臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード129 若い芽を摘みたい方々

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 ニーベラル大陸に転生して約五年…………
 四月某日の王立学院食堂にて…………
 春出会いと別れと何度も言っているが……その他にも草木や花々が芽吹き、春の穏やかな風に身を任せて優しい香りを届けてくれる…………が! 
 そんな良い事ばかりではない。
 厄介な花粉を運んでくる事もある……今現在で言えば周囲から突き刺さるように俺に向けられる目……要は妬みだ………………
 オレ一人ではこれ以上目立ちたくなかったので、モーガンとショーンに一緒についてきて欲しいとお願いし、ルーシー様の元へ向かった。あのビップルームへ…………
 もちろん新入生のオレ達が階段を上がってビップルームに向かうのは生意気な事なのだろう……

「調子に乗るなよ。後で覚えてろよ」

 カーンとすれ違う時に睨まれながら捨て台詞を吐かれた…………

(何故カーンはいつもオレに絡んでくるんだ?)

「あっ!」

「どうしたんだいクライヴ? 早くルーシー様の元へ向かわないと」

 モーガンは不思議そうに聞いてきたが、オレの視線の先に気づいた。

「…………あの人は初等部の時にクライヴにひどい仕打ちをした人だね……確か父親が伯爵家の使用人って威張っていたよね」

 先程の爽やかな天使のようなモーガンから一気に表情と声色が変化して相手に気づかれないように睨みつけていた。

(わざと転ばされて恥をかかされたのは覚えているけど、父親が伯爵家の使用人ってよく覚えているなぁモーガンは)
 
 オレは感心しているとカーンがその人の元へ駆けつけていた、そしてそこにはもう一人茶髪リーゼントの茶色の吊り目のヘラヘラしている……いかにも?ヤンキー死語な人も混じってニヤニヤと話をしていた。

(あれって絶対良からぬ事を考えているよなぁ)

「モーガン、関わらないのが身の為だね」

「そうだね、クライヴ」

 モーガンはまだ気にしているようだが、オレの一言でモーガンは完全には納得していない様子だが表情が和らいだ。

「ク~ラ~イ~ヴ~!早く早くエルザちゃん達も居るんだからね」

(エルザ様達………………ルーシー様……他にもいらっしゃるのですね上級貴族の御令嬢方々が………………オレ入学早々に目立ちたく無いんですけど…………どうにかしてテリー様に会って今日の事を話さないと! このままでは大変マズイ)

 オレは肩を落としながら歩き、その少し斜め後ろをモーガンがオレを宥めながら歩く。そしてショーンはモーガンの隣でガッチガチに緊張している。手と足が同時に出ている事に気づかず歩いているぐらい緊張していた…………

「何でじゃ……クライヴと貴族が何でじゃ……クライヴが何かしでかしたんじゃなかろう……そんな雰囲気じゃねぇし…………」

 ショーンはブツブツと自分の世界にトリップ妄想していた。
 
(詳しくは知らないがショーンは貴族が苦手らしい……リアナとも最初は喧嘩してばかりだったし、あんまり詮索するのもなぁ…………)

 そんな事を考える事でオレは落ち着きを取り戻し、ルーシー様から呼ばれていた階段を上がった。
 

 ………………何でフィーネを探していたらこうなったのだろう…………

 階段の先のビップルームに待ち構えていたのは……

「あっ! 君がルーシーが言ってたクライヴ君? 私はサンダース辺境伯の一人娘でエルザって言います。ルーシのほうが一歳上でお姉さんなんだけど小さい頃からの付き合いで、ルーシーから敬語はやめて! って言われたんだ。まぁそんな事より、同じ新入生同士よろしくねクライヴ君」

 そう声をかけてくるエルザ様は、あの雪男のサンダース辺境伯からは想像もつかない……細身なのにスタイルが良く、父親とは違い元気いっぱいな印象の緑色の丸みのある前下がりショートボブに緑色のパッチリ二重の瞳の可愛らしい女の子だった。

