臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
10 / 228
序章

エピソード9 人気と嫉妬と狂気

しおりを挟む
 季節は変わり、北の国とは言えど夏は暑い。
 クーラーが恋しくなる。誰かクーラーを発明してくれないかなぁ~と部屋でゴロゴロと他力本願に考えていた。 
 窓からは涼しい風が吹き込むが、まだまだ足りないぞオレの体温に。
 窓の側に寄り掛かり外を眺めていると、母さんが庭園のテラスから手を振っていた。
 そろそろ着替えをしようと思いクローゼットの前に立ち、クローゼットを開けようとしようした時、ナイスタイミングでドアをコツコツと叩く音がした。
 ベテランメイドが現れた。
「スノウ様、おはようございます」

 しかしドアの向こう側の廊下のそう遠くない位置に白いベッドシーツを抱えた「ハァハァ……汗ばむスノウ様、お身体を清拭……ハァハァ……肌着とズボン……ハァハァ……お手伝い……ハァハァ」と荒ぶる鼻息を放つ怪しい猛獣? 人影? が視野に入ってきた。
 
 ベテランメイドを正面に捉え、思考をフル回転させる。よく考えろ! どれがベストなのか!

 ○自分で着替えると伝えてお引き取り願う。
 しかしベテランメイドに苦言を呈されタイムロスとなる。廊下奥の怪しい人影が侵入して「ハァハァ」バッドエンド。
 
○今日の予定を伝えてお引き取り願う。
 だがベテランメイドに習い事や皇太子としてのマナーを予定に取り入れるよう苦言を呈される。その隙に怪しい人影が侵入してくる。
「私がスノウ様のご予定に追加された習い事やマナーから抜け出さないか今日一日専属メイドとしてお役目を下さい」とベテランメイドに直訴する。
 ベテランメイドから了承を得て「ハァハァ」バッドエンド。

 ○【いのちをだいじに】
 取り敢えずドアを閉め鍵を掛ける。

「テラスから手を振っている母上に呼ばれているので身支度は自分でして急ぎたい」

 とベテランメイドに伝える。また追加して、
 「廊下でベッドシーツを抱えてこちらを見ている者に業務を怠るなと伝えて欲しい」
 とベテランメイドに伝える。怪しい人影は捉えられる。
 よし! この案で突破する!
 
 急いで刺繍が施された麻の肌着と絹のシャツに、ストッキングと短パンスタイルに着替えて部屋を脱出した。
 計画通り怪しい人影はベテランメイドからお叱りを受けており、その横を通り過ぎる際に「あっ!スノウ様の香りがハァハァ……肌を掠めたハァハァ」と猛々しい吐息が溢れ出ていた。

 やはりあのメイドだったか。

 今日は母さんのいる庭園のテラスまで行ってくるので護衛のヒュンメルにはゆっくり過ごす自由時間を与えた。いつも気を張り頑張ってくれているのでこれくらいの事はしないとね。ただでさえブラック企業の仕事内容なのに。

 そしてオレは玄関を出て庭園のテラスに向かおうとした。
 その時、偶然かどうかわからないが不敵な笑みを浮かべるマキシムに出会った。
 
「オイお前、最近勝手な事ばかりして父上を困らせているらしいな。おかげで母上は父上の機嫌を損なわれないよう献身的に支えているそうだ。まったくこれだから無能は困るんだ!」

 どうしよう。オレは宇宙人と交信しているのか?
 どのように解釈すれば、そのような斜め上の発想が出来るのだろうか?
 むしろ王妃派貴族に対する民達からの信頼が底辺まで落ちて、城内でも権力が弱まって大混乱でしょ。
 う~ん、やっぱりイーサン兄さんが次期帝王になって欲しいなぁ。こんな奴が国を治めると貴族達の言いなりになり崩壊してしまうよ。

「すみませんマキシム兄上にもご迷惑をかけてしまい……せっかくマキシム兄上が足を運んで下さったのでお話したかったのですが、母上に呼ばれており急いでおりますので、次の機会がございましたら是非ともご教示いただきたく存じます」

「フン! 気に食わん。オレ様は第一皇太子で将来は帝王となる身だぞ。お前みたいなごく潰しは気に入らん。それにオレに対する態度が気に食わない、いずれ後悔させてやる」

 面倒なので大人気なくフル無視した。
 さぁ今度こそ母さんの所に行こう。

 庭園にはラベンダーの香りが広がり、周りを見渡すと様々な色の花が咲き誇っていた。

「スノウ」

 優しい声に振り向くと母さんが微笑んでいた。

「こちらにいらっしゃい」

 その優しい眼差しに吸い込まれるようにテラスの椅子に座り、母さんの好きなアールグレイの紅茶を嗜みながら久しぶりゆっくりとした時間を過ごした。 

「あなたの活躍をマスクウェル王から聞きましたよ。城下の教会を修復に貢献し孤児達を救ったそうね。社交会でも、あなたの話で持ちきりよ。母親として嬉しい反面あなたの事が心配だわ」

 母さんに褒められて、素直に嬉しい。また気恥ずかしくなり顔が熱くなった。

「あらあら、私の可愛い王子様は照れているのね。普段はイーサン皇子と共に大人に混じって話をしているけど、こうして見るとスノウの子どもらしい所が見れて幸せだわ」

「もう、母上からかわないでください」 

「フフフ、こんなのんびりとスノウと沢山お話が出来る日々を大切にしないとね。」

「はい。勿論です母上」

 母さんは何故か一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべた。
 何故だろう? 気のせいかな?

 その後母さんと小一時間程度雑談をしてから別れ、イーサン兄さんとの訓練の為、王宮と離宮の間にある広場に向かっていた。
 その時、ダイアナ王妃が王宮の方から歩いてきた。
 急いでいたのでダイアナ王妃に対して「この後訓練がありまして急いでおりますので失礼します」と立ち止まり会釈をした。
 
 
 ダイアナ王妃はまるで鬼のような形相で
「フン! 浅ましい奴め。あの時死んでいれば良かったのに」

 とはっきりオレに聞こえるように言った。
 えっ! 死んでれば良かった発言? ど真ん中の直球で来たぞ!! 
 これは流石に身の危険を感じ、オレも青ざめた。
 何事も無ければ良いが、確実に暗殺で殺されるフラグが立ったような気がする。
 一度イーサン兄さんに相談、いやイーサン兄さんを巻き込み危険な目に合わせてしまうかも知れない。
 母さんは心配性だし、よし! ヒュンメルに相談だ。気が進まないけど……

 その日からイーサン兄さんのガチ訓練から軍の兵士並みのスパルタ訓練を受ける事となった。まだ八歳ですよ? 遊びたい年頃ですよ? 俺の精神が大人だから何とかやり切れているんですよ? そもそもあなたが言ってくれた【人を傷つけるのではなく大事な人を守る為に剣を練習するんだ】と爽やかに言っていたのは嘘だったのですか? 心身ともにめちゃめちゃ傷ついてますよオレが。それで良いんですか? オレもう吐きますよ。 身体中が青アザだらけですよ。 もう泣いてますよ。 
 へぇー それでも手を止めてくれないんだ。
 不思議~ …………そしてオレは意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...