臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
90 / 228
第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード75 実家の定食屋

しおりを挟む
 オレは匠達が作り上げた庭を一通り見て周った後に、枯葉が一つも落ちていない事に気づいた。

「ショパンさんが手入れしてくれてたんだなあ」

 オレはショパンさんの感謝をポツリと呟き、テラスから鍵を開けて店舗の中に久しぶりに入った。

 店舗内に入ると多分ショパンさんが掃除をしていた形跡があった。
 床は綺麗に磨かれており、キッチンに入ると油が飛び散る厨房エリアも綺麗に掃除がされていた。
 
(オレ達が店舗を閉店してても冬休み休みの間に来て掃除をしてくれてたんだなぁ)

 そんなショパンさんの優しさが朝のフィーネの誤解によるストレスを癒してくれ、オレは学生寮に戻った。

「ただいま! ごめん遅くなった?」

 時間は昼前、どうやら食堂のテーブルにモーガン達は集まっているようだ。

「クライヴ。ちょうど良かったよ。今みんな揃ったとこなんだよ」

 モーガンはオレにそう言って、リアナの方に身体を向き直した。

「クライヴが来た事だし、もう一度リアナから説明をしてくれない?」

 モーガンの一言でリアナは頷いた。

「クライヴ、実は今日はなんだがザック先生にお願いして、ついて来ていただく事になったんだ。ショーンが師と仰ぐザック先生ならぼく達でダメだった場合に助けていただけると思って……」

「あぁ……」

(ザックっていつからショーンの師匠になってんの?)

 オレはザックって役に立つの? と疑問に思いながらオレ達はザックと待ち合わせしている大聖堂前に向かった。

「おぅ! 早えじゃねぇか。坊主、久しぶりだなあ」

 ザックは大聖堂の壁にもたれかかり、腰に吊っている酒を飲んでいた。決して純粋な子ども達には見せれないチンピラザックが、笑顔でオレの頭をガシガシと掻きむしっていた。もちろん酒臭い……

(これが師と仰ぐ先生の姿か? しかし羨ましいなぁ。オレもこの身体じゃなければ飲酒できるのにー)
 
 オレは気持ちを落ち着かせていつも通りに話しかけた。

「ザックっていつ仕事してるの? 暇人なの?」

「坊主は相変わらずだなぁ」

 これがオレとザック流の挨拶になっている。

 しかしリアナは姿勢を正して、真剣な表情でザックに頭を下げていた。オレとの温度差が凄いよ……

「本日はお忙しい中ありがとうございます。ザック先生に迷惑かけまいと思っていたのですが、私の力不足でショーンが危機に立たされていますのでどうかお力を貸していただければと存じます」

「わぁったよ。取り敢えずショーンの坊主の定食屋に言って昼飯食ってからなんだろ?」

 ザックの軽い一言でオレ達はショーンの実家の平民通り東通りの定食屋に向かった。
 その道中にリーズナブルな飲み屋やこだわりの飲食店等、ザックは平民通りにあるお店の数々をツアーガイドのように紹介しながら目的地のショーンの定食屋に十四時前に到着した。

「みんなリラックスして、まずは昼食を楽しもうよ」

 自然と表情が強張っていたのだろう……モーガンの一言でオレ達は表情を緩めた。

「なかなかやるなぁ。全体が視えているっては大事だぞ」

 ザックはモーガンを褒めてから、ザックを先頭に定食屋に入った…………

「へいらっしゃい!」

 そこには赤色の角刈りのショーンのお父さんらしき人物が奥の厨房から声を出していた。

「何名様だい?」

 続いて少しおっとりした少し恰幅の良いショーンのお母さんと思われる女性がオレ達に聞きに来た。

「五名だ。空いているテーブルを使って良いかい?」

 ザックが答えると「どこでもいいよ」とショーンのお母さんが言った。

 オレ達は空いている席に座りメニューを見るとどのメニューもとても良心的な価格設定がされていた。

「坊主達、奢ってやるから好きな物食べな」

 ザックは胸を叩いて気前の良さをアピールした。
 言質は取った!

「じゃあオレは、エビフライとハンバーグとステーキにビーフシチューのスペシャルセットね。あとドリンクでオレンジジュースも」

 オレは遠慮なく一番高いメニューにドリンク付きで注文した。

「えっ? 嘘だろ?」

 ザックは【ガキの癖にそんな食べんのか?】と言いたそうな顔をしていた。

「ザックさん遠慮なく選びますね。ボクはカレーライスとアップルジュースにします」

 オレに続きモーガンも注文した。申し訳なさそうな表情で……

「じゃあアタシは、鶏肉のソテーにサラダとオレンジジュースに、追加でフィナンシェにします」 

 フィーネも遠慮なくスイーツまでお願いした。

「先生! 私はステーキセットにアップルジュースで………………そ、それとマドレーヌを……」

 隠しきれてないスイーツ好きのボクっ子リアナも遠慮という言葉は存在しなかった……

 ザックはカッコつけて奢ると言った手前【やっぱり奢りは無しにしないか?】とは言えず、引けなくなった状況に青ざめていた…………

「ショーン! 私と一緒に五番テーブルのお客様に配膳するわよ」

 ショーンのお母さんが厨房の奥にいるらしいショーンを呼んで、ショーンはこちらに向かって来た。
 そして、その時初めてオレ達が来ていた事に気付いた………………

「な、な、何でおめぇらがおるんじゃ! あっ! それにザック先生まで」

「ショーン! お客様に向かってその口の聞き方はなんだい!」

 ショーン母により、ショーンは思いっきりゲンコツを喰らって、オレ達に謝るようにとショーン母はショーンの頭を押して頭を下げさせていた。
 流石にオレ達もそこまでさせるのは気の毒で、慌ててオレ達はショーンの学友である事を伝えた。
 冬休み中にショーンの元気がなくなり実家に戻ったので心配で来た事を伝えると、ショーン母は恥ずかしそうにしていた。
 そして食事後にショーンと話がしたい旨をショーン母に伝えてオレ達は食事を楽しんだ。

(うまーい! えつ? コスパ高過ぎないかい)

 老舗レストラン顔負けの味でみんなの顔も笑顔ホクホクだった。一人を除いて…………

「クッソー! てめぇら遠慮という言葉を知らないのかよ」

 ザックはボソリと呟き会計を済ませ、そしてショーンはオレ達のテーブルに来て席に着いた……

「まぁ坊主達の事情は聞いてるが、ショーンお前は嬢ちゃんにコテンパンに負けてから、ここ一週間で立ち直れたか?」

 ザックはど直球でショーンに質問を投げかけた!

「わ、わしは……先生にはお世話になりましたが…………全くリアナに太刀打ち出来ず…………情けのうなりました…………ワシはみんなに足を引っ張るだけで………………もう現実を見て……諦め」

 俯いたままショーンはゆっくりと小さな声で言葉を紡いでいく……
 それ静観していたリアナが耐えかねてショーンに発破をかけた。

「ショーン、君の夢は冒険者じゃなかったのかい? 今ここで諦めるのかい! ぼくは君がどれだけ努力をしているか知っている。仲間を想い自分が盾役として頑張らないといけないと素人からここまで努力して来たのを……ぼくはショーンが……諦めるのが……辛い…………悔しいよ…………」

 リアナは目に大粒の涙を溜めていた。


(すまん、オレの頭が追いつかん。
 元々はリアナとの一本勝負の手合わせでリアナが十三本勝って、一本に取る事にショーンにダメ出しをして、最後に【そんなのじゃ冒険者になれない! 断言しよう!】というモラハラ発言でショーンの心を砕いた気がするが……

 アレは期待しているからこその獅子の子落としだったのか? 
 それだとしても女の子にアレだけ言われたら男の子としてキツ過ぎだろ)

「ショーン! てめぇを嬢ちゃんに負けないぐらい鍛えてやっからよ! この悔しさをバネに強くなんのが男っていうもんだぜ」

 ザックがそれっぽい事を言っているが、単純な男の子のショーンには見事に心に響いたようだ。
 以前の顔つきに戻りオレ達に謝り、その後ザックに頭を下げた。

「先生! ワシは絶対負けたくないです。ですから強い男になれるよう鍛えて下さい」

(良い話で終わった感じがするが、女ったらしの部分は引き継ぐなよ)
 
 そして次の日、オレの後ろの席にいつも座っているショーンが机に額をつけて唸っていた……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...