臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード23 目指せ入学金

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 入学まで残り一年、厳密に言うと十一ヶ月半。ヒューゴと立てた計画を実施する。
 朝起床後井戸に水を汲みに行き、その後早めの朝食。食後から昼までは井戸の水汲み配達を銅貨一枚で実施する。この仕組みはオレが考え神父様に相談した。

「そうか来年まで入学金が必要なのか。九歳の少年が一人で頑張るのは酷である。ああ神は何という試練をこの子に与えたのだ。わたしで良ければ何か手伝うので困った時はいつでも言いなさい」

 人の良さそうな顔をした壮年の神父様が涙を流されてオレに同情してくれた。

 しかと言質をいただきましたよ!
 オレは神父様の喋り終えた直後に水汲み配達への協力に巻き込んだ。

「神父様お願いがあります。子どものボクでもできる仕事として水汲み配達を考えています。これは水汲みの時間が面倒で誰かにお願いしたい人が前日までに教会に来て神父様に依頼する。そして、依頼者全員の名前と家の特徴や場所を記載した配達リストを神父様が作り、当日ボクが井戸の水を運んで家の表に置かれた水瓶を満タンにします。代金の支払いは教会で預かってもらえないでしょうか?勿論神父様に手伝っていただきますので、三割程度お支払いしますので」

「成る程、しかし私への支払いは結構です。こんな小さな子どもが未来を夢見て頑張る事を手助けするのが私の務めでもあります。必ず成功させましょう。私も参拝者へ声をかけてみますので」

 ありがとう神父様! これでオレでも出来る仕事が一つ出来た。
 後はヒューゴに頼んで水計画第二弾をするぜ!

「爺ちゃん、鍛冶屋に行って炭を買いに行きたいんだけどお金がなくって……」

「炭とな……どういう用途で使用するのかわからんが、どれぐらいの量が必要なんじゃ」

「えっと、取り敢えず二百グラム」
「無理じゃわ」
「えっ何で?」
「炭は高価なんじゃ、鍛冶屋の繁忙期の作業中に稀に出来るそうなんじゃ。確か百グラムだと銀貨二枚はするぞ」
 
 えっ何その価格破壊! 前世の四百倍? どうした異世界? 炭を作成する技術なのか? 方法なのか? なにが知られてないんだ? オレもよく知らないけど。

 燃やす時に、木に空気が入らない蒸し焼き状態にすると酸素と炭素が……どなんかなりまして~ 炭素分だけが残って炭になるはず。

「炭を半分だけでも何とかならないかな」
「……はぁ、ランパード様からいただいた餞別を使うかのぉ。ほれ銀貨四枚じゃ」
「ありがとう爺ちゃん」

 実はシェリダン領に来る前にランパード様からお餞別で小金貨三枚いただいていた。
 しかしシェリダン領での生活雑貨の購入や食費やその他諸々で今は、小金貨一枚と銀貨四枚になっていた。二ヶ月分の生活費だ。
 この家はシェリダン様のご好意で無料で貰ったが、修繕費等は必要である。
 それに現在ヒューゴは就職活動中の身、水汲み作戦が上手くいけば教会の依頼者窓口の対応しやすいとして雇ってもらう予定になっている。
 オレの体力勝負になるが今後の生活のためにやってみる価値はあるし、次の第二弾水計画にも影響してくる。
 
 オレは明日から仕事がある事を祈って、銀貨五枚を握りしめて鍛冶屋に向かった。

「よう坊主、じいさんのお使いか?」

 一見頑固オヤジに見えるが気さくな鍛冶屋さんが話しかけてきた。
「違うよ、今日は炭を買いに来たんだよ」
「ほう、こりゃ珍しいな。そんな高価な物を買う平民がいるなんて」
「おじさん、炭二百グラムね。はいこれ銀貨四枚」
「おー本当に買いやがるのか? しゃあねぇーなサービスで銀貨三枚にまけといてやるよ」
「おじさん、それと竹とかは置いてないかなあ?」
「はぁ! そこに加工前のやつがあるから好きなだけ持っていきな」

 えっ嘘! 漢気溢れる鍛冶屋さんにキュンキュンします。まさに仏様、こんな所で意外な節約ができるとは!
 
