20 / 44
本編1 警戒される男
14・突然のプロポーズに戸惑わない男はいない 俯瞰視点
しおりを挟む
異世界人は一人の神官兵に捕獲された。いとも簡単に。
大聖堂で、縋り付く王子を振り払い。
呼び止める司教の声に応じず。
追い掛ける神官長を振り切って、二階の窓から外へと飛び出し。
神官長の命令に従って捕らえようとする神官兵達を、赤子の手を捻るように片手で難なくいなしてしまう程の。
そこまで戦闘力の高い異世界人は。
ロイズという名の、赤い髪の神官兵に一目で夢中になったようだった。
異世界人を捕まえようとしたロイズの手を、逆に異世界人は優しく包み込み、痛めないようにと気遣いながら握り締めた。
そして戸惑うロイズに名を教えて欲しいと懇願したのだ。
周囲でその遣り取りを聞いた者達は、皆一様に、二か月前の自称勇者の事を思い出さずにはいられなかった。
あの時の再現になるのではという緊張感が走ったが、幸い、そうはならずに済んだ。
タカロキの時とは違い、ロイズは自分の名を異世界人に伝えなかったからだ。
異世界人自身も自称勇者とは少し違っていた。
願いを断られても、気持ち悪いと言われても怒る気配も見せなかった。
自称勇者がタカロキにしたように、ロイズの意思を無視する事もしなかった。
既にロイズの名自体は知っていたようだが、異世界人はあくまでもロイズ本人の口から聞いた上で、名を呼ぶ許可まで求め出した。
呼び方について許可を得るという概念を持ち出すなど、まるで貴族同士のようではないか。この異世界人は、思いのほか、さほど下賤な者ではないのかも知れない。
周囲で見守る者達は少々戸惑った。
結局、ロイズからの許可を得る前に、異世界人は間違えてロイズの事を名で呼んでしまったようだ。
その際の落ち込みようは、それはもう、見ている者達が可哀想に思う程だった。
落ち込み、悔やみ、ロイズに謝罪しながら、名を呼ばせてくれと懇願する姿に。同情した神官長イーシャが部下であるロイズを説得し。居心地の悪くなったロイズの口から異世界人に、自己紹介をさせてやったのだ。
口では「ロイズが嫌がってる事を無理矢理させるな」と言っていた異世界人も、ロイズの名と所属とを知る事が出来た喜びには顔を綻ばせた。
「ロイズ……。」
大切なものの名を呼ぶように、大事に、大事に。
ロイズの名を呼びながら、異世界人は改めて両手でロイズの手を包み込んだ。
身体を強張らせたロイズに、イーシャが「振り払うな」と言いたげな表情をして、無言の圧を掛ける。
ロイズの手を握ったまま異世界人は地面へと膝を着く。
まるでこれからプロポーズをするような姿勢だ。
「聞いてくれ……。オレの名は泉州(センシュウ)。異世界の、日本って国から勇者をやりに来た。……なんか手違いがあったようで、どうやら呼ばれてなかったらしくてな。情けねぇが、コッチの世界じゃオレはまだ無職だ。だが必ず何か、ちゃんと働いて生活費を得られる仕事に就くツモリだ。」
急にそんな事を言われても、ロイズも異世界人が何を伝えたいのかが分からない。
手を掴まれている事をそっちのけで、つい本気で首を傾げてしまう。
ロイズのその仕草は泉州にとって、とても良いものに見えているのだろう。
双眸を柔らかく緩めて泉州は喜んだ。
「なるべくロイズに苦労はさせねぇ。好きだ。オレと結婚してくれ。」
プロポーズだった。
泉州は微笑みながら、しかし真剣な表情でロイズを見上げている。
「嫌だ。」
返事は素早かった。
これ以上ないぐらい明確に、簡潔にキッパリと、ロイズは断った。
断りながら顔を泉州から背け、誓いを立てるように柔らかく包まれていた手も乱暴に引き抜いてしまった。
「おいっ、ロイズ! 言い方っ……!」
ロイズの容赦ない断り方に、焦ったイーシャは。
その場に居た、ロイズと泉州以外の者達の心の声を代弁するように、頭を抱える事となった。
大聖堂で、縋り付く王子を振り払い。
