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弟: セレス編 〜鉄壁ツンデレ魔術師は、おねだりに弱い〜
【フィンレー視点】たった三日で
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「いたっ……」
土色の見たこともないような模様の蛇が、がっぷりと僕のふくらはぎに噛み付いていた。次の瞬間にはセレスの剣が蛇の体を一刀両断していて、その勢いで蛇の頭も切られた胴体も、別々に飛んでいく。
ふくらはぎが燃えるように熱い。
怖い顔のセレスが、いきなり僕を強く突き飛ばした。
勢いよく地面に尻餅をついた僕の左足を、セレスがグイッと引っ張りあげる。かと思うと、セレスは問答無用で蛇から噛まれた傷口に吸い付いた。
「セレス!!!?」
ジュッと強く吸ったかと思うとすぐに吐き出す。
驚きすぎて声も出ない。僕が呆気に取られているうちにも、セレスは必死な顔で何度も何度も僕の足を吸っては唾を吐き出すという行為を繰り返していた。
やっと僕の足から口を離し、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
尻餅をついたままの間抜けな格好で僕はコクコクと頷いた。
「さっきの、かなりヤバい毒蛇だ。全部吸い出せてるといいんだけど」
毒蛇。
それであんなに慌てていたのか。
魔物を倒し、毒を吸い出す。あんな一瞬で迅速で適切な処置ができるセレスに驚嘆する。
「……やべ」
「どうした!?」
「した……しひれてひた……」
僕は慌てて解毒の呪文を唱える。セレスと、念のために自分にも。
するとふくらはぎに急に痛覚が戻って、蛇に噛まれたところが痛くなってくる。素足に当たる枯葉や石のゴツッとした感触までもが急に感じられて、ああ、僕もだいぶ痺れていたんだと実感してしまった。
自身に軽い回復魔法をかけつつ、セレスの様子を窺う。
「大丈夫か、セレス。解毒してみたが、話せるか?」
「解毒? あっ、すげぇ! 喋れる! もうピリピリもしない!」
「よ、良かった……」
ホッとして、思わず胸を撫で下ろした。
セレスまで毒の危険にさらしてしまうだなんて、僕はいったい何をやっているんだ。僕がすぐに毒の可能性に気付いて解毒しておけば、セレスにこんな危険なマネをさせることもなかった。僕は本当にバカだ……!
「魔法って解毒まで出来るんだ、すっげぇ便利だな!」
落ち込む僕に、セレスは屈託なく笑いかける。けれどその後すぐに「しまった」とでも言いたげに眉を下げた。
「ごめんな、フィンレーは解毒できるのに、オレ焦って乱暴な事しちゃったな」
「謝るのはこっちの方だ! 僕は毒があるのにも気付いてなかった。セレスが吸い出してくれたから大事に至らずにすんだんだ」
本当にそう思う。蛇に噛まれたのに驚いて僕はすっかり思考停止していた。セレスがいなかったらどうなってたことか。
「そっか、役に立ったなら良かった」
安心したようにセレスが笑う。
その顔を見ていると、なんだか胸の動悸が激しくなって落ち着かなくなってしまった。
それからは特に大きな問題もなく森の深部に順調に近づき、ちょっと豪華になった野宿グッズのおかげもあって至極快適に眠りに入れたわけだが。
その夜僕は、僕の足に吸い付くセレスの必死な表情を思い出しては何度も飛び起きた。セレスは蛇に噛まれたのが怖かったのかと心配してくれたけど、そうじゃない。
飛び起きるごとに心臓は早鐘のように激しくうち、下半身がどんどん熱を持っていく。
三度目に起きた時くらいから、セレスが心配して背中をさすりに来てくれるけど、むしろ逆効果だ。でも無論そんな事は言えない。優しさに追い詰められるということもあるのだとこの時初めて知った。
気遣ってくれるのが嬉しい。なのに、純粋過ぎる『単なる好意』が苦しい。
