臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

文字の大きさ
192 / 228
第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード160 本当は

しおりを挟む
 オレはフィーネに「話を聞いてくれるか?」と言ったものの何を話そうかしばらく考え込み、ゆっくりと口を開いた。

「えーっと……オレは帝国の第三皇子として生まれたんだけど、側室だった母上は王妃から嫌われていたらしいんだ。それは父上と母上が恋愛結婚に対して、王妃とは政略結婚というのも原因の一つかもしれないんだ……」

「うん……」

 そう言ってフィーネはオレの目をまっすぐ見て、オレの言葉を待った。

「小さい頃から、兄や姉達より語学を習得するのが早くて、天才だのなんだのと持て囃されていたんだけど……母上は喜んでくれたけど、それをよく思わない人もいて、そんな人達からオレは六歳の頃に毒殺されそうになって何とか一命を取りとめたんだ……」

「えっ……そんな…………」

「まぁ、そんな事で身の安全を守る為にヒューゴの護衛の元、母上と一緒に離宮で暮らす事になるんだけど……第二皇子の兄イーサン兄さんだけは、オレの元に面会に来てくれて色々な事を教えてくれるんだ。
 七歳年上の兄さんなんだけど、一般常識人だけでなく、皇族として学ぶべき事や政治について、城下への視察に同行させてもらったり、今思えば小さい子どもには難しすぎて、とても六、七歳児とかには学ばせる内容じゃ無かったと思うんだ。
 でもイーサン兄さんはオレと一緒に帝国民に平穏な暮らしを与えられるようにと、将来を見据えた上で家庭教師をしてくれていたんだと、今ならそう思う」

「良いお兄さんなんだね……」

「あっ、それとヒューゴはオレの護衛で元帝国軍大佐だったから、今でも強いんだよ。もう一つ、イーサン兄さんは生誕祭に帝国から使者で来ていた人ね」

「えー! ハッピースマイルポテイトンに来ていた人?」

 少し涙ぐんでいた顔から一気に変化して、フィーネは目を見開き驚いていた。

「話を戻すけど、イーサン兄さんと一緒に過ごす中で、自分達で出来る範囲内で帝都の民が過ごしやすくなる事を考えたんだ。
 そして帝都の老朽化した建物を直す名目で、治安を良くして人身売買を撲滅して裏の悪人貴族を捕まえる事を実行したんだ。その功績を父上は賞賛してくれたんだけど……その時に父上が次期帝王に相応しいとオレに言ったから、皇太子のマキシムが……っと兄上なんだけ、今までもイジメられていたけど、それが一層酷くなって本格的にオレの命を狙い出したんだ。多分裏で王妃が糸を引いていると思うんだけどね……」

「ひどい!」

「オレは帝王になるつもりないんだけど、本当に…………迷惑だったよ…………」

 オレはマキシムや王妃の嫉妬のせいで犠牲となった母さんの事を思い出して、やるせない気持ちで胸がモヤモヤとしてきた。
 そんな様子を悟ってか、フィーネは何も言わずにただオレの言葉に頷いてくれた。

「…………」


「それからは暗殺者に狙われる日々で、八歳の頃には誘拐された事もあるんだ。
 その時に巻き込んだ子が何故か男装していたアネッサって言う子で、その子と協力して脱出できたんだけど……その子がオレが前に言ってた気になる子なんだ…………変な話だろ? たった二日間だけしか会った事ないのにさ。共に協力して命が助かったからなのか、多分そんな事が理由ではなくて、何か胸の奥で引っかかっているんだ」

「うん……」

「そして王妃やマキシムは酷くなる一方で、オレの元に暗殺者が度々と送られて来て、本当に命の危険が近づいて来たんだ。だから母上と一緒に帝国から出てマクウィリアズ王国に亡命しようという話になったんだ。皇子という肩書きは無くなるけど、オレには必要無いものだし、母上と共に第二の人生を楽しく生きようって思ってたんだ」

「辛かったんだね……」

「だから今こうして平民として学院にいるんだけどね」

「うん……でもクライヴ、お母さんは…………その……」

「うん、フィーネの考えている通りだよ。脱出する際にオレとヒューゴを逃す為に犠牲になったんだ。 
 なんでオレ達なんだ! ってこの世の全てが憎いと思ったよ。それ以上に気が動転して何もできなかった自分自身に腹が立ったんだ…………だから……オレの周りにいる、手の届く人達だけでも亡くならないように頑張るんだ。今も怖いけど……それ以上に守れるのに守れず後悔するほうが、もっと怖いんだ…………」

 ズズッ!

 鼻をすする音が聞こえるとフィーネが声を押し殺して涙を流していた。

グゥんうん……」

「多分オレの中で罪滅ぼしも兼ねているんだと思う…………母上を守れなかったから……」

「それがオレの、スノウ・デア・アレクサンダーの話かな……みんなには内緒にしてくれよ。
 もし王国の貴族や王族にでも知れて、万が一帝国のマキシムや王妃が、王国でオレが生きている事を知ったら、多分オレ、帝国に強制送還されると思うから…………そうしないと国家間の外交問題になりそうだから……」

グゥんうん……」

「もう泣くなよフィーネ」

「……クライヴが泣かないからアタシが泣いているのよ! バカ!」

「なんだよそれ……………………………………
 …………でも、ありがとう、フィーネ……」

 そして、フィーネが泣き止むまでオレとフィーネはこの部屋で無言の時間を過ごした。
 その後はフィーネの提案で、気分転換にと庭の足湯(今は夏なので水だが)に浸かりながらの世間話をする事になった。

「あ~冷たくて気持ちいいわあ。アタシすっごい泣いちゃってたよね」

「引くぐらいな」

「ちょっとアンタ! デリカシー無さ過ぎなのよ!」

 オレ達は横並びに足湯足水?に浸かりながら他愛のない話をしていた。
 そして、いつものツンツンなフィーネが戻ってきたのが何故か面白く感じて、オレは笑いが込み上げてきた。

「フフッ……アッハッハ! あ~可笑しい。何だか分からないけど笑い過ぎて涙が出てきた」

 側にいてくれるのが安心できて、いつものやり取りが面白くて、全てを話して受け入れてくれた事に感謝して、改めて過去を思い出すとやっぱり辛くて……嬉しい気持ちと悲しい気持ちが入り混じる不思議な感情が、オレの心の中から溢れてきて涙に変わった。

「フン! そう言えばアンタ! お母様は知っていたの? アンタが帝国の皇子って」

 フィーネは不機嫌のままオレに質問をしてきた。

イルーラ母様イルーラ女王か。最初に会った時に精霊から何か隠していると聞かれたから、正直に答えたよ」

 オレがそう言うと、フィーネはジト目でオレを見ていた。

「なんでお母様は知っていて、アタシには教えないのよ!」

「いや、だからあまり多くの人に知られちゃうとオレの命が危ないんだよ」

「……まぁ言いわ。やっとあの時お母様が頑張れって言ってた意味が理解できたわ……」

 フィーネはため息を一つ吐き、太陽の日差しが眩しい快晴の空を見上げた。
 そんな出来事があった夏休みだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...