臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
81 / 228
第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード66 初等部一年 後期

しおりを挟む
 とても長かった夏休みが嘘のように一瞬で終わってしまった……明日からは後期の授業が始まる……
 二ヶ月半あった夏休みバカンスを挟んで前期と後期の授業に分かれている。
 後期の授業の合間に冬休み年末年始二週間がある。
 そして、後期の授業が終わる頃に王国一のイベントの【マクウィリアズ王生誕祭】がとにかく凄い!
 生誕祭なので貴族や商人達が集まり、王都中の活気が大変な事になる。
 噂では、あの大きな公園に屋台、露店が立ち並び、盛り上がるあまりに【王国万歳】と言いながら公園の池に投げ飛ばされるらしい……老若男女関係なくその数なんと五百人程度…………
 
 それはさておき、今は午前の授業中……読み書きの四十六文字の全てを使った単語問題をしていた。

「ショーンくん。それ間違っているよ」

「ショーンくん。もう少し綺麗に書いてみよう」

「ショーンくん。書き順が違うよ」

「ショーンくん。それは違う読み方だね」

「ショーンくん。これなら何て読むかわかるよね」

「これは、【筋肉】じゃあ!」

 ショーンは得意げに答えた。

「違いますよ。【筋肉】じゃなく【頭】だね」

 ダン先生は少し悲しそうにショーンに真実を伝えた。

「なぁ、モーガン」

 オレはモーガンに小声で呼びかけて【やっぱショーンって脳筋なの?】と書いたメモを渡した。

「の、脳筋って、ク、クライヴ プッフッフッフ……笑わせないでくれよ、プッフッ……あぁ笑い過ぎてお腹が痛い」

 モーガンはツボに入ったようで笑いを堪えていたが時々息が漏れていた。そして真後ろのリアナにメモを回した。

(モーガン、悪い奴め)

 そして左後ろのリアナからも同じ現象が起きていた。

「確かに、クライヴの言う通り脳筋そのものだな」
 
 リアナが腹を抱えながらオレとモーガンに小声で伝えた。

 オレの後ろの席の当事者ショーンは何が起こっているのか分からない様子だった……



 朝から学院で学びを深めたり、下校後は週三でフライドポテトを百個売り捌き、夕方前に学生寮に戻る一日のサイクルが当たり前のようになってきた。

(そろそろ、従業員を……念の為に警備できる人がい欲しいなぁ……ショッパーニさんに相談してみよう)

 オレはフライドポテト完売後に材料の発注も兼ねてショッパーニさんに相談した。

「今は客層は良いのですが、やはり子ども達だけでやっていくのは……大金も扱いますので……開店前後の約一時間ぐらいも含めて警護が出来て、更に計算か料理ができる人が一名欲しいです。
 そんな方って知り合いにいますか?」

 オレはそんな人はいない前提で話をしたが、思いの外ショッパーニさんは真剣に考えていた。
 しばらくしたら心当たりがあるのか、思い出したように表情が明るくなりオレに話した。

「クライヴ殿に一人だけ紹介できる者がおります」

 ショッパーニさんはそう言ってから、急いで従業員を呼びに行った。

 そして直ぐに戻ってくると、そこには茶色のオールバックに茶色の目をしているが黒縁メガネをかけた一重の瞼の薄い顔の成人男子が立っていた。

「お初目にかかりますクライヴ殿。私はショッパーニ商店で働いておりますショッパーニの息子のショパンと言います」

 突然に呼び出しにショパンは少し困った表情をしていた。

「ショパンよ明日からクライヴ殿の元で働きなさい。良い経験となると思うし、ショッパーニ商会の跡取りとして学びを深めなさい」

「いや……クライヴ殿には申し訳ないのですが、私には子ども達の……何と言いますか、その遊びなような事よりも商会で働き父のようになりたいのです」

(ショパンさん、ストレートに言うねぇ。
 まぁショッパーニさんとのやり取りばかりだから普通に考えたら、ショッパーニさんの仲の良い方の子どもがお使いにきた感覚なんだろう……)

