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【アルロード視点】心の乱れは剣の乱れ
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「ルキノが納得してるなら、俺らが止めるもんでもないでしょ」
「そ、それは、そうだけれど」
僕は、そんな風に簡単には割り切れない。なのに、ルキノは満面の笑顔だ。
「顔合わせとかあるのか?」
「たぶん今週末?」
「頑張れよ」
「うん!」
混乱する僕をよそに、ふたりは笑顔でそんな事を話すのだった。
当然午後の授業はまったく身が入らなくて、いつもは軽々倒せる相手にも苦戦する始末。僕は存外精神的な波が剣に出てしまう性質らしい。
心の乱れが剣の乱れになる、なんて話が今ひとつピンと来ていなかったけれど、どうやらこれまでは単純にそんなに心乱される事がなかっただけらしい。
自分の不甲斐なさを思い知った僕は、ルキノと討伐に向かう途中の草原でこの心の迷いを打ち明けようと心に決めた。
森に入ってまでこんな乱れた心では危ないかもしれないからだ。
「ルキノ、今日の話だけれど」
「今日の話?」
「縁談があったという話だ」
「ああ! ほんと良かったです。これでひと安心っていうか」
「ルキノは本当にそれでいいのか?」
「? はい、まだお相手は分からないですけど……でもこっちの望み通りの条件だっていうし、あれだけ父が喜んでるところを見るに、悪い噂もない方だろうと思いますし」
「そうじゃなくて……!」
小首を傾げてルキノが僕を見上げてくる。
相手も分からないのに縁談を喜ぶルキノを見ていると、胸の中のモヤモヤとした塊が膨れ上がって体を突き破って出てきてしまいそうだ。
悔しい。なぜ僕じゃダメなんだ。
せめて。
「君はあんなに『あのお方』の事を思っているじゃないか。せめて、思いを告げるとか」
「しませんってば。あのお方には、オレの事なんてカケラも気にせずに幸せに暮らして欲しいんですから」
なぜこんなにも頑ななんだ。
ルキノが思いをよせる『あのお方』ならまだしも、誰とも知らぬ男に嫁ぐなんて。しかも第二夫人だなんて愛されるかも分からないというのに。
悔しくて、何もできないのが情けなくて。
「僕にできる事はもう、ないのかな……」
悲しくなって呟いたら、ルキノは困ったように微笑んだ。
「アルロード様が優し過ぎて困っちゃうな。……アルロード様、本当に大丈夫です。オレ、楽しく暮らせるように頑張りますから」
心配しないで、と微笑まれればそれ以上言える事なんかない。
ルキノに必要とされていない事実に泣けてくる。
心は乱れまくっているものの、なんとか無事に討伐を終えた僕は、情けない気持ちのままとぼとぼと帰路についたのだった。
「まぁ、どうしたのアルロード。顔色が悪いわ、何かあった?」
家族の食卓で、母上にいきなりそんな風に見破られてしまった。
「少々頑張り過ぎたのかもしれません。今日は早く寝て体調を整えます」
「そう? 本当にそれだけ? 何か悩んでいるのではなくて? 近頃見違えるように生き生きとしていたから、余計に心配だわ」
「以前友人と一緒に冒険者ギルドに登録して、魔物の討伐をすることにしたと言ったと思うけれど、それが存外楽しくて張り切ってしまったというか」
「ああ、魔物の討伐は訓練にはちょうどいいからな。色々と発見があって面白いだろう」
「ルキノさんと一緒に行っているのでしょう? 仲良くやれているのね」
父上と母上の反応が真逆で面白い。でもどっちも正解だ。ルキノと一緒だから楽しいし、魔物の討伐で得られる知見も多い。僕は力強く頷いた。
ただ、それももう長くは続けられないのかもしれない。ルキノは冒険者ではなく、誰かの妻になるのだから。
「……そういえば、ルキノ君といえば、殿下から伝言を頼まれたんだが」
兄さんが気まずそうに口を開く。
「殿下から?」
「ルキノ君を、側妃に考えていると」
「側……っ!?」
「彼の嫁ぎ先の交渉が難航しているようだと耳にしたらしくて、よく考えたら自分の側妃にするなら完璧に条件が満たせるよね、と仰せだ」
「な……っ」
「護衛として侍るなら、あまり被服費もかからないだろうし、彼の実家の財政状況でも問題ないのではないかと仰ってね。昨日オーソロル卿が彼の父親……ラウマ男爵に打診に伺った筈だよ。オーソロル卿が騎士団長だった時に、ラウマ男爵とは懇意にしていたから、話が通りやすいとふんでの人選だろうね」
男爵家が王家からの打診を拒むなんてあり得ない。なのに人選にまで気を配る用意周到さは、殿下の本気を感じさせる。
事実、ルキノの父君は諸手を挙げる勢いで喜んでいたじゃないか。
殿下なら、ルキノの事情を鑑みて、大切にしてくださるだろうか。
ルキノは、喜んで嫁ぐんだろうか。
目眩がした。
「アルロード、貴方、真っ青よ?」
「あ……すみません。あまりに、突然のお話で」
心臓が苦しくて、空気が肺に入っていかない。頭が考えることを放棄していた。
「このままでいいの?」
母上の問いかけに、ハッとして顔を上げる。
