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第一章 いつもと変わらないと思ってた
15 抱えた罪悪感
オーウェン侯爵家に身を寄せた僕は、その2日後にリュエヌ様と婚約した。
と言っても、婚約のお披露目パーティーは無し。
お城や高位貴族に知らせて、それでお終い。
妊娠が分かって婚約を急いだけど、僕の体調があまり良くないことが理由だ。
体調が良くなっても、その後に出産が控えてるから、しばらくパーティーは無い。
僕にとっては良かった。
パーティー会場で大勢から注目されるのは、まだ怖かったから。
「おはようございます、ユア様。」
使用人さんが僕に優しく声を掛けながら、カーテンを開ける。
窓の外に目をやると、明るい中庭が広がってて、芝生の緑色がとても綺麗。
「今日の御気分は如何でしょう? 朝食は召し上がれそうですか?」
「……大丈夫です、いただきます。」
毎朝こうやって調子を聞かれてから、着替えを手伝ってもらう。
最初の内は、小さなことをしてもらうのが恐縮で仕方なかったけど、応対してくれる使用人さんの笑顔にだんだんと僕の緊張も解れて。最近はすっかりお任せできるようになった。
目が覚めて一瞬、ここが何処だか分からなくなることも無くなった。
「御怪我の方も良くなって来ましたね。リュエヌ坊ちゃまが安心なさいます。」
「ありがとうございます。……そうですね。」
不自然にならないよう、僕は微笑みの表情を作った。
嬉しそうにしなくっちゃ。
良かれと思って言ってる使用人さんに、余計な心配をさせるべきじゃない。
僕の部屋は2階、中央階段を上がってすぐ。
リュエヌ様の部屋も同じ2階だけど、コの字型に広がるお屋敷の端の方にある。
部屋の位置が離れてるのは、まだ婚約者だから。結婚前の節度を保つためらしい。
正式な婚約者になった僕だけど、リュエヌ様の部屋に招かれたことも、リュエヌ様から身体を求められたことも無い。
僕達は気持ちを寄せ合って婚約したんじゃないから当然だ。
だけど使用人さんは、そうと知らないから。
婚約者同士が1度も一緒に夜を越さないのは。リュエヌ様が僕を抱かないのは。僕の怪我が気に掛かって、リュエヌ様が我慢してるから……ってことになってるんだ。
「今日は午前中に、医師の診察予定が入ってございます。健やかにお育ちであれば良いですね。」
「えぇ、本当に。」
侯爵家では2日に1度、お医者さんが来てくれる。
もう3ケ月になるお腹の子と僕の体調、怪我の様子を診るために。
そんなに頻繁に呼ばなくてもいいのに、って思う反面。妊娠は僕にとっても未知のことだし、子供に何かあったら大変だし、ありがたいなって思う。
費用がどうかは分からないけど。でも、リュエヌ様の子じゃないのにね。
王子殿下の未来の腹心として、リュエヌ様が判断したことだから。僕が何かを思うような立場じゃないんだけど、なんだか申し訳ない気持ちが湧いて来てしまう。
朝食後、いつもの診察を受けた。
お医者さんから言われる注意事項も、いつもと変わらず。
妊娠中でも適度な運動は必要。足を怪我してるから歩き過ぎないように。……って。
「ユア。今日は一緒に温室まで歩いてみませんか?」
「はい。ぜひ。」
付き添ってくれてたリュエヌ様が僕に手を差し伸べる。
甘やかすように僕を見る表情はとても穏やかで、浮かべた微笑も嬉しそう。
手を乗せる僕はちゃんと、嬉しそうな顔をしてるかな。
エスコートされて向かった温室には、先客がいた。
その顔を見た僕はつい、リュエヌ様の手をギュッと握ってしまう。
「診察はどうだった? ……リュエヌ。」
少し大きめのチェアーからリュエヌ様に問い掛けたのは……王子殿下。
