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弟: セレス編 〜鉄壁ツンデレ魔術師は、おねだりに弱い〜
鉄壁ツンデレ魔術師は、ご機嫌ナナメ
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「パートナーがいるから気遣いは不要だ」
俺を目線で指して、フィンレーがすげなく断る。門番が俺をジロっと鋭い目で見て来るから、にっこり笑ってやったらフン、と鼻を鳴らしてバカにした口調でこう言った。
「ハナタレのガキじゃねぇか。こいつも駆け出しだろうが」
「それでも道中、僕が魔法を行使しなくていいくらい彼は頼りになったよ。それに、言い寄って来たりもしないから面倒がなくていい」
「てめぇ、ちょっと優しくしてやりゃあ」
鼻白んだ門番が声を荒げ始めたから、さすがに面倒くさくなってきた俺は、もう一人の門番に視線を合わせる。
「なぁ、もう入っていいよな」
「ああ、悪いな」
「フィンレー、行こうぜ」
ぐいっと腕を引っ張って無理矢理街の中に入る。ああいう手合いは相手をすればするほど面倒くさくなるもんだ。それにしてもギルドでも視線バシバシに浴びてたし、街に入るだけでもあんな嫌な目に遭うとか、美形ってのも大変なんだなぁ。
「いつもあんな感じか?」
「あんな感じだ。男も女も、ジロジロ不躾に見てくる上に不愉快な事ばかり言ってくる。はやく気色悪い視線がない森に入りたい」
「なるほど……んじゃますます野宿のスキルは必須だなぁ」
そう言って笑ったら、フィンレーからめっちゃ怪訝な顔をされた。
フィンレーの魔力がオレ以外の全方位に向けトゲットゲになってるから、ささくれだってるらしい心を和ませようと言ってみたんだけど、どうやら不発だったらしい。
……と思ったら、急にフィンレーがふわっと笑みを浮かべた。
「そうだな。色々教えてくれ」
うーん。美形の笑顔、破壊力ハンパねぇ。
っていうか、さっきまで真っ青っていうか怒りでダークな色になってた魔力の色まで、一瞬でふんわり色づいて緑色まで復活してきた。不発だと思ったけどそうでもなかったようで何よりだ。
「じゃあ、無事に街に入れたことだし……まずはギルドで討伐した魔物の換金だな。で、ついでに受けられそうなクエストがあったら受けとこう」
「なるほど。というか、セレスは随分慣れてるんだな。初めてのクエストだと言っていたと思ったが」
「ああ、うん。兄貴が魔道具士でさ、真面目だから攻撃系とか旅用のヤツ作った時に必ず試用するんだよ。それに付き合ってたら慣れたっていうか」
「なるほど、職人気質なんだな」
「ま、今となっちゃいい経験になったけど。でさ、ギルドで換金したら宿取る前に市場に行って、聞き込みついでに野宿のための備品でも買い込むか」
「了解」
それから二人で予定通りにあちこち行ったわけだけど、案の定どこに行ってもフィンレーは視線浴びまくりの声かけられまくりで、宿屋に着く頃には魔力の色ははほぼ黒になっていた。
たまーに可愛い店番の子とかに微笑まれて羨ましいなぁとか、自動的にオマケして貰えるの助かるなぁとか思ったけど、それを上回る面倒ごとの波状攻撃で、フィンレーは生きるのが大変そうだなと真面目に思った。
労ってやろうと思って宿屋の下の階にある酒場で飯と酒をたらふく頼んで、楽しく酒盛りしようと思ってたわけだが……いやぁ、来るわ来るわ。男も女も面白いように寄ってくる。眉間に皺を寄せて不機嫌丸出しで押し黙るフィンレーに代わって、その度に軽く会話しいなしてお帰り願うんだけどホントきりがない。
「すげぇな、入れ食いだなぁ」
「セレスも相手をしなくていい。ああいう手合いは相手をすればつけ上がる」
フィンレーは心底嫌そうだけど、俺は基本的に出会いは大切にするタイプだ。友好的な態度でいたいと思うけど、そんな事してたらフィンレーの場合結局は収拾がつかなくて大変な事になるんだろうなぁ。
「うるさすぎて食事の味もわからない。君の野宿食の方がよほど美味い」
なるほどなぁ、そんなに真っ黒な気持ちで食ってりゃそりゃあ美味しくないだろう。
「いっそ自室で食事できればいいのに」
「ああ、なるほどな。聞いてみよっか」
「え?」
「お姉さーん!」
宿と酒場の店員を兼務してるっぽいお姉さんにお願いしてみたら、あっさりと了解して貰え、部屋に酒と飯が運ばれて来た。
「ありがとう、セレスはすごいな」
フィンレーから尊敬の眼差しを向けられて、なんとなく照れくさい。
「大したことしてないって。なんでも言ってみるもんだな」
言ったのは俺だけど、こんな風に対応して貰えたのはフィンレーのおかげかも知れないしな。
「いや、僕は不快に思うだけで対処しようとは思わなかった。無視するのが一番だと思っていたが、本当は違う解決方法があるのかも知れないとちょっと反省した」
「フィンレー……」
「すぐには難しいかも知れないが、歩み寄れるよう努力する」
「ははは、そうだな。ま、相手によってはでいいんじゃないか? あの門番みたいにひたすら失礼なヤツもいるんだろうしさ」
勇気づけるように笑って見せたら、フィンレーは今日一番の笑顔を見せてくれる。夕飯を食べながら「ちゃんと味がする。美味しい」と呟いたフィンレーの魔力は明るい緑色になっていて、もはやトゲトゲもないリラックスモードに変わっていた。
「セレスがパートナーで良かった」
