塵芥のレゾンデートル

GAリアンデル

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銀狼の祭典⑵

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探索者を管理する組織──組合ギルド
 個人・一党の登録に、街に来る探索者への依頼の仲介もしておりアーカムの迷宮経済の中心となっているこの街で最も権力を持つ組織は、酒場や寺院とも繋がりを持ち、この街の全てを掌握していると言っても過言では無い。

 そこに併設された闘技場コロシアム
 普段は死亡遊戯の賭け事に使用されているが、今日だけは違っていた。

銀狼の祭典ウルブス・カニバル

 かつて“英傑”と呼ばれた探索者の一党【銀狼の誓約】の名を冠し行われる事となった祭典。

 それはアーカムに集った探索者達同士が戦い、勇気と獰猛さ、他者を喰らい尽くし自らが英雄たらんとその実力を示す祭典である────。

 熱狂が渦を巻き、会場は街の住人や他の探索者達で埋め尽くされており、まだ祭典は始まっていないと言うのにも関わらず観客の沸き様は凄まじい事となっていた。

「応応! 良か空気じゃ、戦の前の様な熱を感じるのぅ!」
 コロシアムの客席にて売り子から買った麦酒をかっ喰らいながらガハハと快哉を叫ぶアマギリの横でメイレだけは会場の空気とは裏腹に項垂れていた。
「高……コロシアムのお酒高っか……銀貨一枚って……最後最後の頼みの綱として取っておいたのに……」
 行き詰まりの行き詰まりのどん詰まりで使おうとメイレが隠し持っていた銀貨だったが『酒じゃあ!』と騒ぎ、しまいには刀を抜いて暴れ出しかないアマギリを諌める為に、とうとう捧げる事となってしまったのである。

「はぁー……」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 メイレが深い溜息を吐くと同時に、会場が一斉に沸き立ち、その熱が最高潮に達すると、観衆の視線はコロシアムの中央の台に立つ一人の人物へと注がれていた。

 黒に金の装飾が施された衣装に身を包む司会らしき人物は角笛に似た道具を手にしそれに向けて声を発した。

「よぉぉぉこそぉぉぉ!!!」

 その声は観衆の歓声よりも会場中に響き渡り、全ての人々の耳朶を打ち、最後は空へと吸い込まれて消えていく。しかし余韻を感じる前に観衆は返す様に声を上げた。

「うおおおおおおお!!」
「ここに開かれますわ、大陸より集った歴戦の強者どもによる血潮猛る祭り──銀狼の祭典ウルブス・カニバルッッ!! さぁ──勇士たちの登場だぁァッッ!!」
「うおおおおおおおおおお!!!」

 盛大な歓声と共に、コロシアムの入場口からは混淆こんこうとした人々が次々と現れ、台の前の後ろへと横並びになっていき、十人目を最後にした所で司会の人物は「紹介しよう!!」と叫んだ。

 その様子を眺めていたメイレは唐突に疑問を覚え、アマギリへと視線を移す。

「え? 参加するんじゃ無かったんですか?」
「ん? 参加するぞ」
「……なんでここにいるんですか」
「そら酒を飲むためぞ」
「あそこに居なきゃダメなんじゃ?」
「そうなのか?」
「参加申請しました?」
「なんぞそら」
「しないと参加出来ませんよ?」
「そうなんか」
「……お金どうすんですか!!!!」
「銀貨一枚くらいケチくさい奴じゃ──ははぁ、お前さては己れがびびってるとでも思うたがか?」
「いやそうじゃなくて」
「なぁに安心せい安心せい。今行ってくるわ」
「え────」

