34 / 60
学園の感謝祭にて
学園の感謝祭にて・16 ◇第二皇子ジェフリー視点
しおりを挟む
早く、早く……早く行かなきゃ……!
焦る僕はクリスを急かしながらサロンへと戻りました。
先程までレオ様がいた場所へ視線を向けると、そこにレオ様の姿が見当たりません。
もう移動してしまったのかと更に焦って、周囲を見回して。
やっと僕は、壁際にあるソファーに、レオ様を見付ける事が出来たのです。
あぁ……! 良かった、まだ…間に合った……!
たった今ちょうど、レオ様は推定・レイモンド様をソファーに寝かせる所でした。
間に合った事でホッと胸を撫で下ろした僕は、その光景を見て。つい、想像してしまいました。
レオ様が僕を、優しくも強引な所作でソファーへと寝かせてくれる所を。
そして僕の事を愛しそうに見詰める、尚且つ欲望を湛えたレオ様の瞳を。
……もうっ! こんな時に働かなくても良いでしょうに、僕の想像力めっ。
自分の顔面が崩壊しそうだと気が付いた僕は、慌てて表情筋を叱咤します。
幸いな事に、周囲はまだ僕達に注目はしていません。
その間にどうにか、僕は『仮面皇子』らしく表面を取り繕えたはずです。
そんな事よりも今は、早くクリスに、レオ様へと声を掛けて貰わなければ……。
僕からわざわざ声を掛けるなんて、そんな不自然な事は恥ずかしくて出来ません。
それにもともと、学園感謝祭を見に行きたいと言い出したのはクリスです。
仮装をしているレイモンド様を揶揄うのが目的で来たんですから、ここはクリスが責任を持って話し掛けるべきでしょう? クリスはいつもレオ様とも話していて、慣れているのですから、適任ではないでしょうか。
それにしても、珍しくクリスが何も言いませんね。
いつもならもう、レイモンド様へと、挨拶代わりに嫌味の一つも言っている頃です。
もしかしてクリス……。壁際の二人に気が付いていないのでは?
そう考えて僕は、なかなか声を出さずにいるクリスを窺いました。
そして、クリスの顔が視界に入った瞬間、僕は理解したのです。
……クリスは今、……役に、立たない……っ!
俯いたクリスは何かを誤魔化すように足元に視線を下ろし、唇を震わせていました。
そうです。
クリスは今、爆笑し掛けているのです。
頑張って堪えているのでしょう、それでも口端、頬がピクピクと痙攣しています。
こんな状態のクリスがレオ様達に声を掛けようとして口を開けば、どうなるか……恐ろしい結果が容易に予測出来てしまいました。
恐らく我慢しきれなくなったクリスが第一皇子らしからぬ声と表情とで、大笑いしてしまうだろう事は間違いありません。
だからと言って、クリスの復活を待っている余裕は無いのです。
いつまでレオ様がソファーで休んでいるのか、分からないのですから。
「……くっ。」
僕は唇を噛みました。
クリスに頼れない以上、僕が話し掛けるより他は無さそうです。
レオ様の所に従者を使いにやる。などど失礼な事は出来ないのですから。
さぁ……そうと決まれば早く、話し掛けましょう。
緊張で咽喉から胃が出て来そうな思いですが、気の所為です。
取り敢えず無難な言葉を探し出し、無駄に震えぬよう、気を付けて声を出しました。
「こんな所で何をしているのですか……。」
僕としては上々な出来でした。
声を出したのと同じタイミングで、周囲が静かになってくれたのも良かった。
さほどの大声を出さずとも、僕の声はサロンの壁際まで届いたはずです。
なのに、肝心の……レオ様には届かなかったようです。
レオ様に振り向いて貰えませんでした。
周囲の者達からの注意だけは引いてしまったらしく、視線を浴びる僕はとても居た堪れない思いを感じました。
公務の時に注目されるのは当然ですし、そうでなくとも普段から第二皇子として周囲から見られる事には慣れています。
ですが……。
こうして、緊張しながら話し掛けたレオ様に気が付いて貰えなかったという場面を、ジッと見守られるのは。とても居心地が悪いです。
サロンが静まったままな事も、落ち着きません。
どうか皆さん、僕に気を遣わずに、それぞれに寛いでいて貰って構わないんですよ?
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
きっと僕の声は自分が感じたよりも小さかったのだ、と。
そう思い直して、さっきよりも大きめに声を……。
出そうとしたのですが。無理でした。
変な所で声が区切れてしまうような有り様です。
自分でも情けなく感じて、言いながら僕は、視線をレオ様から逸らしました。
隣に来てくれたクリスの存在感にホッとします。
ようやく復活したのでしょうから、ここから先はクリスに任せましょう。
これでも僕は充分にやりました。一先ずはレオ様に声を掛ける事が出来たのですから、僕の役目はこれで終わりにします。
緊張感から解き放された僕は、ふと、レイモンド様の衣装が気になりました。
確か今日は、歴史上の人物に仮装すると聞いています。
ベッドにしどけなく横たわる太腿は、大きなスリットで剥き出しになっており。
腕は肩の部分から全てがシースルーで透けており。
胸元は大きく開いていました。
恐らく背中も同様でしょう。
その姿と『歴史上の人物』というキーワードとが結び付いた時。
それが『マーダー・ムヤン』の仮装だと理解した時。
僕は一気に不愉快な気分になりました。
普段ならばそんな風に、僕の気分が急激に変わる事などありません。
今は、寸前までの激しい緊張感の所為で。
そこから解放された反動で、緊張感が丸々、怒りへと変換されてしまったのです。
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
このままここに居れば、不機嫌さで僕の顔が崩れてしまう。
そう思った瞬間。
僕の足は既に、サロンを出る為に歩き出していました。
焦る僕はクリスを急かしながらサロンへと戻りました。
先程までレオ様がいた場所へ視線を向けると、そこにレオ様の姿が見当たりません。
もう移動してしまったのかと更に焦って、周囲を見回して。
やっと僕は、壁際にあるソファーに、レオ様を見付ける事が出来たのです。
あぁ……! 良かった、まだ…間に合った……!