出逢ってからたった三日で、こんなに誰かに惹かれるなんてことがあるんだろうか。
僕は……僕は、セレスの事を好きになってしまったらしい。
土色の見たこともないような模様の蛇が、がっぷりと僕のふくらはぎに噛み付いていた。次の瞬間にはセレスの剣が蛇の体を一刀両断していて、その勢いで蛇の頭も切られた胴体も、別々に飛んでいく。
ふくらはぎが燃えるように熱い。
怖い顔のセレスが、いきなり僕を強く突き飛ばした。
勢いよく地面に尻餅をついた僕の左足を、セレスがグイッと引っ張りあげる。かと思うと、セレスは問答無用で蛇から噛まれた傷口に吸い付いた。
「セレス!!!?」
ジュッと強く吸ったかと思うとすぐに吐き出す。
驚きすぎて声も出ない。僕が呆気に取られているうちにも、セレスは必死な顔で何度も何度も僕の足を吸っては唾を吐き出すという行為を繰り返していた。
やっと僕の足から口を離し、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
尻餅をついたままの間抜けな格好で僕はコクコクと頷いた。
「さっきの、かなりヤバい毒蛇だ。全部吸い出せてるといいんだけど」
毒蛇。
それであんなに慌てていたのか。
魔物を倒し、毒を吸い出す。あんな一瞬で迅速で適切な処置ができるセレスに驚嘆する。
「……やべ」
「どうした!?」
「した……しひれてひた……」
僕は慌てて解毒の呪文を唱える。セレスと、念のために自分にも。
するとふくらはぎに急に痛覚が戻って、蛇に噛まれたところが痛くなってくる。素足に当たる枯葉や石のゴツッとした感触までもが急に感じられて、ああ、僕もだいぶ痺れていたんだと実感してしまった。
自身に軽い回復魔法をかけつつ、セレスの様子を窺う。
「大丈夫か、セレス。解毒してみたが、話せるか?」
「解毒? あっ、すげぇ! 喋れる! もうピリピリもしない!」
「よ、良かった……」
ホッとして、思わず胸を撫で下ろした。
セレスまで毒の危険にさらしてしまうだなんて、僕はいったい何をやっているんだ。僕がすぐに毒の可能性に気付いて解毒しておけば、セレスにこんな危険なマネをさせることもなかった。僕は本当にバカだ……!
「魔法って解毒まで出来るんだ、すっげぇ便利だな!」
落ち込む僕に、セレスは屈託なく笑いかける。けれどその後すぐに「しまった」とでも言いたげに眉を下げた。
「ごめんな、フィンレーは解毒できるのに、オレ焦って乱暴な事しちゃったな」
「謝るのはこっちの方だ! 僕は毒があるのにも気付いてなかった。セレスが吸い出してくれたから大事に至らずにすんだんだ」
本当にそう思う。蛇に噛まれたのに驚いて僕はすっかり思考停止していた。セレスがいなかったらどうなってたことか。
「そっか、役に立ったなら良かった」
安心したようにセレスが笑う。
その顔を見ていると、なんだか胸の動悸が激しくなって落ち着かなくなってしまった。
それからは特に大きな問題もなく森の深部に順調に近づき、ちょっと豪華になった野宿グッズのおかげもあって至極快適に眠りに入れたわけだが。
その夜僕は、僕の足に吸い付くセレスの必死な表情を思い出しては何度も飛び起きた。セレスは蛇に噛まれたのが怖かったのかと心配してくれたけど、そうじゃない。
飛び起きるごとに心臓は早鐘のように激しくうち、下半身がどんどん熱を持っていく。
三度目に起きた時くらいから、セレスが心配して背中をさすりに来てくれるけど、むしろ逆効果だ。でも無論そんな事は言えない。優しさに追い詰められるということもあるのだとこの時初めて知った。
気遣ってくれるのが嬉しい。なのに、純粋過ぎる『単なる好意』が苦しい。
出逢ってからたった三日で、こんなに誰かに惹かれるなんてことがあるんだろうか。
僕は……僕は、セレスの事を好きになってしまったらしい。
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