高嶺の花は摘み取れない

松雅

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前夜祭

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 クラスの人気者で、男子の中のリーダー的存在だった南山明宏、通称アッキーという生徒がいた。南山は成績も優秀、サッカー部の部長兼エースの、漫画に出てくるような優秀な生徒だった。南山は県内トップの英郷高校を狙っていた。あいつがもう少し成績を伸ばせば、難なく手が届くぐらい、あいつには実力があった。1年の時からずっと成績が良かったあいつは、たまに他の生徒を馬鹿にする発言をすることがあった。もちろん俺はその都度注意していたが、あいつもプライドが高かったため、言い返してくることがよくあった。まあ、受験生だからカリカリする気持ちも分かると、注意もほどほどにしていたのだ。だが、そこに付け込まれてしまった。あいつは、〝牛乳〟〝卵〟〝筆箱〟〝チョーク〟〝黒板消し〟〝水〟と、六項目が書かれた鉛筆を、〝天罰の鉛筆〟と名付け、学校でよく転がしていた。これは全て俺への天罰なのだそうだ。マスごとに何が起こるかと言うと、〝牛乳〟〝卵〟〝筆箱〟は、授業中に牛乳パック、卵、筆箱を俺の背中向かって投げつける。そして〝チョーク〟は、黒板に置いてあるチョークを細かく折る、そして〝黒板消し〟は、扉の隙間に黒板消しをしのばせ、ターゲットが扉を開けた瞬間に黒板消しが落下するというお馴染みのあのやり方のいたずらだ。そして〝水〟も、牛乳パックとほぼ同じように、俺にバケツいっぱいの水をかけるという項目だ。南山にしては、どれも中学生らしい単純な発想。俺はこの鉛筆を存在を知った時、生まれて初めて殺意というものを実感した。この〝天罰の鉛筆〟の通り、俺は日常的に奴らから嫌がらせを受けていたのだ。だが、それがなぜ一月もの間、このクラス以外の人物誰にもバレなかったのかと言うと、南山が確実に証拠隠滅していたからだ。いやいやそれでも、クラスの誰かが他言したりするんじゃないの?と思うかもしれないが、南山は、この秘密を漏らした人物が現れた場合、徹底的に調べあげ、その人物を次のターゲットにすると言っていた。そのため、単純な中学生たちは恐ろしくて、とても他言などしなかったのだ。南山は、嫌がらせを完全にクラス内だけで行っていた。これが南山の小賢しいところだ。絶対に俺の授業中に事は行われ、授業が終わると直ぐに、あいつの手下共らしき生徒たちが掃除をするからだ。更に、俺のプライドの高さが祟った部分もあった。おれは嫌がらせが始まった時から、ほかの教師や生徒たちにバレるまいと、一枚フリースを羽織って行っていた。授業中はそれを脱ぎ、授業後は汚れた服を隠すようにそのフリースを羽織った。もちろん、着替えも常備している。そのフリースは翔子から貰ったものだった。俺は無意識に何かにすがりたかったのかもしれない。愛する恋人から貰った服で、その傷を覆うかのように。
    
死ねばいいのに

何度そう思ったことか。あんなに大好きだった生徒たちに対して、こんなことを思うなんて、昔の俺だったら考えられないな。クラスで見ているだけのやつらだって同罪だ。初めこそ注意していた俺も、だんだん痛みも悲しみも感じなくなった。もう、なにもかもがどうでも良くなり、ロボットのように授業をこなすだけの毎日。心が壊れていく音は本当に聞こえることを知った。その精神状態は日常にも支障をきたした。まず、トイレに行けない。一人暮らしだったが、食事も作れない。脱いだ服を洗濯機に入れることが出来ない。何も出来なかった。体が動かなくなったのだ。でも、別に服を着なくても、トイレに行けなくても、死ぬ訳では無い。排泄なんてどこでしたっていい、そんなの住んでいる者の勝手だ。後で掃除すればなんの問題もない。服なんて着ても着なくても、同じものを毎日着たっていいんだ。さすがに食事は取らないといけないから、非常用に常備していたカップラーメンを消費して行こう。
 
 そんな生活が一週間ほど続いた頃。ある日動画配信サイトを見ていると、アフリカの草原を気持ちよく駆け回る動物の映像が流れてきた。俺はその姿に心を打たれた。そして、心の底から憧れた。こんなに気持ちよさそうに駆け回れる、服も着なくていい、風呂にも入らなくていい、これぞありのまま、これこそ自由な生き様、これこそ全てから解き放たれる生き方なのだ…!!!!
 俺は次の日から、動物が自然に返ったような様子で生活した。とても気分が良かった。飯を犬のように喰らい、裸で部屋を駆け回る。風呂なんてもちろん入らない。雄叫びをあげ、己の強さを周りの住民共にアピールしてやる。俺の様子を見に来た龍樹先生は、俺の事を恐れてすぐに逃げていきやがったが、そんな事どうだっていい。これが自分らしさだ!!

九月二十日体育祭当日

 そういえば、今日は体育祭だったな。俺のクラスの生徒たちのリレーの順番はどうなったんだ?陸上部の田中がアンカーとは聞いていたが、一、二、三走が誰か気になるな。ちょっと様子を見に行くか。俺も担任だからな。俺は最高の計画を今日立てたんだ。きっとあいつらもびっくりするだろう。この計画が成功した時、俺は全てを取り戻して教師生活に舞い戻る。なんて話していたら、いたいた。
「南山!」
なんだ、キョトンとしているなあいつ。まあいい。お楽しみはこれからだ。
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