「貴方は以前、もしルキノさんが了承してくれたら結婚したいと言っていたでしょう。それくらい大切な子なのではなくて? 正式に王家との婚約が成立すると、流石に覆せなくなるわ。本当にそれでいいの?」
「そ、それは、そうだけれど」
僕は、そんな風に簡単には割り切れない。なのに、ルキノは満面の笑顔だ。
「顔合わせとかあるのか?」
「たぶん今週末?」
「頑張れよ」
「うん!」
混乱する僕をよそに、ふたりは笑顔でそんな事を話すのだった。
当然午後の授業はまったく身が入らなくて、いつもは軽々倒せる相手にも苦戦する始末。僕は存外精神的な波が剣に出てしまう性質らしい。
心の乱れが剣の乱れになる、なんて話が今ひとつピンと来ていなかったけれど、どうやらこれまでは単純にそんなに心乱される事がなかっただけらしい。
自分の不甲斐なさを思い知った僕は、ルキノと討伐に向かう途中の草原でこの心の迷いを打ち明けようと心に決めた。
森に入ってまでこんな乱れた心では危ないかもしれないからだ。
「ルキノ、今日の話だけれど」
「今日の話?」
「縁談があったという話だ」
「ああ! ほんと良かったです。これでひと安心っていうか」
「ルキノは本当にそれでいいのか?」
「? はい、まだお相手は分からないですけど……でもこっちの望み通りの条件だっていうし、あれだけ父が喜んでるところを見るに、悪い噂もない方だろうと思いますし」
「そうじゃなくて……!」
小首を傾げてルキノが僕を見上げてくる。
相手も分からないのに縁談を喜ぶルキノを見ていると、胸の中のモヤモヤとした塊が膨れ上がって体を突き破って出てきてしまいそうだ。
悔しい。なぜ僕じゃダメなんだ。
せめて。
「君はあんなに『あのお方』の事を思っているじゃないか。せめて、思いを告げるとか」
「しませんってば。あのお方には、オレの事なんてカケラも気にせずに幸せに暮らして欲しいんですから」
なぜこんなにも頑ななんだ。
ルキノが思いをよせる『あのお方』ならまだしも、誰とも知らぬ男に嫁ぐなんて。しかも第二夫人だなんて愛されるかも分からないというのに。
悔しくて、何もできないのが情けなくて。
「僕にできる事はもう、ないのかな……」
悲しくなって呟いたら、ルキノは困ったように微笑んだ。
「アルロード様が優し過ぎて困っちゃうな。……アルロード様、本当に大丈夫です。オレ、楽しく暮らせるように頑張りますから」
心配しないで、と微笑まれればそれ以上言える事なんかない。
ルキノに必要とされていない事実に泣けてくる。
心は乱れまくっているものの、なんとか無事に討伐を終えた僕は、情けない気持ちのままとぼとぼと帰路についたのだった。
「まぁ、どうしたのアルロード。顔色が悪いわ、何かあった?」
家族の食卓で、母上にいきなりそんな風に見破られてしまった。
「少々頑張り過ぎたのかもしれません。今日は早く寝て体調を整えます」
「そう? 本当にそれだけ? 何か悩んでいるのではなくて? 近頃見違えるように生き生きとしていたから、余計に心配だわ」
「以前友人と一緒に冒険者ギルドに登録して、魔物の討伐をすることにしたと言ったと思うけれど、それが存外楽しくて張り切ってしまったというか」
「ああ、魔物の討伐は訓練にはちょうどいいからな。色々と発見があって面白いだろう」
「ルキノさんと一緒に行っているのでしょう? 仲良くやれているのね」
父上と母上の反応が真逆で面白い。でもどっちも正解だ。ルキノと一緒だから楽しいし、魔物の討伐で得られる知見も多い。僕は力強く頷いた。
ただ、それももう長くは続けられないのかもしれない。ルキノは冒険者ではなく、誰かの妻になるのだから。
「……そういえば、ルキノ君といえば、殿下から伝言を頼まれたんだが」
兄さんが気まずそうに口を開く。
「殿下から?」
「ルキノ君を、側妃に考えていると」
「側……っ!?」
「彼の嫁ぎ先の交渉が難航しているようだと耳にしたらしくて、よく考えたら自分の側妃にするなら完璧に条件が満たせるよね、と仰せだ」
「な……っ」
「護衛として侍るなら、あまり被服費もかからないだろうし、彼の実家の財政状況でも問題ないのではないかと仰ってね。昨日オーソロル卿が彼の父親……ラウマ男爵に打診に伺った筈だよ。オーソロル卿が騎士団長だった時に、ラウマ男爵とは懇意にしていたから、話が通りやすいとふんでの人選だろうね」
男爵家が王家からの打診を拒むなんてあり得ない。なのに人選にまで気を配る用意周到さは、殿下の本気を感じさせる。
事実、ルキノの父君は諸手を挙げる勢いで喜んでいたじゃないか。
殿下なら、ルキノの事情を鑑みて、大切にしてくださるだろうか。
ルキノは、喜んで嫁ぐんだろうか。
目眩がした。
「アルロード、貴方、真っ青よ?」
「あ……すみません。あまりに、突然のお話で」
心臓が苦しくて、空気が肺に入っていかない。頭が考えることを放棄していた。
「このままでいいの?」
母上の問いかけに、ハッとして顔を上げる。
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