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第一章 いつもと変わらないと思ってた
17 帳尻合わせ
初めて入ったリュエヌ様の部屋。
誰もいなかった。
敷かれてる絨毯は分厚くて、僕が歩く音も聞こえない。
昼間なのにちょっと薄暗いなって思ったら、カーテンが閉じられてる。
灯りは点いてなかった。
窓の近くに大きな机があって、机の前にはテーブルとソファの応接セット。
壁際には本棚と、ガラス窓じゃなくて中身の見えない戸棚が並んでる。
僕は見たことないけど、執務室って言葉が似合いそうな部屋だ。
辺りをよく見回しても、リュエヌ様と王子殿下はいない。
奥の部屋にいるのかな……って、何気なく思った。
たぶん僕の部屋と同じように、日中を過ごす部屋と寝室は別になってるんだろう。
もしかしたら他に、寛ぐ用の部屋とかもありそう。
実際に今、あの向こうが奥の部屋だろうなってドアが薄く開いてる。
そっと近寄って、ドアの陰で僕は足を止めた。
声が聞こえる。
「…ッハ……、ク…フゥ……っ。」
熱を帯びたような、圧し殺した吐息混じりの声が。
「ハァッ、ハァッ…ハッ……ハッ、……。」
欲望が溢れ出るような、荒々しい息遣いが。
この息遣いを、僕は知ってる。
ぎゅっと抱き締められて、もっと近くで聞いたことがある。
ただ……今聞こえてるのは、僕が知ってるよりもずっと…激しい。
「ハッ、リュエヌ……、リュエヌ……っ!」
僕の名を呼ぶ優しかった声が、違う人を求めてる。
王族の余裕も高貴さもかなぐり捨てて、絞り出すように、切なそうに。
嘘……、何かの、間違い……だよね……?
その場にしゃがみ込んでしまいそう。
まるで怪我が酷くなったみたいに、足が動かない。
部屋に入ってみればいい。声だけじゃなくて、この目で2人の姿を見ればいい。
そうしたら……。
なぁ~んだ、2人とも紛らわしいなぁ、って。きっと笑って言えるはず。
僕の予想はただの勘違いだから……そうでしょ? そうだよね?
無理矢理に半歩、踏み出した足が何かを踏んだ。絨毯とは違う、別な物を。
それは見覚えのあるシャツだった。
リュエヌ様の物だ……。
間違いない。だって今日、見たばっかりだもん。
赤ちゃん商品の業者さんを連れて来てくれたリュエヌ様が着てたシャツ。
乱暴に投げ捨てられたみたいで、皺になってる。
このシャツが挟まって、ドアが完全には閉まらなかったんだ。
だからちょっと開いてたんだ。
「……ユアが気に……。……。」
不意に自分の名前が聞こえたけど、遠いような近いような、変な感じ。
今のはリュエヌ様の声……?
分からない。聞きたくない。
「今はユアの話をするなっ。」
苛立った王子殿下の声。
一瞬遅れて、リュエヌ様が短い悲鳴を上げるのを聞いた。
ベッドマットで何かが跳ねる、そんな音が乱暴に響く。
「お喋りより、……もう1回だ。何をしに来たと思っている?」
「少しは休ませてくださいよ。貴方と違って私の精力は人並なんですよ?」
身体が震えて。息が、上手く吸えない。
気持ちだけが急いでる。
ここから出なきゃ……、早く、何処かへ行かなきゃ……。
足がもつれて。
壁に縋って。
もしかしたら、部屋の中で転んだかも知れない。そんな感覚も無くなってる。
体当たりするようにドアを開けて。
「ユア様っ!」
廊下に出た僕に誰かが声を掛ける。
もう、視界がグチャグチャになっててよく見えない。
僕は走り出した。
掴まれた腕を必死に振り解いて。
「あっ……。」
「ユア様ああっ!!!」
階段を……転げ落ちた。
床に倒れてる僕の周りがやけに騒がしい。
リュエヌ様の、身重の婚約者が階段で足を踏み外したから。
きっと使用人さんがお医者さんを呼ぶのかな。
こんなことで呼ばれるなんて、大変だろうね。
身体中が痛いんだ。
手も動かない。
お腹を撫でることも出来ない。
ご免なさい……大事にして、産んであげられなくて。
ご免なさい……きっとこのまま死ぬんだろうって、ホッとして。
「ユア……!」
声の主を見たくなくて、僕は目を閉じる。
僕に愚かな勘違いをさせた酷い人。
侯爵家を訪れる理由は、目的はリュエヌ様だったんだ。
うぅん、その前から。最初っから。
王子殿下が欲しいのは……婚約者のアルファルファ様を追いやって、王子殿下の心の中にいたのは。
僕に優しくしてくれてたときにも。僕を抱いてるときにも。
きっと最初から、リュエヌ様だったんだ……。
「ふ…っふ、ふふ……。」
「ユアっ?」
やだなぁ、笑っちゃうよ。
罪悪感だなんて……いっちょまえに。
アルファルファ様から王子殿下を、一時的にでも、奪った気で。ご免なさい……だなんて、思い上がって馬鹿みたいだ。
僕は無関係。ただの隠れミノだったのに。
笑っちゃって、笑っちゃって。
なのに、涙が止まらない。
結局、僕は最期に、惨めな気持ちになるって決まってるんだね。
誰もいなかった。
敷かれてる絨毯は分厚くて、僕が歩く音も聞こえない。
昼間なのにちょっと薄暗いなって思ったら、カーテンが閉じられてる。
灯りは点いてなかった。
窓の近くに大きな机があって、机の前にはテーブルとソファの応接セット。
壁際には本棚と、ガラス窓じゃなくて中身の見えない戸棚が並んでる。
僕は見たことないけど、執務室って言葉が似合いそうな部屋だ。
辺りをよく見回しても、リュエヌ様と王子殿下はいない。
奥の部屋にいるのかな……って、何気なく思った。
たぶん僕の部屋と同じように、日中を過ごす部屋と寝室は別になってるんだろう。
もしかしたら他に、寛ぐ用の部屋とかもありそう。
実際に今、あの向こうが奥の部屋だろうなってドアが薄く開いてる。
そっと近寄って、ドアの陰で僕は足を止めた。
声が聞こえる。
「…ッハ……、ク…フゥ……っ。」
熱を帯びたような、圧し殺した吐息混じりの声が。
「ハァッ、ハァッ…ハッ……ハッ、……。」
欲望が溢れ出るような、荒々しい息遣いが。
この息遣いを、僕は知ってる。
ぎゅっと抱き締められて、もっと近くで聞いたことがある。
ただ……今聞こえてるのは、僕が知ってるよりもずっと…激しい。
「ハッ、リュエヌ……、リュエヌ……っ!」
僕の名を呼ぶ優しかった声が、違う人を求めてる。
王族の余裕も高貴さもかなぐり捨てて、絞り出すように、切なそうに。
嘘……、何かの、間違い……だよね……?
その場にしゃがみ込んでしまいそう。
まるで怪我が酷くなったみたいに、足が動かない。
部屋に入ってみればいい。声だけじゃなくて、この目で2人の姿を見ればいい。
そうしたら……。
なぁ~んだ、2人とも紛らわしいなぁ、って。きっと笑って言えるはず。
僕の予想はただの勘違いだから……そうでしょ? そうだよね?
無理矢理に半歩、踏み出した足が何かを踏んだ。絨毯とは違う、別な物を。
それは見覚えのあるシャツだった。
リュエヌ様の物だ……。
間違いない。だって今日、見たばっかりだもん。
赤ちゃん商品の業者さんを連れて来てくれたリュエヌ様が着てたシャツ。
乱暴に投げ捨てられたみたいで、皺になってる。
このシャツが挟まって、ドアが完全には閉まらなかったんだ。
だからちょっと開いてたんだ。
「……ユアが気に……。……。」
不意に自分の名前が聞こえたけど、遠いような近いような、変な感じ。
今のはリュエヌ様の声……?
分からない。聞きたくない。
「今はユアの話をするなっ。」
苛立った王子殿下の声。
一瞬遅れて、リュエヌ様が短い悲鳴を上げるのを聞いた。
ベッドマットで何かが跳ねる、そんな音が乱暴に響く。
「お喋りより、……もう1回だ。何をしに来たと思っている?」
「少しは休ませてくださいよ。貴方と違って私の精力は人並なんですよ?」
身体が震えて。息が、上手く吸えない。
気持ちだけが急いでる。
ここから出なきゃ……、早く、何処かへ行かなきゃ……。
足がもつれて。
壁に縋って。
もしかしたら、部屋の中で転んだかも知れない。そんな感覚も無くなってる。
体当たりするようにドアを開けて。
「ユア様っ!」
廊下に出た僕に誰かが声を掛ける。
もう、視界がグチャグチャになっててよく見えない。
僕は走り出した。
掴まれた腕を必死に振り解いて。
「あっ……。」
「ユア様ああっ!!!」
階段を……転げ落ちた。
床に倒れてる僕の周りがやけに騒がしい。
リュエヌ様の、身重の婚約者が階段で足を踏み外したから。
きっと使用人さんがお医者さんを呼ぶのかな。
こんなことで呼ばれるなんて、大変だろうね。
身体中が痛いんだ。
手も動かない。
お腹を撫でることも出来ない。
ご免なさい……大事にして、産んであげられなくて。
ご免なさい……きっとこのまま死ぬんだろうって、ホッとして。
「ユア……!」
声の主を見たくなくて、僕は目を閉じる。
僕に愚かな勘違いをさせた酷い人。
侯爵家を訪れる理由は、目的はリュエヌ様だったんだ。
うぅん、その前から。最初っから。
王子殿下が欲しいのは……婚約者のアルファルファ様を追いやって、王子殿下の心の中にいたのは。
僕に優しくしてくれてたときにも。僕を抱いてるときにも。
きっと最初から、リュエヌ様だったんだ……。
「ふ…っふ、ふふ……。」
「ユアっ?」
やだなぁ、笑っちゃうよ。
罪悪感だなんて……いっちょまえに。
アルファルファ様から王子殿下を、一時的にでも、奪った気で。ご免なさい……だなんて、思い上がって馬鹿みたいだ。
僕は無関係。ただの隠れミノだったのに。
笑っちゃって、笑っちゃって。
なのに、涙が止まらない。
結局、僕は最期に、惨めな気持ちになるって決まってるんだね。
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