可愛いこと言ってくれるじゃないか。
「俺も相棒がフィンレーで良かったよ、明日も頑張ろうな!」
もちろん俺も、満面の笑顔でそう返した。
俺を目線で指して、フィンレーがすげなく断る。門番が俺をジロっと鋭い目で見て来るから、にっこり笑ってやったらフン、と鼻を鳴らしてバカにした口調でこう言った。
「ハナタレのガキじゃねぇか。こいつも駆け出しだろうが」
「それでも道中、僕が魔法を行使しなくていいくらい彼は頼りになったよ。それに、言い寄って来たりもしないから面倒がなくていい」
「てめぇ、ちょっと優しくしてやりゃあ」
鼻白んだ門番が声を荒げ始めたから、さすがに面倒くさくなってきた俺は、もう一人の門番に視線を合わせる。
「なぁ、もう入っていいよな」
「ああ、悪いな」
「フィンレー、行こうぜ」
ぐいっと腕を引っ張って無理矢理街の中に入る。ああいう手合いは相手をすればするほど面倒くさくなるもんだ。それにしてもギルドでも視線バシバシに浴びてたし、街に入るだけでもあんな嫌な目に遭うとか、美形ってのも大変なんだなぁ。
「いつもあんな感じか?」
「あんな感じだ。男も女も、ジロジロ不躾に見てくる上に不愉快な事ばかり言ってくる。はやく気色悪い視線がない森に入りたい」
「なるほど……んじゃますます野宿のスキルは必須だなぁ」
そう言って笑ったら、フィンレーからめっちゃ怪訝な顔をされた。
フィンレーの魔力がオレ以外の全方位に向けトゲットゲになってるから、ささくれだってるらしい心を和ませようと言ってみたんだけど、どうやら不発だったらしい。
……と思ったら、急にフィンレーがふわっと笑みを浮かべた。
「そうだな。色々教えてくれ」
うーん。美形の笑顔、破壊力ハンパねぇ。
っていうか、さっきまで真っ青っていうか怒りでダークな色になってた魔力の色まで、一瞬でふんわり色づいて緑色まで復活してきた。不発だと思ったけどそうでもなかったようで何よりだ。
「じゃあ、無事に街に入れたことだし……まずはギルドで討伐した魔物の換金だな。で、ついでに受けられそうなクエストがあったら受けとこう」
「なるほど。というか、セレスは随分慣れてるんだな。初めてのクエストだと言っていたと思ったが」
「ああ、うん。兄貴が魔道具士でさ、真面目だから攻撃系とか旅用のヤツ作った時に必ず試用するんだよ。それに付き合ってたら慣れたっていうか」
「なるほど、職人気質なんだな」
「ま、今となっちゃいい経験になったけど。でさ、ギルドで換金したら宿取る前に市場に行って、聞き込みついでに野宿のための備品でも買い込むか」
「了解」
それから二人で予定通りにあちこち行ったわけだけど、案の定どこに行ってもフィンレーは視線浴びまくりの声かけられまくりで、宿屋に着く頃には魔力の色ははほぼ黒になっていた。
たまーに可愛い店番の子とかに微笑まれて羨ましいなぁとか、自動的にオマケして貰えるの助かるなぁとか思ったけど、それを上回る面倒ごとの波状攻撃で、フィンレーは生きるのが大変そうだなと真面目に思った。
労ってやろうと思って宿屋の下の階にある酒場で飯と酒をたらふく頼んで、楽しく酒盛りしようと思ってたわけだが……いやぁ、来るわ来るわ。男も女も面白いように寄ってくる。眉間に皺を寄せて不機嫌丸出しで押し黙るフィンレーに代わって、その度に軽く会話しいなしてお帰り願うんだけどホントきりがない。
「すげぇな、入れ食いだなぁ」
「セレスも相手をしなくていい。ああいう手合いは相手をすればつけ上がる」
フィンレーは心底嫌そうだけど、俺は基本的に出会いは大切にするタイプだ。友好的な態度でいたいと思うけど、そんな事してたらフィンレーの場合結局は収拾がつかなくて大変な事になるんだろうなぁ。
「うるさすぎて食事の味もわからない。君の野宿食の方がよほど美味い」
なるほどなぁ、そんなに真っ黒な気持ちで食ってりゃそりゃあ美味しくないだろう。
「いっそ自室で食事できればいいのに」
「ああ、なるほどな。聞いてみよっか」
「え?」
「お姉さーん!」
宿と酒場の店員を兼務してるっぽいお姉さんにお願いしてみたら、あっさりと了解して貰え、部屋に酒と飯が運ばれて来た。
「ありがとう、セレスはすごいな」
フィンレーから尊敬の眼差しを向けられて、なんとなく照れくさい。
「大したことしてないって。なんでも言ってみるもんだな」
言ったのは俺だけど、こんな風に対応して貰えたのはフィンレーのおかげかも知れないしな。
「いや、僕は不快に思うだけで対処しようとは思わなかった。無視するのが一番だと思っていたが、本当は違う解決方法があるのかも知れないとちょっと反省した」
「フィンレー……」
「すぐには難しいかも知れないが、歩み寄れるよう努力する」
「ははは、そうだな。ま、相手によってはでいいんじゃないか? あの門番みたいにひたすら失礼なヤツもいるんだろうしさ」
勇気づけるように笑って見せたら、フィンレーは今日一番の笑顔を見せてくれる。夕飯を食べながら「ちゃんと味がする。美味しい」と呟いたフィンレーの魔力は明るい緑色になっていて、もはやトゲトゲもないリラックスモードに変わっていた。
「セレスがパートナーで良かった」
可愛いこと言ってくれるじゃないか。
「俺も相棒がフィンレーで良かったよ、明日も頑張ろうな!」
もちろん俺も、満面の笑顔でそう返した。
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