 メイレが止めるよりも先にアマギリは客席の間を駆け出していた。
 軽快に席の合間を飛び跳ねていき、間もなくコロシアムの中へと降り立つと司会へと向かった。

「え、誰ですかアンタ……!?」
「いいからよこせい!」

 台の上で角笛を奪おうとするアマギリと抵抗する司会。
 その背後では黙している探索者達の列。
 観衆は完全に呆気に取られていた。

「応! 己れはアマギリという者じゃ! 武士をやっとる。己れもこの剣術大会に参加するぞ!」

 先程までの熱狂が嘘の様に静まり返っており、誰も彼もがアマギリという異物の乱入に戸惑っていたが、一人の中年男性が声を上げた。

「面白いじゃないか。オレは歓迎するぜ、強いヤツが増えるのは悪い事じゃねぇ」

 白髪混じりの髪を後ろに流した中年の男は着流しを着崩し右腕は露出され、左眼には眼帯が巻かれている。
 そして腰には“刀”を帯びていた。
 男は、入場口から現れた探索者の一人であり、その出立ちから誰もが“侍”だと分かる人物であった。

「おお、話の分かるもんがおるじゃないか! ──して、かなり出来る御仁と見たが、一手お願いしても?」
 その手が湾刀を覆う布の結び目に掛けられ、アマギリがその眼を鋭くさせる。
 しかし眼帯の男は真っ直ぐに見据えながら告げる…………
「んー、ダメ」
 言って眼帯の男は悠然と列へと戻っていく。
 気付けば、静まり返っていた会場はすぐに熱を取り戻していた。
「ははは! ダメか!」
 アマギリが結び目に掛けた指を外しながらその場で大笑いしていると、司会はその手から角笛を奪い返し「もういいからアンタも列に入って!!」と笑ったまま動こうとしないアマギリを無理矢理列へと加え、観衆へと向き直る。

 それらを見ていたメイレもまた『一体どうして笑っていられるのか』と、先程から冷や汗が止まらず、アマギリが何をやらかすか気が気では無い。

「やる事なす事破茶滅茶過ぎなんですよ……あーもう!」
 
 天に向かって鬱憤を吐き出すとメイレはローブの内より銀貨を取り出し売り子の眼前に突き出した。

「麦酒ひとつ!!!」

 メイレは受け取ると同時に、それを飲み干し杯を地面へと叩きつけた。

「優勝しなかったら容赦しない……!」

 その目はどんな飢えた獣よりも獰猛だった事は、彼女の周囲の席の者達だけが知っていた。

銀狼の祭典は開会式を終え、参加者であるアマギリ達はコロシアム奥の控室へと移されていた。
 闘技の形式は十一人同時に行われる生き残り戦となり、残った四人が本戦へと進んでいく方法が取られた。

 ──剣気十分。アマギリは他の参加者を見やり、精神を研ぎ澄ます。
 戦の前の静寂と熱狂。
 いつからか自らの戦場は暗い地の底へと移り変わっていたが、身に宿った闘争心に衰えは無い事をアマギリは確認した。

「……オヌシ、東の地の者か」
 太く、くぐもった声を発したのは石の鎧と兜に身を包んだ戦士であった。
 その風貌にアマギリはまるで巌が意思を持って動いている様だと思うと同時に、この人物が相当の手練れだと察した。

「己れの生まれ故郷を知っているのか」
 問いに、石の戦士は静かに頷いた。
「以前、龍を殺しに行った」
 聞いてアマギリは口の端で笑みを作った。
「なんと龍をか。しかし“龍”は厄介、、であったろう?」

 東の地の龍。
 かくて伝承として語り継がれる存在を殺しに行ったという戦士の言葉には“嘘”と言って切り捨てられる様な軽薄さは無く、むしろ“事実”としての重みがあった。

 龍は厄介。と言ったアマギリに対し、石の戦士は懐かしむ様に「ああ」と唸った。

「雲を掴み焔を吐くと聞いていたが、空を飛んでいるのでは戦い様が無い。どうにかして殺せぬモノかと方々を彷徨ったが誰もが『龍なぞおらぬ』と返すばかりでな」

 ──龍を殺す。
 それは東の地において放蕩剣士の使う常套句の様なモノであった。
 神に等しき存在である龍すらも斬らんと、剣士としての道に全てを捧げる覚悟を示した言葉である。
 故に龍を殺さんと志を立てた者達は巡り合い、刃を交わし、果たし合う。
 いつしか龍という言葉は、龍殺しの覚悟を示した者どもの事を指す言葉となっていた。

