レッド・タイズ

GAリアンデル

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バーサーク・ルサンチマン/1

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 羽海野有数うみの ありすは、娯楽に飢えていた。例えば、漫画だったり小説だったりゲームだったりである。
「なぁ~買っておくれよ~」
 唯一の娯楽はテレビを観るだけの生活の中で、CMコマーシャルなどで情報を仕入れては梁人におねだりするが、当然彼には「贅沢言える立場か?」と一蹴されていた。


 羽海野有数はこの世に存在しない事になっている。しかし本人にとってそれは大した問題では無い。問題は情報の仕入れ先がテレビしか無い事にあった。
 梁人の家にはパソコンはおろかスマートフォンすら無い。厳密には梁人はスマートフォンを持っていたが、アリスには触らせない様にしていた。
 童女の身体になった事の影響か、彼女自身ではどうにもならない『好奇心』が疼いて、情報を欲しがって仕方ないのである。
 テレビで観たモノをすぐに欲しがって、梁に縋り付くさまは第三者から見れば『駄々をこねる子どもとお母さん』にしか見えないだろう。
 一蹴されて尚、アリスは俯きがちにもごもごと言っていた。
「だってぇ……!」
 心理監察官の同行無しに外出する事が許されない彼女には自分の足で何かを買う事も出来ない。
 家の食料は全て宅配だし、支払いの諸々も全て引き落としだし、梁人は無趣味で滅多に外出しないし、何なら最近は出不精にも磨きがかかって来た始末だ。
 梃子でも動かない梁人を動かすにはそれこそ家を爆破するか、もしくはそれ以上の超常的な力で摂理を書き換える様な衝撃でも与えなければ動かないだろう。
 故に、アリスに残された手段は一つ。
 もうテレビだけの生活には耐えられないし背に腹は替えられない。
 逡巡して、意を決した。
 がしっ、と梁人の足にしがみつき紅玉の瞳を潤ませる。
「お、お兄ちゃん……おねがぁい♡」
 追加攻撃、としてアリスはウィンクをかます。
 ────割と本気でアリスは限界を迎えていた。
 ばちばちと下手なウィンクをしながら足に纏わりつくアリスを、梁人は冷めた視線で見下し、溜息を吐いた。
「はぁ……」
 一度、瞑目した後、開いた目がアリスを真っ直ぐに見据える。
「何が欲しいのか知らんが、聞くだけ聞いてやる」
「ほ、本当か!?」
「ああ。その代わり、これからはちゃんと言う事を聞け」
「うん!」
 眉根を開いてアリスが足から離れた。
 まるでお母さんの様な事を言った梁人は再度溜息を吐く。

 こうして、二人は明日ショッピングモールに行く事となった。
 
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