 俺は満面の笑顔で鍛冶屋さんに感謝した。
「おじさんありがとう。今度面白い事するから教会に参拝に行く時に神父様に聞いて見てね、それとお客さんにも伝えといてねー」

「なんか分からんが、まかせとけ」
 煤で汚れた顔から白い歯をキラリと光らせオッケーサインで鍛冶屋さんは返事をした。

 後は、竹と石と草と服を用意して、明日は朝から体力勝負になる予定だから、明日の昼に作業をしよう。

 そして次の日の朝を迎えた。
 前日は遠足の前日のテンションになり、中々寝付く事が出来なかった。
 動きやすい服に着替えて、一階に降りるとヒューゴが朝食を準備してくれていた。オレは井戸に水を汲みに行き、顔を洗う。その後、家の水瓶が一杯になるまで水を汲みのがオレの日課だ。
 
 それが終わるとヒューゴと一緒に朝食を取り、いつもの硬いパンと具が少量のスープと果実を食べる。食べ終えると依頼がそこそこ集まれと祈りながら教会に向かった。

「おはようございます神父様」
「おはようクライヴ」
「昨日の言っていた水汲み配達の件ですが……」
「おお、早速二件だが依頼が来ているよ」
「えっ本当ですか? ありがとうございます」

 依頼書を見てみると、鍛冶屋さんとご近所さんの二件だった。親しい人達からの依頼だが一件もないよりマシだ。それにこれはオレの筋トレも兼ねている。もっと稼ぐ為には非力なままじゃダメなのさ。
 そして水桶を両手に持ち井戸に向かって駆け出した。

 あっこれ、思ってた以上にしんどいヤツだ。水桶に水が入ると両手がキツくてプルプルしてくるし、
 一往復なんかで水瓶は満タンにならないし……おかしいなあ、片道徒歩五分の距離が長く感じるや、三往復でやっと水瓶は満タンになった。一件目で一時間半かかり、すでに腕が限界である。
 二件目持つかな? その時オレは閃いた!
 昔の人は確か天秤のように水桶を棒に引っ掛けて両肩に担いでいたような気がする。いったん丘の上の大木に向かい、木の棒が落ちてないか調べてみると中々良い感じの棒が落ちていた。
 そして井戸に戻り水桶を担いでみると先程よりも楽に持ち上げる事が出来た。

「ヨシ! 強度も問題なさそうだな」
 
 オレは一人呟き二件目に向かった。手で持つより肩で担ぐ方が何倍も楽だ、これだと前半の後れが取り戻せそうだ。
 二件目も三往復したがタイムは何と……五十分!
 四十分タイムを縮めることが出来て、昼前に終わらすという目標はクリアした。
 後は家に帰って作業をするだけだ。帝国から逃げる時に来ていた衣服を裂いて綿を取り出した。帝国の気候では綿は育成に不向きだから高価なんだよね。王国に来てから気づいたよ。
 そんな余談は置いといて、作業に取り掛かった。 
 まずは竹筒の下に小さな穴を開けて、下から順に綿とハーブと草ゾーン、砕いた炭ゾーン、色んな大きさの石ゾーンと入れていった。
 これで、なんちゃって濾過器の完成だ!
 この世界の水は井戸水でも生では飲めないからね、煮沸しても怪しいからね、日本人なら綺麗な水飲みたいよね。
 さぁ濾過しましょうか。これが完成したら水の魔術士入らずで水が飲める世紀の発明だ! というか竹筒に水を入れて水売りをしようかな? 膨らむ妄想とともに濾過を試した。
 アレ色変わらないぞ…………えっ? これ失敗した? ええい取り敢えずもう一度濾過をしよう。
 ちょっと色が薄くなった気がするような…………
 それならもう一度濾過じゃい……アレ。
 お主も中々悪よのう、くらえいもう一度濾過じゃ…………
 濾過じゃ………………
 濾過します………………
 濾過しますから………………
 もうお許し下され……………………
 七回目で不純物が殆ど見当たらない透明度になった。
 これで煮沸してから冷えるのを待ち、ヒューゴを呼んで一緒に濾過した水を飲んでみた。
 ヒューゴは一口水を含み口の中で転がすように味を確かめた。
 オレはヒューゴに、ワインかよ! とツッコミを入れたかったが手をグッと握りしめ我慢した。

「…………………………何と! まろやかな口当たり! そしてその後に微かに鼻腔に抜けていく控えめなハーブの爽やかさを感じる。まさに南シェリダンの天然水ですな! これは驚いた!」

 おい【minamiアル〇スの天然水】みたいな事言うなジジイ! オレが商品名をパクった見たいになっているだろう。これはオレの完全オリジナルの水だよ! 名前は【シェリダンの雫】でよくないか。それも恥ずかしい商品名だけど……

 そして次の日に神父様へ竹筒に入った【シェリダンの雫】を依頼の件での御礼として渡した所、
「これは! 水の歴史を変える……水の神の革命ですわ~」

 神父様も壊れてしまった…………


 結局この日は水汲み配達依頼を四件こなし、その後ヒューゴと神父様から濾過水の販売について夜遅くまで熱い話し合いを行った結果、依頼窓口に続いて教会で販売所を設けてもらう事となった。

 ずっと前から言いたかったが、子どもは寝るのも仕事だからな! 夜更かしは良くないからな!
 この大人達、特にヒューゴにいつか言いたい……
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