12 / 18
癒し系美人騎士団長 + 強面の三十路兵士団長 × 若きエリート騎士団副長
4.騎士団長 + 兵士団長 × 騎士団副長
しおりを挟む
いよいよとなればキリは、モナイを頼らせて貰う事も考えていたのだ。
その光景を見るまでは。
強面と恐れられているナンディの隣に、鉄の人形と揶揄されているモナイ。
何かをモナイが話し掛け、それにナンディが答える。
返答を聞いたモナイの様子が一瞬、しょんぼりとしたものの。続けてナンディが何かを言ったのか、すぐに嬉しそうな微笑を浮かべて小さく頷いた。その表情にナンディも双眸を緩める。
イメージとは異なる柔らかな雰囲気を作り出している二人は、やはり噂通りに、恋人同士……あるいは、現在進行形でそのような関係を築いている最中なのだろう。
そんな大切な人がいるモナイに、デューク王子殿下の対処療法について相談する事を、キリはそっと諦めた。
今は夜だ。
王城での用件を終え、騎士団での執務も終え。
キリは兵舎内の自室に戻って来ている。副長であるモナイの部屋の上階だ。
通常ならば既に寛いでいるような時間だが、今日はこれからナンディが訪れる予定だから、服装もそれなりに『来客を出迎える』のに相応しい姿のままだった。
約束の時間に差し掛かる頃、ナンディはキリの部屋へとやって来た。
キリはいつもの微笑を貼り付けながら、室内へと招き入れ、ソファを勧める。
用件はすぐに終わると言って遠慮するナンディに、キリは勝手に酒とツマミとを用意した。勿論、自分の分もさっさと用意して。
「今日は飲みたい気分なのだ。客を差し置いて一人で、というわけにも行かないだろう? 形だけでも付き合って貰えれば有難いな。」
「そうか……時間外に悪いな。」
キリが一人きりを楽しむはずだった時間を潰された事への抗議、だと感じたか。ナンディは気遣い程度の謝罪を口にした。
高身長、逞しい肉体、厳つい顔立ちに今は難し気な表情が浮かんでいる。
モナイがそばに居なければ通常通りの、恐ろしい兵士団長の姿だ。
ナンディが来た理由は予想が付く。
赤ワインを咽喉へと流し、キリは先に口を開いた。
「マサラー団長の用件は、デューク王子殿下の件……かな?」
「あぁ、そうだ。……やっぱりバイハル団長にも、話があったか。」
ナンディの言葉にキリはわざわざ返事はしない。どうせ彼も分かっているのだ。
揺らしたワイングラス越しに、キリはナンディの様子を窺う。
恐ろしいと思われがちなナンディだが、逞しい身体に大きな手、男らしさを体現したような容姿。殿下に覆い被さるのに相応しいとも言え、キリとは全く違っていた。
気を抜くと溜息を吐いてしまいそうだった。
もし、僕が彼のような男だったら。殿下からの依頼も、多少は自信をもってお受け出来るというのに。
しかしマサラー団長には『大切な人』がいるのだから、恐らく殿下に応じる事は無いはずだ。殿下から一週間の検討時間を頂いたが、彼には不要だろう。
殿下は、例えば思いを通じ合った相手がいる等の事情があれば無理強いする気は無い、と仰っていたから。
僕には誰もいない。
自信が無いという下らない話では、理由にならない……。
「マサラー団長は……、いや。……どうする、という質問は愚問かな。」
分かり切っている問題の答えを問う程、自分が弱気になっている事に気付いて。
キリは咄嗟に微笑を作った。だが上手く仮面を被れたか自信が無い。
大切な人がいるからお断りする予定でいる。……などと聞いてどうする?
それで気楽になりたいのか? それとも、候補者が減ると知って、自分を追い詰めたいのか? どちらにしても無意味な行動じゃないか。
「失礼した。今の言葉は忘れてくれ。」
「……オレは。検討中、だ……。」
「おや……。」
苦虫を噛み潰したような表情のナンディは、普段の強面も手伝い、殊更に恐ろしい形相となっている。
この場に同席しているのが『微笑の君』と称されるキリだけである事で油断もしていた。実は『鬼畜攻め』だろうという噂が立っている彼は、ちょっとやそっとでは動揺しない……と、ナンディは思っているからだ。
今も自分は、王子殿下の頼み事を苦々しく感じている内心を、そのまま表したような顔になっているだろうに。それを見ても、キリの様子は僅かにも変わらないように見えた。
その期待を裏切って、キリの微笑は強張っていた。
急に悪鬼の如き様相を呈したナンディに、内心の動揺を禁じ得ない。
勿論、腐っても第二騎士団長。ビビリにビビっている事を表に出すような真似はしないが。
自分が何かしら、知らぬ内にナンディの逆鱗に触れたのだろう、とは思った。
長い時間とも感じられるような、僅か数瞬の後。
ナンディはふっと息を吐いて表情を緩めた。
「ヨーナ副長には話さないのか?」
「副長に? この事を、か? ……必要無いと考えている。」
キリの返答にナンディは瞠目した。
自分は、バイハル団長のように悠然と微笑んでいるような余裕は無い。
バイハル団長がモナイに伝えないと決めているのであれば、自分の口から話すべき事では無いように思うが。王子殿下への対処療法をするのであれば、自分はモナイの対処療法を請け負っているのだから、モナイに黙っているわけにも行かないだろう。
