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【ディエゴ視点】走れ!

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それから何回かの休憩を挟みつつ、三時間ほどは走っただろうか。ようやくあとちょっとでルコサの街、というところまで辿り着いた。ちょうど日もだいぶ落ちて、空が夕焼けで金色になり始めている。

もうラスクの腕や体も限界だろう。

海が一面見渡せる見晴らしのいい岬で、俺は足を緩めた。

「あれ?休憩?」

速度が落ちたらラスクの腕の力も全身の力も一気に弱まってくる。

この三時間ほどの間で、ラスクは随分と乗り方が上手くなって来ていて、俺が速度を緩めると力を抜いてほどほどに身体を休める事ができるようになっていた。

なかなかに勘がいいと思う。

「わふ」

促したらすぐに俺の背から降りて、ラスクはうーんとノビをする。休憩の度に見た光景で、もう見慣れたものだが、やっぱり乗っているのはきついんだろうなと思った。

自分が走るのはなんてことないから気軽に誘ってしまったが、ラスクには厳しい道のりだっただろう。

俺は内心、とても反省していた。

ラスクにキツい思いをさせてしまった。

反省だ……。

「どうした? ディエゴ」

見上げたらラスクがすごく優しい目で俺を見てた。

海みたいに綺麗な目だな、と思ってたけど海と空を背景にして見たラスクの目は、もっと優しい色で俺はラスクの目の色の方が好きだと思った。

「そんなに耳としっぽをしょんぼりさせて、らしくないけど」

頭をぽふ、と撫でられて落ち込んだ気持ちがちょっとだけ復活する。

しっぽが勝手にちょっと揺れた。

「わふ……」

「あはは、ちょっと喜んでる」

優しい。好きだ。

「で、どうしたの?」

ラスクに優しく聞かれて、俺は重い口を開く。

「ラスクに、むりをさせた……」

「大丈夫だよ。だいぶ慣れてきたし」

「ここ、ゆうひがきれい」

「ああ、岬だもんね。僕こんなに視界が開けて綺麗なとこ、初めてきたよ」

「ここ、あんぜん。ちょっとだけここでまってて」

「えっ」

驚くラスクに後ろ髪を引かれる気持ちだけど、俺は必死で走った。

ここからなら、俺だけなら全速力で走ったら俺の家まで五分もかからない。家に帰れば金もマジックバッグも今のラスクに持って来たいものがなんでもある。

家に辿り着いた俺は毛布だとかマントだとか敷布だとか、身体を温められそうなものをいくつかマジックバッグにつっこんで家を飛び出た。

一瞬そのまま戻ろうかと思ったけど、人型に姿を変えて屋台であったかい食い物をいくつか買う。

マジックバッグに買った物を全部押し込んで、また獣化した俺は全速力でラスクの元へとひた走る。
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