『何も知らず、本当に龍を殺しに行ったであろう石の戦士が、一体どれだけの“龍”を喰らいこの場に立っているのか』

 研ぎ澄まされたアマギリの精神の切先は今まさに石の戦士へと向けられていた。

 それに気付いてか、石の戦士が兜の奥で笑う。

「それだ、その眼と剣気。オヌシを見ているとあの頃に戻った様に思えるわい。やはりオヌシもそのクチであったか」

「いやぁ今すぐにでもお前と果たし合ってみたいのぅ」

 最早アマギリはその闘争心を隠そうともせず、本心を口にしながら押し殺す様に笑っていた。

「そう急かずとも機会は来るぞ。龍を殺すのは久々だが、楽しめそうじゃ」

 言って石の戦士が背後に背負った大楯と巨大な棍を軽々と持ち上げる様を見てアマギリは笑いを堪えずにはいられなかった。

 無論、それは嘲笑では無く、この戦士が真に龍を殺しかねない戦士である事。
 アマギリはただそれが嬉しかっただけである。


 ◇


 ともなくして、大会は滞りなく開始された。
 十一人の中から四人が生き残りを掛け戦う。
 狼が狼を喰らう生存競争カニバル
 銀狼の祭典ここに始まれり。

 開幕は無名の詠唱術士による爆炎アグラが闘技場を覆い尽くされた事でその始まりを告げた。

 爆炎アグラ
 凝縮された炎の魔法が一度に解放された事による爆風。
 詠唱術士だけが扱える上位呪文による開戦の合図はこの祭典への参加者がみな有象無象では無い事を物語っていた。
 現に、今の爆炎アグラで戦闘不能になった者はいない。

 ────どころか、爆炎と共に駆け出していた者が数名。

「奇怪じゃのう! こんなのがごろごろしてるのかこの街は」
 疾走し、真っ先に爆炎アグラを放った術士目掛けて走り出していたのはアマギリであった。
 他に動き出していた者は変わった風貌の修道女、眼帯の男の二人。

「お侍さんが二人もいるのね。──ああ、あの刀で斬られたら一体どれほどの血が流れるのでしょう……!」
 アマギリと眼帯の男へと恍惚の表情を向ける修道女の前には別の探索者が待ち構える様に立っていた。

「ああ早くあの刀に斬られたい……でも楽しみは取っておかないと……ああでも……!」
「『刑虐のヴィアンナ』! テメェの相手は俺だぜ」

 そこに立っていたのは黒い革鎧と両手に短刀を携えた盗白浪であった。
 名を呼ばれ修道女ヴィアンナはその陶磁器の様に真白い顔を盗白浪へと向けた。
 しかしその視線は盗白浪本人ではなく、彼の持つ短刀へと注がれていた。
 先程まで恍惚としていた修道女の表情はすぐに蔑む様な顔へと変貌する。

「あらぁ、そんな矮小なモノで立ち向かうとは、雄《オス》として恥ずかしくないんですか?」
 含意のある言葉を吐きながら修道女は鎖十字チェーンクロスを握り締めた。

「一発より回数の多さだろ?」
 盗白浪は既に駆け出しており、右手の短刀でヴィアンナへと疾風の如き突きを繰り出した。
 資質スキル──速駆け。
 これによる一閃は盗白浪の常套手段である。
 まして相手はさほど早くは無い職手の修道女。