温室に誘われたとき、ちょっとだけ、そんな予感もしたんだ。
前回の訪問時期から考えたら、もうそろそろかなって。
「変わりはありませんよ。順調に育っていますので、どうぞご心配なく。」
「そうか、それは良かった。」
まず挨拶を交わすのは王子殿下とリュエヌ様。
だって王子殿下は、友人であるリュエヌ様を訪ねて来たんだから。
「ユア……元気そうで良かった。」
「……はい……。」
僕がリュエヌ様と婚約してから、王子殿下はちょくちょく侯爵邸を訪れてた。
そしてついでに、友人の婚約者とも会話する。
……そんな "設定" みたい。
過去の交流は無かったこと。
目の前にいる人はリュエヌ様の友人で、将来、お支えする相手。
気持ちをそう切り替えなきゃいけないのに。
「お腹に触れても良いだろうか?」
「人に触れて貰えば健康な子になると言います。……ユア、構いませんね?」
「はい……、……光栄、です。」
こんな遣り取りは、これが初めてじゃない。
頷いた僕のお腹に優しく、本当に優しく、王子殿下が触れる。
僕は一生懸命、穏やかな表情でいられるよう頑張った。
「まだ動かないのか……。」
「前回も同じ事を言いましたね。数日では変わりませんって。」
キュっと胸が切なくなったのは、色んな感情が一気に込み上げた所為。
王子殿下への、気持ち。未練。まさかまた会うなんて思わなかったから……ちょっとだけ嬉しくて、戸惑って。かなり苦しくて。
リュエヌ様と婚約した以上、いつ王子殿下と顔を合わせても不思議じゃない。それは覚悟しなきゃいけないのに。
重たい気持ちの奥から、浮かび上がるのはアルファルファ様のこと。
僕はリュエヌ様の婚約者だから。もう、王子殿下と何かがあるはずも無いから。王子殿下への気持ちは、僕の中で少しずつ遠くに行って、ただの思い出にするから。
……そんな風に言い訳しながら僕は、まだ、王子殿下と会ってる。
と言っても、婚約のお披露目パーティーは無し。
お城や高位貴族に知らせて、それでお終い。
妊娠が分かって婚約を急いだけど、僕の体調があまり良くないことが理由だ。
体調が良くなっても、その後に出産が控えてるから、しばらくパーティーは無い。
僕にとっては良かった。
パーティー会場で大勢から注目されるのは、まだ怖かったから。
「おはようございます、ユア様。」
使用人さんが僕に優しく声を掛けながら、カーテンを開ける。
窓の外に目をやると、明るい中庭が広がってて、芝生の緑色がとても綺麗。
「今日の御気分は如何でしょう? 朝食は召し上がれそうですか?」
「……大丈夫です、いただきます。」
毎朝こうやって調子を聞かれてから、着替えを手伝ってもらう。
最初の内は、小さなことをしてもらうのが恐縮で仕方なかったけど、応対してくれる使用人さんの笑顔にだんだんと僕の緊張も解れて。最近はすっかりお任せできるようになった。
目が覚めて一瞬、ここが何処だか分からなくなることも無くなった。
「御怪我の方も良くなって来ましたね。リュエヌ坊ちゃまが安心なさいます。」
「ありがとうございます。……そうですね。」
不自然にならないよう、僕は微笑みの表情を作った。
嬉しそうにしなくっちゃ。
良かれと思って言ってる使用人さんに、余計な心配をさせるべきじゃない。
僕の部屋は2階、中央階段を上がってすぐ。
リュエヌ様の部屋も同じ2階だけど、コの字型に広がるお屋敷の端の方にある。
部屋の位置が離れてるのは、まだ婚約者だから。結婚前の節度を保つためらしい。
正式な婚約者になった僕だけど、リュエヌ様の部屋に招かれたことも、リュエヌ様から身体を求められたことも無い。
僕達は気持ちを寄せ合って婚約したんじゃないから当然だ。
