臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード136 イッツ ノット ア ビッグ ディール

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「グハァ!」

「オイ! 少し反抗してみろよ!」

「ペップ、次は俺がやっていいかな? お前らばかりずるいぞ」

 またいつもの図書館裏にて、カーンに羽交締めされた状態でペップがオレの顔以外に殴りかかっているところに少し軽肥満に着崩した制服姿の男爵家の息子のサッソが現れた。

「サッソか。勿論サッソに譲るぜ」

 ペップはそう言ってサッソと交代した。

「お前のせいで女子達が俺をガン無視してくるんだよ!」

「グハァ!」

 それはサッソの品行とルックスに難ありなのだが、この場にいる誰もがそこには触れなかった……

(いやいや、オレ関係ないって八つ当たりじゃん)

「カーンとサッソ。面白い事を考えたぞ! コイツが女子と話をしていたら、コイツを餌にしてクラリネって女子やコイツの仲間達も巻き込んでやろうぜ!」

「「おぅ! 良い考えじゃん!」」

(はあぁぁあ! 仲間達にボコボコにされるのはお前たちだけど、こんなに強気に出るには後ろにモーストが絡んでいるのが確定だな。リアナとモーガンは大丈夫だと思うが、フィーネがでしゃばらないか心配だなぁ……それにハーフエルフとバレるのもまずいな……)

 オレは痛みから気を紛らわす為に仲間達への対処法を考えていた。
 そしていつものようにコイツらのストレスが発散できるまで暴力は続き、約三十分後に解放された。

「夕方前だから夕食には間に合うけど、今日も風呂は無理だな………………」

 オレはそう呟きながら帰路を後にした。
 イジメが始まって以来ここの学生寮の大浴場には入れていない。痛みや見た目云々で、結局外の井戸で身体を拭く程度か、痛みを堪えて池にダイブして身体を洗うか………………
 オレは大浴場が恋しかった。
 学生寮の一階の食堂に繋がる扉のトイレの側にある暖簾をくぐると、檜の良い香りがする脱衣所があり、そしてさらに扉を開けると…………そこは大理石の床に檜の香りに包まれた大きな浴槽が三つあり、水風呂と普通のお風呂と、魔風呂がある。
 オレは魔風呂の虜になりつつあった。
 魔風呂はまさに魔道具の力を最大限に活かして作られたお風呂で、雷の魔道具による弱い痺れに土の魔道具による僅かな振動により大変心地よいお風呂だ。
 オレはその事だけを考えて耐え忍んできた。いつかまた魔風呂に入れるようにと……そんな現実逃避で今の問題に直視せずにいると、小さな火種はやがて大きな炎となってしまった。


――二日後――

「アンタ最近なんか変よ! どうして今日もみんなと一緒に帰れないのよ! アタシ達より大事って一体何の用事があるのよ!」

 最近カーン達に呼ばれる頻度が増えフィーネ達と下校する事が減り迷惑をかけている。
 フィーネは、オレが何か内緒にしている事と、仲間達を蔑ろにしていないかと不満があるようだ。
 自分で言うのもなんだが正直この日はオレもおかしかった。自分では大人だと思っていた精神年齢が度々重なるイジメにより、年相応になっていたのだろうか……

「うるさいなぁ! 何でいつもフィーネといないといけないんだよ! オレだって色々と用事もあるし一人でいたい時もあるんだよ! そっちフィーネこそ迷惑なんだよ!」

 オレは女の子に、ましてハーフエルフが人間社会で生きようと頑張っているフィーネを突き放すような言い方をしてしまった…………

(何だよこれ……オレがただフィーネに八つ当たりしているだけじゃないか……)

 オレ自身が自己嫌悪している時に更に追い打ちをかける出来事が起きた。

「クライヴ! 今のは言い過ぎじゃないか! 確かにフィーネにも非があったと思うよ。でもフィーネはボク達の思いを代弁してくれたんだ。中等部に入学してからクライヴは変わってしまったね。そんなクライヴなんてボクは嫌いだ!」