「あらぁ」

 一拍遅れて修道女は盗白浪目掛けて鎖十字を真っ直ぐに投げ放つがその顔の横を掠めるのみ。
 既に突きと同時に懐へと飛び込んでいた盗白浪が笑みを浮かべた。

「早い男は嫌いか?」
「まだ始まってもいないのに出してしまうのでは……お話になりませんね」

 瞬間、盗白浪は戦慄する。
 突きを放った右腕がヴィアンナの豊満な胸を前にして微動だにしない事、その腕が先程放たれた鎖十字の鎖に絡め取られている事に。

「──だったら手数だろ!」
 盗白浪は逆手にした左手の短刀をヴィアンナへと振り抜く。
「……もうとっくに出し尽くしてしまったみたいですね」

 左手の短刀が返ってきた鎖十字の頭である十字によって弾き飛ばされると共に盗白浪の思考も現実から置き去りにされた。

 その致命的な間によって、直後盗白浪はヴィアンナの十字に殴り倒される事となった。

 
 ────その一方で、眼帯の男は息も乱さずに騎士の男を倒し、アマギリもまた爆炎を唱えた詠唱術士を容易くのしていた。

「さて、次は────」

 次なる相手を求め周囲を見渡すアマギリの前に一人の人物が現れた。
 
「死合う……という訳にはいかんが。手合わせ願おうか」

 山脈が歩いていると錯覚しかねない大男。
 巌の様な鎧兜アーマー、龍の火焔でさえ揺らが無いであろう巨大な盾、そして龍すら屠りかねない至大な棍。

 眼前に石の戦士を見据え、アマギリは口の端で笑みをつくった。


  ◇


「……流石は剣士セイゲン。噂は確かだったか──!」
 重厚な鎧を纏った騎士は最後にそれだけ述べるとその場に倒れ伏す。
 その姿を見届けた後、眼帯の侍はやれやれと溜息を吐いた。
「なんだぁ噂って。オレは単なる隠居者だっての」
 セイゲンと呼ばれた侍の男は、自らに向かってくる者がいないのが分かると誰が生き残るのかを闘士でありながら観戦をし始めるなどと放胆さをひけらかすのであった。

 現在残っているのは八人。

 修道女と軽戦士、修道騎士、守護士、おかしな侍に重戦士。

 この内四人だけが残り、誰かが自分と戦う。
 セイゲンは既に誰が生き残るのか、その目星を付けていた。

「あの修道女は確実に残るだろうな」

 セイゲンの眼はどこの宗派かも分からない変わった修道服に身を包んだ女を遠くに見据えていた。
 鎖十字を武器にして戦う様はとても修道女には見えなかったが、女の格好だけが辛うじて修道女である事を示していた。
「だがあの服はダメだろ。年寄りの目にはちとイテェぞ!」
 修道女の衣装は太腿や胸部が大きく露わになった扇情的な意匠となっており、やはりそこに修道女らしさというモノは無い。
「──にしても、あの戦闘の資質の高さで修道女か。最近の坊主どもはどうなってやがるんだか……」
 修道女の存在はコロシアムの中でも際立って異質に映っていたが、もう一つの戦いが始まるとセイゲンはそちらへと視線を移し喫驚を漏らした。

「あーマジか。お前らが戦うのかよ!」

 セイゲンは額に手を当てて大袈裟な反応を示したが、すぐに鋭さを宿した眼でその戦いを凝視し始めた。
 
「ま──どちらが勝つにせよ、その勝負。一撃で終わるぜ」


 ◇


 その一撃は、まさしく“竜の一撃”と言っても過言では無かった。

 巨体から繰り出される至大なる棍。
 それは容易くコロシアムの石畳を砕き、破片が宙を舞い粉塵と成り、その痕はまるで竜の爪が削り取ったかの様に抉れていた。

 舞う塵の中で踊るは、石の戦士────竜の一撃レイジ・ドラゴンたる棍を持つ戦士と、大湾刀を抱えたアマギリである。

「龍にまみえた気分はどうだ!」

 初撃を回避したアマギリを追撃する為、石の戦士は再び棍を肩へと乗せ大楯の向こう側にアマギリを捉え、ぶぉぉんと棍を振るった。

 戦士の巨体と彼が扱う武器から想像される様な“鈍重さ”はそこには無い。
 重量と速度。二つを合わせた一撃は、対峙している者にとって一振り一振りが致死の一撃クリティカルであり、発せられる“圧”は近距離である程増す。

 まるで山が落ちてくるかの様な重圧。

 並の者であれば戦意など容易く削がれてしまうだろう“圧”に耐え、漸く紙一重で棍を躱すが、そこへ砂埃を突き破って巨大な壁がアマギリへと迫った────

 それが、壁と見紛う程の圧力を伴った盾撃シールドチャージである事にアマギリが気付いたのは、衝撃にその身を浮かされてからだった。
 
「重い──ッ!」

 咄嗟に肩で受けた事で左肩が脱臼を起こした事を把握しながら、アマギリの身体は地面を滑った。
 その勢いを利用してアマギリは転がり起きて石の戦士を視界の真ん中に置く。
 アマギリは湾刀を左の脇に挟む形で辛うじて保持していたが、自身の得物とは言え大湾刀を片腕で構えるのは難しい。

 抜かねば敗けるぞ。
 だが抜かぬなら敗けろ。
 どうして刀を抜かない?

 観衆やセイゲンがそう思う中、メイレだけはアマギリが何故、簡単に刀を抜かないのかその理由を察していた。

 そうして、棍を担いだ巨体が自身へと迫りつつある中、アマギリは漸く大湾刀の鞘に手を掛ける。

「はよ抜けィ!!」

 石の戦士の怒声と共に棍がアマギリへと迫った。
 しかし、アマギリは微動だにせず鞘に手を掛けたまま静止────否。
 はたから見れば単なる静止状態だが、それは何かの構えの様にも見えた。

 遠巻きに観戦していたセイゲンだけがその動作に気付き思惟していた。

『あれは“居合”。この地にはまだ浸透していない剣技にして達人のみが扱う事の出来る“死の業”────』

 セイゲンはその業を知っていた。
 しかし、男の知る業とは異なる業。
 片手で扱う居合など男は知らず、いざ死合えば苦し紛れだと思うだろう。
 ましてやあの長大な刀で成し得る筈が無い────。
 だが、男には何故か、それが単なる苦し紛れには見えなかった。

「そう急くなィ──!」
 
 その時、声と共にアマギリの右腕が微かに揺らいだ。
 
 音無し。されど確かに抜いていた、、、、、
 音すらも絶つ極地に至った証左。
 瞬間にして極光の類は、ただの一振りで至大の棍を刎ねていた。
 
「──見事……ッ!」

 柄より先を断ち切られた棍。
 石の戦士はその絶技に感嘆を漏らし、眼前の武人の業に其処へと至るまでの罍磊たる研鑽を垣間見た。

 何たる業。
 何たる研鑽。
 その収斂を、ただの一閃に視た。
 龍は確かにここに居た────。

「ふ、敗けたか」

 峨々の鎧を纏う石の戦士は、満足げに敗北を認めながらその場に座した。
 そして、大きな石塊の如き兜を外し、戦士の容貌が詳らかとなる。

「龍────!?」

 兜の下、そこにあった顔は濃緑の肌、陽光を反射する程に澄んだ鱗皮りんぴであり、鼻腔近くに銀の髭を生やした東洋の伝承に残る龍そのものの頭部であった事にアマギリは驚きを隠せないでいた。

「オヌシ竜人ドラグルを見るのは初めてか?」
 そう言って龍顔がくたびれた笑みをつくるが「どらぐる? 知らん!」と、今日一番で大きな声をアマギリが放ち、竜人の戦士は喉を鳴らした。

「かっかっか。さようか!」

 龍殺しを謳っていた者が伝承にある龍の姿である事も奇妙ながら、それ以上にアマギリが奇怪に思ったのは龍が言葉を発し、二本足で歩いている事の方にあった。

「ま、まさかお前は雲を掴み、焔を吐くのか!? す、すげぇぇ……」

 驚いいたのも束の間、アマギリは即座に竜人へと駆け寄っては斯様な事を戦士へと問い詰めていた。
 しかし、竜人という種は竜そのものでは無く、彼らの特徴と言えば龍に似た肉体を除けば体格が良いという事くらいだった。
 彼らは太古の時代に人とは違う進化を遂げただけの同じ人類というのは最早常識となっている。

「そんな事出来たらオヌシと戦ってる時に使うわい」

 竜人の戦士が無慈悲に否定すると、「それもそうかぁ……」と何故か落胆した様子のアマギリに竜人の戦士はそこはかとない申し訳なさを覚えた。


 そこへ────────


「終ぅぅぅ了ぉぉぉおおお!!」


 という試合終了の合図がコロシアムに喨々りょうりょうと響き渡った。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

GAリアンデル
2021.09.27 GAリアンデル

ありがとうございます!

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