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本編●主人公、獲物を物色する

打ちひしがれたぼくを誰か慰めて

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現実に戻って来たぼくとアレックは、お互いに今日の事は水に流そうと決め、何事も無かったようにガーデンハウスに戻ろうとした。……所を、エイベル兄さんとアリーに捕まった。
どうやらアリーは、アレックを見付けた事自体はちゃんと側妃様達に知らせてくれたようだ。
兄とアリーの二人で、庭から移動したぼく達の目撃証言を辿って、わざわざ迎えに来てくれたんだ。

アレックが男二人に弄られている所を見掛けた時には助けようとしなかったが、アリー自体は別に意地悪でも冷血でも無いらしい。
あの場面でアリーが、普通なら若干冷たいと思えるような態度だったのは、王城近辺に蔓延る『エロエロしい』への偏見の所為だ。だからアリーも、悪いわけじゃない。

……むしろ。ぼくの方が、アリーに対してやや冷たかったと言われかねないな。
だがぼくはその点については、少し反省はしても後悔はしていないが。


もしもアリーがこの国の王子じゃなく、貴族でも無い……それこそ、一般市民だったなら。
アリーが何に対してどんな偏見を抱いてようが、ぼくは何も言うつもりは無い。
偏見に満ちた言動の所為で、自分の立場をどれだけ悪くしようが、普通の一般人なら周囲への影響も大した事は無いんだから。
せいぜいが、店を潰すとか……その程度だろう。

だがアリーは王子だ。王位を継ぐかどうかはともかく、間違いなく王族なんだ。
それであれば、彼の態度一つが……場合によっては国際問題となったり、王族や国の根本を揺らがせる事にもなりかねない。という認識が、頭の片隅にでも必要じゃないかと思う。

今回のアレックの事で言えば。
アレックへのあんな対応を、他の人にもやるようだと拙い、という話だ。

『エロエロしい』に対するあんなレベルの偏見は、この国全体でごく一般的、とは言えないものだ。
少なくとも、ぼくに顔面偏差値のあれこれを教えてくれたオルビー先生の神聖国家では、その偏見は眉を顰められるようなものだ。
それに加えて、ウェラン司祭の態度からすれば、この国の神殿としても実に恥ずかしいと……個人個人の聖職者が内心で何処まで思っているかはともかく……されるような事でもある。


これでアリーがね、一般人なら「仕方ないよ、あんなに『エロエロしい』んだもん」と言って慰めてや…




「……アドルっ! 聞いているのかっ!」
「はい、もちろんです、母さん。」

……何を、って? まぁまぁ『麗しい』な母からの説教を、だよ。
正確に言えば聞いている振りをしながら、約九百文字ぐらい、現実逃避代わりに他の事を考えていたがね。


ぼくが説教されている内容のメインは、やはりと言うべきだが……王様への正式報告も、ぼくの顔面偏差値に対する認定も無い状態で、ぼくが自分の顔面偏差値を盾に男二人を威圧した事だ。
そしてもう一つは、アレックを捕獲したぼくが、そのまま大人達の所へ戻らず、二人で浴室付きのベッドルームに直行した事だ。

ぼくに追い払われた男達は、驚きと苛立ちと、ぼくの顔面を間近で見た興奮とで、かなり大勢の人々に大声でぼくの事を話したらしい。
そして、ぼくとアレックが手を繋いで……そう。すっかり色欲に目が眩んでいたぼく達は手を繋いでいた……個室に入って行く道中を見掛けた人も、興奮しながら出会う人出会う人、話しまくったそうだ。


顔面タイプが『格好良い』の、それも恐らく高ランク以上の人物が、アレクセイ王子と『 特 別 親 密 』に付き合っていらっしゃる。……みたいな噂。


つまり、ぼくが思っていたよりもずっと早い時間で、沢山の人に、ぼくの話が広がっている。らしい。
ぼくとしては若干、説教されるには不本意な事柄も含まれているんだが。

それなりに少しは楽しい思いもしたが、最後まではしていないと言うのに。



えぇと、何の話だったかな……そうだ、アリーの話だったね。
あれ? アリーの話はもう終わったっけ?

「アドル……?」
「聞いています、母さん。」

ぼくが現実逃避をしようとすると、敏感に母が反応する。
敏感なのは身体だけにして欲しいもんだ。


ちなみに、こうしてぼくが説教されている間、もう一人の元凶はどうしているかと言えば。
アレックは、ぼくを大人達の生贄に差し出して。
恐らくは今頃、エイベル兄さんと、しっぽり親密にしているだろう。

アレックも兄と同じ高ランクだから、顔面偏差値に格差は無い。
間近で見た兄の『麗しい』を気に入った彼は、王子としての権力をいっそ清々しいぐらいにフル活用して、兄を何処ぞの部屋へと連れ込んだんだ。


アレックはもう、傷付いた心を癒しているというのに。
は~ぁあ、誰もぼくの心を慰めてはくれない……。



「はあぁ……。これでは、流石に国王陛下をないがしろに…」
「まぁまぁ。説教はもう、そのぐらいにしておいてあげて?」

困ったように呟く母を、のんびりとした口調で止めてくれるのは、何となく機嫌の良い側妃様だ。
王妃様は……彼もまた、少々困ったような表情になっている。


母。側妃様。王妃様。

ぼくの周りには今、かなり年上の美人しかいなかった。
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