たった今ちょうど、レオ様は推定・レイモンド様をソファーに寝かせる所でした。
間に合った事でホッと胸を撫で下ろした僕は、その光景を見て。つい、想像してしまいました。
レオ様が僕を、優しくも強引な所作でソファーへと寝かせてくれる所を。
そして僕の事を愛しそうに見詰める、尚且つ欲望を湛えたレオ様の瞳を。
……もうっ! こんな時に働かなくても良いでしょうに、僕の想像力めっ。
自分の顔面が崩壊しそうだと気が付いた僕は、慌てて表情筋を叱咤します。
幸いな事に、周囲はまだ僕達に注目はしていません。
その間にどうにか、僕は『仮面皇子』らしく表面を取り繕えたはずです。
そんな事よりも今は、早くクリスに、レオ様へと声を掛けて貰わなければ……。
僕からわざわざ声を掛けるなんて、そんな不自然な事は恥ずかしくて出来ません。
それにもともと、学園感謝祭を見に行きたいと言い出したのはクリスです。
仮装をしているレイモンド様を揶揄うのが目的で来たんですから、ここはクリスが責任を持って話し掛けるべきでしょう? クリスはいつもレオ様とも話していて、慣れているのですから、適任ではないでしょうか。
それにしても、珍しくクリスが何も言いませんね。
いつもならもう、レイモンド様へと、挨拶代わりに嫌味の一つも言っている頃です。
もしかしてクリス……。壁際の二人に気が付いていないのでは?
そう考えて僕は、なかなか声を出さずにいるクリスを窺いました。
そして、クリスの顔が視界に入った瞬間、僕は理解したのです。
……クリスは今、……役に、立たない……っ!
俯いたクリスは何かを誤魔化すように足元に視線を下ろし、唇を震わせていました。
そうです。
クリスは今、爆笑し掛けているのです。
頑張って堪えているのでしょう、それでも口端、頬がピクピクと痙攣しています。
こんな状態のクリスがレオ様達に声を掛けようとして口を開けば、どうなるか……恐ろしい結果が容易に予測出来てしまいました。
恐らく我慢しきれなくなったクリスが第一皇子らしからぬ声と表情とで、大笑いしてしまうだろう事は間違いありません。
だからと言って、クリスの復活を待っている余裕は無いのです。
いつまでレオ様がソファーで休んでいるのか、分からないのですから。
「……くっ。」
僕は唇を噛みました。
クリスに頼れない以上、僕が話し掛けるより他は無さそうです。
レオ様の所に従者を使いにやる。などど失礼な事は出来ないのですから。
さぁ……そうと決まれば早く、話し掛けましょう。
緊張で咽喉から胃が出て来そうな思いですが、気の所為です。
取り敢えず無難な言葉を探し出し、無駄に震えぬよう、気を付けて声を出しました。
「こんな所で何をしているのですか……。」
僕としては上々な出来でした。
声を出したのと同じタイミングで、周囲が静かになってくれたのも良かった。
さほどの大声を出さずとも、僕の声はサロンの壁際まで届いたはずです。
なのに、肝心の……レオ様には届かなかったようです。
レオ様に振り向いて貰えませんでした。
周囲の者達からの注意だけは引いてしまったらしく、視線を浴びる僕はとても居た堪れない思いを感じました。
公務の時に注目されるのは当然ですし、そうでなくとも普段から第二皇子として周囲から見られる事には慣れています。
ですが……。
こうして、緊張しながら話し掛けたレオ様に気が付いて貰えなかったという場面を、ジッと見守られるのは。とても居心地が悪いです。
サロンが静まったままな事も、落ち着きません。
どうか皆さん、僕に気を遣わずに、それぞれに寛いでいて貰って構わないんですよ?
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
きっと僕の声は自分が感じたよりも小さかったのだ、と。
そう思い直して、さっきよりも大きめに声を……。
出そうとしたのですが。無理でした。
変な所で声が区切れてしまうような有り様です。
自分でも情けなく感じて、言いながら僕は、視線をレオ様から逸らしました。
隣に来てくれたクリスの存在感にホッとします。
ようやく復活したのでしょうから、ここから先はクリスに任せましょう。
これでも僕は充分にやりました。一先ずはレオ様に声を掛ける事が出来たのですから、僕の役目はこれで終わりにします。
緊張感から解き放された僕は、ふと、レイモンド様の衣装が気になりました。
確か今日は、歴史上の人物に仮装すると聞いています。
ベッドにしどけなく横たわる太腿は、大きなスリットで剥き出しになっており。
腕は肩の部分から全てがシースルーで透けており。
胸元は大きく開いていました。
恐らく背中も同様でしょう。
その姿と『歴史上の人物』というキーワードとが結び付いた時。
それが『マーダー・ムヤン』の仮装だと理解した時。
僕は一気に不愉快な気分になりました。
普段ならばそんな風に、僕の気分が急激に変わる事などありません。
今は、寸前までの激しい緊張感の所為で。
そこから解放された反動で、緊張感が丸々、怒りへと変換されてしまったのです。
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
このままここに居れば、不機嫌さで僕の顔が崩れてしまう。
そう思った瞬間。
僕の足は既に、サロンを出る為に歩き出していました。
10
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる