臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード? アリアサイド 中等部入学前後 後編

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 私達はルーシー様の案内で学生寮の部屋や設備を教えていただき、また夕食で会う約束をして別れた。

「わたくしとアリアは一組ですので北側のエリアになりますわね」

「えぇー! 私だけ南側かぁ……」

「じゃあここで一度お別れね」

 私の言葉にエルザはガクリと肩を落として一人トボトボと南側の廊下へ歩いて行った。

「お部屋が出席番号順ならわたくしの隣か正面がアリアかなぁ?」

 ウィンディー王女は両手を握って私と近くの部屋になれるようにとお願いをしながら廊下を歩く姿は、とても微笑ましく私はウィンディー王女に笑顔で答えた。

「そうなると嬉しいですね」

「アリアも! わたくしも王女らしく振る舞わなければいけないこの辛い学院での生活を耐えるにはアリアを充填しないと無理なのよ」

(すみません。私はそこまで言ってませんが……常日頃から気をつけていないから自然とではなく無理しないと王女らしくなれないんですよ……もう!)

 エルザと別れてから歩いてすぐの所に向かい合う形で私とウィンディー王女の部屋があった。
 私もウィンディー王女も同じ縦長の十五畳一間のお部屋。
 ただ両者共に既に人の手が入り込んでいる。
 私の部屋は精神年齢的に可愛い物を卒業しているので、瞳の色の青を基調とした大人っぽいデザインの部屋に仕上げてくれている。
 勿論ウィンゲート侯爵家の使用人達が。
 向かいにあるウィンディー王女の部屋は私とは対称的なピンクを基調とした可愛いお部屋で、クマのぬいぐるみも完備されていた。
 そして二人の部屋に共通して言える事は縦長の十五畳一間の部屋の作り以外に、絶対学生生活でこんなに着ないだろうと思う程の服とドレスが大きなクローゼットの中にかけられていた…………

(ファッションショーでもするつもりなの? そんなにいらないわよ!)

 私とウィンディー王女はお互いの部屋を確認した後は一旦其々の部屋に戻り、細かい所の整理をしていた。
 私は趣味の域を超えた様々な調合道具と素材を持ってきていて机の上に並べた。
 早速その中の一つの小瓶を手に取った。
 この小瓶は水魔道具と獣脂で加水分解させてグリセリンを取り出し、水魔法の精製水とグリセリンで作成したまだこの世界に出会った事ない化粧水だ。
 そしてもう一つの小瓶には、精製水と椿油とヤシ油を乳化させた乳化ワックスとオレンジのエッセンスを配合した乳液も既に開発済みだ。
 この入学前の半年間にお母様と共に二人三脚で取り組んできた美容薬…………使用人達にサンプル品を使ってもらった所、効果は一目瞭然だった。

(肌の手入れをしていない世界の人達が急に手入れをしたら、自ずと結果はついてくるわよね。そう! 肌の細胞は水分と保湿を求めていたのよ!)

 まだお母様と話し合って商品化はしていないけど、近々にある社交会でお披露目するらしい。製造元は内緒で……
 そして安全性も実証されたので、今回私の方はウィンディー王女やエルザやルーシー様等の上級貴族令嬢でモニタリング予定だ。
 
(あとフィーネとリアナにもね)

 私は小瓶を持ちウィンディー王女の部屋に向かった。

――コンコン――
…………………………

(あれ?)

――コンコン――
……………………………………

(まさかウィンディー王女の身に何か!)
 
 私は返事を待つのをやめて、足音一つ立てずにそっと部屋に入るとそこには、ウィンディー王女がベッドですやすやと寝ていた。

(…………心配して損したわ…………でも今日一日王女らしく振る舞って少し疲れちゃったのよね。アーサー殿下やお兄様からはウィンディー王女の御目付役的な事をと言われているけど、こうやって寝顔を見ていると愛くるしくて、ついつい甘くしてしまうのよね)
 私はウィンディー王女を休ませてあげようと、学生寮の守衛になりきってウィンディー王女の護衛している方に声をかけて、後で夕食を持って行ってほしい旨を伝えた。
 その時に「何故分かったのでしょうか?」と驚かれたが、守衛とは違う所作と一度見たことある顔で簡単にわかった……

 そして私はエルザと共に食堂に向かうと何故かクライヴ君が階段の半個室に連行されていた。

「アレってルーシーが言ってたクライヴ君?」

「そうよ」

「えっ? アリアはクライヴ君の事知ってるの?」

「まぁ、友達のフィーネを介してだけどクライヴ君達とは知り合いよ」

「へぇー知り合いねぇ」

 私が一瞬だけ返事が遅れた事にエルザは気がつき、何やら勘繰ってくるが私はそれをスルーして早くルーシー様達がいる二階に進んだ。

 まさかのアーサー殿下やテリー様がいるとは思わなかったが、クライヴ君の事で何か話が……と最初は疑ったが本当に世間話だけだった…………一人だけ動揺していたが…………
 
(クライヴ君の動揺っぷりから、テリー様はクライヴ君が帝国の人間と言う事は知ってらっしゃるのね。多分それなりの身分だということも…………)

 そしてクライヴ君に関する事で大した収穫もなく、気持ちを切り替え夕食後の帰り際にルーシー様やエルザに美容薬のモニタリングの件を説明して化粧水と乳液の小瓶を渡して使い方を説明をした。
 次の日の早朝からルーシー様とエルザが部屋にやってきてとても驚かれたのは私も驚いた。



 最近、モースト様が人を使って平民に嫌がらせをしている現場を目撃した。それも女の子に弁償しろと言っていた。
 貴族社会ならそうかもしれないが……私はあんな人間だけにはなりたくない。
 あまり隣にいるウィンディー王女の目によくないモノなので流石にここは私が止めようかと動こうとした時、意外な人物が止めに入った。
 しかもモースト様相手に金貨を投げつけて……

(何やってるのよ! 相手は王国の貴族で貴方は一応王国の平民を演じているのでしょ! バレるわよ!)

 その人物はクライヴ君で女の子と知り合いなのか優しく声をかけて宥めていた。
 さながら民を守る貴族の鑑のように……
 本当の貴族だけど…………

 私はその日から注意深くクライヴ君の様子を追う事にした。万が一を考えて音声を録音する魔道具をお父様にお願いして取り寄せてもらった。
 やはり、モースト様とよくいらっしゃる三人の男子がクライヴ君を虐めていた。

(どうしてやられっぱなしなのよ! 貴方なら大した事ない相手でしょ。あっ! でも今日は男爵家の子もいるからかなぁ。とりあえず、決定的証拠を逃さない為に隠密活動だわ)

 勿論私の以前の世界で鍛え上げられたスパイとしてのスキルを発揮すると至る所から情報は入ってきて、三人がモースト様の名前を出してクライヴ君を痛めつけるよう指示している決定的な発言もバッチリ録音した。

(後はどうやってクライヴ君に話そうかな……勝手に調べていたとかストーカーみたいに思われないかなぁ………………って何で私はクライヴ君の反応を気にしているのよ! この学院の為よ!)

 そんな情報収集をしている間、刻一刻とよくない方へ物事は動き出している。
 
(今日はフィーネが、最近クライヴと上手くいかないの、それに怒られたと泣きつかれたわ。そろそろクライヴ君に話に行かないとクライヴ君も孤立しちゃうわ)

 私はタイミングを見計らいクライヴ君が学生寮の裏に行く姿を見て、後をつけて行くと池の畔でぶつぶつと独り言を言い悩んでいる様子だった。

「私がフィーネ達に事情を説明しましょうか?」
 
 私の登場にクライヴ君はとても驚いており、じっと見たままフリーズしていた…………

「そんなに見つめられると恥ずかしいです。クライヴ君」

「………………ア、アリア様! ど、どう言う事でしょうか?」

 私はこの前のクライヴ君との出来事解毒から、二人きりになると、どうしてもあの日のことを考えて帝国に旅行に行った際に会ったスコットの事を思い出してしまい顔が熱くなるのが自分でもわかる。
 そんな表情をキリッと引き締めてクライヴ君に協力できる事を伝えた。

「そのままの意味です。彼らの愚行は知っていますので。それに私が自身で確認もしましたし、記録の魔道具で彼らの犯行時の言葉も録音していたので証拠は全てありますよ。クライヴ君はどうしますか?」

 しかし私の説明にクライヴ君は頭を横に振った。

(どうして…………)

「アリア様」

(どうして助けを求めないの…………)

「この場では私たち以外誰もいないので様付けはやめて下さい! それに学院は平民も貴族も平等です!」

「アリアさん……申し出はとてもありがたい事でしたが、もし、万が一アリアさんに助けてもらって、彼らの怒りの矛先がアリアさんに向いたりとか…………そんな事無いと思うのですが……何か迷惑をかけたくないのでオレ自身で解決しようと思います」

「……そう……」

(私が王国の貴族で、クライヴ君の秘密を知っていると思われているからクライヴ君は本心を見せてくれないの……なんだろうこの気持ち……)

「もし一つお願いを聞いてくれるのなら……フィーネ達を守って下さい。それとフィーネのフォロー頼みます。あいつフィーネはアリアさんの事を親友と思っているので、愚痴でも聞いてやってください」
 
 私の助けを断った事を考えて私のことを心配してくれたのか、クライヴ君はフィーネを守ってほしいとお願いしてくれた。

「ふふっクライヴ君も無理せず、助けが必要なら私が証拠を掴んでいるからいつでも言ってね」

 何故だかクライヴ君に頼られる事が純粋に嬉しかった。理由はわからないけど……

「ありがとうアリアさん」

 恥ずかしそうにお礼を言うクライヴ君を見るとこっちまで恥ずかしくなってきた。
 そして後を去るクライヴ君の背中をしばらく見ていた。
 
「……だって君が本当にスコットだったら力になって上げたい……会いたかったんだよ」

 私は胸の中に仕舞い込んでいた言葉をそっと外に出して呟いた。
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