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ねこ耳姉弟との顔合わせ
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「可愛いだろう? 今日、塔に入り込んでしまってね。保護したのだよ」
「あー、なるほど」
多くを語らずとも訳知り顔で頷くのは弟のロンだ。自分達の境遇と似通ったものだろうと推測してくれたのだろう。
「そっかぁ、あたしはサク、こっちは弟のロンね」
「よろしくね。君の名前は?」
「えっと……おれ、ヨギ……」
二人の勢いに押されたのか、ヨギはおどおどと答えた。耳もしっぽもぺたんと後ろに寝て、私の服をキュッと握りしめている。
「大丈夫だよ。この子たちは優しいから、お前を害したりはしない」
背中をぽんぽんと軽く叩いてやれば、つぶらな瞳で見上げてきた。安心させてやりたくて微笑んで見せる。すると少しは落ち着いたのか、ヨギは姉弟の方へと目を向けた。
姉弟も朗らかな笑顔を向けてくれて、ヨギの気持ちも和んだようだ。耳が随分と起きてきた。
「仲良くしてねー」
サクが顔を寄せて、ヨギの鼻にチョン、と自身の鼻を当てる。獣人同士の挨拶で鼻ちゅーと言うらしいが、最初にこの挨拶を受けた時には驚いたものだ。次いでロンも鼻ちゅーの挨拶を済ませると、私にも要求してきた。私の方が背が高いため、屈まないとできないのだという。
龍種にはないこの挨拶にも今ではすっかり慣れた。これしきのことでこの子らが安心するのなら、なんという事はない。親愛の挨拶を済ませ、すっかりリラックスした様子の三人を見て、私は本題を切り出すことにした。
「サク、ロン、ここに来たのは他でもないのだが、ヨギが自立できるようになるまで、ここで世話をしてやって欲しいのだ」
「いいですよー。そういう事かな? って思ってましたー!」
「任せてください」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
満面の笑顔のまま二つ返事で受け入れてくれる頼もしい子らに、私は内心ホッと胸を撫で下ろした。
「よし、兄ちゃんと姉ちゃんがちゃんと鍛えてやるからな。ヨギはおっきくなったら何になりたいんだ?」
ロンがヨギの頭をクリクリと撫でると、ヨギは大きく身を乗り出した。
「おれ、セイリューさまのお世話して、セイリューさまとずっと一緒にいたい!」
姉弟は目を丸くしてお互いに顔を見合わせる。そして、二人して盛大に吹き出した。困った、まさかここでこの話が出るとは思わなかった。私はなぜか少し恥ずかしいような気持ちに晒される。
「あ、あの、これはだな。ヨギが一緒に居たいと言うから、私では世話されるばかりで世話の仕方が分からないと正直に言ったらだな」
「じゃあ自分がお世話すれば一緒に居られるって思ったわけか。賢いな、お前」
「可愛いじゃないですかぁ。よーし、お姉ちゃんがセイリューさまのお世話の仕方をしっかり教えてあげるからねー」
「あ……ありがとう! おれ、頑張る……!」
その可愛らしさであっという間に姉弟を味方につけてしまったヨギは、小さな手で握り拳を作っていた。この小さな手で私がお世話される日も近いのかも知れない。
***
その時ぼんやりとそんなことを思ったが、まさかこんなにも早々にそれが現実になるとは思わなかった。
「聖龍さまー! おれ、ご飯持ってきた! 食べて!」
「ヨギ、今日も元気だね」
ヨギを保護してから一ヶ月。
ヨギは朝、昼、夜、毎日毎日かいがいしく私の元へと通っている。
「今夜はねぇ、ヤク鹿のワイン煮こみがメインだってロンが言ってた!」
「そうか、美味しそうだね」
「うん! 食べよ?」
サクとロンの姉弟が気を利かせてヨギに食事を運ぶ役目を与えているのだろう。毎日こうしてやってきては、私と食事を共にする。この頃では食べ方もすっかり上手になってきて、子の成長は早いものだと感心するばかりだ。
「セイリューさま、おれ、ロンに肉の切り方習った!」
私の前に置かれた皿の鹿肉を、食べやすいように手際良く切り分けてくれる。毎日こうして何かしら「習った!」と報告してはやって見せてくれるのが、このところの私の楽しみだ。
「ありがとう。とても綺麗に切り分けてある。食べやすそうだ。ヨギは毎日成長しているな」
心から褒めて頭を撫でてやると、満面の笑顔を見せてくれる。しっぽはもうちぎれんばかりに振られていて、喜びを隠そうともしない。その真っ直ぐな感情表現が愛しかった。
ふと少し丸くなった頬が目に入り、私はそっと頬に手をあてる。以前よりも子供らしい、丸さと肌のハリが出たことに安堵した。
「ふふ、愛らしいな」
腕にもちゃんと肉がついてきている。子供らしいぷくぷくとした可愛らしい腕になる日も近いだろう。
「会ったばかりの頃は折れそうで心配だった。子供はふくよかな方が良い」
「おれ、ちゃんと筋肉もついてきてるんだぞ!」
バッと服を捲り上げて、お腹についた筋肉を自慢げに見せてくる。窪んだように薄くて血色が悪く肋が見えていた腹は、今では肉がそれなりに詰まりハリの良い肌と程よい筋肉が備わっていた。