「よろしくお願います。エルザ様」

 オレは平民らしく頭を下げて失礼のないように挨拶をするとエルザ様が少し悲しそうな声でオレに話しかけた。

「あっ……そういうのはやめて欲しいなぁ……この学院では貴族や平民は関係無いし、せっかく同級生なんだから、学院生活を楽しまないとね」

「そうよクライヴ。分からない事はお姉ちゃんに何でも聞いてね」

 にっこり笑顔でルーシー様はオレに言うが…………

(オレには一体何人お姉さんと呼べと言う人物がいるんだ? デジャヴ? 最近こんな事ばかり起きてるような…………)

「そんな所で立っていると通れないのですがクライヴ君」

 今オレは半個室のようなビップルーム前に立っている。
 そして後ろにはオレが通せんぼする形でアリア様が立っていた。
 
「平民の分際で調子に乗りやがって」

「ルーシー様だけでなくエルザ様にも近づきやがって」

「アリア様を困らせやがって」

「オレとその位置変わって」

「食堂の料理が家のご飯より美味いって」

 階段の下のフロアからはオレに対する嫌味や妬みの数々が呟かれているが、ちょうどオレの耳に届く声量を彼らは意識的にしていた。

(ひゃあ~。怖い怖い……でも最後のはオレ関係ないだろ……)

 そんな時、ビップルームの奥から聞き覚えのある声が聞こえた。

「クライヴ。そこに立ってないで、こっちに来ないとアリアさんが入ってこれないよ」

 そうオレに優しく微笑み声をかけるのは、茶髪のショートヘアーで清潔感があり、この学院で王子様みたいと言われているテリー様が座っていた。

「え? テリー……様?」

「ふふ、クライヴ。同じ学院で学ぶ仲間なんだから、ぼくは高等部だけど様付けはやめて欲しいな。テリーさんでも、テリー先輩で良いよ」

「テリー先輩でお願いします!」

 オレは即答でテリー様の提案に答えた。
 そしてオレが気にしている事をやんわりと伝えた。

「あの……テリー先輩……ぼくは、その、あまり目立つのは苦手でして……」

「テリー先輩。ボクはモーガンと言います。話に割り込みすみませんが、クライヴは少し変わった人なんで、あまり目立つと勘違いされ妬まれると言うか、色々とハプニングに巻き込まれるんです」

 モーガンが援護射撃をしてくれて、テリー様は困ったような顔をしてからオレ達にやさしく話し始めた。

「モーガン君はクライヴを見守ってくれてたんだね。先程の時と同様に」

「なっ! 見てらっしゃったのですか?」

 モーガンは驚いて居るが、オレには何の事か分からない。

「クライヴ……君は意外にも敵が多いんだね。モーガン君がクライヴに気づかないように、そんな悪意を持った人達に近づかないように誘導してくれていたんだよ」

(そうだったのか! モーガン! その愛くるしい顔でオレをナイトのように守り、可愛い男の娘の癖に惚れてしまうだろ………………危ない危ない! 一瞬危険な橋を渡ろうとして魅惑の桃源郷に行く所だった…………オレは女の子が好きだ! アネッサに会いたいんだ!)

「ハハハ! 確かに変な奴だが、テリーの言うような人間には見えないな」

 そう言われて、オレはテリー様の横に座る人に目を向けた。
 黄金のような綺麗な目をして、銀色の髪は、襟足は少し短めでサイドは耳が隠れるくらいの長さで、前髪はアシンメトリーで眉が見えるぐらいの長さから耳ぐらいの長さになっている。
 そして気品を感じるキリッとした顔立ち。

(誰なんだ? この人?)

「すまない。申し遅れたら。私はアーサー。アーサー・コル・マクウィリアズだ」

「えっ? テリー先輩?」

 オレはこの気品漂うイケメンからテリー様に顔を向けると、テリー様は大きく頷いた。

「そうだよクライヴ。アーサーはこの国の王太子だよ」

(そんなんオレ目立ちまくりですやん! 下のフロアからの視線が痛い理由がわかりました! ここは辺境伯もしくは侯爵家や王族といったスクールカーストの最上段の人達の集いの場でしたか………………)

「クライヴ覚えてろよ。中等部では地獄の学院生活を送らせてやる」

 オレの耳にそんな物騒な声が届き、モーガンと一緒に下のフロアを見ると、カーンが鬼の形相でコチラを睨んでいた。

(胃が痛い…………ひっそりと健やかな学院生活を……只々送りたいです)
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