ酔っぱらっているけど。
ここまで暴言しか吐かない岩永もなかなか見ない。
「ちゅうか、俺を探しとったってなんやねん。
おまえがここ数日音信不通やったんやろ」
「まあそうだから、僕の方にも都合があったんだよ」
「なんやそれ。
吐け。今すぐ洗いざらい吐け」
「……ごめん。あんたやっぱり酔ってるだろ」
なんでそんなに会話を急ぐのかわからない。
理性というものが今の彼にはないようだ。
そういう意味で酔っている。
「やから酔っとるっちゅうねん」
「はいはい。
なんであんたはそんな機嫌悪い?」
「俺の質問が先やハゲ」
「…誰がハゲかな……」
吾妻は段々諦めてきた。
今夜はどうも岩永はこんな調子らしいし、黙って酔いが醒めるのを待つしかないな、と思った。
吾妻と岩永の足が、不意に止まる。
背後で響いた靴音に、そろって振り返る。
「どうもこんばんは」
そこに佇んでいたのは、若い男四人だった。
それぞれ流行の服装で、いかにも軽い男と言った雰囲気。
「さっき、店に俺らいたんだけどさ、そっちの眼鏡のお兄さんが使ったの超能力だろ?」
吾妻は内心「見られていたか」と岩永を恨みたくなる。
岩永が女性達に超能力を使ったのは、自分の身体で隠されて他の客には見えなかったはずだし、超能力は自分が消してしまったから問題はなかったはずだった。
「俺達もそうなんだよ。
で、お兄さんたち強そうだからさー、相手してくんないかなーって」
なるほど、あちらの四人も今の岩永みたいに酔って荒れているらしい。
手っ取り早く発散したいだけだ。
「悪いから…」
遠慮したい。
男達を恐れてはいない。全く。
ただ、今の岩永だと、男達を本気で殺しかねないから――――。
「ええよ」
吾妻の心配通り、岩永は軽い口調でそう言って、男達の方に一歩踏み出した。
「岩永っ!」
止めようと伸ばした手は、空を切った。
岩永は一瞬で男達の眼前に移動している。
瞬間、三人がその場に倒れた。
腕や足が、胴体から切断されて地面に転がり、血が噴水のように流れ出している。
唯一、状況を把握できず立っていた男の右手の指も、全てなくなっていた。
一瞬で現れて消えたかまいたち。
男達のレベルでは目で追うことすら出来なかっただろう。
「うわあっ!」
ようやく状況を把握した男が青ざめて叫ぶ。
左手に握っていたナイフを振るうが、岩永の手が素早く捕らえた。
抜き身のナイフの刃を掴んで奪い捨て、岩永は男の顔面に手を伸ばした。
その腕を、追いついた吾妻が掴んで止める。
「こら、やめなさい」
いとも簡単に岩永を止めてしまった吾妻を、男は腰を抜かした姿勢で必死に見上げる。
「岩永。
無関係の人間殺したら面倒だろ。
やめなさい」
岩永は腕を強く掴む吾妻を肩越しに睨み付けるが、吾妻は意に介さない。
怯みもしないし、腕の力も弱まらない。
「…離せ」
少しトーンの落ち着いた岩永の声に、吾妻は安堵して腕を解放した。
歩き出した岩永に、男達は怯えたが、彼はそのまま通り過ぎていってしまう。
彼の周囲を光が踊ったように見えた。
ふと自分たちの身体を見て、目を疑う。
切断されたはずの腕や足が、傷跡もなく身体にくっついている。
なのに、地面にはおびただしい血の痕。
呟く。
「なんだ…あれ」
一方、岩永の後を追っていった吾妻は、前を競歩かというくらいのスピードで歩く彼の手を後ろから掴んで止めた。
「岩永。
あんた今日はほんとにどうしたの?」
「…」
岩永がその言葉に眉を寄せる。
吾妻は掴んだ岩永の右手を見る。
赤い血が流れて伝う手のひらの出血はまだ止まっていない。
ぽたぽたとアスファルトに落ちる。
真新しい傷跡も消えていない。
「あんたの治癒能力は超能力で負った怪我にしか効かないの、忘れてる?」
「………あ」
どうやら本気で忘れていたらしい。
岩永のあげた間抜けな声に、吾妻は脱力した。
「なにしてるの…?
