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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
51 宰相閣下の次男
クロード様の一言で、呼ばれた内の何人かは移動準備を始める。
だけど、嫌だと思う人はいるみたいで。
「別室で話を聞く、だなんて……急に言われても困るっ。」
最初に名前を呼ばれた伯爵令息が、まだ席に着いたままで言った。
人差し指が忙しなく机を、トントンと突っついてる。
「それに王城での話なら、とっくに終わってるだろ。俺が見た事は全て、騎士団に話してある。同じ話を何度聞いたって仕方ないとは思わないか?」
「仕方ないかどうかは話を聞いてから、ぼくが決めます。」
少しイライラした感じの伯爵令息に、ランバルト様はキッパリと言い返した。
あまり抑揚の無い感じで淡々としてるのに、言ってる内容はとても……。凄く強気って言うか、悪い言い方をしちゃうと、傲慢な印象だ。
決めるのは自分だって分かってて、その自信を裏切られたことが無いみたい。
高位貴族の令息だからかな。
ちょっとリュエヌ様に似てて……でも。
リュエヌ様よりもっと、グイグイ来る感じ。
あぁ、そう言えば……ジェニ様とリュエヌ様が心配してくれてたっけ。怖い子じゃないよ、って……。
「それに、キミが話す内容が、騎士が作成した調書と同じとは限らないので。」
「ど、どういう意味だ……?」
「ちょっと正確性に疑問があるんですよ。」
「俺が嘘を言ったとでも…っ!」
「そうじゃなくて。」
声を荒げて立ち上がった伯爵令息を、サラッとランバルト様が手で制する。
それから他のクラスメイト達を見て、「他の人達はどうぞ帰っていいですよ。」って言うけど。
誰も動けない。
みんな、どうしようか迷ってる。
これでさっさと教室を出てしまったら、まるで、名前を呼ばれた人達を見捨てるみたいな感じがしそうで。
同じクラスで、友人付き合いをしてるから。
呼ばれなかった僕達が帰る、帰らないを考えてる内に。
ランバルト様は、名前を呼んだ全員を見回してから、伯爵令息に視線を戻す。
「誤解をされると後々面倒なので、先に少し説明しときます。……キミ達はあの日、とても動揺した状態で騎士達に話をしたでしょう。それを聞いた騎士が話を文章として纏めて、調書に記載する際にはどうしても、聞いた言葉をそのままにはなりません。些細な事柄の書き漏らしや、文章としての表現の違いで異なるニュアンスになる可能性も否定できない。」
堂々と諭すように話すランバルト様の言葉を、全員が黙って聞いてた。
関係ないはずの、呼ばれなかった僕達も。
僕はちょっと怖くて、でもちょっと……希望が見えたような気持ち。
だって、これって……。
ジェニ様が、アルファルファ様の義弟を大階段から突き落としたって容疑が、もしかしたら晴れるかも知れないってことだよね? そうでしょ?
「じゃ、別室に移動しましょう。どうやら他の皆さん、帰りづらそうですし。出来れば、最初にキミから話を聞きたいと思ってるんで、歩いてる間に記憶を呼び覚ましてくださいね。」
「……っ、ぃ、いや…さっきも言ったが、急に話を聞きたいと言われても、困る。記憶を、ちゃんと、整理する時間とか…」
「時間が経ってキミの記憶が薄れないといいですね。」
「きょ…っ、今日はちょっと、予定があるんだ。」
「そうですか。キミの話は後日、聞きます。」
呼ばれた人の殆どが大人しく移動しようとしてる中、伯爵令息は最後の抵抗を試みたようだけど。見逃しては貰えなかった。
後日ってことにはなっても、結局、話をするのは決定事項みたいだ。
宰相のご子息って、これくらい強引じゃないと駄目なのかな。
ジェニ様達が心配してた理由が何となく、分かったような気がする。
もしも僕がこの調子で、ランバルト様から有無を言わさない感じで責められたら、泣いちゃうかも知れないよ。
いち早く荷物を纏めたクロード様を先頭に、名前を呼ばれた人達が教室を出る。
教室内に、ようやく何かから解放されたような空気が漂ったけど。
送り出すようなかたちで最後になったランバルト様は、扉のとこで振り返った。
「あ、そうだ。それなら後で、キミの家に使用人をやります。改めて話を聞く場について、ちゃんと正式な書面があった方がいいんですよね? せっかくですし、父の名で伯爵宛に送るのでもいいですよ?」
「え……!」
「今日は子供同士の談話レベルですけど、わざわざ後日にするなら、ちゃんとしてた方がいいでしょう? 話をする場所は、王城で部屋を借りておきます。ぼくが伯爵家に行くのも、ウチに呼ぶのも、微妙ですからね。」
なんだか話が大きくなってきた。
でもきっと、わざと……だよね。
伯爵令息の顔色がみるみるうちに悪くなってく。
「その場には恐らく父も同席するんで、キミも伯爵を…」
「わ、分かった。今日っ、いま…話をするからっ。」
「今日は予定があるんでしょう? 無理する必要は無いですよ?」
「ぉ、お…っ、思い出した。予定は、今日じゃなかったんだ。」
とうとう、伯爵令息は折れた。
観念したみたい。
話の内容がどんな風になるかは、僕は分からないけど。
もし今日、別室で話をしなかったら。
後日、王城内の一室で。伯爵家の当主と、宰相閣下が同席する場で。正式なものとして話をしなくちゃならなくなる。
それを考えれば、令息同士で話しておいた方がずっといい。
僕でも思うんだから、当然、伯爵令息はもっと切実に分かるよね。
「思い出せて良かったですね。早く移動しましょう。時間が勿体無い。」
