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6.その腕に落ちる ◆
これは夢だ。そう思いたいのに、身体を押さえつけている夏々地の重みは現実だと訴えてくる。
「な……なんで、私なの?」
「君があやかしにとって魅力的な匂いを放つ特異体質で、しかも話してみたら優しくてとても良い子で、しかも僕好みの可愛い女性だから」
きっぱり言ってのけると夏々地は楽しそうに、鈴花の額にキスをした。
「もう君のこと以外考えられない。早く僕のものにしてしまいたい。……でも、それじゃあ君も納得いかないだろうからもう少し話してあげるよ」
青が結った鈴花の髪は乱れている。その解けた髪に指を絡ませ、夏々地は毛先に口づけた。
挑発的な目で静かを見つめながら。
「……昔から、夜や暗がりが怖かったでしょ? なにか人じゃないものが闇に潜んでそうで落ち着かなかったんじゃない? で、上京と同時にそれもなくなった。だから、闇を怖がるのは子どもだったせいだと思っていた」
「それは……誰でもそうでしょう?」
言い当てられてぎくりとしたが、よくあることだと反論する。
「それ、違うよ」
「え?」
「君の匂いに気付いたあやかし達が、君を手に入れたくて周りをうろついてたんだ。でも人里にいるあやかしは脆弱だ。暗闇から出たら消えてしまうくらいにね」
幼い頃から高校時代まで、何度も感じたじとっとした視線。
それを気のせいではないという。
暗がりに爛々と光る目を想像して、鈴花は身震いした。
「きっと、ソイツらはじっと君を見ていたんだろうね。いくら焦がれても、傍にいても、手も出せず。君を手に入れるのを妄想して、よだれを垂らして……」
何がおかしいのか夏々地はあははと声を上げて笑う。
「なにが……おかしいんですか?」
「君は僕のものになるために生まれてきたんだ。そんな雑魚どもが手を出せるわけない」
夏々地は上半身を起こすと、鈴花を見下ろした。
右手で頬を撫でると、その指はおとがいへと向かい、喉を滑り降りた。
乱れた襟元を愛おしそうになぞる。
「これは、ね……運命なんだよ。君と、僕の。だから――」
夏々地は鈴花の喉に顔を寄せ、舌先で舐め上げる。
「っあ……」
急所を晒す不安より被虐的な愉悦が湧いて、無意識に腰が揺れてしまう。
甘い吐息を漏らしてしまったのも恥ずかしく、鈴花はギュッと唇を噛みしめた。
「そんなに唇を噛んだら切れてしまうよ。ほら、力を抜いて」
言われても従えない。顔を背ければ、すぐに顎を掴まれて引き戻された。
「君を傷つけるのは、たとえ君自身でも許せないな」
「なっ!? ――っん!」
夏々地の言葉に呆気にとられた矢先、もう噛ませないと言うつもりか唇が塞がれた。
歯を噛みしめて侵入を防ぐ暇もなくて、ぬるりと夏々地の舌が口腔へ忍び込んだ。
ささやかな抵抗をするように、奥で縮こまった鈴花の舌は、傍若無人に動き回る夏々地の舌に絡み取られてすぐさま引き出されてしまう。
粘膜を擦られる淫靡で繊細な快感に、頭がフワフワとしてくる。
流されてはいけないと思う端から、思考は綿菓子のように溶けてしまう。
「ねえ、鈴花。君を傷つける世界になんて帰らなくていいんだよ。ここにいれば誰も君を傷つけたりしない」
「……あ……」
帰郷した理由を話しただろうか? ぼんやりした頭で思う。
「なぜ、それを?」
「昨夜の君の態度を見れば分かるよ。君は誰かの心ない行動に深く傷ついて故郷に戻ってきたんだろう?」
夏々地の察しがいいのか、それとも鈴花自身が分かりやすいのか。
知られていたということが、予想以上に鈴花の芯をぐらつかせる。
「人の世に戻ってどうするんだい?」
「そ、れは……」
――戻って私は何がしたい?