呼び止める司教の声に応じず。
追い掛ける神官長を振り切って、二階の窓から外へと飛び出し。
神官長の命令に従って捕らえようとする神官兵達を、赤子の手を捻るように片手で難なくいなしてしまう程の。
そこまで戦闘力の高い異世界人は。
ロイズという名の、赤い髪の神官兵に一目で夢中になったようだった。
異世界人を捕まえようとしたロイズの手を、逆に異世界人は優しく包み込み、痛めないようにと気遣いながら握り締めた。
そして戸惑うロイズに名を教えて欲しいと懇願したのだ。
周囲でその遣り取りを聞いた者達は、皆一様に、二か月前の自称勇者の事を思い出さずにはいられなかった。
あの時の再現になるのではという緊張感が走ったが、幸い、そうはならずに済んだ。
タカロキの時とは違い、ロイズは自分の名を異世界人に伝えなかったからだ。
異世界人自身も自称勇者とは少し違っていた。
願いを断られても、気持ち悪いと言われても怒る気配も見せなかった。
自称勇者がタカロキにしたように、ロイズの意思を無視する事もしなかった。
既にロイズの名自体は知っていたようだが、異世界人はあくまでもロイズ本人の口から聞いた上で、名を呼ぶ許可まで求め出した。
呼び方について許可を得るという概念を持ち出すなど、まるで貴族同士のようではないか。この異世界人は、思いのほか、さほど下賤な者ではないのかも知れない。
周囲で見守る者達は少々戸惑った。
結局、ロイズからの許可を得る前に、異世界人は間違えてロイズの事を名で呼んでしまったようだ。
その際の落ち込みようは、それはもう、見ている者達が可哀想に思う程だった。
落ち込み、悔やみ、ロイズに謝罪しながら、名を呼ばせてくれと懇願する姿に。同情した神官長イーシャが部下であるロイズを説得し。居心地の悪くなったロイズの口から異世界人に、自己紹介をさせてやったのだ。
口では「ロイズが嫌がってる事を無理矢理させるな」と言っていた異世界人も、ロイズの名と所属とを知る事が出来た喜びには顔を綻ばせた。
「ロイズ……。」
大切なものの名を呼ぶように、大事に、大事に。
ロイズの名を呼びながら、異世界人は改めて両手でロイズの手を包み込んだ。
身体を強張らせたロイズに、イーシャが「振り払うな」と言いたげな表情をして、無言の圧を掛ける。
ロイズの手を握ったまま異世界人は地面へと膝を着く。
まるでこれからプロポーズをするような姿勢だ。
「聞いてくれ……。オレの名は泉州(センシュウ)。異世界の、日本って国から勇者をやりに来た。……なんか手違いがあったようで、どうやら呼ばれてなかったらしくてな。情けねぇが、コッチの世界じゃオレはまだ無職だ。だが必ず何か、ちゃんと働いて生活費を得られる仕事に就くツモリだ。」
急にそんな事を言われても、ロイズも異世界人が何を伝えたいのかが分からない。
手を掴まれている事をそっちのけで、つい本気で首を傾げてしまう。
ロイズのその仕草は泉州にとって、とても良いものに見えているのだろう。
双眸を柔らかく緩めて泉州は喜んだ。
「なるべくロイズに苦労はさせねぇ。好きだ。オレと結婚してくれ。」
プロポーズだった。
泉州は微笑みながら、しかし真剣な表情でロイズを見上げている。
「嫌だ。」
返事は素早かった。
これ以上ないぐらい明確に、簡潔にキッパリと、ロイズは断った。
断りながら顔を泉州から背け、誓いを立てるように柔らかく包まれていた手も乱暴に引き抜いてしまった。
「おいっ、ロイズ! 言い方っ……!」
ロイズの容赦ない断り方に、焦ったイーシャは。
その場に居た、ロイズと泉州以外の者達の心の声を代弁するように、頭を抱える事となった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
46
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる