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弟: セレス編 〜鉄壁ツンデレ魔術師は、おねだりに弱い〜
鉄壁ツンデレ魔術師は、意外と可愛いトコがある
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「それは、そうなのだが」
「ゆっくり話す時間ができていいじゃねえか。俺はその、学院とか強力な魔法の話とかいろいろ聞きたいし、フィンレーは俺の体質の話を聞きたいんだろ?」
「あ、ああ」
「そういう話をぼちぼち歩きながらしてりゃあ、そのうち目的の街にもついて、体力もついてくるだろ。細かいこと気にすんなって」
「ありがとう……」
「じゃ、いこーぜ!」
フィンレーの肩をバンバンとちょっと乱暴に叩いてから、俺はひとつのびをして隣に並び立つ。さっきのフィンレーの苦情を考慮して、横並びで話しながら歩くことにした。
そこからの道中は割となんてこともなくて、お互いにいろんなことを話しているうちに日が暮れてしまった。もちろん魔物はでるんだけど、俺も腕には自信があるしここいらの初級も初級の魔物ごときは剣の一振りで瞬殺だ。
フィンレーの魔力はもしもの時のために温存してもらって、オレがばっさばっさと斬り倒して即終了だった。
ついでに街の近くは食える魔物も多いから、皮剥いで血抜きして、今夜の食料及び肉の燻製もゲットした。旅は極めて好調だ。食える香草もついでに採集したし、旅のお供に塩と香辛料は常備してるから、野宿で困ることもない。
日が落ち切ってしまう前に枯れ枝だの枯れ草だのをさくっと集めて焚火の準備をしたら、フィンレーに魔法で火をつけてもらって肉を焼いた。
「不本意だ」
「うん?」
「僕は結構優秀な魔術師だと自負しているのに、今日はこの焚火しか戦果がない」
「はははっ……確かに! 悪い、手応えがなかったな」
「君はよく笑うヤツだな」
フィンレーからは呆れたような声がでるが、それを嫌だとは思っていないようだ。なんせ、フィンレーの魔力のチクチクが出会ったギルドの時に比べたらだいぶ優しいから。
「しかし……単なる魔力が、個々の感情の色を示したり、感情に従って何か形を形成する、というのは本当に興味深いな。できることなら僕も体感してみたいくらいだが」
「弾力っつうか反発力みたいなんも結構違うぞ」
「弾力?」
「魔力が多くないヤツはそこまで顕著にはわからねえことも多いんだけどな。ほどほど魔力が多いヤツだと例えば、怒ってたりするとこう……触った瞬間、衝撃波みたいに跳ね返される」
「威圧みたいだな」
「あー、似てるな。スライムみたいにぽよんぽよん押し返してくる魔力とか、落ち込んでて構って欲しいとじっとり沼っぽい感触の時もある」
「ほう」
「俺の事受け入れてくれる気持ちでいるとこう、魔力は見えてるのに触っても抵抗がまったくないなんてこともあって、俺もまだ研究途上って感じだな」
「ますます興味深い」
焚き火を囲んで話しているととにかくなんだか楽しくて、ギルドでフィンレーから感じてたギスギスイガイガトゲトゲした魔力なんて既に霧散していた。って事は多分フィンレーも楽しんでくれてるんだろうな、と思うと嬉しくて、その日は随分と話し込んでしまった。
「いやぁ、楽しかったな!」
「……そんな風に言ってもらえるのは初めてだ……」
フィンレーが独り言みたいにそんな事を言う。さすがにあれだけ警戒心丸出しだったら、相手も気を遣っちゃうかもなぁ。と思うけど、もちろんそんな事は口にしない。聞こえなかった風でリュックから毛布を取り出した。
「今日は疲れただろ。火の番は俺がやるから、フィンレーは寝なよ」
「なぜだ、結界を張ればいいだろう」
「結界……! フィンレー、そんなのまで出来るのか」
「無論だ。というか、野宿をするなら必須だろう」
「そんな魔術使えるようなレベルのヤツは魔術院とか王宮魔術室とか狙うっつーの。普通の冒険者は交代で火の番するんだよ」
「なんと……! すごいな、どれだけ体力があればそんな事が可能なんだ……!」
驚愕の表情を浮かべるフィンレーに、俺は笑いが堪えられなかった。
「バカだな、フィンレー。凄いのはお前だよ。さっきギルドでお前をパーティーに入れたいって思ってそうなヤツ山ほどいそうだったけど、結界が張れるなんて知れたら争奪戦が起きそうだな」
「そう、だろうか。こんなに体力がなくても?」
「うん、体力は依頼をこなしてりゃすぐにつくけど、そういう魔術はそう簡単には会得出来ねぇもん」
「そうだとすれば嬉しいが……でも面倒かも知れないな」
「違いねぇ。じゃあ結界張ってくれるか? 星でも眺めながら気持ちよく寝ようぜ!」
ばふっと毛布を投げてやって、俺は草原にゴロンと横になる。フィンレーに声をかけたのは単に面白そうだったからだというのに、とんだ拾い物だった。
バチバチの美形でツンケンしてるかと思いきや、意外と可愛いところもある上に結界まで張れる逸材とは。
仲良くなって、このままパーティーを組んでくれるといいなぁ。人と関わるのはキライっぽいから難しいかも知れないけど、せめてこの旅の間だけでも楽しいと思える瞬間がいっぱいあるといいのにな。
寝っ転がって綺麗な星空を眺めてたら、フィンレーが次第に横でモゾモゾし出したのが目に入る。なんとなく落ち着かない様子で体勢を変えているのを見て、不意に思い当たった。
「フィンレー、野宿した事ないって言ってたよな。大丈夫? 体痛くないか?」
「ゆっくり話す時間ができていいじゃねえか。俺はその、学院とか強力な魔法の話とかいろいろ聞きたいし、フィンレーは俺の体質の話を聞きたいんだろ?」
「あ、ああ」
「そういう話をぼちぼち歩きながらしてりゃあ、そのうち目的の街にもついて、体力もついてくるだろ。細かいこと気にすんなって」
「ありがとう……」
「じゃ、いこーぜ!」
フィンレーの肩をバンバンとちょっと乱暴に叩いてから、俺はひとつのびをして隣に並び立つ。さっきのフィンレーの苦情を考慮して、横並びで話しながら歩くことにした。
そこからの道中は割となんてこともなくて、お互いにいろんなことを話しているうちに日が暮れてしまった。もちろん魔物はでるんだけど、俺も腕には自信があるしここいらの初級も初級の魔物ごときは剣の一振りで瞬殺だ。
フィンレーの魔力はもしもの時のために温存してもらって、オレがばっさばっさと斬り倒して即終了だった。
ついでに街の近くは食える魔物も多いから、皮剥いで血抜きして、今夜の食料及び肉の燻製もゲットした。旅は極めて好調だ。食える香草もついでに採集したし、旅のお供に塩と香辛料は常備してるから、野宿で困ることもない。
日が落ち切ってしまう前に枯れ枝だの枯れ草だのをさくっと集めて焚火の準備をしたら、フィンレーに魔法で火をつけてもらって肉を焼いた。
「不本意だ」
「うん?」
「僕は結構優秀な魔術師だと自負しているのに、今日はこの焚火しか戦果がない」
「はははっ……確かに! 悪い、手応えがなかったな」
「君はよく笑うヤツだな」
フィンレーからは呆れたような声がでるが、それを嫌だとは思っていないようだ。なんせ、フィンレーの魔力のチクチクが出会ったギルドの時に比べたらだいぶ優しいから。
「しかし……単なる魔力が、個々の感情の色を示したり、感情に従って何か形を形成する、というのは本当に興味深いな。できることなら僕も体感してみたいくらいだが」
「弾力っつうか反発力みたいなんも結構違うぞ」
「弾力?」
「魔力が多くないヤツはそこまで顕著にはわからねえことも多いんだけどな。ほどほど魔力が多いヤツだと例えば、怒ってたりするとこう……触った瞬間、衝撃波みたいに跳ね返される」
「威圧みたいだな」
「あー、似てるな。スライムみたいにぽよんぽよん押し返してくる魔力とか、落ち込んでて構って欲しいとじっとり沼っぽい感触の時もある」
「ほう」
「俺の事受け入れてくれる気持ちでいるとこう、魔力は見えてるのに触っても抵抗がまったくないなんてこともあって、俺もまだ研究途上って感じだな」
「ますます興味深い」
焚き火を囲んで話しているととにかくなんだか楽しくて、ギルドでフィンレーから感じてたギスギスイガイガトゲトゲした魔力なんて既に霧散していた。って事は多分フィンレーも楽しんでくれてるんだろうな、と思うと嬉しくて、その日は随分と話し込んでしまった。
「いやぁ、楽しかったな!」
「……そんな風に言ってもらえるのは初めてだ……」
フィンレーが独り言みたいにそんな事を言う。さすがにあれだけ警戒心丸出しだったら、相手も気を遣っちゃうかもなぁ。と思うけど、もちろんそんな事は口にしない。聞こえなかった風でリュックから毛布を取り出した。
「今日は疲れただろ。火の番は俺がやるから、フィンレーは寝なよ」
「なぜだ、結界を張ればいいだろう」
「結界……! フィンレー、そんなのまで出来るのか」
「無論だ。というか、野宿をするなら必須だろう」
「そんな魔術使えるようなレベルのヤツは魔術院とか王宮魔術室とか狙うっつーの。普通の冒険者は交代で火の番するんだよ」
「なんと……! すごいな、どれだけ体力があればそんな事が可能なんだ……!」
驚愕の表情を浮かべるフィンレーに、俺は笑いが堪えられなかった。
「バカだな、フィンレー。凄いのはお前だよ。さっきギルドでお前をパーティーに入れたいって思ってそうなヤツ山ほどいそうだったけど、結界が張れるなんて知れたら争奪戦が起きそうだな」
「そう、だろうか。こんなに体力がなくても?」
「うん、体力は依頼をこなしてりゃすぐにつくけど、そういう魔術はそう簡単には会得出来ねぇもん」
「そうだとすれば嬉しいが……でも面倒かも知れないな」
「違いねぇ。じゃあ結界張ってくれるか? 星でも眺めながら気持ちよく寝ようぜ!」
ばふっと毛布を投げてやって、俺は草原にゴロンと横になる。フィンレーに声をかけたのは単に面白そうだったからだというのに、とんだ拾い物だった。
バチバチの美形でツンケンしてるかと思いきや、意外と可愛いところもある上に結界まで張れる逸材とは。
仲良くなって、このままパーティーを組んでくれるといいなぁ。人と関わるのはキライっぽいから難しいかも知れないけど、せめてこの旅の間だけでも楽しいと思える瞬間がいっぱいあるといいのにな。
寝っ転がって綺麗な星空を眺めてたら、フィンレーが次第に横でモゾモゾし出したのが目に入る。なんとなく落ち着かない様子で体勢を変えているのを見て、不意に思い当たった。
「フィンレー、野宿した事ないって言ってたよな。大丈夫? 体痛くないか?」
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