冒険者たちの鍛え抜かれた腹筋にはまだまだ遠く及ばないけれど、健康で美しい体に徐々に近づいていくのだろう。
「あー、なるほど」
多くを語らずとも訳知り顔で頷くのは弟のロンだ。自分達の境遇と似通ったものだろうと推測してくれたのだろう。
「そっかぁ、あたしはサク、こっちは弟のロンね」
「よろしくね。君の名前は?」
「えっと……おれ、ヨギ……」
二人の勢いに押されたのか、ヨギはおどおどと答えた。耳もしっぽもぺたんと後ろに寝て、私の服をキュッと握りしめている。
「大丈夫だよ。この子たちは優しいから、お前を害したりはしない」
背中をぽんぽんと軽く叩いてやれば、つぶらな瞳で見上げてきた。安心させてやりたくて微笑んで見せる。すると少しは落ち着いたのか、ヨギは姉弟の方へと目を向けた。
姉弟も朗らかな笑顔を向けてくれて、ヨギの気持ちも和んだようだ。耳が随分と起きてきた。
「仲良くしてねー」
サクが顔を寄せて、ヨギの鼻にチョン、と自身の鼻を当てる。獣人同士の挨拶で鼻ちゅーと言うらしいが、最初にこの挨拶を受けた時には驚いたものだ。次いでロンも鼻ちゅーの挨拶を済ませると、私にも要求してきた。私の方が背が高いため、屈まないとできないのだという。
龍種にはないこの挨拶にも今ではすっかり慣れた。これしきのことでこの子らが安心するのなら、なんという事はない。親愛の挨拶を済ませ、すっかりリラックスした様子の三人を見て、私は本題を切り出すことにした。
「サク、ロン、ここに来たのは他でもないのだが、ヨギが自立できるようになるまで、ここで世話をしてやって欲しいのだ」
「いいですよー。そういう事かな? って思ってましたー!」
「任せてください」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
満面の笑顔のまま二つ返事で受け入れてくれる頼もしい子らに、私は内心ホッと胸を撫で下ろした。
「よし、兄ちゃんと姉ちゃんがちゃんと鍛えてやるからな。ヨギはおっきくなったら何になりたいんだ?」
ロンがヨギの頭をクリクリと撫でると、ヨギは大きく身を乗り出した。
「おれ、セイリューさまのお世話して、セイリューさまとずっと一緒にいたい!」
姉弟は目を丸くしてお互いに顔を見合わせる。そして、二人して盛大に吹き出した。困った、まさかここでこの話が出るとは思わなかった。私はなぜか少し恥ずかしいような気持ちに晒される。
「あ、あの、これはだな。ヨギが一緒に居たいと言うから、私では世話されるばかりで世話の仕方が分からないと正直に言ったらだな」
「じゃあ自分がお世話すれば一緒に居られるって思ったわけか。賢いな、お前」
「可愛いじゃないですかぁ。よーし、お姉ちゃんがセイリューさまのお世話の仕方をしっかり教えてあげるからねー」
「あ……ありがとう! おれ、頑張る……!」
その可愛らしさであっという間に姉弟を味方につけてしまったヨギは、小さな手で握り拳を作っていた。この小さな手で私がお世話される日も近いのかも知れない。
***
その時ぼんやりとそんなことを思ったが、まさかこんなにも早々にそれが現実になるとは思わなかった。
「聖龍さまー! おれ、ご飯持ってきた! 食べて!」
「ヨギ、今日も元気だね」
ヨギを保護してから一ヶ月。
ヨギは朝、昼、夜、毎日毎日かいがいしく私の元へと通っている。
「今夜はねぇ、ヤク鹿のワイン煮こみがメインだってロンが言ってた!」
「そうか、美味しそうだね」
「うん! 食べよ?」
サクとロンの姉弟が気を利かせてヨギに食事を運ぶ役目を与えているのだろう。毎日こうしてやってきては、私と食事を共にする。この頃では食べ方もすっかり上手になってきて、子の成長は早いものだと感心するばかりだ。
「セイリューさま、おれ、ロンに肉の切り方習った!」
私の前に置かれた皿の鹿肉を、食べやすいように手際良く切り分けてくれる。毎日こうして何かしら「習った!」と報告してはやって見せてくれるのが、このところの私の楽しみだ。
「ありがとう。とても綺麗に切り分けてある。食べやすそうだ。ヨギは毎日成長しているな」
心から褒めて頭を撫でてやると、満面の笑顔を見せてくれる。しっぽはもうちぎれんばかりに振られていて、喜びを隠そうともしない。その真っ直ぐな感情表現が愛しかった。
ふと少し丸くなった頬が目に入り、私はそっと頬に手をあてる。以前よりも子供らしい、丸さと肌のハリが出たことに安堵した。
「ふふ、愛らしいな」
腕にもちゃんと肉がついてきている。子供らしいぷくぷくとした可愛らしい腕になる日も近いだろう。
「会ったばかりの頃は折れそうで心配だった。子供はふくよかな方が良い」
「おれ、ちゃんと筋肉もついてきてるんだぞ!」
バッと服を捲り上げて、お腹についた筋肉を自慢げに見せてくる。窪んだように薄くて血色が悪く肋が見えていた腹は、今では肉がそれなりに詰まりハリの良い肌と程よい筋肉が備わっていた。
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