臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード51 ハッピースマイルポテイトン一号店と不思議な少女

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 いつものように清々しい朝の光の中、外から聞こえて来る生活音が心地良く二度寝という至福のひと時に誘おうとした。
 オレは身体を水に浮かばせているような感覚に陥り、体中の筋肉がリラックスした状態で瞼を閉じていった………………………………

 「…………ィヴ……」

 夢の中で女性の声が聞こえたような、そうかここは森の中の湧き水でできた綺麗な池に浮いているんだな。少し甘い果実と森の香りが心を落ち着かせる。
 ん? 池の中にはプラチナヘアーの森の女神様がいるのか、あっオレに気づいて近寄ってくる。
 微笑みを浮かべた女神様の顔がオレの顔に近づいてくる。何この夢! 幸せ過ぎる。
 しかしこう見るとフィーネと全然違うな女神様は、女性らしい身体つきで大人の色気を感じるなぁ。

「ハア?」

 あれ? 女神様がドスの聞いた声を出している。 
 それに夢の世界はこんなにも腹部が痛いのか?
 
 あぁ、なるほど悪夢を見ているのか。布団を剥ぎ取りオレを呼びかけたり、罵声を浴びせながら腹部に肘を入れてくる。怖い夢だなぁ。
 そして五、六回ほど腹部に強い痛みを感じオレは目を覚ました。

 そこには眉間に皺を寄せて目を吊り上げているフィーネが立っていた。
 
「フィーネ、おはよう。でも勝手に男子の寝室に入ってくるのは良くないよ」

 オレは今後のフィーネのために道徳を唱えた。

「アタシはまだこれから発展するのよ! アンタなんか悪夢じゃなく地獄に落ちればいいのよ!」

 思いっきり頬をビンタされて、フィーネは部屋から駆け出して行った。

 頬と腹部がとても痛むおかげ? でしっかりと目が覚めた。
 うん! フィーネはどうして理由もなくツンツンになるんだろう? フィーネ自身も悩んでいるかもしれないし今度本人に聞いてみようか。

 着替えを済まして食堂に行くとみんな既に奥の机に集まっていた。
 相変わらず二年の男女の先輩は、「えー! こんな料理とは……ネーミングに騙された」と料理長が喜ぶ反応を見せ、料理長はニヤリと笑みを浮かべた。
 オレはもうメニューを見るだけで料理がわかるようになってきた為ネーミングで注文しなかった。

「こっちの肉入り野菜炒めと卵スープの定食で」

 料理長はまさかと言いたそうに驚いており、空いた口が塞がっていなかった…………

「おはよう」
「「「おはよう」」」
「おぅ」

「ねぇクライヴ? またフィーネとケンカでもしたの?」

 モーガンの言葉に理解ができなかった。

「いや、朝起きたら突然ビンタされて起こされた」

 オレは真面目に答えたつもりだが、フィーネ以外は笑っていて、「もう少しマシな嘘をつきなよ」と言われた。
 いやいやいや元凶は真っ赤な顔で俯いてるじゃないか! 信じてくれよ真実なんだけどなぁ……

 朝食を終えたオレ達はある場所に向かった。

(今の時間は朝の九時。よし!)

 目の前には進化したハッピースマイルポテイトン一号店だ!

「みんなには初公開だね。これが新しい店舗だよ」
 
「「「「ええ!」」」」

 ここまでリフォームしたとは思わなかったのだろう全員が驚きフリーズしていた。

 
「カウンターはテイクアウト持ち帰り用とイートイン店内で食べる用が付いているから、オーダーを受けたり会計をするのが大変かな? ここはモーガンとリアナに任せたいんだ」

「「ああ」」

 モーガン達は、まだ驚いたまま返事をした。

「カウンターの隣にはキッチン用の部屋を作って、そこで調理や休憩や食事が行えたり、従業員用のトイレも完備していて、少しでも従業員が心休まる場所にしたんだ。ここはオレとショーンだね」

「おおぅ」

 ショーンも驚いたまま返事をした。

「元々広かった店内には大きな窓を沢山付けて光を取り込んで明るくしているんだ。
 店内で食べれるよう机と椅子も用意して、後はテイクアウトの場所から庭までタイルを敷き詰めたんだ。
 その先には花や樹木等が広がる庭を作って、店内からも楽しめるように庭にテラス席を作ったんだ。
 また、店内とテラス席を繋ぐ扉を取り付けて店内と庭が行き来しやすいようにしたんだ。
 天気の良い日には陽の光を浴びながら歓談するのもいいと思わない?」