自問しても答えは出ない。
両親はもういない。帰りを待つ人もいない。
特にやりたいことも夢もない。
少ない貯金で食いつなぎ、その間に一人で食べていけるだけの収入が得られる仕事を探して……。
職が見つかったら、目立たないように気をつけながら働いて……。
それらはただ生きていくだけの手段だ。
「どんなことからも守ってあげる。だから……僕の腕の中にいて」
「――――本当に、ここにいて良いんでしょうか?」
うわずった声で恐る恐る尋ねれば……。
「鈴花はここにいるべきだよ」
「私……、私は……あなたのことを好きなのかまだ分かっていないんです。それなのに、あなたに縋ろうとしています。そんな狡い人間でいいんですか?」
「僕のことが嫌いじゃなければそれでいい。いつか好きになってよ」
夏々地の声も表情も、まるで愛の告白を受けたかのように嬉しそうだ。
なぜそんな顔をするのか、鈴花には分からない。
「君は狡い人なんかじゃない。僕が君の弱みにつけ込んだだけだ。だから、君はなにも悪くない。僕というあやかしに見初められてしまった憐れな君には、選択肢なんてなかった。全て僕が悪い。――安心して、僕の腕に落ちておいで」
全て夏々地が悪いという。鈴花に後ろめたさを感じさせないために。
その優しさに涙が湧く。
「鈴花、泣かないで」
「だって……」
夏々地は鈴花の涙を舌で掬い、「甘い」と独り言ちた。
「憐れな鈴花は、これから僕に美味しく食べられてしまうんだ。可哀想だけど、嫌でもそれは変わらない。運命だから諦めて」
夏々地の指が、乱れた胸元からスルリと滑り込み、しっとりと汗ばんだ鈴花の肌に触れた。
「君の肌は熱いね……それにクラクラするくらい良い匂いがする」
うっとりとした呟きに、鈴花は羞恥から身をよじった。
「か……がち、さん」
「鈴花?」
「あの……あの……は、初めて、なので……優しくして、ください……」
夏々地は嬉しそうに目を細め、唇を三日月の形に吊り上げた。
「もちろん。優しくするし、ちゃんと手加減もするから」
今にも舌なめずりをしそうな笑顔に、鈴花は顔を引きつらせた。
後悔に似た感情が心の中で頭をもたげるが、何か考える余裕があったのはそこまでだった。
気が付けばいつの間にか帯が解かれ、小紋の前がはだけている。
思わず前をかきあわせようとしたが、手首を掴まれた。
「隠したらダメだよ」
「だって……っあ!」
言い訳をしようとしたとたん耳朶をはまれて、淫らに甘い声を上げてしまった。
「そうか、鈴花は耳も感じるんだね」
「ひゃ……っ、あ……あ、ダメぇ……」
執拗にねぶられると、ゾクゾクした感覚が身体を這う。身悶えればますます愛撫は執拗になり、クスクス笑う夏々地の吐息にさえ感じてしまう。
彼はひとしきり楽しむと、唇をうなじから胸元へと滑らせた。
「は……んっ、夏々地さ……」
触れられた場所が熱くて、鈴花はイヤイヤと首を降る。
鈴花の反応に満足したように唇を歪め、両手で襦袢の胸元を寛げた。
すると身体の細さに似合わないほどたわわな胸がふるりと震えながら現れた。
「はぁ……、綺麗……。君の胸、すごく美味しそう。……ふふっ……こうやって触ると……とても、柔らかくて……しっとりしてて……僕の指に吸い付いてくるみたい」
「ふ……やだ……、あ……」
滑らかな双丘を、白く長い指が這う。
肌触りを確かめるように撫でたかと思えば、柔らかさを楽しむように揉みしだく。
そのたびに鈴花は新たな官能を呼び覚まされて、あえかな吐息を漏らした。
「あ、ほら、もうここが硬くなってきてる」
「んあっ! や、それ……」
胸の頂を摘ままれるとビクンと腰が跳ねた。
下腹部にたまる熱がたまらなくて、でも鈴花はどうしたらいいのか分からない。
「あ……ふぁ……」
「ちょっといじっただけなのに、そんな声出して……感じやすいんだね」
「ん……は、ずかし……」
羞恥に涙が浮かんでくる。
潤んだ目で夏々地を見上げれば、彼は熱いため息を零した。
「駄目だよ、そんなに煽ったら。抑えが効かなくなる。今だって、思いっきり君を貪りたいのに、我慢してるんだ」
困ったように告げると、夏々地は鈴花の唇を貪りながら、胸のふくらみをもてあそぶ。
「んっ……んんっ……」
口を塞がれた鈴花の喘ぎ声は鼻にかかり、一層甘い声になる。