 まさかの親友モーガンからの今まで聞いた事のないぐらい大きな声で怒りを露わにしている。そしてモーガンの険しい表情の中、モーガンの黄色の目が
うっすら涙を浮かべて輝いていた。
 オレはこの雰囲気から耐えきれず、廊下に飛び出した。上手くいったと言わんばかりにニヤニヤとしているカーンの横をすり抜けて…………

 勢いよく廊下を飛び出したのと、大声で言い合いをしていた為か、何事かと思われたのだろう。
 リアナやショーンだけでなく、一組のアリア様やウィンディー王女まで廊下に出てきていた。
 そんなみんなの視線に耐えきれず、オレは逃げるように学生寮の方へ向かって走った。



「ハァハァ……ここまで来ればもう良いだろう…………」

 竹林の木々に囲まれた静寂の中で青色や白色や黄色等の様々な色の小鳥達がオレを慰めるように囀っていた。そしてしばらくあてもなく歩くと自然にできた竹林のトンネル等があり、本当に幻想的な場所で心が洗われるように感じた。
 少し落ち着きを取り戻したオレは池の畔に進み、傾斜になっていない平べったい地面を探して、そこに座り込んだ。
 上を見上げると夕陽で竹林は赤く色づき、下を見ると湖が反射によって赤い竹林がゆらゆらと揺らめいていた。

(はぁ……悪い事してしまったなぁ……どうやって謝れば…………)

 そんな思いがつい口に漏れたのか、オレの斜め後ろの辺りからガサゴソと音がして湖に人影が映り込む。

「私がフィーネ達に事情を説明しましょうか?」
 
 オレだけしかいないこの幻想的な場所に、夕陽に照らされたローズブロンドのセミロングヘアーに青い目をした天使が舞い降りていた。
 陽の光の効果なのか……それほど気高く……そして人とは思えないほど綺麗な少女に瞳を奪われて目が離せなかった……

「そんなに見つめられると恥ずかしいです。クライヴ君」

「………………ア、アリア様!」

 一瞬、魅了されて頭が反応しなかったが、夕陽に映るアリア様は本当に恥ずかしがっているのか分からないが少し頬が赤いような気がした。

「ど、どう言う事でしょうか?」

 オレは事情を知っていると言っていたアリア様に質問をすると、アリア様はより一層力強い眼差しでオレを見てきた。

「そのままの意味です。彼らの愚行は知っていますので。それに私が自身で確認もしましたし、記録の魔道具で彼らの犯行時の言葉も録音していたので証拠は全てありますよ。クライヴ君はどうしますか?」

 アリア様の説明にオレは頭を横に振った。

「アリア様」

 すぐにアリア様はオレの言葉を遮った。

「この場では私たち以外誰もいないので様付けはやめて下さい! それに学院は平民も貴族も平等です!」

(そこかい!)

「アリアさん……申し出はとてもありがたい事でしたが、もし、万が一アリアさんに助けてもらって、彼らの怒りの矛先がアリアさんに向いたりとか、何か迷惑をかけたくないのでオレ自身で解決しようと思います」

「……そう……」

 オレは感謝を伝えたのだが、何故かアリア様は悲しそうな顔をしてそう呟いた。

「もし一つお願いを聞いてくれるのなら……フィーネ達を守って下さい。それとフィーネのフォロー頼みます。あいつフィーネはアリアさんの事を親友と思っているので、愚痴でも聞いてやってください」

「ふふっクライヴ君も無理せず、助けが必要なら私が証拠を掴んでいるからいつでも言ってね」

 アリア様が愛想笑いではなく本当に笑い、オレはその笑顔に胸が熱くなった。

「ありがとうアリアさん」

 そんな気恥ずかしさから逃げるようにオレはアリア様にお礼を言いこの場を後にした。

「……だって…………ら…………力に………………だよ」

 (そう言えば別れ際にアリア様が何か呟いていたなぁ…………まぁいっか。それよりもカーン達の証拠はアリア様が持っているから、オレ一人で我慢しているのじゃなくて、ちゃんと見てくれていた人がいる……それだけで気分が楽だなぁ)

 オレはアリア様のお陰で心が軽くなったのと、自分の思考の沼にハマっていた事に気づき、カーン達への反撃を開始しようと動き出した。
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