臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
104 / 228
第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード89 生誕祭ラスト

しおりを挟む
 時刻は正午、もうそろそろ昼食の時間だが飛び込みはまだまだ続いている。
 オレ達は屋台でそれぞれ食べたい物を買ってきて、みんなでシェアをして腹を満たした。

 池の飛び込みイベントは夕方まで続くと実況と解説をショーンが行ってくれている。
 ショーンはどうやら三歳の頃から池の飛び込みイベントを見てきたそうで、挑戦者一人一人の詳細な情報と技と難易度も教えてくれた。


「クライヴ! 次のアイツは危険じゃ! 毎年閃きが凄いんじゃ!」

 ショーンは興奮しているが、オレは別の意味で興奮した…………その挑戦者はオレの知り合いだからだ。

「てゃんでぇい! ふてぇ野郎どもだなぁ。コイツが新作ってぇもんだ!」

 そう匠だ! 正直言って各職種の作業着を着ていないと判別つかない。それぐらい匠達の顔は似ており、喋り方も江戸っ子だ…………

 匠はマントのような物を羽織り、助走をつけている!
 そして飛び込み台ギリギリの所で大きく前方へ飛びながら頭を前にして身体を水平にしようとした。
 その時、マントは両手で握り、マントの裾は……何と靴の踵に引っ付いていた。
 その姿はまるでムササビ! 高度は低いが、スピードを殺さずに緩やかに水面に向かっていた。
 記録は…………何と十一メートルと本日の新記録だった。

「べらんめえ! 一昨日きやがれってんだ!」

 観客達のスタンディングオペレーションにも動じず、匠は【まだまだ改良して来年またくるぜ】と背中で語りながら去っていった。

「スゲェ! なんじゃアレ! 今回も見たことねぇ物を使って飛ぶけぇ、アイツのアイデアの量は危険じゃ、やっぱスゲェわ」

 ショーンは大盛り上がりだが、何だろう……飛び込みはコレじゃない感は? 前世の水泳の飛び込みとは別もので、これは鳥人間コンテストの方が近いイベントだった。

 続いての挑戦者は三人組だが、二人はムキムキだが、一人は細身の男性だった。

「ここからが本番じゃ! まずは昨年の二位からきたんじゃのう」

 ショーンは手に汗を握りしめ説明をしてくれた…………
 だがオレはそれよりも、十五時という時間帯でオヤツをつまんで、お腹がいっぱいになったので眠たくなってきた…………

 そして飛び込みのイベントの方は、どうやらムキムキ二人が飛び込み台のギリギリで向かい合うように片足を木の板につけて、お互いの両手をしっかりと支えるようにしていた。
 その二人の手に向かって細身の男性が助走してきて、片足がムキムキ達の手に包まれた瞬間!
 ムキムキ達は立ち上がり両手に乗った細身の男性の片足を天高くに突き上げた。
 細身の男性はその反動を利用して大きくジャンプした。
 しかし角度が上手く合わず、前方よりも上方向への力が強くなり過ぎたのか、あまり飛距離は伸びず九メートルという結果に終わった。

「くそぉ! 何でじゃ! こんなはずじゃなかろう!」

 ショーンは頭を抱えて絶叫を上げていたが、オレはそこまで熱くなれず、むしろ人の力を借りていたて飛び込んでいた事に疑問を感じていた。

「ショーン? あの人は人の手を借りて飛んでたぞ。あれはルール違反にはならないのか?」

 オレはショーンに説明を求めて聞いてみた。

「クライヴ、何言っとるんじゃ! ルールなんかあるわけなかろう! 飛び込む方法は自由じゃ!」

 ショーンは真顔で答えていた。

(いやいや、ルール作れよ! そのうち怪我人出るって!)

