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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

気になってた部分は分かったから良し

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※「≪台詞≫」は旧帝国語での会話です。




一冊の条解本を教科書代わりに。
頼んだ通りビリーは読んでくれて、それからポイントになる文法とか、頻繁に使う表現とかについて解説もしてくれた。


「≪する事が出来る。……この言い回しは幾つもの条文で出て来るんだけど、重要なのはあくまでも『出来る』だから、単に権利があるに過ぎないって点。義務って事じゃない。≫」
「つまり……≪しなくても良い?≫」

真剣にメモを取るオレの前で、フィロウがビリーに確認する。
何だか二人は随分、打ち解けたような気がするぞ。
それにスパルタ教育の賜物か、単純に地頭の良さからか、フィロウは短文ならサクサク喋れるようになってる。

「≪そう。だから当然、しない事による罰則も決められてない。……って書いてある。例えば、……身体に天守のシルシを持つ者は、妻となる者を登録し、ハーレムを築く事が出来る。って条文があるけど、別に義務じゃないからハーレムを作るよう強制は出来ない。強制、するべきではない。って条解部分にも明記されてる。≫」
「……そうなんだ。」

旧帝国語にするのを忘れてフィロウが呟いた。
結構ショックを受けたんだろう。
フィロウはハーレム作りが一向に進んでないのを気にしてたから、まさかそれが義務じゃないなんて、思ってもみなかったハズだ。

実はオレも、共通語で書かれた本の条文を読んで、気になってた。
実際は天守のシルシが見付かったら「ハーレム作るでしょ」な雰囲気があるような気がしてたんだけど、それって完全に、ただの雰囲気でしか無かったんだな。
天守やハーレムの数が充分あるような町なら、一人か二人くらいは、ハーレムを作らない選択や妻を少人数にする選択も、あんまりプレッシャー無く出来たりするのかな。


「≪もう一つ重要な意味は。ハーレム法に書かれた『出来る』は全部、自分からやらないと何にもならないって事だね。権利があっても、教会できちんと手続きをしたり、しかるべき所で意思表示をしなきゃ、無いのと同じ。妻を加入させたい。宮殿を作りたい。妻を奪った相手に慰謝料を請求したい。≫」
「≪それは逆に有り難いな。≫」
「≪色々しなきゃいけないね。≫」
「≪面倒だったら全部、何もしなければ良い。怠けた分、貰えないだけ。≫」
「≪……結構、冷たい。≫」
「≪欲しいなら、そう言わなきゃ。言っても駄目な場合もあるけど。≫」
「≪自分から動かなきゃダメ?≫」
「≪黙ってても空気を読んで貰える、って思わない方が良いって事。……まぁ、余計な気を回して要らない事をされたり、欲しくもないのに押し付けられるよりはマシだと思う。≫」

要するにアレだろ。
ハーレム法に書かれた『出来る』は、自分がしたいのだけ選べるってワケだ。
やらないって選択肢があるのは地味に有り難いよな。


まぁそれはともかく。


「≪悪いんだけど二人とも、一旦止まってくれ。メモが追い付かない。≫」

泣きを入れて二人を止めた。

オレがあんまり会話に参加してないのもあるだろうけど。
本当に随分距離が近くなったような気がする。


「い、今の話とか別に、メモしなくてもいいじゃない。絶対、要らないよ。」
「要るか要らないかは後で、清書する際にでも検討するよ。メモしてなかったぁ~って、後悔するのが一番損くさいからな。」
「恥ずかしいからボクの部分は消しといて。」
「部分的に消したらワケ分かんなくなるだろ。」

グラスに唇を付けて、フィロウは不満顔になった。

そこで、咳払いがして。
ビリーが半眼でジッと見てるのに気付くオレ。


これは旧帝国語で説教の流れか。って思ったけど。


「そろそろ……帰らない、と……。夕方、だから……。」
「もうそんな時間か。」

ビリーの言葉で時刻を認識したオレは、慌ててメモを仕舞い込む。
グラスに残ってたお茶も飲み干した。

「≪ところで、イグゥ? 大体の用は足りた感じ? 役に立てた?≫」
「≪あぁ、大体確認出来た。凄く助かった、ありがとう、ビリー。≫」


何はともあれ。
ハーレムの加入条件に、属性……タチ・ネコの制限が無い。って分かったのは大きかったな。
あるのは年齢制限くらいだった。それも下限だけで、上限は無い。

ただ、三年又は五年……天守と妻との交流頻度によって違うけど……の間、ハーレムに赤ん坊が授からない場合。みなし解散の危機が生じるから、それは気を付けなきゃな。


「≪じゃあ、このお礼は……今度、ちょうだい?≫」
「お……おぅ。」

共通語で返事しちゃったけど、まぁいいや。
ビリーの視線が一瞬、ほんの一瞬だけ、オレのを見た気もするけど、まぁいいか。


……ゴメン、嘘だ。まぁいいか、じゃ済まないぞ。

ビリーが急に爆弾落として来るんだ。
開き直った、じゃないだろうけど。
吹っ切った感じで、時々殴り付けて来る見えないボディブローが地味に効く。

一瞬だけエロいとか、凄いエロいんだけどっ。
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