嚥下しきれなかった唾液が鈴花の頬を伝い畳へと落ちていった。
「……はぁ……気持ちいい。唇も、胸も柔らかくて……」
濡れた唇を舌で舐め、夏々地がうっとりと呟いた。
それを見上げる鈴花の唇は貪られた証にぷっくりと熟れたような色になっている。
「でも、ここだけはツンと尖ってるね。まるで僕に『食べてください』って言ってるみたい」
「ふぁ……ん!?」
ここ、と言いながら夏々地は鈴花の胸の先端をキュッと摘まんだ。
敏感になっている場所に強い刺激を受け、目が眩んだ。
それが収まらないうちに先端を食まれ、頭が真っ白のままになる。
「あ……ああ、んっ……!」
押さえようもない嬌声が口を突いて出る。
夏々地は極上の音楽を聴いてでもいるかのように、うっとりと笑む。その顔は捕食者のそれだ。
「ん……っ……。あぁ……美味しいよ、君のここ……君も気持ちいいんだね? すごく良い声。もっと……聞かせて?」
「ふあ……やあ……んっ……」
「ああ……本当に……んっ……どこもかしこも……甘くて美味しい」
酩酊したような囁きを紡ぎながら、夏々地の唇は胸を離れて下へと進む。
その一方で、彼の手は鈴花の身体の線をなぞるように動いたり、悪戯を仕掛けるように胸の膨らみに触れたりする。
同時にたくさんの刺激を与えられて、鈴花は何が何なのか分からなくなってきていた。
ただ快感をやり過ごすことだけが精一杯だ。ぼんやりとした意識で甘い責めを受けていると、内ももにチクリとした痛みを感じた。
「あ……ぅ」
小さな呻きにも似た声が口を突いて出た。
「ん……僕のものだって印、ついた。君の肌に真っ赤な花が咲いたみたい。綺麗だから、もっと、つけていいよね?」
「……んっ、……っあ……」
ちゅ、っと小さな音を立てて夏々地が肌を吸うたび、鈴花の太腿に赤い花びらが散る。
「たくさん、たーくさんつけて、君の全部が僕のものだって、君にちゃんと理解して貰わないとね?……自分の身体を見るたび、鏡を見るたび、僕のつけた印に気付く。そして思い出すんだ、僕にこうして裸を晒して、触られて、淫らな声を上げたことを」
「やっ」
「嫌? 本当に? ――じゃあ、どうしてココ、こんなに濡らしてるの?」
夏々地が下着の上から足の付け根のあわいに触れた。
既に濡れそぼったそこは、くちゅりと小さな音を立てる。
「ちょっと触っただけで、こんなに音がする。……聞こえるだろう? 君のナカから零れだした蜜の音」
「ぁ……やぁ……」
鈴花は羞恥に涙ぐみ、小さく首を振る。
「嫌じゃないよね?」
するりと下着に入り込んだ指が、あわいをゆっくりとなぞった。
「んぁ……! あ……」
夏々地の指が動くたびに、触れられたところからくちくちと水音が立ち、さらに鈴花を追い詰めるようだった。
「すごい。どんどん溢れてくる」
夏々地が嬉しそうに囁く。
何度も触れられているうちに、彼の指は襞に隠れていた肉芽を捉えた。
「やあっ!」
ただ一点を触られただけなのに、全身を電流が走ったようだった。過ぎた快感は苦痛にも似ている。
鈴花は背を弓なりにしならせ、ひときわ高い嬌声を上げた。
「ここ、気持ちいいんだね。触ったとたん、奥からたくさん蜜が出てきた」
知らないうちに下着は剥ぎ取られ、足の間に身を置いた夏々地によって、両足を大きく開かされていた。
誰にも見せたことのない秘所が、朝の明るさの中、男の目に晒されている。
見下ろす夏々地の赤い目は情欲にまみれていた。
彼はそれまであわいを撫でいた指をつぷり、と隘路へ沈めた。
快感に溺れていた鈴花の顔に、わずかに苦しげな色が浮かぶ。痛みはないが、初めての異物感にどうしても身体が強ばってしまうのだ。
「痛い?」
短い問いに、彼女はふるふると首を横に振った。
「そう。じゃあ少しずつ慣らしていこう。君がここで僕を受け入れられるように」
鈴花の中に埋まっていた指が、ぬぷりと淫靡な音を立てて浅いところまで抜かれた。
抜ける寸前で入り口をなぞると、またゆっくりと奥へと進む。
「ん……あ……」
はじめは異物感に呻くような喘ぎだったが、抜き差しを繰り返されるうち声に甘いものが混じっていく。
それを的確に捉えていた夏々地は満足そうに赤い目を光らせるのだった。
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