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バーサーク・ルサンチマン/2
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日曜日。
家族連れやカップルの放つ平和で幸福な日常という空気に満たされる空間の中に、場に不似合いな黒ずくめのスリーピーススーツの衣装を纏った、さながら草臥れた死神の様な男が居た。
その傍らには子ども用のPコートとローファーの踵を鳴らしてはしゃぐ銀の妖精を思わせる神秘的な美しさを持った少女。
対照的、というよりは凸凹な二人は先日交わしたショッピングモールに連れ行く約束の為に複合商業施設に来ていたのである。
「アリス、言っておくけどはぐれるなよ」
「子ども扱いするな! これでも中身は二十四なんだ、そんな子どもみたいな事するか!」
──自覚ナシか。
梁人は懐から折り畳まれたチラシを取り出して広げた。
「こんなモノまで用意しておいてな」
家を出る前にアリスは『欲しいものリスト』なる(チラシの裏に書き殴った)モノを作成して梁人に見せていた。
リストの内容は、
①スマートフォン(最新機種)
②ゲーム機(PS5)
③漫画・小説
梁人が苦い顔を浮かべたのは想像に難く無い。この内②と③は早々に却下され、今日はアリスのスマートフォンの契約の為だけに来ていた。
「なぁ早く行こう!」
ぐいぐいと腕を引っ張っるアリスに連れられ梁人は歩き出した。
「お前、こういう所に来た事くらいあるだろ。何をそんなにはしゃいでるんだ」
「んー、無いぞ。生前は屋敷で父の手伝いをしながら哲学書ばかり読んでたからな」
「そうか」
聞かなければ良かった。
梁人は若干の後悔を抱いて、だとしても彼女のした事は許される訳がない。
ましてそれだけが原因であんな凶行に走ったのであれば、それこそ邪悪な本性に他ならないのだ。
そう──羽海野有数という女は梁人の知る限りでは邪悪だった。独善的で酷い自己陶酔に浸る狂気そのもの、自分一人で世界が完結してる様な女だ。
恐怖による社会の変革を画策し、〈偽りの恐怖達〉を生み出した特A級犯罪者。
あの日、彼女は言った。
その場に留まる為には全力で走り続けなければならない、と。
そして『勝負はまだ始まったばかりだ』とも。
──だがこのアリスは、あの羽海野有数なのか?
彼の知る羽海野有数とのイメージの乖離は日に日に大きくなるばかりであった。
突如立ち止まったアリスが高らかに声を上げた。
「ほう、これがケータイ屋か!」
腕を引かれている内にいつの間にかショップに着いており、アリスの田舎者ぶりに額を抑えた梁人。
「お前今すごい田舎者くさいぞ」
「わ、私は田舎者じゃないぞ!? 実家だって東京だし、二十年以上住んでたんだからな!?」
「ああ、そうかい」
「なんだいその反応は!?」
きんきんと吠えるアリスから耳を塞いで顔を背けた梁人は近寄ってくる人影に気付いてアリスを制止する。
「あのー……他のお客様の迷惑になるので……」
携帯代理店の女店員が困り顔で二人に話しかけてきていた。
「ねぇあの女の子すっごいキレーじゃない?」
「となりの黒い人がお父さん? でもそんな歳に見えないなー」
「もしかして誘拐か……!?」
「誘拐してわざわざこんな人の集まる場所に連れてこないだろ」
「よく見たら黒い人もワイルド系でカッコよくない!?」
気付けば周囲の視線は二人へと向けられており通り過ぎる者やその場にいる者も何やら口々に感想を漏らしている。
目立ち過ぎたか、と梁人は愁眉を寄せる。
「……よせバカアリス」
「キリギリスみたいに呼ぶんじゃない!?」
「はぁ……」
「──おぉぅ!?」
ぐい、とアリスの肩を寄せて梁人は携帯代理店へと入った。
家族連れやカップルの放つ平和で幸福な日常という空気に満たされる空間の中に、場に不似合いな黒ずくめのスリーピーススーツの衣装を纏った、さながら草臥れた死神の様な男が居た。
その傍らには子ども用のPコートとローファーの踵を鳴らしてはしゃぐ銀の妖精を思わせる神秘的な美しさを持った少女。
対照的、というよりは凸凹な二人は先日交わしたショッピングモールに連れ行く約束の為に複合商業施設に来ていたのである。
「アリス、言っておくけどはぐれるなよ」
「子ども扱いするな! これでも中身は二十四なんだ、そんな子どもみたいな事するか!」
──自覚ナシか。
梁人は懐から折り畳まれたチラシを取り出して広げた。
「こんなモノまで用意しておいてな」
家を出る前にアリスは『欲しいものリスト』なる(チラシの裏に書き殴った)モノを作成して梁人に見せていた。
リストの内容は、
①スマートフォン(最新機種)
②ゲーム機(PS5)
③漫画・小説
梁人が苦い顔を浮かべたのは想像に難く無い。この内②と③は早々に却下され、今日はアリスのスマートフォンの契約の為だけに来ていた。
「なぁ早く行こう!」
ぐいぐいと腕を引っ張っるアリスに連れられ梁人は歩き出した。
「お前、こういう所に来た事くらいあるだろ。何をそんなにはしゃいでるんだ」
「んー、無いぞ。生前は屋敷で父の手伝いをしながら哲学書ばかり読んでたからな」
「そうか」
聞かなければ良かった。
梁人は若干の後悔を抱いて、だとしても彼女のした事は許される訳がない。
ましてそれだけが原因であんな凶行に走ったのであれば、それこそ邪悪な本性に他ならないのだ。
そう──羽海野有数という女は梁人の知る限りでは邪悪だった。独善的で酷い自己陶酔に浸る狂気そのもの、自分一人で世界が完結してる様な女だ。
恐怖による社会の変革を画策し、〈偽りの恐怖達〉を生み出した特A級犯罪者。
あの日、彼女は言った。
その場に留まる為には全力で走り続けなければならない、と。
そして『勝負はまだ始まったばかりだ』とも。
──だがこのアリスは、あの羽海野有数なのか?
彼の知る羽海野有数とのイメージの乖離は日に日に大きくなるばかりであった。
突如立ち止まったアリスが高らかに声を上げた。
「ほう、これがケータイ屋か!」
腕を引かれている内にいつの間にかショップに着いており、アリスの田舎者ぶりに額を抑えた梁人。
「お前今すごい田舎者くさいぞ」
「わ、私は田舎者じゃないぞ!? 実家だって東京だし、二十年以上住んでたんだからな!?」
「ああ、そうかい」
「なんだいその反応は!?」
きんきんと吠えるアリスから耳を塞いで顔を背けた梁人は近寄ってくる人影に気付いてアリスを制止する。
「あのー……他のお客様の迷惑になるので……」
携帯代理店の女店員が困り顔で二人に話しかけてきていた。
「ねぇあの女の子すっごいキレーじゃない?」
「となりの黒い人がお父さん? でもそんな歳に見えないなー」
「もしかして誘拐か……!?」
「誘拐してわざわざこんな人の集まる場所に連れてこないだろ」
「よく見たら黒い人もワイルド系でカッコよくない!?」
気付けば周囲の視線は二人へと向けられており通り過ぎる者やその場にいる者も何やら口々に感想を漏らしている。
目立ち過ぎたか、と梁人は愁眉を寄せる。
「……よせバカアリス」
「キリギリスみたいに呼ぶんじゃない!?」
「はぁ……」
「──おぉぅ!?」
ぐい、とアリスの肩を寄せて梁人は携帯代理店へと入った。
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