ナンディはこっそりと困った。
その光景を見るまでは。
強面と恐れられているナンディの隣に、鉄の人形と揶揄されているモナイ。
何かをモナイが話し掛け、それにナンディが答える。
返答を聞いたモナイの様子が一瞬、しょんぼりとしたものの。続けてナンディが何かを言ったのか、すぐに嬉しそうな微笑を浮かべて小さく頷いた。その表情にナンディも双眸を緩める。
イメージとは異なる柔らかな雰囲気を作り出している二人は、やはり噂通りに、恋人同士……あるいは、現在進行形でそのような関係を築いている最中なのだろう。
そんな大切な人がいるモナイに、デューク王子殿下の対処療法について相談する事を、キリはそっと諦めた。
今は夜だ。
王城での用件を終え、騎士団での執務も終え。
キリは兵舎内の自室に戻って来ている。副長であるモナイの部屋の上階だ。
通常ならば既に寛いでいるような時間だが、今日はこれからナンディが訪れる予定だから、服装もそれなりに『来客を出迎える』のに相応しい姿のままだった。
約束の時間に差し掛かる頃、ナンディはキリの部屋へとやって来た。
キリはいつもの微笑を貼り付けながら、室内へと招き入れ、ソファを勧める。
用件はすぐに終わると言って遠慮するナンディに、キリは勝手に酒とツマミとを用意した。勿論、自分の分もさっさと用意して。
「今日は飲みたい気分なのだ。客を差し置いて一人で、というわけにも行かないだろう? 形だけでも付き合って貰えれば有難いな。」
「そうか……時間外に悪いな。」
キリが一人きりを楽しむはずだった時間を潰された事への抗議、だと感じたか。ナンディは気遣い程度の謝罪を口にした。
高身長、逞しい肉体、厳つい顔立ちに今は難し気な表情が浮かんでいる。
モナイがそばに居なければ通常通りの、恐ろしい兵士団長の姿だ。
ナンディが来た理由は予想が付く。
赤ワインを咽喉へと流し、キリは先に口を開いた。
「マサラー団長の用件は、デューク王子殿下の件……かな?」
「あぁ、そうだ。……やっぱりバイハル団長にも、話があったか。」
ナンディの言葉にキリはわざわざ返事はしない。どうせ彼も分かっているのだ。
揺らしたワイングラス越しに、キリはナンディの様子を窺う。
恐ろしいと思われがちなナンディだが、逞しい身体に大きな手、男らしさを体現したような容姿。殿下に覆い被さるのに相応しいとも言え、キリとは全く違っていた。
気を抜くと溜息を吐いてしまいそうだった。
もし、僕が彼のような男だったら。殿下からの依頼も、多少は自信をもってお受け出来るというのに。
しかしマサラー団長には『大切な人』がいるのだから、恐らく殿下に応じる事は無いはずだ。殿下から一週間の検討時間を頂いたが、彼には不要だろう。
殿下は、例えば思いを通じ合った相手がいる等の事情があれば無理強いする気は無い、と仰っていたから。
僕には誰もいない。
自信が無いという下らない話では、理由にならない……。
「マサラー団長は……、いや。……どうする、という質問は愚問かな。」
分かり切っている問題の答えを問う程、自分が弱気になっている事に気付いて。
キリは咄嗟に微笑を作った。だが上手く仮面を被れたか自信が無い。
大切な人がいるからお断りする予定でいる。……などと聞いてどうする?
それで気楽になりたいのか? それとも、候補者が減ると知って、自分を追い詰めたいのか? どちらにしても無意味な行動じゃないか。
「失礼した。今の言葉は忘れてくれ。」
「……オレは。検討中、だ……。」
「おや……。」
苦虫を噛み潰したような表情のナンディは、普段の強面も手伝い、殊更に恐ろしい形相となっている。
この場に同席しているのが『微笑の君』と称されるキリだけである事で油断もしていた。実は『鬼畜攻め』だろうという噂が立っている彼は、ちょっとやそっとでは動揺しない……と、ナンディは思っているからだ。
今も自分は、王子殿下の頼み事を苦々しく感じている内心を、そのまま表したような顔になっているだろうに。それを見ても、キリの様子は僅かにも変わらないように見えた。
その期待を裏切って、キリの微笑は強張っていた。
急に悪鬼の如き様相を呈したナンディに、内心の動揺を禁じ得ない。
勿論、腐っても第二騎士団長。ビビリにビビっている事を表に出すような真似はしないが。
自分が何かしら、知らぬ内にナンディの逆鱗に触れたのだろう、とは思った。
長い時間とも感じられるような、僅か数瞬の後。
ナンディはふっと息を吐いて表情を緩めた。
「ヨーナ副長には話さないのか?」
「副長に? この事を、か? ……必要無いと考えている。」
キリの返答にナンディは瞠目した。
自分は、バイハル団長のように悠然と微笑んでいるような余裕は無い。
バイハル団長がモナイに伝えないと決めているのであれば、自分の口から話すべき事では無いように思うが。王子殿下への対処療法をするのであれば、自分はモナイの対処療法を請け負っているのだから、モナイに黙っているわけにも行かないだろう。
ナンディはこっそりと困った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる