46 / 78
バンティア男爵家(リン実家)編
真相と決断(リン視点)
しおりを挟む
翌日、あたしたちはそしらぬ顔で「通りすがりの冒険者」としてバンティア家に入った。正直、内心色々と思うところはあったけど、もしもギルムという人物が父の死に絡んでいるのであれば許してはおけない、という点ではアレンと同じ考えだった。
父は典型的な貴族家の当主のような人物で、女子であるあたしとはあまり接点がなかったし、あたしが剣の練習をしているところを見て怒られることもあったのであまり好きではなかった。死んだと聞いたときも、衝撃は受けたがそこまで悲しくはなかった。
だが、だからといって殺した人を許せるはずはない。
家に入ったあたしたちだったけど、当然冒険者が偉い人に会える訳もなく、しかも屋敷の中にはゴメスが新しく雇ったと思われるガラの悪い家来ばかりになっていたため、知り合いに気づかれることはなかった。
そのため、あたしたちは唯一この家ともギルムとも関係ないティアが情報収集している間他の雇われ冒険者たちと一緒に待たされていた。一応他の人にも話を聞いてはみたけど、雇われである彼らも当然詳しいことは知らない。
そんなことをしているうちに夜になり、あたしたちは寝室に案内される。
その時だった。
ふと、歩いているあたしの前に人影が現れる。
誰かと思えば……ゴメスだった。
その獲物を見るような目つきにあたしは思わず身構えてしまう。
「冒険者の中に美しい女がいると聞いて見にきてみれば、お前はただの冒険者の割にはあいつに似ているな。全く、この俺から逃げて出ていくなんて、とんだじゃじゃ馬だったぜ」
「……」
そう言って彼はあたしに好色の目を向ける。
しばらく見ないうちにゴメスは体格が良くなり、貫禄のようなものも備わっていた。もっとも、それがいい貫禄かどうかは微妙だが。
あたしは反射的に後ずさり、剣に手をかける。
するとゴメスの目がきらりと光った。
「その身のこなし……お前もしかして……本物のリンか?」
しまった、と思ったがもう遅い。
そしてゴメスに本人だと打ち明けたところであたしにとって何かいいことがあるとは思えない。
「……」
あたしが沈黙していると、ゴメスはじろじろとこちらを見てくる。
そしてさらに何かに気づいたように言った。
「お前、もしかして何か魔法にかかっているな? そうか、もしかして悪い魔法使いにたぶらかされて家を出たのか」
そう言えばゴメスは性格は悪かったが、魔術の腕に関してはそれなりだった気がする。だからあたしが魔法をかけられているのも分かるのもかもしれない。
「……解けるの?」
もし魔法が解けるのであれば。
あたしはそんな期待を胸に抱きつつ、尋ねる。
するとゴメスは頷いた。
「もちろんだ。まさかこんなところで再会できるとはな! とはいえこりゃすげえな、何重にも強固に重ねがけがされている……。ちょっとやそっとじゃ解けないだろうが……」
そう言ってゴメスはしばらくあたしにかけられている魔法を感心しながら分析していたが、やがてあたしに手を伸ばしてきたのであたしは反射的にそれを避ける。
するとゴメスは舌打ちした。
「ちっ、どこの男か知らないが他の男を避けるように躾けているのか。面倒だな」
いや、あんたを避けているのは催眠にかかる前からだけど……と思いつつ、あたしが彼を避けているのを催眠のおかげと思ってくれた方が都合がいいかもしれない。
「“ディスペル”」
彼が魔法を唱えるとあたしにかかっている魔法が幾分か解けたような気がする。
そうすると、あたしに刻まれていたアレンへの好意がみるみる薄くなっていった。このまま魔法だけ解かせて、そしたらあたしはこいつの元からもアレンの元からも逃げて、今度こそ悪い人に騙されないように自由な人生を送ろう。
あたしはそう決意する。
「……すごい」
あたしが言うと、ゴメスが再びあたしの胸を触ろうとするのであたしはそれを避ける。するとゴメスは不快そうに鼻を鳴らした。
「まだ完全には解けないか。まあいい、そういうことならこっちもちゃんと魔法を使うために準備するからお前は寝ろ。別の部屋を用意させておく」
「……どうも」
そう言ってその日は個室に通されたのだった。
*
「すみません、少しだけよろしいでしょうか?」
「え?」
翌日、なぜか部屋の窓の外から声がする。
あたしの元にやってきたのは一人の執事だった。彼は元々あたしを世話してくれていた人物で、剣を教えてくれたのも彼だ。少し見ないうちに老けていたが、なぜそんなところから。
「お嬢様……本当にお帰りになっていたとは!」
「色々と事情があって……。でも一体ここはどうなっているの? どうしてそんなところから?」
「それは……」
そう言って家臣は目を伏せる。
「大方、察しはついているから気は使わなくていいわ」
「分かりました。でしたら……」
が、家臣が語ったことはあたしの予想の遥か上を行くことだった。
「実は先日、男爵様とゴメス様がいさかいを起こされまして……。その折に男爵様はゴメス様の家臣数名に彼の日頃の行状を問い詰めたのですが、その折に兄上様の死がゴメス様の命令であると言うものがおりまして……」
「え?」
その言葉にあたしの目の前が真っ暗になった。
兄は戦場で名誉の戦死を遂げたと聞いている。
それが嘘だったなんて……
「当然それを知った男爵様はゴメス様を問い詰め、恐らくそれは真実だったのでしょう、ゴメス様は冒険者を雇って男爵様を暗殺したのです」
「なんと……もしやあのギルムという人物が……」
「確証はありませんが、恐らくそうでしょう」
彼の言葉を、あたしはすぐには理解が出来なかった。
とはいえ、もしそれが真実でないのなら、ゴメスはこんなことをする必要はなかったはずだ。何せ放っておけばいずれは家が継げるのだから。
それに、彼とは古い付き合いだから彼の言葉は信用出来る。
「で、でもそれなら何で彼の悪事が見過ごされているの!?」
「今言ったことは全て状況証拠というのが一つ。もう一つが、これまでゴメス様は周到にこの家の継承権を持つ男性を遠ざけてきたのです」
そう言って彼は親族が教会に入れられたり、他家の養子に出されたりしたことを語る。
「そして今、この家はゴメスが集めた傭兵や冒険者たちが溢れています。恐らくは全て、当主の座を手に入れるために仕組まれたことかと」
「そんな……」
それを聞いてあたしは頭がくらくらした。
いけすかないやつだとは思っていたけど、まさかゴメスがそこまでしていたなんて……そんなやつにあたしは魔法を解いてもらおうとしていたのか。
もはや魔法を解いてどこかに逃げようなんていう考えはきれいさっぱりなくなっていた。
兄を殺したのがゴメスだと分かれば、絶対にゴメスを許すことは出来ない。
「すみません、戻ってきたばかりでこのようなことを言ってしまって。とはいえ私は屋敷に入ることをゴメス様に禁じられた身です。それでは」
そう言って彼は身を潜めるようにして姿を消す。
それと入れ替わるようにして部屋のドアがノックされた。
「リン、魔法を解く準備をしてきたぞ」
「……どうぞ」
あたしは覚悟を決めてそう言う。
するとドアが開いて、宝石や呪符をたくさん持ったゴメスが室内に入ってきた。向こうはこちらがあんなことを知っているとも知らず、油断しているし、周りには誰もいない。
やるなら今しかない。
「あの、その前に一つだけ聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「お兄ちゃんを殺したのはあんたの差し金?」
あたしの問いに、一瞬ゴメスの表情が凍り付く。
まさか彼もあたしがすでにそのことを知っているとは思わなかったらしい。
あたしにとってはその一瞬の反応だけで十分だった。
すぐに剣を抜くと、ゴメスに斬りかかる。
「喰らえっ」
「ヒール!」
咄嗟にゴメスが唱えたのは一番初歩的な魔法だった。
「ぐわっ」
あたしの剣はゴメスの肩の辺りを切り裂いたが、血が出たそばから治癒していく。ゴメスは肩を抑えてよろよろと後退した。
そして激しくあたしを睨みつける。
「くそ……屋敷は俺に忠誠を誓う者で固めていたはずなのに、一体なぜ……」
「うるさいっ、ここで死ねっ」
あたしは今度こそ心臓を一突きにすべく剣を突き出す。
が。
「バリア!」
ゴメスが持っていた宝石や呪符はどれも魔力を強化するものであり、とっさに唱えた初歩的な魔法だというのにゴメスのバリアは歴戦の魔術師のように強固だった。
ガキン、と鈍い音がしてバリアが割れるが、あたしの剣はそこで止まる。