トゲのある言葉とは裏腹に。
伯爵令息に向けたランバルト様の笑顔は、とても鮮やかで可愛らしかった。
だけど、嫌だと思う人はいるみたいで。
「別室で話を聞く、だなんて……急に言われても困るっ。」
最初に名前を呼ばれた伯爵令息が、まだ席に着いたままで言った。
人差し指が忙しなく机を、トントンと突っついてる。
「それに王城での話なら、とっくに終わってるだろ。俺が見た事は全て、騎士団に話してある。同じ話を何度聞いたって仕方ないとは思わないか?」
「仕方ないかどうかは話を聞いてから、ぼくが決めます。」
少しイライラした感じの伯爵令息に、ランバルト様はキッパリと言い返した。
あまり抑揚の無い感じで淡々としてるのに、言ってる内容はとても……。凄く強気って言うか、悪い言い方をしちゃうと、傲慢な印象だ。
決めるのは自分だって分かってて、その自信を裏切られたことが無いみたい。
高位貴族の令息だからかな。
ちょっとリュエヌ様に似てて……でも。
リュエヌ様よりもっと、グイグイ来る感じ。
あぁ、そう言えば……ジェニ様とリュエヌ様が心配してくれてたっけ。怖い子じゃないよ、って……。
「それに、キミが話す内容が、騎士が作成した調書と同じとは限らないので。」
「ど、どういう意味だ……?」
「ちょっと正確性に疑問があるんですよ。」
「俺が嘘を言ったとでも…っ!」
「そうじゃなくて。」
声を荒げて立ち上がった伯爵令息を、サラッとランバルト様が手で制する。
それから他のクラスメイト達を見て、「他の人達はどうぞ帰っていいですよ。」って言うけど。
誰も動けない。
みんな、どうしようか迷ってる。
これでさっさと教室を出てしまったら、まるで、名前を呼ばれた人達を見捨てるみたいな感じがしそうで。
同じクラスで、友人付き合いをしてるから。
呼ばれなかった僕達が帰る、帰らないを考えてる内に。
ランバルト様は、名前を呼んだ全員を見回してから、伯爵令息に視線を戻す。
「誤解をされると後々面倒なので、先に少し説明しときます。……キミ達はあの日、とても動揺した状態で騎士達に話をしたでしょう。それを聞いた騎士が話を文章として纏めて、調書に記載する際にはどうしても、聞いた言葉をそのままにはなりません。些細な事柄の書き漏らしや、文章としての表現の違いで異なるニュアンスになる可能性も否定できない。」
堂々と諭すように話すランバルト様の言葉を、全員が黙って聞いてた。
関係ないはずの、呼ばれなかった僕達も。
僕はちょっと怖くて、でもちょっと……希望が見えたような気持ち。
だって、これって……。
ジェニ様が、アルファルファ様の義弟を大階段から突き落としたって容疑が、もしかしたら晴れるかも知れないってことだよね? そうでしょ?
「じゃ、別室に移動しましょう。どうやら他の皆さん、帰りづらそうですし。出来れば、最初にキミから話を聞きたいと思ってるんで、歩いてる間に記憶を呼び覚ましてくださいね。」
「……っ、ぃ、いや…さっきも言ったが、急に話を聞きたいと言われても、困る。記憶を、ちゃんと、整理する時間とか…」
「時間が経ってキミの記憶が薄れないといいですね。」
「きょ…っ、今日はちょっと、予定があるんだ。」
「そうですか。キミの話は後日、聞きます。」
呼ばれた人の殆どが大人しく移動しようとしてる中、伯爵令息は最後の抵抗を試みたようだけど。見逃しては貰えなかった。
後日ってことにはなっても、結局、話をするのは決定事項みたいだ。
宰相のご子息って、これくらい強引じゃないと駄目なのかな。
ジェニ様達が心配してた理由が何となく、分かったような気がする。
もしも僕がこの調子で、ランバルト様から有無を言わさない感じで責められたら、泣いちゃうかも知れないよ。
いち早く荷物を纏めたクロード様を先頭に、名前を呼ばれた人達が教室を出る。
教室内に、ようやく何かから解放されたような空気が漂ったけど。
送り出すようなかたちで最後になったランバルト様は、扉のとこで振り返った。
「あ、そうだ。それなら後で、キミの家に使用人をやります。改めて話を聞く場について、ちゃんと正式な書面があった方がいいんですよね? せっかくですし、父の名で伯爵宛に送るのでもいいですよ?」
「え……!」
「今日は子供同士の談話レベルですけど、わざわざ後日にするなら、ちゃんとしてた方がいいでしょう? 話をする場所は、王城で部屋を借りておきます。ぼくが伯爵家に行くのも、ウチに呼ぶのも、微妙ですからね。」
なんだか話が大きくなってきた。
でもきっと、わざと……だよね。
伯爵令息の顔色がみるみるうちに悪くなってく。
「その場には恐らく父も同席するんで、キミも伯爵を…」
「わ、分かった。今日っ、いま…話をするからっ。」
「今日は予定があるんでしょう? 無理する必要は無いですよ?」
「ぉ、お…っ、思い出した。予定は、今日じゃなかったんだ。」
とうとう、伯爵令息は折れた。
観念したみたい。
話の内容がどんな風になるかは、僕は分からないけど。
もし今日、別室で話をしなかったら。
後日、王城内の一室で。伯爵家の当主と、宰相閣下が同席する場で。正式なものとして話をしなくちゃならなくなる。
それを考えれば、令息同士で話しておいた方がずっといい。
僕でも思うんだから、当然、伯爵令息はもっと切実に分かるよね。
「思い出せて良かったですね。早く移動しましょう。時間が勿体無い。」
トゲのある言葉とは裏腹に。
伯爵令息に向けたランバルト様の笑顔は、とても鮮やかで可愛らしかった。
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