今頃こっちのあんたが『ぎゃー!』ってなってるよ…」
いきなり手が裂けたら、と吾妻は覇気なく言う。
「知るか」
吐き捨てた岩永の顔は、再び不愉快そうに歪んでいた。
その表情に、今夜の岩永が荒れている理由を察する。
「あんまりふざけたこと抜かすと殺すぞほんま。
…殺せばよかった」
前半の暴言は自分宛だったが、後半は独白だった。
こちらの自分自身への。
彼の並ではない、自分自身への憎悪を知っている吾妻は笑うしかない。
自分だって同じだ。
「殺したら駄目でしょ。
さすがに跳ね返る」
優しくたしなめて、岩永の右手を強引に引く。
岩永が眉を寄せた。
ポケットからハンカチを取り出した吾妻に、
「自分で巻く」
ときつい口調で言う。
「片手では巻けないよ」
もっともなことを返せば、岩永は黙り込んだ。
傷ついた右手にきつくハンカチを巻き付けて、手を離す。
「僕だから、こんくらいで済ましてるよ。
わかってる?」
「…?」
「村崎や流河なら、あんたをことぴどく叱るとこ」
柔らかく微笑んで言い、岩永の額を軽くこづく。
それには毒を吐くことも出来ないのか、額に軽く手を伸ばして、彼は黙る。
「自分は大事にしなよ」
「………おまえもな」
不承不承というように返ってきた言葉は、いつもの彼らしいトーンだった。
「…さて、どうしてあんな荒れてたか聞かせて欲しいね?」
「…やって」
岩永は自分のつま先を見つめながら、忌々しそうに言う。
「記憶、消えると思ったんに…」
「……消えてないの?」
誰のことかすぐにわかった。
ということは、意識は戻ったらしい。
こちらの彼自身。
先日、超能力の違法使用の反動から、昏睡状態だった。
「…消えてへん。
全然。
…なんで。三度目って思ったんに…」
心底悔しそうな岩永の顔を見つめて、奇妙なものだと思った。
そこまで己の不幸を望む男は、自分の鏡だ。
自分だって彼のことは言えない。
「…なんで、あいつばっかり…」
「岩永」
軽く岩永の頬に触れて、意識をこちらに引っ張った。
つられて顔を上げた岩永に微笑みかける。
「僕にいい作戦があるよ」
「…作戦?
まさか、それでここ数日おらんかったんか?」
「うん」
吾妻は岩永の睫毛が上下するのを見ながら、楽しそうに笑う。
「こっちの僕と白倉、一線越えてないらしいよ。
こっちのあんたと村崎も、復縁してからはまだ」
「……」
吾妻の台詞を聞いて、岩永は呆れたように半眼になる。
「なにかと思えば…。
いややで俺は。
自分で自分を犯すとかそういうのは」
「誰があんたにやれと言ったかな…」
「違うん?」
吾妻は「方向はあってる」と返す。
「だけど、ただそれだけで崩れる連中でもないだろ?
ただ、少なくとも先日の一件でこっちのあんたはぐらついとるんじゃない?」
記憶があっても、先日の違法使用のことを気にしない男ではない。
むしろ、人一倍気に病む男だ。
「だから、内側から壊してやるって」
吾妻は自分を指さして言う。
「僕の能力、忘れた?」
「……ああ、そういうこと。
なるほど」
岩永は納得、と頷いて、やっと笑う。
「ほな、俺はなにしたらええの?」
「さすが。話が早くて助かる」
そっちの方があんたらしいよ、と言って軽く頭を撫でると、嫌な顔をして逃げられた。
「優衣」
背後から猫なで声で呼ばれて、優衣は引きつった。
寮の廊下。
自販機に小銭を入れたところだった優衣は、背後を振り返って、身構える。
「なん?」
綺麗な笑顔の白倉がいる。
「お互い予選勝ち抜きおめでとうって。
なに? そんな構えて」
「いや、なんとなく」
「そう。
本戦で当たったらよろしくな」
「…ああ」
差し出された手を握らないわけにはいかなくて、しかたなく白倉の手に自分の手を重ねた。
瞬間、きつく握られて、「やっぱり!」と悲鳴を上げたい。
「ここ数日シカトしおって、さあ詳しい事情を説明してもらおうか?」
「…いや、シカトはしてない」
ぎりぎり手に力を込められ、間近で睨まれて、正直怖い。
「嵐になにがあった?」
やっぱり、本題はそれだ。
夕にも同じことを聞かれて、逃げ続けている。
「地下都市に訓練に行ってたっていうのは、嘘だろう?」
「いや、あいつ、制御装置外す許可出たから、…不安らしいねん。
制御装置外して戦うん。やから…」
「嘘だろ」
ばっさり切り捨てられた。
まあ、白倉や夕はだませないと思っていたが。
「確かに、嵐とはチーム戦では敵だ。
だけど、その前に大事な親友なんだ。
なあ、なにがあった?
