元夫婦のきずなはゲームの運命を超えるのか~ファミリーリインカーネーション~

前野羊子

文字の大きさ
10 / 35

10【真夏の昼の夢】

しおりを挟む
 とうとう俺は再び豊子いやマリー姫と婚約をする事が出来た。
 前世でも俺は緊張しながら、彼女の親に挨拶しに行ったよな。
 今回はコブいや太一いや父王付きだったが。

 俺は前世で、祖父が見ていた時代劇にあこがれて、サムライがかっこよくて、近くの文化教室でやっていた剣道に通っていた、柔道や空手などと違って、成長に合わせて防具を買いなおしたり、竹刀が摩耗して買いなおしたりと、少し経費の掛かる武道だったが、若いころに同じく剣道を嗜んでいた祖父の助けもあって、長く通っていた。
 進学した中学にも剣道部があったが、俺は文化教室に通うのも目的だったので、部活には入らず、帰宅部員だった。

 文化教室の剣道の前の時間はたいてい、女の子達が通っているバレエ教室だった。本当は男子も参加できるそうだが、一人もいなかったのと、俺は剣道がやりたかったので、ときどき見る専門だった。
 レオタードが好きという事では・・・まあ見るのは好きだったけどね。

 おれはその、バレエ教室でいつも一生懸命に取り組んでいた豊子をコッソリ見ていた。
 スリムな体に長い手足を伸ばして、ハッとするほどきれいな動きにいつも見惚れていた。

 他にもたくさんの女子が踊っていたけど、俺はついつい豊子を目で追ってしまっていたんだ。

 中学校まで、学校では全然かかわりのない生徒同士というスタンスだったけど、ときどき目で合図をしたり、口パクでなにかメッセージをやり取りするのがとても楽しかった。何かがあいつと繋がっている感じがしていた。

 それでも俺は将来、医療の道に進むと決めていたから、帰宅部のまま必死で勉強もしていた。ただ、中三のある日、豊子の希望進路先を知ってしまった俺は、どうしても同じ高校に行きたくなって、同じ医者をしていた父にお願いした。
 大学は医学部のある一流の大学を目指すから、どうしても高校はそこに入試と入学をさせてくれと。
 お互い剣道もバレエもやめて文化教室に通うという共通の繋がりを無くしたところだった。文化教室の建物も取り壊さる予定になっていたからな。

 そして、高校の入学式で豊子を探した後に見つけた俺は、次の日すぐに交際を申し込んだのだった。

 俺は父との約束を果たすため、昼は豊子と高校生活を楽しみながら、放課後は予備校に通って夜は勉強するという忙しい学生生活をしていた。それでも、将来の目標がはっきりしていたから充実していた。

 俺が医大に進むと、豊子は看護の専門学校に進んだ。なんでも俺に影響されて医療の世界に興味が出たのと、看護士にならなれるかもしれないし、職場も同じになればいいねと言ってくれた。それでも恋人同士だったから、二人の時間が合えば定期的にデートもしたりしていた。

 医師になるには時間がかかる。豊子の方が先に看護士になり、病院へ勤めだした。
 その後しばらくして長かった医大生を卒業し、研修医になった俺も忙しくなってデートなどで会うことが難しくなったので、一緒に暮らすことになった。お互い夜勤などもあってすれ違う日々だったけど、一緒に暮らしていると絶対に顔を会わせられたり、寝顔に声を掛けられたり出来たのが良かった。

 晴れて、研修医も卒業して正式に医師としてのスタートを切った俺は、すぐに豊子にプロポーズをして、彼女の親にも申し込みに行った。
 小学校からの幼馴染でもある俺たちは、もちろんお互いの親も参観などでみかけたり、母親同士もPTAなどで逢っていたから、多少は緊張していたけど、すんなり婚約することが出来た。
 そうして俺たちは長い長い道のりを経て、中学校の同級生をいっぱい呼んだ結婚式をして、新婚旅行に行った。

 だが、その新婚旅行先で豊子に告げられた。子宮がんを患っていたことを。

 いつも、天真爛漫な明るい豊子が泣きながら俺に謝ってくるんだ。
「ごめんなさい。私にはもう子供が生めないの」
 ずっと一緒に暮らしていたのに、なぜ彼女のことが分からなかったのだろう。
「大丈夫、大丈夫だから、帰ったらすぐに治療に入ろう」
「うん」

 そして、旅行から帰ってすぐに豊子は入院した。

 なんとか治療は間に合って、半年ほどで新婚生活を仕切りなおす事が出来た。
 でも、子育てを夢見ていた豊子が、外で幸せそうな赤ちゃん連れを見て俺に出来るだけ悟られないように悲しそうな顔をするのが辛かった。俺も、子供が好きだと言ってしまっていたし、なおさら辛かったかもしれない。

 そんなある日、俺は先輩の医師に里親制度のことを教わった。何でもその人も一人育てていて、もうすぐ特別養子縁組をするそうだ。その先輩医師は本当に幸せそうに、里子との生活を教えてくれた。

 夕食のテーブルで、俺は豊子に里親の話を切り出した。
 他人の子の世話なんてどうなんだろうと半分不安になりながらも話していると、豊子はたちまち笑顔になって、
「うちにも迎えましょう!私はほら、病気が治ってから近くのクリニックのパートのナースになっているんだし、迎え入れた子供が大きくなるまでは専業主婦でもいいしね」

 夫婦そろって、里親になるための研修をしたり、ファミリー向けのマンションに引っ越ししたりして、子供を迎える準備をした。

 里親を世話してくれる機関に紹介されて、初めて訪れた施設で、初めて目が合った赤ん坊が、太一だったのだ。

 そんな前世の思い出を掘り起こすように、俺は、マリーが滞在している別荘のすぐそばの宿に夏休みいっぱいまでの宿代を前払いして、図書室を訪れた時のように、良いところの平民の格好で、マリーとのデートに勤しんでいた。
 マリーも商家のお嬢さんという平民の服装で、侍女と一緒に付いて来てもらってた。

 俺が連れてきている護衛とマリーの侍女を湖のボートに乗せ、俺たちも二人きりでボートに乗った。
 護衛と侍女はどちらも独身だし、うまくいくといいよな。

「昔もデートでボートに乗ったな」
「あのときはこういう手漕ぎじゃなくて足で二人でパタパタする」
「そうそう、スワンの形の」
「懐かしいわ~」
 マリーちゃん、普通八歳児は懐かしいという言葉は使わないんだよ。

「俺、こっちで赤ん坊の時に部屋に置かれていたオマルが白鳥の形でさ、それをついこの間まで末の弟王子が使ってたよ」
「ははは、私のもスワンのオマルだったわ」
「オマルを見るたびに豊子を思い出しててさ」
「えーなにそれ!ひどい」
「ははは、ごめんって。でもしょうがないだろう!」
「なんちゃって、あたしは自分の部屋にあったオマルで思い出してた」
 ほぼ生まれてすぐに前世の意識を取り戻したマリーは、かなり早くにオムツ離れできたんだって。トイレを使うには小さすぎてオマルだったらしい。

 オマルにまたがる赤ちゃんマリーの姿をつい・・・いかんいかん。俺は変態じゃないぞ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...