 オレはショーンのルールが無い発言に衝撃を受けていると、次の挑戦者が来た。
 少し大きめな長さのある荷車を持った屈強な衛兵が鎧を脱ぎ捨て、飛び込み台の先に見える池をただ一点だけ見つめており、かなり集中している様子だった。
 オレはその荷車が邪魔にならないのか少し疑問に思ったが、何と挑戦者は荷車を前にして押しながら助走をしていた。

「いやいやオカシイだろ! 何のための荷車?」

 オレはこの光景に我慢できずツッコミを入れた。

「クライヴ、見てみい! ここからじゃ!」

 ショーンは挑戦者の荷車を指差してオレに言った。

 すると! どんどん加速する挑戦者はそのまま力一杯荷車を前方へ押した。

(えっ? 意味わからないんですけど、もう人じゃなくて荷車が飛んでいったんですが……)

 荷車は飛び込み台を離れて空中で放物線を描いていた……が! なんと荷車の中から隠れていた細身の男性が立ち上がり、タイミングを見計らい荷車が池に落ち込む前に荷車を踏み台にしてジャンプした。

 飛距離こそ七メートルだったが、まさかの荷車に人が隠れていたサプライズ演出に会場のボルテージは一気にマックスとなり、歓声で鳴り止まない。
 その大きな歓声は会場を包む木々達の葉っぱを揺らし鳥達が空へ羽ばき、空からオレ達のいる飛び込み会場の様子を見ているようだった。
 そしてオレはショーンの方へ振り向くと、そこには涙を溜めてガッツポーズをしながら雄叫びを上げているショーンがいた…………

「モーガン、リアナ……オレだけなのかな? 
 全然感動しなくて、むしろ違和感を感じてツッコミをしてしまうのは…………」

 オレはショーンを見てから、すぐにモーガン達の方へ振り向いて質問した。

「ボクはよく分からないけど、笑えて楽しければ良いかなって思うようにしているよ」

 モーガンも感動はしないようだった……

「クライヴ、生誕祭だから人それぞれの祝い方があるんだろう。ぼくはこのイベントが貴族のようにパーティーを開いたりドレスを着てダンスをするよりも、楽しくて、挑戦する人も観戦する人もみんなが笑っている姿が素晴らしいと思わないかい?」

 リアナは貴族ならではの考え方でオレに伝えくれ、その考え方は少し納得できた。

 その後の挑戦者は、たぶんこの飛び込みでは本来一般的な方法であろう走り幅跳びのように飛び込む人が多かったが、匠の十一メートルの記録を破る人はいなかった…………

 そしてついに夕方を迎える事、前回のチャンピオンが登場した。
 ごく普通の神父様に見えるが、その隣には鉱山作業員一名だけが立っていた。
 
「クライヴ! 目ぇ逸らすんじゃねぇ! おかしかろうこの二人がチャンピオンなんじゃ! 絶てぇ驚くけえ!」

 ショーンは憧れのヒーローを見るように神父様に応援しながら手を振っている。

(そんなに凄いのか? 新譜の跳躍力がずば抜けているのか?)

 神父様と作業員が踏み台を歩く度に歓声が大きくなっていくが、神父様は全く表情を変える事なく集中しているようだった。
 そして飛び込み台の中心と池の間で立ち止まり、神父様は神に祈りを捧げていた。
 会場は静寂に包まれて、神父様の祈りが徐々に大きくなり会場中に響き渡っていた…………別の意味で………………

 なんと! 作業員が突然神父様の両脚を掴みジャイアントスイングをしている。神父様は少し顔が強張っているが祈りを捧げている。
 しかし声がスイングスピードとともに絶叫に変わっていった……
 そして大きく放たれた神父様は、スピードを保ったまま見事な放物線を描いて行き【主よ我を守りたまえアーメン】と声が聞こえた後にかなり鋭角に着水した。
 何と……記録は……四十メートル……ぶっちぎりの一位だ!

 神父様は気絶しているのか池に浮かんだままだが、会場は大盛り上がりで、何故か観戦者も池に飛び込んでいる……側転しながらとか、バク転してながらとか、二回捻りを加えてとか………………
 オレは観客達の方が華麗に飛び込みしているぞ……と思いながら、この光景をただただ眺めていた…………
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...