嵐はどうした?」
真剣な瞳は、不安そうでもある。
だから、逃げていたのだ。
この瞳に捕まれば、はぐらかすのも難しい。
岩永のことを真剣に思う彼らから、逃げるのは辛い。
「白倉はん」
横で響いた声に、優衣はホッとした。
村崎がこちらに駆け寄ってきた。
「すまんが、その辺にしといてくれんか?」
「…静流まで。
なに?
あいつ、なんかおかしいだろ。なんかいつものあいつじゃ…」
「白倉はん」
村崎の低い声に呼ばれて、白倉は息を飲む。
村崎が唐突に深く頭を下げたので、びっくりした。
「頼むから、今はなにも聞かんでくれんか?
お願いやから」
「……卑怯」
村崎を見てから、優衣も頭を下げる。
白倉がうろたえた。
卑怯だろうがそうするしかない。
岩永の様子が、おかしい。
目が覚めた時は、いつも通りに見えた。
なにも変わっていないように。
記憶もなくしていない。安心したのに。
やはり、彼はどこか前と違っている。
もう一人の岩永に似てるわけじゃない。
でも、いつもの岩永じゃない。
岩永はずっと昏睡状態だったと聞いた。
でも、それしか自分たちは知らないのだ。
不安が、胸を騒がすから、迂闊に言えない。
「……ずるい」
白倉の悔しそうな声が聞こえた。
そんな風に頭を下げられてなお、無理には聞けない、と。
心の中で謝った。
「どうだった?」
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白倉は首を横に振る。
「駄目か…」
藍澤も心配らしく、ため息を吐く。
「なにを隠しているんだろうな」
「…うん」
怖い。
無性に怖くて不安だ。
一体なにが岩永に起ことたのか。
白倉は不意に、ハッとする。
「吾妻は?」
「あいつは今、着替えてる」
「ああ…」
じゃあ寝室だな、と白倉は思った。
リビングで白倉の声がした。
室内は薄暗い。
寝台の上に倒れている吾妻の身体に、意識はない。
寝台の側に立つのは、うり二つの顔の男。
「ごめんな。ちょっと、借りるよ」
笑って囁き、その額に手を伸ばす。
「吾妻ー?」
寝室の扉がノックされて、すぐに扉が開けられた。
「着替え終わった?」
白倉だ。
室内にいた吾妻は振り返って微笑み、歩み寄る。
「うん。
…聞けた?」
「…」
白倉は沈んだ表情で、首を横に振る。
「そっか…。
…なにがあったんだろ」
「うん…」
落ち込む白倉の肩を優しく抱き、吾妻は言う。
「大丈夫だよ。
きっと」
「…うん」
白倉は自分自身に言い聞かせるように頷き、吾妻の顔を見上げて目を瞠る。
「どうした?」
「…? ううん……?」
白倉は自分自身で戸惑った様子だった。
一瞬、吾妻の雰囲気がいつもと違う気がしたけど、ほんの一瞬だった。
すぐ消えてしまった感覚に、気のせいかと首を傾げる。
「大丈夫?」
「うん。ごめん…」
吾妻は屈託なく笑って、その髪を撫でた。
「『他者の身体を乗っ取る』能力な」
月だけが照らす夜道を歩きながら、岩永が呟くように言った。
「まあ確かに、そのままやと『違う』って見抜かれるもんな」
「うん。
あんたもだろ?
もう『もう一人の』って見抜かれるから」
岩永は「俺はもう見抜かれた」と言う。
「だけど、身体を乗っ取った場合、身体はあくまでこちらの僕本人だからね。
しばらくだませるよ」
「えぐいなあ」
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吾妻はそう言って、薄く笑った。
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