「くそっ!」
そう言ってゴメスはその間に部屋を走り出た。
「悲鳴が聞こえたぞ!」
「何があった!?」
そこへすぐに異変を察知した人々が廊下を走って部屋に駆け付ける。この状態でゴメスを追えばすぐにあたしが犯人だと分かってしまうだろう。
そう思ったあたしは仕方なく窓から部屋を脱出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どうにか逃げることは出来たけど、真実を知ったことへの衝撃、渾身の殺意をこめた攻撃をゴメスに防がれたことへの落胆であたしはひどく憔悴していた。
今頃ゴメスはどうしているだろうか。
あたしの仲間であるアレンたちを尋問でもしているのだろうか。いや、あたしに催眠魔法をかけていることを知った以上、グルだとは思わないか。
この後、屋敷はどうなるだろう。
希望的な観測を言えば、アレンたちがギルムに復讐する過程で、ゴメスも殺されるかもしれない。
でも、アレンたちはギルムを倒すことだけに専念して、ゴメスは放置するかもしれない。
もしゴメスたちと戦うことになったとしても、ゴメスの魔法によりみなの催眠が解除されて大変なことになるかもしれない。
本来ならあんな汚らわしい魔法が解けることは嬉しいはずだけど、それでゴメスが勝つのだけは嫌だ。
確実にゴメスを殺すためには、アレンの元に戻らなければならない。
でも、そうすればあたしが一度逃げようとしたことを話さなければならないし、そうなれば彼は何をするか分かったものじゃない。
これまで彼にされてきた数々の調教が脳をよぎり、あたしは思わずどきりとしてしまう。それと同時にあそこがきゅんとうずくのを感じた。
「あんなの絶対嫌だったのに……」
気が付くとあたしは右手がスカートの中に伸びていたことに気づき、慌てて引っ込める。
やっぱり何重にもかけられた催眠は完全には解けていないらしい。
別にあの生活に戻りたい訳じゃないけど……それは断じて嫌だけど……ゴメスがのうのうと生きながらえることに比べれば、自分が多少の恥辱を与えられることの方がよっぽどましだ。
復讐が果たせるのならば一生性奴隷として扱われてもいい。
そう決めたあたしは再び屋敷に戻るのだった。
父は典型的な貴族家の当主のような人物で、女子であるあたしとはあまり接点がなかったし、あたしが剣の練習をしているところを見て怒られることもあったのであまり好きではなかった。死んだと聞いたときも、衝撃は受けたがそこまで悲しくはなかった。
だが、だからといって殺した人を許せるはずはない。
家に入ったあたしたちだったけど、当然冒険者が偉い人に会える訳もなく、しかも屋敷の中にはゴメスが新しく雇ったと思われるガラの悪い家来ばかりになっていたため、知り合いに気づかれることはなかった。
そのため、あたしたちは唯一この家ともギルムとも関係ないティアが情報収集している間他の雇われ冒険者たちと一緒に待たされていた。一応他の人にも話を聞いてはみたけど、雇われである彼らも当然詳しいことは知らない。
そんなことをしているうちに夜になり、あたしたちは寝室に案内される。
その時だった。
ふと、歩いているあたしの前に人影が現れる。
誰かと思えば……ゴメスだった。
その獲物を見るような目つきにあたしは思わず身構えてしまう。
「冒険者の中に美しい女がいると聞いて見にきてみれば、お前はただの冒険者の割にはあいつに似ているな。全く、この俺から逃げて出ていくなんて、とんだじゃじゃ馬だったぜ」
「……」
そう言って彼はあたしに好色の目を向ける。
しばらく見ないうちにゴメスは体格が良くなり、貫禄のようなものも備わっていた。もっとも、それがいい貫禄かどうかは微妙だが。
あたしは反射的に後ずさり、剣に手をかける。
するとゴメスの目がきらりと光った。
「その身のこなし……お前もしかして……本物のリンか?」
しまった、と思ったがもう遅い。
そしてゴメスに本人だと打ち明けたところであたしにとって何かいいことがあるとは思えない。
「……」
あたしが沈黙していると、ゴメスはじろじろとこちらを見てくる。
そしてさらに何かに気づいたように言った。
「お前、もしかして何か魔法にかかっているな? そうか、もしかして悪い魔法使いにたぶらかされて家を出たのか」
そう言えばゴメスは性格は悪かったが、魔術の腕に関してはそれなりだった気がする。だからあたしが魔法をかけられているのも分かるのもかもしれない。
「……解けるの?」
もし魔法が解けるのであれば。
あたしはそんな期待を胸に抱きつつ、尋ねる。
するとゴメスは頷いた。
「もちろんだ。まさかこんなところで再会できるとはな! とはいえこりゃすげえな、何重にも強固に重ねがけがされている……。ちょっとやそっとじゃ解けないだろうが……」
そう言ってゴメスはしばらくあたしにかけられている魔法を感心しながら分析していたが、やがてあたしに手を伸ばしてきたのであたしは反射的にそれを避ける。
するとゴメスは舌打ちした。
「ちっ、どこの男か知らないが他の男を避けるように躾けているのか。面倒だな」
いや、あんたを避けているのは催眠にかかる前からだけど……と思いつつ、あたしが彼を避けているのを催眠のおかげと思ってくれた方が都合がいいかもしれない。
「“ディスペル”」
彼が魔法を唱えるとあたしにかかっている魔法が幾分か解けたような気がする。
そうすると、あたしに刻まれていたアレンへの好意がみるみる薄くなっていった。このまま魔法だけ解かせて、そしたらあたしはこいつの元からもアレンの元からも逃げて、今度こそ悪い人に騙されないように自由な人生を送ろう。
あたしはそう決意する。
「……すごい」
あたしが言うと、ゴメスが再びあたしの胸を触ろうとするのであたしはそれを避ける。するとゴメスは不快そうに鼻を鳴らした。
「まだ完全には解けないか。まあいい、そういうことならこっちもちゃんと魔法を使うために準備するからお前は寝ろ。別の部屋を用意させておく」
「……どうも」
そう言ってその日は個室に通されたのだった。
*
「すみません、少しだけよろしいでしょうか?」
「え?」
翌日、なぜか部屋の窓の外から声がする。
あたしの元にやってきたのは一人の執事だった。彼は元々あたしを世話してくれていた人物で、剣を教えてくれたのも彼だ。少し見ないうちに老けていたが、なぜそんなところから。
「お嬢様……本当にお帰りになっていたとは!」
「色々と事情があって……。でも一体ここはどうなっているの? どうしてそんなところから?」
「それは……」
そう言って家臣は目を伏せる。
「大方、察しはついているから気は使わなくていいわ」
「分かりました。でしたら……」
が、家臣が語ったことはあたしの予想の遥か上を行くことだった。
「実は先日、男爵様とゴメス様がいさかいを起こされまして……。その折に男爵様はゴメス様の家臣数名に彼の日頃の行状を問い詰めたのですが、その折に兄上様の死がゴメス様の命令であると言うものがおりまして……」
「え?」
その言葉にあたしの目の前が真っ暗になった。
兄は戦場で名誉の戦死を遂げたと聞いている。
それが嘘だったなんて……
「当然それを知った男爵様はゴメス様を問い詰め、恐らくそれは真実だったのでしょう、ゴメス様は冒険者を雇って男爵様を暗殺したのです」
「なんと……もしやあのギルムという人物が……」
「確証はありませんが、恐らくそうでしょう」
彼の言葉を、あたしはすぐには理解が出来なかった。
とはいえ、もしそれが真実でないのなら、ゴメスはこんなことをする必要はなかったはずだ。何せ放っておけばいずれは家が継げるのだから。
それに、彼とは古い付き合いだから彼の言葉は信用出来る。
「で、でもそれなら何で彼の悪事が見過ごされているの!?」
「今言ったことは全て状況証拠というのが一つ。もう一つが、これまでゴメス様は周到にこの家の継承権を持つ男性を遠ざけてきたのです」
そう言って彼は親族が教会に入れられたり、他家の養子に出されたりしたことを語る。
「そして今、この家はゴメスが集めた傭兵や冒険者たちが溢れています。恐らくは全て、当主の座を手に入れるために仕組まれたことかと」
「そんな……」
それを聞いてあたしは頭がくらくらした。
いけすかないやつだとは思っていたけど、まさかゴメスがそこまでしていたなんて……そんなやつにあたしは魔法を解いてもらおうとしていたのか。
もはや魔法を解いてどこかに逃げようなんていう考えはきれいさっぱりなくなっていた。
兄を殺したのがゴメスだと分かれば、絶対にゴメスを許すことは出来ない。
「すみません、戻ってきたばかりでこのようなことを言ってしまって。とはいえ私は屋敷に入ることをゴメス様に禁じられた身です。それでは」
そう言って彼は身を潜めるようにして姿を消す。
それと入れ替わるようにして部屋のドアがノックされた。
「リン、魔法を解く準備をしてきたぞ」
「……どうぞ」
あたしは覚悟を決めてそう言う。
するとドアが開いて、宝石や呪符をたくさん持ったゴメスが室内に入ってきた。向こうはこちらがあんなことを知っているとも知らず、油断しているし、周りには誰もいない。
やるなら今しかない。
「あの、その前に一つだけ聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「お兄ちゃんを殺したのはあんたの差し金?」
あたしの問いに、一瞬ゴメスの表情が凍り付く。
まさか彼もあたしがすでにそのことを知っているとは思わなかったらしい。
あたしにとってはその一瞬の反応だけで十分だった。
すぐに剣を抜くと、ゴメスに斬りかかる。
「喰らえっ」
「ヒール!」
咄嗟にゴメスが唱えたのは一番初歩的な魔法だった。
「ぐわっ」
あたしの剣はゴメスの肩の辺りを切り裂いたが、血が出たそばから治癒していく。ゴメスは肩を抑えてよろよろと後退した。
そして激しくあたしを睨みつける。
「くそ……屋敷は俺に忠誠を誓う者で固めていたはずなのに、一体なぜ……」
「うるさいっ、ここで死ねっ」
あたしは今度こそ心臓を一突きにすべく剣を突き出す。
が。
「バリア!」
ゴメスが持っていた宝石や呪符はどれも魔力を強化するものであり、とっさに唱えた初歩的な魔法だというのにゴメスのバリアは歴戦の魔術師のように強固だった。
ガキン、と鈍い音がしてバリアが割れるが、あたしの剣はそこで止まる。
「くそっ!」
そう言ってゴメスはその間に部屋を走り出た。
「悲鳴が聞こえたぞ!」
「何があった!?」
そこへすぐに異変を察知した人々が廊下を走って部屋に駆け付ける。この状態でゴメスを追えばすぐにあたしが犯人だと分かってしまうだろう。
そう思ったあたしは仕方なく窓から部屋を脱出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どうにか逃げることは出来たけど、真実を知ったことへの衝撃、渾身の殺意をこめた攻撃をゴメスに防がれたことへの落胆であたしはひどく憔悴していた。
今頃ゴメスはどうしているだろうか。
あたしの仲間であるアレンたちを尋問でもしているのだろうか。いや、あたしに催眠魔法をかけていることを知った以上、グルだとは思わないか。
この後、屋敷はどうなるだろう。
希望的な観測を言えば、アレンたちがギルムに復讐する過程で、ゴメスも殺されるかもしれない。
でも、アレンたちはギルムを倒すことだけに専念して、ゴメスは放置するかもしれない。
もしゴメスたちと戦うことになったとしても、ゴメスの魔法によりみなの催眠が解除されて大変なことになるかもしれない。
本来ならあんな汚らわしい魔法が解けることは嬉しいはずだけど、それでゴメスが勝つのだけは嫌だ。
確実にゴメスを殺すためには、アレンの元に戻らなければならない。
でも、そうすればあたしが一度逃げようとしたことを話さなければならないし、そうなれば彼は何をするか分かったものじゃない。
これまで彼にされてきた数々の調教が脳をよぎり、あたしは思わずどきりとしてしまう。それと同時にあそこがきゅんとうずくのを感じた。
「あんなの絶対嫌だったのに……」
気が付くとあたしは右手がスカートの中に伸びていたことに気づき、慌てて引っ込める。
やっぱり何重にもかけられた催眠は完全には解けていないらしい。
別にあの生活に戻りたい訳じゃないけど……それは断じて嫌だけど……ゴメスがのうのうと生きながらえることに比べれば、自分が多少の恥辱を与えられることの方がよっぽどましだ。
復讐が果たせるのならば一生性奴隷として扱われてもいい。
そう決めたあたしは再び屋敷に戻るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる