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第一章 いつもと変わらないと思ってた
16 薄氷を踏み抜く
◇ ◇ ◇
「何か心配事でも?」
もうじき妊娠4ケ月になるって頃。
お医者さんとの面談後、とうとうリュエヌ様から言われてしまった。
「…………。」
「自分だけで抱え込むのは、お腹の子に……貴方にも、良くありませんよ。」
「…………はい。」
「婚約者にも言えないようなことですか?」
「……つまらない、こと…なんです……。」
そう、僕の気持ちなんて。本当につまらないこと。
王子殿下と会うたびに。少しの会話だけで。自分の未練を思い知らされる。
いっそのこと、リュエヌ様のお陰で王子殿下と会えるなんてラッキー。……なんて、思えたらいいのに。
罪悪感を覚えてしまったから、そんな風に思えない。
「ユアの悩み事を今すぐに、取り除いてあげられたら良いのですが……。」
「……ぁのっ、大丈夫、ですっ。」
沈んだ声になってしまったリュエヌ様に、僕は慌てた。
例え僕達の間に恋愛感情が無くても、愛されての婚約じゃなくても。リュエヌ様は僕を丁寧に扱ってくれてる。それは事実だから。
だから僕はリュエヌ様のことも……王子殿下への思いとは別な意味で、好意を感じ始めてる。それはアルファルファ様に感じてる好意とも似てるようで、違ってるような。
「僕のっ、気持ちの問題…で……。」
「気持ち……ですか。」
「ちゃんと自分で、整理しないと……。出来ます、から……絶対。」
自分の気持ちが分からないのが一番駄目だから。
リュエヌ様に話す前にまず、僕がどうしたいのか。どうするのがいいのか。
ちゃんと考えよう。
◇ ◇ ◇
それから4日後。
今日はお医者さんの診察と面談が午後からの予定。
朝食を済ませて部屋に戻った僕を、リュエヌ様が人を連れて訪ねて来た。
赤ちゃんの洋服とか、赤ちゃん用の小物を扱ってる業者さんだった。
「ユアが気に入った物をどんどん選んでください。遠慮するのは駄目ですよ?」
用事のあるリュエヌ様が部屋から出ると、業者さんは慣れた様子で商品を並べ出す。
持ち込まれたのは、どれもこれも可愛らしい物ばかり。
久し振りに僕は心からウキウキした。
赤ちゃんの誕生を待ち望まれてるって感じがして、嬉しくなった。
使用人さんと、あれが可愛い、これが必要だって話しながら何品か選んだ。
業者さんが帰って。昼食の時間、リュエヌ様は食堂に来なかった。
何処かに出掛けたきり、まだ戻ってないのかも知れない。
毎回一緒に食事するって決まってるわけじゃないし、リュエヌ様は暇じゃないんだから仕方ないけど。今日のお昼は、一緒に食べたかったな。
今日のお礼、言いたかった……。
僕の気が晴れるように、業者さんを連れて来てくれたんだよね?
「リュエヌ様が帰って来たら、知らせてもらえますか? お礼を言いたくて。」
食堂から出る前に、僕は使用人さんにお願いする。
そしたら、リュエヌ様は自室にいるらしい。
お仕事中……かな。
侯爵家のご子息なんだし、学園に在籍してる内から何かの役目があるのかも。
……僕はリュエヌ様のこと、何にも知らないんだな。
「あの、リュエヌ様の部屋に案内してもらえませんか。行ってみて、もし忙しくて迷惑になりそうだったら……お仕事が終わるのを待ってますから。」
「ユア様は婚約者です、きっと喜ばれますよ。表情からは分かり難いですが、リュエヌ坊ちゃまも本当は、部屋に招きたくて仕方ないようですから。」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ、そうですとも。ユア様が部屋に来るならソファや寝具を新調するべきかと、悩んでおられましたからね。……私が今、お話ししたのは内緒ですよ?」
「は……はいっ。」
知らなかった……リュエヌ様がそんなことで悩んでたなんて。
あ、うぅん、勘違いしちゃ駄目。あくまでもリュエヌ様は、婚約者を愛してるって設定なんだから。きっとそれも演技、の……はずだよ。
そう思いながら。
いつも冷静なリュエヌ様の意外な一面を知れて、僕は何だか妙に嬉しかった。
「あれは……。」
リュエヌ様の部屋に続く廊下の途中。少し広いスペースに2人の騎士がいる。
彼らが着てる制服は、王宮騎士のもの。王子殿下の護衛の人だ。
「……殿下が来て…いらっしゃるんですね……。」
「ユア様をお呼びにならないのは珍しいですね。」
王子殿下が来たら、リュエヌ様は必ず、僕を同席させてた。
それを知ってる使用人さんは少し不思議そう。
「あっ、あの……これから、なのかも。ぁの…時間が、今、中途半端だし……。」
僕は咄嗟に、誤魔化さなきゃって気持ちになって言った。
もしかしたらリュエヌ様は、僕の悩みが王子殿下のことだって気付いて。
でも、リュエヌ様が王子殿下と会わないわけにもいかないから。
僕達があまり顔を合わせないよう、気遣ってくれたのかも知れない。
護衛騎士達が僕達に気付いた。
使用人さんが前に出て話してくれて、僕はドアの前まで通される。
……リュエヌ様に甘えてばっかりじゃ、駄目だ。
いつまでもこんな、おかしな気分でいたくない。
決意を固めて、僕は、ドアノブを掴んだ。
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