「ショパンさん。一日中だけ体験で働いて見ませんか? ショパンさんが気に入ればずっと働いて欲しいのですが……」

 オレは子どもの特権の眼がウルウル作戦をして、見事成功を収めた。

 そしてショパンさん初出勤の日、朝の護衛は外してもらって、開店三十分前に大体の説明をして会計係をお願いした。
 説明の最中にイートインとテイクアウト用二つの販売方法や、採光を考えた室内のレイアウト、またテラス席や庭や屋外トイレのこだわり等、一つ一つの説明に「フォー」っと不思議な声を漏らしながらショパンさんは驚いた表情をして、目を輝かせていた。

(これがオレの技術の結晶。この世界では革新的なレイアウトだぜ)

「それでは、モーガンはショパンの補助で会計をお願いします。
 フィーネはフロアと庭の掃除や対応をよろしく。
 リアナはオレとショーンのサポートで。
 みんな本日はジャガイモ百三十個に挑戦する! 油と紙袋代は小銀貨四枚と銅貨五枚とサービス価格にしてくれた。
 今回は売れ残る可能性が高いけどハッピースマイルポテイトンの閉店は十七時半ぐらいを目指して頑張るぞ!」

「「「「おー」」」」
「わかりました」

 十五時の開店後すぐに店の前で待っていた侯爵家の使用人がいつもと同じ五十個テイクアウトの注文が入った。
 だがしかし! こちらも馬鹿では無いので、事前予測をして約八割のポテトは揚がっていてリアナが袋詰めをしていた。
 最近ポテトの袋詰めの効率化を図るため鍛冶屋のおっちゃんに頼んでいた従来のお玉ではなく、ポテトスコップの開発に成功した。
 それは前腕部まで外側は鉄、内側はスペースが空いてあり、中にグリップがあり握れるようになっている。
 また火傷防止のために布等を腕に巻き付けて作業ができ、そしてそのグリップから先はある程度幅や深さはあるが先端は滑らかですり切り一杯分でフライドポテト一個分になる計算し尽くされたスコップだ。
 
 ショーンも、ジャガイモの皮剥きを終えると従来の方法でリアナの手伝いを行った。

「お会計は銀貨一枚と小銀貨五枚になります」

 扉の向こう側のカウンターからモーガンの声が聞こえ、オレ達は一息に吐き作業に移った。
 今日は一重まぶたの薄い顔にインテリ眼鏡といると成人男性がいたので、成人女性や既婚者層という思わぬ客層からの注文も殺到した。
 おかげで忙しくも、充実した二時間半だった。

「凄いですねクライヴ殿! デードスペースを工夫したレイアウトだけでなく、開放的な空間。そして従業員が安心して休憩できるキッチン、また空き時間で店内外の清掃をして清潔さと片付けの効率化を図り、無駄のない作業でした!」

 昨日のとは打って変わって、尻尾をフリフリした犬のように燥いでいる成人男性ショパンの姿がそこにはあった…………

 ついでに売り上げや発注等の仕事もショパンさんに任せる事にし、さっそくショパンさんの発仕事の会計処理をしてもらった。

「それでは本日の利益と一人当たりの金額を申し上げます。今までクライヴ殿が個人的に払っていた店舗の賃貸料の小銀貨二枚と銅貨五枚を含めて、利益は銀貨二枚、小銀貨九枚になります。
 私も含めて一人当たりに換算すると、小銀貨五枚と銅貨八枚となります」

 ショパンは歓喜のあまり徐々に声が震えだした。
 
 「これからもよろしくお願いします。クライヴ殿! それでは私はもう少し見回りをしておきますので」

 どうやらショパンさんのお眼鏡に叶ったらしい。本当の眼鏡じゃなくて、オレ達を認められた意味で…………

 これでオレも店舗荒らしのリスクも減りそう出し、良かった良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...