高嶺の花は摘み取れない

松雅

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森谷鉄朗

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 僕のクラスは、学級崩壊寸前だ。今目の前には、筆箱でキャッチボールをしている生徒、椅子に立ってはしゃいでいる生徒、寝ている生徒、大声で喋っている生徒たちがいる。でも、僕はなにも感じない。僕の心は無くなったのか。クラス一のガキ大将、南山明宏がこちらに向かって何か言っているようだ。でもそれすらも、僕の心には届かない。何も聞こえない。僕は聞いてない。だから何もしなくていい。ここでただ黒板に今日の内容の板書を書くだけでいいんだ。どうせ誰も聞いていないだろうけど、今日進まないといけないところまではやろう。本当は今すぐにでも帰りたいし、それで二度とここには来たくない。
バシャッ
その時、気持ち悪い感触と共に何かが僕の背中で破裂した。足元を見ると、潰れた牛乳パックが転がっていた。

「牛乳爆弾だー!」
「アッキー最高!」

生徒たちの不愉快な笑い声が耳を劈く。
〝アッキー〟
クラスメイトはそいつをそう呼ぶ。南山は、いつもクラスの先頭に立つような生徒だ。そもそも学級崩壊まで追い込まれたのは、こいつのせいなんだ。2ヶ月前、こいつがいたずらで、僕の背中に紙を丸めたボールをぶつけたのが全ての始まり。その時はもちろん注意した。その時、あいつはニヤニヤ笑っていやがったが、結構厳しく叱ったから、さすがに懲りてもうしないだろうと安心していた。いや、というより自分のクラスがそんなことになるはずが無いと思っていた。このクラスの担任になってから、生徒たちが楽しく毎日を過ごせるように全力を尽くしていたし、生徒たちと良い信頼関係を築きたかった。ただその一心で今までやってきた。
 チョークを持つ手が震え、僕はその場から動けなくなった。生徒たちの甲高い笑い声が教室中に響き渡る。こんな事でくじけてどうする。体育教師の道を諦めてでも掴みとりたかったこの教師という道を、こんなことで?悔しさが勝ってしまった。そして私は、
「誰だー?こんないたずらをしたのは。給食の牛乳はちゃんと飲みきらないとダメだぞ。」
笑いながら言った。これ以上、生徒から嫌われたくなかった。そのため、こんなに当たり障りのない叱り方をしてしまった。むしろ生徒からしたら、エスカレートの材料にしかならなかっただろうに。
僕が全てを注いだクラスは、こんなところで終わるのか?
こんなことで、
こんなところで。

「森谷先生は、この一件でもう我慢ならなくなってしまったんですね。でも、どうして今まで誰にも何も言わなかったの?」
森谷先生と同じ学年の高畠先生が尋ねた。
「もう、どうにもできなかったんです。」
きっと、その場の中で彼の本当の心情に気が付いていた人は誰もいなかったでしょう。皆、分かっていそうで分かっていなかっただろうし、森谷先生の繊細な部分を見たのは初めてだったので、普段の姿とのギャップに驚いたみたいです。でも今考えると、彼はの変わり様は、はっきり言って異常でした。あの時私は言うべきだったんです。もう彼は休むべきだと。

 
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