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8 そういうお約束は要らねぇ!
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ラグエード王国の第三王子、ヴァレンタイン殿下が自室で襲撃されて数時間後。
すっかり夜が明けちまった城内の廊下を、オレは早足で歩いていた。
「っふ、ぁ…ほわぁ~あっ。」
まるで執事みたいな、パリッとした衣服に身を包んで、力一杯の欠伸が出た。
ほんのちょっと仮眠を取っただけで、オレは正直、かなり眠たい。
「ぁんの、クソ王子が……、ったく。無駄な時間取らせやがって……。」
オレが文句を言うのは許してくれ。
だってよ、あの後……オレの、渾身の『一人ぬいぐるみ劇場』の後。あのクソ王子に服を着せてどうにかするまでの間に、だいぶ無駄な時間を過ごしたんだから。
かいつまんで話すと、な?
クマチャンと、リスクンと、オサルサンが寄ってたかって『可愛い』を振り撒いたお陰で、クソ王子はある程度落ち着いてくれたんだ。……一応、たぶん。
そのチャンスを見逃さないオレは、ここぞとばかりに服を着るように、クマチャンの口から……実際に喋ったのはオレだが……お強請りしたんだ。
そしたらクソ王子が……。あの野郎、かなり馬鹿だとは思っていたが、「クマチャンが着せてくれ」って……!
そこでヘソ曲げられるのも面倒だから、着せてやったがよ。
やっぱりクマチャンの手じゃ、衣服を掴むのはなかなか難しくてな。
結局オレの手を使う事になったりして……まぁ、それだけなら別に構わねぇんだが。
下着が……アイツ、女性物の下着を履いていたぞ! んな小さな布切れで隠せるワケが無ぇだろが!
案の定、オレが履かせてやったら、思いっきりモノがはみ出すって……オイっ! もういい加減にしろっ! 自慢気にしている場合じゃねぇだろ、そんな自分に疑問は無ぇのか!
……あぁ駄目だ。普段から女装してて貰わねぇとマズいんだから、疑問に持つとか持たないとかの問題じゃなかったんだ。
そんな感じで服を着せるだけの作業に、結構な時間と精神力を消費しちまった。
普通に女装する時だって、いつも「可愛い」とか「かわいい」とか「カワイイ」とか褒めちぎってどうにかクリアしているっていうのに。
……その甲斐あって、ちゃんと女装が仕上がった後のヴァレンタイン殿下はかなり可愛い。って言うか、美人になるんだがな。
早朝からオレが向かったのは、城内の奥深く。
昨夜の襲撃者を入れている牢屋だ。
侍従の格好をしていた奴を含む、王子の部屋に襲撃して来た連中は全員、無事に……って言うのもナンだが近衛兵で確保した。
全員、クソ王子の拘束魔法がキッチリ効いていて実に簡単だった。
身体の中に『魔法成分』がある分だけ、クソ王子の魔法は強大だからな。
普通ならソイツらを取り調べるのは近衛の仕事だし、王族を襲うなんっつ~重罪を犯した奴等は、背後にいるだろう黒幕を引き摺り出す為にかなり厳しく扱われるもんだ。
だがヴァレンタイン殿下が被害者の場合に限っては。
通常とは犯人の扱いが違っている。
街外れにある普通の牢屋でなく、城内にいるって時点で、そこら辺は明らかだよな。
「よお、エルドレッド。来たか。」
牢屋の前室。
兵士達が待機するような部屋でオレは、近衛兵長から声を掛けられた。
室内にいるのは近衛兵長一人だけ。
どうやらオレを待っていたらしい。
「昨夜はお疲れ様、だったな?」
「アンタもだろ。……お互いに疲れたな。」
お互いに気さくな感じで口を聞く。
オレに対して近衛兵長が丁寧な、オレの方がちょっと上みたいな態度をするのは、他に近衛とかがいる場合だ。
貴族でもねぇ平民出身の若手騎士なオレが、他の奴等から舐められねぇよう、気を遣ってくれているんだ。
それを抜きにしても、ちょいちょいオレを気に掛けてくれたり。
立場の割にはお堅過ぎでもねぇし、割と人好きするし、太っ腹だし。
いい人っちゃあ、いい人なんだがよぉ……。
「俺の疲れと、お前サンの疲れとは違うだろう?」
今から面白い事を言うぞ。みたいに胡散臭い感じで笑う近衛兵長。
「昨夜はお楽しみだったな?」
「そういうお約束は要らねぇんだよっ!」
オレの尻肉を鷲掴みにして来た手を、容赦なく叩き払ってやった。
毎度毎度。よく飽きねぇもんだ。
この揶揄いさえ無きゃ、もっといい人なんだがなぁ……。
すっかり夜が明けちまった城内の廊下を、オレは早足で歩いていた。
「っふ、ぁ…ほわぁ~あっ。」
まるで執事みたいな、パリッとした衣服に身を包んで、力一杯の欠伸が出た。
ほんのちょっと仮眠を取っただけで、オレは正直、かなり眠たい。
「ぁんの、クソ王子が……、ったく。無駄な時間取らせやがって……。」
オレが文句を言うのは許してくれ。
だってよ、あの後……オレの、渾身の『一人ぬいぐるみ劇場』の後。あのクソ王子に服を着せてどうにかするまでの間に、だいぶ無駄な時間を過ごしたんだから。
かいつまんで話すと、な?
