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兄:ミジェ編 〜魔術室長の魔術セクハラが酷いんですけど!?〜
【チェイス視点】ちゃんと『待て』がきく男
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「多分かよ。頼りねえな」
自分でもそう思うが、確約できないものを希望的観測で答えるわけにもいかない。ミジェにとって私は、すでに充分信用ならない男という認識のはずだ。これ以上不実な態度をとるわけにはいかなかった。
「しょうがねぇな。とりあえず信用するから、トイレに連れてってくれ」
「えっ」
思わず振り返ったら、ミジェは座り込んだまま恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
可愛い……! と無条件で湧き上がる感情を、必死で押さえつける。無心! 無心だ……!
「聞こえてる? あんたのせいで立てねぇんだから、責任もってトイレに連れてってくれって言ってんだよ」
「す、すまない! すぐに」
「できるだけ触るなよ」
そんな無茶な。
しかしもう触れたくもない、というミジェの気持ちは当然だ。
私だって魔術室の御歴々からいやらしく体を好き放題に触られたらブチ切れて禁術のひとつやふたつ放ってしまうだろう自信がある。
自分がしでかしてしまったことの罪深さを再認識した私は、罪滅ぼしの意味も込めてミジェの希望をでき得る限り叶えようと誓う。
だだ、触らないで人を運ぶのはなかなかの難題だ。
浮遊の魔術が一番適しているだろうが、人に使ったことはあまりない。しかし背に腹は変えられない。繊細な魔術だが、慎重にコントロールすればできる筈だ。
私は額に指を二本あて、呼吸を整えて集中する。そして丁寧に呪文を唱えた。額にあてた指に魔力がたまるのを確認してから、ゆっくりとその指をミジェに向ける。
「うわっ」
ミジェの体が、ふわりと浮いた。
「嘘、オレ、浮いてる……?」
まだ警戒心が解けないのか体は丸めたままだけれど、状況に興味はあるようで、ミジェは物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回した。
怖がらせたくないから極力高度は上げない。ミジェを落っことしたりしたら私の心臓がもたない。慎重に慎重にミジェの体を浮かせたまま移動させ、ついにトイレのドアの前まで移動できた時は安堵のため息が出た。
「すげぇや、あんたやっぱり、国一番の魔術師なんだな」
感心したみたいに言ってもらえるのが嬉しかった。こんな私でも、まだ魔術だけは評価してもらえるらしい。
最後まで手を抜かず、ゆっくりとミジェを床に降ろすと、ミジェは早速ドアノブにつかまり立ち上がった。
ただ、まだ足元はふらついているらしい。
ミジェの細い体がよろめいて、咄嗟に駆け寄って支えようとしたが、肌に触れる一歩手前で思いとどまる。差し出した手を力なく降ろした私に、ミジェはニッと笑って見せた。
「なんだ、ちゃんと『待て』がきくようになったじゃん」
甚だ面目ない。そう思う一方で、そんな風に冗談めかして言ってくれるミジェの優しさが身に染みる。
「ありがとう、助かった」
ちょっと照れたように言って、ミジェがドアを閉める。
私は閉まったドアに背を凭れ、頭を抱えて座り込んだ。
自分でもそう思うが、確約できないものを希望的観測で答えるわけにもいかない。ミジェにとって私は、すでに充分信用ならない男という認識のはずだ。これ以上不実な態度をとるわけにはいかなかった。
「しょうがねぇな。とりあえず信用するから、トイレに連れてってくれ」
「えっ」
思わず振り返ったら、ミジェは座り込んだまま恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
可愛い……! と無条件で湧き上がる感情を、必死で押さえつける。無心! 無心だ……!
「聞こえてる? あんたのせいで立てねぇんだから、責任もってトイレに連れてってくれって言ってんだよ」
「す、すまない! すぐに」
「できるだけ触るなよ」
そんな無茶な。
しかしもう触れたくもない、というミジェの気持ちは当然だ。
私だって魔術室の御歴々からいやらしく体を好き放題に触られたらブチ切れて禁術のひとつやふたつ放ってしまうだろう自信がある。
自分がしでかしてしまったことの罪深さを再認識した私は、罪滅ぼしの意味も込めてミジェの希望をでき得る限り叶えようと誓う。
だだ、触らないで人を運ぶのはなかなかの難題だ。
浮遊の魔術が一番適しているだろうが、人に使ったことはあまりない。しかし背に腹は変えられない。繊細な魔術だが、慎重にコントロールすればできる筈だ。
私は額に指を二本あて、呼吸を整えて集中する。そして丁寧に呪文を唱えた。額にあてた指に魔力がたまるのを確認してから、ゆっくりとその指をミジェに向ける。
「うわっ」
ミジェの体が、ふわりと浮いた。
「嘘、オレ、浮いてる……?」
まだ警戒心が解けないのか体は丸めたままだけれど、状況に興味はあるようで、ミジェは物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回した。
怖がらせたくないから極力高度は上げない。ミジェを落っことしたりしたら私の心臓がもたない。慎重に慎重にミジェの体を浮かせたまま移動させ、ついにトイレのドアの前まで移動できた時は安堵のため息が出た。
「すげぇや、あんたやっぱり、国一番の魔術師なんだな」
感心したみたいに言ってもらえるのが嬉しかった。こんな私でも、まだ魔術だけは評価してもらえるらしい。
最後まで手を抜かず、ゆっくりとミジェを床に降ろすと、ミジェは早速ドアノブにつかまり立ち上がった。
ただ、まだ足元はふらついているらしい。
ミジェの細い体がよろめいて、咄嗟に駆け寄って支えようとしたが、肌に触れる一歩手前で思いとどまる。差し出した手を力なく降ろした私に、ミジェはニッと笑って見せた。
「なんだ、ちゃんと『待て』がきくようになったじゃん」
甚だ面目ない。そう思う一方で、そんな風に冗談めかして言ってくれるミジェの優しさが身に染みる。
「ありがとう、助かった」
ちょっと照れたように言って、ミジェがドアを閉める。
私は閉まったドアに背を凭れ、頭を抱えて座り込んだ。
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