上方びいどろ

前野羊子

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27【初夏のお雛様】

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 緊張して訪問した京の羽森家のお屋敷で、あっさり結婚の了承をもらった百沙衛門は、そのまま瑠璃の父親の兼麿の言葉を聞く。

「瑠璃、こちらへ」
「へえ、お父上もう様」
「百沙衛門の隣に座ってみ」
「はい」

 裃姿の百沙衛門の左手に並んで座る。

 焚き締めた香だろうか、ふわりと袿から薫る。
「瑠璃。やはり姫装束も似合うなぁ」
 眩しいけどしっかり見る。
「おおきに。百沙衛門様も裃が似合うてますえ」

「おお、これは」
「ほんま、お雛さんみたいやなあ」
「お前たちの母さんに見せたかったな」
「せやなあ」

 兼麿と珊瑚の言葉に、思わず瑠璃と顔を見合わせる。

「某の母にも見せとうございます」
「百沙衛門殿のご母堂様も」
「はい、江戸の流行病で」
「そうやったな、あの時は沢山亡くなったな」

「まあ、家に執着する公家も多いが、ずいぶん前から武士の世の中だ」
「はい」
「瑠璃を武家の家内にしてやってたも。わしはそろそろ嫡男に後をゆずって隠居する身なんや。姉の珊瑚も来月には嫁に行くし、末の娘の瑠璃が幸せになればもう親としてはこれ以上のことはないよ」

 公家と言えば、伝統や格式に執着するものと思っていたが、時の流れをよく見ていて、柔軟な羽森 兼麿の言葉に感動しながら頭を下げる。

「こたびは、急な訪問にも快くお会い下さり、また、瑠璃姫のことについても重ねて有難うございました」
「うむ。まあそう固くならず、ゆくゆくは義親子になるんやしな。身共とも仲良くしてたも。父上殿にも良しなにお願いするよ。
 ところで、この後簡単やけど祝いの宴席はどうや」

「は、有難き幸せでございます」

 身のこなしが鮮やかな瑠璃に相応しい実家で少し安心する百沙衛門は宴席で酒がすすむと

「確かに某はこう見えて剣の腕には自信がございました。江戸でも大坂でも同世代には負けた覚えはありませんでした。しかし、瑠璃姫には勝てなくて」
「百様それを今言わなくてもいいやろ。それに毘沙門天の百様に勝ててるのはいつもまぐれやと思ってるんやけど・・・」
「瑠璃は負け知らずの百沙衛門に負け知らずなんどすな」
 珊瑚姫は楽しそうだ。
「それに、頭の回転も速くて、手先も器用で。
 料理ができないと申されてましたが、案外やってみたらできると思うのです」
「百様、そ、それ以上はよしとくれやす。あんまり言うなら祝言の日を三年ぐらい待ってもらわなあかんようになりますよ」
「それは待たれないな」
「ううっ」
 花札の読み札のような瑠璃の姿ながらいつもの様子に嬉しくなる。
「「ははは」」
「ほほほ」

 すぐに、手料理の手習い本を探そうと心に決める瑠璃姫だった。

「では、本日はありがとうございます」
 玄関まで見送りに出た瑠璃と珊瑚に挨拶してお屋敷を後にしようとする。
 土間には岡っ引きの七兵衛が控えていた。

「七兵衛はん」
「はい。って瑠璃ちゃん?」
「こら、瑠璃姫殿だよ」
 百沙衛門に訂正される。
「ひひ姫って・・・ということはこのお家は瑠璃ちゃんの実家?
 ・・・確かにすごく奇麗」
「ふふふ、おおきに。七兵衛はんも居るなら、料理用意してもらったのにな。ちょっと待って」
 十二単のままくるりと踵を返す。

「確かに動きはいつもの瑠璃ちゃんっ痛っ」
 百沙衛門から月代に拳骨が軽く落ちる。

 すぐに戻ってきた瑠璃姫の手には竹の皮に包まれたお弁当が。
「おにぎり、三つぐらいしかないけど、食べてな。七兵衛はん」
「ふわぁあ。瑠璃ちゃん結婚して!」
 ごつっ
 また拳骨だ。
「いま俺が申し込んできたのだ!」
「ううっ、百様羨ましいっす」
「そうだろ」
 七兵衛に預けていた刀と脇差を差しながら言う。

「じゃあ、次はまた大坂で」
「へえ、旅の支度やな」
「ああ」
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