クマチャンと、リスクンと、オサルサンが寄ってたかって『可愛い』を振り撒いたお陰で、クソ王子はある程度落ち着いてくれたんだ。……一応、たぶん。
そのチャンスを見逃さないオレは、ここぞとばかりに服を着るように、クマチャンの口から……実際に喋ったのはオレだが……お強請りしたんだ。
そしたらクソ王子が……。あの野郎、かなり馬鹿だとは思っていたが、「クマチャンが着せてくれ」って……!
そこでヘソ曲げられるのも面倒だから、着せてやったがよ。
やっぱりクマチャンの手じゃ、衣服を掴むのはなかなか難しくてな。
結局オレの手を使う事になったりして……まぁ、それだけなら別に構わねぇんだが。
下着が……アイツ、女性物の下着を履いていたぞ! んな小さな布切れで隠せるワケが無ぇだろが!
案の定、オレが履かせてやったら、思いっきりモノがはみ出すって……オイっ! もういい加減にしろっ! 自慢気にしている場合じゃねぇだろ、そんな自分に疑問は無ぇのか!
……あぁ駄目だ。普段から女装してて貰わねぇとマズいんだから、疑問に持つとか持たないとかの問題じゃなかったんだ。
そんな感じで服を着せるだけの作業に、結構な時間と精神力を消費しちまった。
普通に女装する時だって、いつも「可愛い」とか「かわいい」とか「カワイイ」とか褒めちぎってどうにかクリアしているっていうのに。
……その甲斐あって、ちゃんと女装が仕上がった後のヴァレンタイン殿下はかなり可愛い。って言うか、美人になるんだがな。
早朝からオレが向かったのは、城内の奥深く。
昨夜の襲撃者を入れている牢屋だ。
侍従の格好をしていた奴を含む、王子の部屋に襲撃して来た連中は全員、無事に……って言うのもナンだが近衛兵で確保した。
全員、クソ王子の拘束魔法がキッチリ効いていて実に簡単だった。
身体の中に『魔法成分』がある分だけ、クソ王子の魔法は強大だからな。
普通ならソイツらを取り調べるのは近衛の仕事だし、王族を襲うなんっつ~重罪を犯した奴等は、背後にいるだろう黒幕を引き摺り出す為にかなり厳しく扱われるもんだ。
だがヴァレンタイン殿下が被害者の場合に限っては。
通常とは犯人の扱いが違っている。
街外れにある普通の牢屋でなく、城内にいるって時点で、そこら辺は明らかだよな。
「よお、エルドレッド。来たか。」
牢屋の前室。
兵士達が待機するような部屋でオレは、近衛兵長から声を掛けられた。
室内にいるのは近衛兵長一人だけ。
どうやらオレを待っていたらしい。
「昨夜はお疲れ様、だったな?」
「アンタもだろ。……お互いに疲れたな。」
お互いに気さくな感じで口を聞く。
オレに対して近衛兵長が丁寧な、オレの方がちょっと上みたいな態度をするのは、他に近衛とかがいる場合だ。
貴族でもねぇ平民出身の若手騎士なオレが、他の奴等から舐められねぇよう、気を遣ってくれているんだ。
それを抜きにしても、ちょいちょいオレを気に掛けてくれたり。
立場の割にはお堅過ぎでもねぇし、割と人好きするし、太っ腹だし。
いい人っちゃあ、いい人なんだがよぉ……。
「俺の疲れと、お前サンの疲れとは違うだろう?」
今から面白い事を言うぞ。みたいに胡散臭い感じで笑う近衛兵長。
「昨夜はお楽しみだったな?」
「そういうお約束は要らねぇんだよっ!」
オレの尻肉を鷲掴みにして来た手を、容赦なく叩き払ってやった。
毎度毎度。よく飽きねぇもんだ。
この揶揄いさえ無きゃ、もっといい人なんだがなぁ……。
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