だけど使用人さんは、そうと知らないから。
婚約者同士が1度も一緒に夜を越さないのは。リュエヌ様が僕を抱かないのは。僕の怪我が気に掛かって、リュエヌ様が我慢してるから……ってことになってるんだ。
「今日は午前中に、医師の診察予定が入ってございます。健やかにお育ちであれば良いですね。」
「えぇ、本当に。」
侯爵家では2日に1度、お医者さんが来てくれる。
もう3ケ月になるお腹の子と僕の体調、怪我の様子を診るために。
そんなに頻繁に呼ばなくてもいいのに、って思う反面。妊娠は僕にとっても未知のことだし、子供に何かあったら大変だし、ありがたいなって思う。
費用がどうかは分からないけど。でも、リュエヌ様の子じゃないのにね。
王子殿下の未来の腹心として、リュエヌ様が判断したことだから。僕が何かを思うような立場じゃないんだけど、なんだか申し訳ない気持ちが湧いて来てしまう。
朝食後、いつもの診察を受けた。
お医者さんから言われる注意事項も、いつもと変わらず。
妊娠中でも適度な運動は必要。足を怪我してるから歩き過ぎないように。……って。
「ユア。今日は一緒に温室まで歩いてみませんか?」
「はい。ぜひ。」
付き添ってくれてたリュエヌ様が僕に手を差し伸べる。
甘やかすように僕を見る表情はとても穏やかで、浮かべた微笑も嬉しそう。
手を乗せる僕はちゃんと、嬉しそうな顔をしてるかな。
エスコートされて向かった温室には、先客がいた。
その顔を見た僕はつい、リュエヌ様の手をギュッと握ってしまう。
「診察はどうだった? ……リュエヌ。」
少し大きめのチェアーからリュエヌ様に問い掛けたのは……王子殿下。
温室に誘われたとき、ちょっとだけ、そんな予感もしたんだ。
前回の訪問時期から考えたら、もうそろそろかなって。
「変わりはありませんよ。順調に育っていますので、どうぞご心配なく。」
「そうか、それは良かった。」
まず挨拶を交わすのは王子殿下とリュエヌ様。
だって王子殿下は、友人であるリュエヌ様を訪ねて来たんだから。
「ユア……元気そうで良かった。」
「……はい……。」
僕がリュエヌ様と婚約してから、王子殿下はちょくちょく侯爵邸を訪れてた。
そしてついでに、友人の婚約者とも会話する。
……そんな "設定" みたい。
過去の交流は無かったこと。
目の前にいる人はリュエヌ様の友人で、将来、お支えする相手。
気持ちをそう切り替えなきゃいけないのに。
「お腹に触れても良いだろうか?」
「人に触れて貰えば健康な子になると言います。……ユア、構いませんね?」
「はい……、……光栄、です。」
こんな遣り取りは、これが初めてじゃない。
頷いた僕のお腹に優しく、本当に優しく、王子殿下が触れる。
僕は一生懸命、穏やかな表情でいられるよう頑張った。
「まだ動かないのか……。」
「前回も同じ事を言いましたね。数日では変わりませんって。」
キュっと胸が切なくなったのは、色んな感情が一気に込み上げた所為。
王子殿下への、気持ち。未練。まさかまた会うなんて思わなかったから……ちょっとだけ嬉しくて、戸惑って。かなり苦しくて。
リュエヌ様と婚約した以上、いつ王子殿下と顔を合わせても不思議じゃない。それは覚悟しなきゃいけないのに。
重たい気持ちの奥から、浮かび上がるのはアルファルファ様のこと。
僕はリュエヌ様の婚約者だから。もう、王子殿下と何かがあるはずも無いから。王子殿下への気持ちは、僕の中で少しずつ遠くに行って、ただの思い出にするから。
……そんな風に言い訳しながら僕は、まだ、王子殿下と会ってる。
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