「「「ああ」」」
「ええ」

「それとね」

「ちょっと待ってクライヴ! まだあるの?」

 モーガンはオレの話を遮った。とても驚いていて、モーガンでも理解が追いつかないのかな?
 他のみんなはフリーズしていた。

 しかしオレは早くみんなに言いたかったので話を続けた。

「まだあるよ。店内や屋外のお客さんか使えるようにと思って、屋外にトイレを二つ程完備したんだ。
 水の魔道具を使用した水洗式の便器や手洗い場付きにしたんだ。
 しかも光を取り入れるために、トイレの便座に座っても外からは見えない死角にカーテン付きの大きな窓を付けたんだ。
 目隠しもあるけどガーデンからラベンダーの香りが流れてくるのも良いよね。ここの庭の手入れはフィーネに任せるね」

「「「「はぁ……」」」」

 店舗のカウンターの側にある階段で二階に上がると、一つは大きな部屋で密談も行える重要人物を招く部屋を作ったんだ。必要ないかもしれないけどね。
 もう一つはパーテーションで区切られた多目的部屋でシンプルな部屋になっているんだけど……こっちはまだ用途は決まってないんだけどね」

「どうかな? みんな?」

 やっとみんなにお披露目できてオレはみんな喜ぶだろうなぁと反応を待った。

「クライヴ、この費用は?」
「アンタ、こんな事して働く人は足りるの?」
「実に言いにくいんだが、ぼく達五人がこれだけ範囲を広げると難しいのではないかな?」
「おめぇはバカじゃろう! こんなん疲れてしもうて半日も持たんわ!」

 思っていたのと違う反応が返ってきてオレは少し落ち込んだ………………みんなには費用は職人さん達がサービスしてくれた事、一時間半勤務にして、どれぐらい体力的にもサービスの質的にもどれだけやっていけるか実験も兼ねている事を伝えた。
 人員が他にも入りそうなら、検討する事を約束した。

「それでは十時になったので開店しまーす」

「「「はーい」」」
「おうよ!」

 まだ客は来ていないが、ショーンにポテトの皮むき二十個を頼み、オレは外の様子を見に行った。

(さすがにまだ客は集まらないから、前世風のカフェっぽく外からも少し店内が見える珍しい外装にしたのになぁ)

 俺は店内に戻ると一台の立派な馬車がお店の近くに停まった。

「早く買わないと売り切れてしまうわ」

「お嬢様、そんな開店早々に伺うのは……人の目もありますので、くれぐれも注意してくださいね」

 どうやら貴族様が、お店に近づいてくるようだった。
 まさかフライドポテトを買いに来る事とは思わず、オレは厨房に急いだ。 

「ショーン! いきなり大物が来店だ!」
「おぅ! もうポテト揚げとるけぇ」

 ショーンの手際が良くなり、オレ達は二人で袋詰めまでの肯定をスムーズに行えるようになった。

 どれぐらい買うのか、こっそりとキッチンから出てカウンターにいるモーガンに小声で話し合った。 ちょうど執事のような人と、護衛を引き連れたお嬢様のような方が外見をしばらく見ていた。

「どれぐらい作れば良さそう」

「予想はつかないけど、あの人達の分と追加で使用人分の二十から三十個ぐらいかなぁ」

「そんなに貴族は買うのか?」

「あの紋章は侯爵家だよ。さすがに庶民の食べ物だから侯爵様達が食べるのではなく、労いも兼ねて使用人にでも渡すつもりじゃないかな?」

「お嬢様、そろそろ中に入りませぬか? お嬢様がこのような店に来るのは目立ってしまいます」

「………………えぇ…………そうするわ」

 何か見たことある女の子だなぁ…………あっ! あの時のポテトに驚いていた可愛い子だ。

「じゃあ、オレ達はフライドポテト作りに専念するよ。モーガン失礼のないようにね」

「ボクを誰だと思っているの?」

 モーガンとやり取りを交わすと、オレはキッチンに向かった。

「えぇー!」

 またあの女の子の驚く声が響いていた。

 相変わらず不思議な子だなぁ……それか侯爵家の御令嬢から他の御令嬢に伝わって貴族の間で珍しさが好評となり流行らないかなぁ。

 そんな事を考えているとリアナがキッチンに入ってきて、深刻な表情をしていた。

「どうしたんだリアナ」

 リアナは割とクールだが、こう言う顔を見せる時は何かあった時だ……もしかして御令嬢に何か失礼な事をしたとか! そんなはずはない! マナーがしっかりしている二人だ。

「クライヴ……オーダーは四十個でその内持ち帰りが三十五個らしい。持ち帰りを急いで欲しいとの事だ。ぼくも手伝おう! 袋詰めやポテトカッターなら手伝えそうだ!」

  オレとショーンは終わるまで一秒も休めない覚悟を決めた。
 オレ達三人は無言のままフライドポテトをひたすら無言で作っていった…………
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